第六十一話
お疲れ会が終わって次の日。
今度はお仕事の方の戦勝記念パーティーである。
ボスが自爆したため首都とその周辺が解放された。
で、ちょうどプロパガンダに使えそうな俺たち夫婦が参戦していたと。
なので人寄せパンダとしての参加なわけである。
嫁は現在、皇位継承権第4位に登りつめた。
とは言ってもこのパーティーを仕切ってる怖いおじさんたちの後ろ盾はない。
もう怖いおじさんたちは自分の駒を用意してるからだ。
でも敵対してもいいことないから、そのうち接触があるんじゃないかな。
俺は士官学校の礼服に着替える。
むしろこれ以外の選択肢はない。
近衛隊みたいに軍服を飾る勲章なんてあるわけがない。
なので男子は外から見て誰が誰だかわからない。
それに比べて女子は着飾ることが許されている。
これは皇帝陛下の【おにゃのこがかわいい恰好しないの許さないもん】という配慮からである。死ね。
嫁は高そうなドレスを着ていた。
オートクチュールだと思うが格差婚が激しすぎて俺の知識が追いつかない。
なんかしゅごいの!!!
「かわいいっすよ」
「ありがと。でも婿殿ファッションのことわからんじゃろ?」
うん。わからん。
「婿殿にファッションやら女を口説く手管など求めてないから安心せい。むしろ欠点がそんなくだらないことでよかったわい!!!」
バンバンっと背中をたたかれた。
自動運転の車に乗る。
宮殿内の移動に車が必要ってどう思う?
「気づいたか?」
嫁がコンコンと窓をたたく。
「ビーム兵器対応の防弾ガラスじゃ。意味はわかるな?」
「狙われてる?」
「なにかしらの情報が入ったのだろうな」
「うわーお」
いま俺殺していいのかな?
【増長しないようにいまのうちに殺しておくか!】とでも思ってやがるのか?
とりあえず怖い貴族のお偉いさん、ぶち殺すリストに入れておこう。
ビビり散らかした俺はパンツ一丁でビルから飛び降りるゴ●ゴみたいな顔になっていたが無事に謁見の間がある建物に到着した。
【未来人が中世の建物を想像で作りました】みたいないかがわしい建物である。
車から降りるとデジタルな角笛で迎えられる。
ヒットマンはいないようだ。
俺は嫁をエスコートしながら堂々と中に入る。
近衛隊が俺たちを護衛し、学生たちはそのあとから入ってくる。
中に入るとパーティー会場の待合室に通される。
そこにはマルマ様がいた。
「義兄上!」
ん?
なんか呼び方がバグってる?
「えっと……マルマ様。なにか呼び方がバグってますが?」
「え? 姉上が第三夫人として輿入れなさると聞いてますが?」
「嫁ちゃん!」
「ばれたか……てへ♪」
てへじゃねえよ!
俺の意思の確認すらせずに話を進めるのやめて!!!
ま、政治の話だから俺の意思関係ないんだけど。
「メリッサにレン、婿殿の女になる意味はわかるな」
わかんない。
本当はわかってるけど理解を拒否するぅ!!!
「……新しい派閥作るん?」
「政治は数じゃ。のう婿殿」
うちの家みたいに現体制で干されてる貴族は多い。
というか中央の政治で成功したごく少数を除いてはみんな干されてる。
その干されてるグループの中で有力貴族の派閥に入れるのはごく少数だ。
仲良しクラブにすら入れてもらえない貴族が大半なのである。
そこを団結させれば……とは誰もが考えたが誰もできなかったやつなのである。
「嫁ちゃん、それできるの?」
「いまならな。婿殿の名を借りるがの」
えー……それだけじゃ無理でしょー。
案内にしたがってパーティー会場に入る。
勲章ジャラジャラつけたカタギではなさそうな怖いおじさんたちが俺をにらむ。
目を合わさないでおこう……。
肉食獣だったら襲ってくるからな。
もうすでに立食パーティーは始まっていた。
俺はなるべくおっさんたちに目が合わないように料理を取る。
「嫁ちゃん、他に何か取ってくる?」
「飲み物なにか取ってきてくれるか」
なかなかイケメン貴公子のようにはいかない。
嫁に飲みものを取ってきて渡す。
……渡したところで怖いおじさんたちに囲まれる。
命だけはお助けを!
