第六十話
宮殿に帰ってきた。
嫁が貴族たちを引き連れて俺たちを出迎えた。
なんかマイクと卓まである。
こりゃ演説がはじまるのかな?
「婿殿はこちらに」
俺は意味がわからぬまま嫁の横に立つ。
「諸君! このたび妾の帝都奪還作戦に参加し見事勝利してくれたことを誇りに思う! 今日は体を休めてくれ。なお報償は関係各部署と協議中である! ……特に士官学校の学生たちよ! ……期待してくれ」
うにゃり。
悪い顔を嫁がした。
「うおおおおおおおおおおお! すっげー!!!」
とわき上がる一般兵に比べて、俺たちはまるで葬式のように重い沈黙をしていた。
地位や名誉はくれるがそれ以上の厄介ごとを運んでくるのがわかっていたからだ。
特に侯爵家当主になった俺や実質的に公爵家のナンバー2になったレンは青ざめた顔になっていた。
俺はもう嫁と一蓮托生。
嫁と運命を共にすることになる。
大きな借りを作ったレンも同じだろう。
だから俺は嫁からマイクを取って明るいニュースにする。
「みなさんはこれからしばらく休暇です。首都に家族がいる人も多く心配でしょう。避難所に会いに行ってあげてください」
ニコッと笑うといつの間にか来ていたマスコミに写真を撮られた。
「婿殿、おいしいところを持っていったのう……」
「ではどうぞ」
俺はマイクを渡す。
「皆の家族の安否は調べておいた! 会場から離れる際に各個人の情報を渡す。一列に並んでくれ!」
やっぱりね。
嫁は約束を守る女である。
ちゃんと調べてくれてた。
こういう気配りは本当に大事なのだよ。
「今回の作戦には帝国から特別手当が振り込まれる! 無駄遣いするなよ! なお明日、宮殿で帝都奪還記念パーティが行われる! みな出席するように! 解散!!!」
長話もなく解散。
終わると嫁が抱きついてきた。
「婿殿……聞いてくれ」
「嫌な予感がするが聞こう」
「皇位継承権が三つ上がった。第四位じゃ」
「詳しく」
意味がわからん。
「叔父二人に、兄弟の一人が戦艦型の自爆に街ごと飲み込まれた」
「……えっとパーティーより先に葬儀」
葬儀は大事だぞ。
葬儀ちゃんとしないと高確率で人間扱いされないからな。
「三人とも逃げようとして北の宇宙港から逃げだそうとしたところ爆発に巻き込まれたのじゃ! これには皇帝陛下も激怒しておってな。過失による利敵行為で処刑されたことにする予定じゃ」
逃げようとして死亡よりは処刑の方がまだマシなのか。
民からのヘイトを処刑された三人に向けさせるつもりかもしれない。
どちらにせよ噂は漏れるもの。
機会をうかがって自らリークするのだろう。
「つまり皇帝ほぼ確定ってこと?」
「まだだと思うが……上の兄三人は優秀じゃ。有力な公爵家の血を引いている……つまり皇帝が姉妹に生ませた子ではない。妾より正当性がある。対して妾は女というだけで、事情を知っている高位貴族に皇帝の奴隷だったという疑惑の目を向けられている。婿殿もそういう目で見られているのじゃ」
「あはははははははは! 思い出せよ。嫁ちゃんは宇宙一……」
「いい女じゃ!!!」
「なら問題ないだろ」
なにを今さら。
嫁がそういう立場なのは知っている。
高位貴族ね。
この場合の高位ってのは伝統ある貴族でさらに中央の職位が高いって意味だ。
レンの所や俺の家みたいなのは当てはまらない。
レンの家に問題があるって意味じゃなくて、公爵や侯爵家でさらに内務財務軍務外務あたりの大臣クラスだって意味だ。
そんなに数は多くない。
なお、うちの侯爵家は職位の前に統治に問題があるので対象外である。
税金納めるどころか帝国から支援金もらってる状態だからな……。
そういうとこやぞ親父!!!
嫁は一瞬わけがわからないという顔をしたが普段の表情に戻る。
「そうか……婿殿そうじゃな! 問題ないな!」
「それでパーティーってなにすんの?」
「なあに復興どうするかって爺どもが密談をする場じゃ。我らはただの客寄せパンダじゃ。愛想を振りまけばいい」
「了解」
愛想ね。
つまり喧嘩すんなって意味だろう。
大人しく料理食べてる。
「料理は学生の胃袋に合わせて発注させた。食い尽くす勢いで食べてもいいぞ」
「嫁ちゃんのそういうところ本当に好き!!!」
「ガハハハハ! 妾は宇宙一いい女じゃからの!!!」
その後、後片付けを頼んで嫁と学生主催の打ち上げパーティーに行く。
私服で行ける仲間内のものである。
でもバカどもが勢いで酒飲みそうなので近衛隊も呼んでおく。
「レオ……貴様には心底がっかりしたぞ」
マッチョな男子に文句を言われる。
「うるせえバカ! マスコミが俺たちを張ってるんだ。嫁の不利になるようなことはすんな」
「クソ! ヴェロニカちゃんのためなら仕方ねえな! なあレオ聞いたか? 俺たち高等部卒業したら少尉待遇になるんだってよ」
「アホか……それはだな。大学校スキップして近衛隊に入るって意味だ。先輩に小突かれながら送る大学生活が地獄の近衛隊の訓練に代わるの!」
「……マジかよ。レオ最低だな」
「なんで俺が悪いんだよ! 知り合いだから大学校よりマシかも?」
「……あ、そうか。今の生活と変わらないのか……」
「どうせ大学校も授業できんだろ。それにこれからみんなの家救いに行かなきゃならんし」
「約束だからか?」
「俺は約束守るタイプなんでね」
「しかたねえな! おーい、みんな! やっぱレオは約束守るってよ!」
他の男子もテンション上げた。
「おー! そうかよ! レオありがとな! うちの親無事だったわ!」
「兄弟無事だったぜ! 親はまだ見つかってないけど……」
「お前は明日も休んでろ。うちは家全壊したけど家族無事だったぞ!」
平民も貴族も関係なく俺に礼を言う。
「他のみんなん家も助けようぜ!」
「おー!!!」
「婿殿は人徳あるのう」
ジャンボクリームパフェを食べながら嫁が言った。
約束を守ってよかった!




