第六十五話
「え? 造形プリンター使えないの!?」
身分を隠すマスクを作ろうと思ったら武器弾薬優先だって!
しかたないので農業用の麻袋に穴空けてマスク代わりに。
固定用にロープを首に巻いてっと。
エッジのところに行く。
エッジとココは士官学校の学生ではない。
近衛隊が暇なときは稽古をつけてるがいまは彼らも大忙し。
仕事をさせるにも機械の使い方をおぼえねばならない。
現状、環境に慣れてもらってるところだ。
なので彼らは自主的に訓練してる。
内容は木剣を使用してのスパーリングである。
「エッジ! いくよ!!!」
ココが斬りかかる。
ココは俺と同じジェスターだ。
縦、横、突き。
見事な三連撃。
……ジェスターは近接好きなのか?
エッジもそれを軽く受け流す。
うん……やっぱり普段から刃物使ってる文明で育つとそうなるわな。
上手いわ。
でも、フワッとしたいいこと風のアドバイスをせねばならない。
まずは電柱に……電柱ないじゃん!!!
じゃあ木に登ろう。
もそもそと木登り。
なあに、こちらも田舎貴族。
大自然しか遊ぶところがなかった。
木登りは得意だ。
木の上に立って……おおう、結構高いな。
宇宙の地上突入は怖くないけど、木の上の中途半端な高さは怖い。
ヒザがぷるぷる震えてきたぞ。
「ふはははははははははー! 少年よ!!! 悩みがあるな!!!」
「レオ、なにしてんですか?」
おかしい。
顔は隠したはずだが?
「いや戦闘服着てるじゃないですか。それにその声!」
ボイスチェンジャー使えばよかったかも。
ココも俺を見る。
「あ、レオさんだー。なに? 稽古つけてくれるの?」
「うおっほん! 俺はレオじゃないよ」
否定するとエッジがツッコミを入れた。
「いやレオさんくらいじゃないですか。木の上に登るとか。つかなんですか、その殺人鬼みたいな麻袋……」
「だって造形プリンターが使えなかったんだもん!」
「子どもになってキレるのやめてもらっていいですか。あんた致命的に似合わないんですよ!」
「ぐぬぬぬぬ」
何も言い返せない。
だがここは開き直る。
「ぐはははは! さああかかって来い!」
「稽古つけてくれるのはうれしんですけど」
おどりゃあああああああああああああッ!!!
いっぱい……戦ったね……。
ココとエッジが大の字になって倒れていた。
「レオさん……あんたデタラメすぎでしょ……」
「なにもできずにボコボコにされた……悔しい!!!」
「ま、帝国剣術をちゃんと憶えるとこのくらいはできるよ、と」
「はあ……はあ……嘘つけ!!! 近衛隊に習った剣術と別物じゃないですか!!!」
「しょうがないじゃん! いきなり実戦だったんだから! 実戦で編み出した戦法なのよ!」
「はあ……はあ……間合いを操作して当たらないようにするし。上下に打ち分けて視界から消える。自分たちより運動量が多いのに息も切れてない……化け物すぎる……はあ……はあ……」
「まあまあ、それで悩みなによ? 聞こか?」
「今消えましたよ!!! これを目指すのか……はあ……はあ……」
「目標がわかったよ! 落ち込むわ……」
「お、おう、そうか」
「あえて言うとですね!」
「お、悩みか?」
「暇なんですよ! 仕事欲しいです!!!」
たしかに炊事すらプロがやっちゃうから仕事ないんだよね。
家事は女官さんたちがサクサクやっちゃうし。
新兵にありがちな仕事がないんだよね。
自分のシャツにアイロンかけるくらいか?
「……フォークリフトの運転する? 敷地内なら……年齢制限はどうだっけ?」
ピゲット少佐に通信。
「お子ちゃま二名が暇だそうッス」
「あー……そうだな。フォークリフトの運転教えてくれ」
「労働的に大丈夫ですか?」
「戒厳令出てるから大丈夫だ」
戒厳令が出ると憲法が停止される。
非常時なので人権とか言ってられないのだ。
植民と惑星の未成年を働かせても……教えるだけならいいか。
幼年学校でも倉庫内作業くらいはするし。
「ういーっす。教えるから来て」
三人で搬入口に行く。
メリッサがいた。
「おーっすメリッサ」
「なんで袋被ってるの?」
おっと脱ぐの忘れた。
「ピゲット少佐がフォークリフト教えてって」
「えー、二人とも遊ぶなよ! 死ぬから!」
「やりませんって!」
「本当は弾薬帯作ったりとかあるんだろうけど、そっちは俺たちも手探りでやってるからなあ」
運転を教える。
「いいか。間違えると死ぬからな」
とは言ってもこの世界のフォークリフトは安全だ。
危なければAIとセンサーで自動的に止まる。
事故なんて聞かない。
倉庫内作業も危ない作業は人型重機使うからナノマシンで治療できないほどの怪我は少ない。
軍の作業だとたまに死人出るけど、それもかなり少ない。
この世界で未だに危ないのは下水道関連くらいだろうか。
二人もすぐに運転できるようになった。
「んじゃそこの食料の箱運んで」
「了解です……ってレオさん普通に教えられるじゃないですか!」
「いや最初も普通に教えたつもりなんだけど……」
「レオさんの感覚はズレてるんですよ!!!」
「えー……」
怒られながら作業。
ドンドン荷物を運んでいく。
で、ゲートに行くと近衛隊のおっさんがいた。
「ちゃーっす。実習中です」
「お、おう、ちゃんと教えてやれよー」
「うぃーっす」
で、ここまでは良かったんだわ。
ほんと日常パート。
問題はトラックが突っ込んできたこと。
貨物室からパルスライフルで武装した兵士が出てきたことだ。
フォークリフトから飛び降りて一人をぶん殴る。
そのまま人質にしながらパルスライフルを奪って乱射。
威力はパラライズモード。
数人を戦闘不能にする。
近衛隊のところまで逃げるとさらに数人が素手でボコボコにされていた。
強すぎる。
すぐに警報ボタンを押す。
エッジとココはこのタイミングで合流。
「二人ほどこいつでぶん殴って気絶させました」
そう言ってエッジはへし折れた木剣を捨てる。
「あはは! レオさんといると退屈しないわ!」
ココは大の男を素手でボコボコにしたようだ。
拳に歯が刺さってた。
「ああ見えてもココは村一番の戦士で……」
「わかるわー。エッジくんココちゃん係ね」
「村でもそうでした……」
気にすんなモテ男。
と声をかけようかと思ったら、フェンスがなぎ倒されていく。
「アホだろ!!!」
戦車である。
皇族の暗殺に戦車持ち出すバカがいた。