ハゲ頭で眼帯つけたおじさんに話しかけられる。
笑顔なのが怖い……。
「レオ・カミシロだな。私は陸軍のミルズ少将。今回はよくやってくれたな! 君には期待してる! なんでも言ってくれ! 私にできることなら手を貸そう」
「ありがとうございます!」
軍の雲の上の人に敬礼。
背筋をピンと伸ばす。
すると今度は同じく笑顔のパンチパーマのおっさんが来た。
こちらも勲章ジャラジャラ。
「はっはっは。ミルズ! 新しい友人を紹介してくれないかな?」
「おう高倉! はっはっは! レオ君、彼は高倉。宇宙海兵隊の中将だよ」
このパンチパーマのおっさんが中将閣下!?
「レオ・カミシロ学生です!」
「はっはっは。もう違うよ」
バンバンと両手で肩を叩かれる。
おじさま……目がガンギマリです。
「レオ・カミシロ中尉」
はい?
嫁を見る。
嫁が悪い顔をする。
「高倉殿。我が夫をからかうな」
「はっはっは! これはヴェロニカ殿下! いやー、ご配偶者様は英雄の器ですな!」
もうやだ目がガンギマリのおっさん怖い!
「それはそうじゃ! なにせ皇帝陛下がぜひ我が夫にと望んだ男じゃからな!」
するとおっさんがまた俺の方を見る。
怖い!!!
圧が! 圧が! 顔面の圧が凄い!!!
「卒業後は当然、軍に入隊するんだよね?」
優しい顔をするが、それが一番怖かった。
「ひゃ、ひゃい!」
「聞いたか皆の衆! これで我が軍も安泰だ!!!」
ヤ●ザにしか見えない集団がテンションアゲアゲで乾杯する。
「意味わからなかったじゃろ?」
嫁が横に来た。
「うんぜんぜん」
「少なくとも大佐までの道は開かれたということじゃ。生き残ればな」
「なして?」
だから俺は軍の上層部っていう柄じゃねえ!
「天才パイロットにして、救国の英雄、しかも皇位継承権第4位の夫じゃ。仲良くしたがるだろ」
「いやでも軍部は兄上様の傘下じゃ……?」
「軍のトップだけはな。それより下、中将より下は今回の首都での戦闘に業腹じゃ。その尻拭いをしてくれた婿殿に感謝してるのじゃ。心の底からの。逃がすまいと必死になるのは当然じゃ」
「その餌が出世と?」
「いいや。婿殿を出世させて妾を足がかりに中央に発言権を持って軍部の官僚からの独立をさせたいのじゃろう」
「……今回の首都攻撃でそうなったと?」
「はたから見れば劇的な勝利を収めたからの。今回の件で今の大将を排除するのじゃろう」
「えっと要するに……?」
「妾の後ろ盾が軍になった。よくぞ高倉中将の重い腰を動かした! よくやった!」
……えっと、軍はいままで官僚がトップでうまくまわってたんだけど、今回は致命的な敗走を続けたわけだ。
で、高倉中将はたぶん周りから説得されて自分がトップになる決断をした。
俺はその軍部刷新の象徴になったと。
やだ怖い!
「妾も良い男と結婚したものじゃ! カカカカカカ!」
俺が呆然としてると高倉のおっさんが「またね」と言い残しておっさんたちと盛り上がる。
もう俺の人生のレールは敷かれたようだ。
ハードラックとダンスっちまうまで突っ走るしかねえ!!!
で、しばらくすると会場の照明が暗くなり皇帝登場。
「会場の皆様。皇帝陛下のお成りにございます。拍手でお出迎えください」
七色の光&ミラーボールの光を受けて皇帝陛下がやってきた。
麻呂だった。
初めて見たが麻呂だった。
その麻呂は皆に手を振りながら上から降りてきた。
割れんばかりの拍手で出迎えられるが、俺の心は凍っていた。だって麻呂やぞ!!!
その麻呂に近づく男がいた。
「あん? 兄上なんで壇上に上がったのじゃ? ああ、婿殿、あれ次兄な」
「へぇ。筋肉質だけど頭良さそうだな」
眼鏡マッチョである。
すげえ胸板。
軍のトップあいつでよくないか?
そう感心してると突然、眼鏡マッチョが銃を抜いた。
「え?」
次の瞬間、皇帝の体を光線が貫いた。




