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第二百七十八話

 俺ことトマスの艦隊と侯爵以下の領主で構成される領主艦隊は戦艦型ゾークと対峙した。


「トマス様! イソノ伯爵から通信! 【尻にナイフを突き刺せ。さすれば幻覚恐るるに足らず】と!」


 通信担当が知らせた。

 イソノ伯爵、レオ・カミシロ隊の幹部だ。

 ふふ、職業軍人らしい下品なジョークだ。

 さすが義弟(レオ)の仲間だ。

 剛毅な漢である。気に入った!

 ハナザワ家の娘と婚約しているそうだ。

 ヴェロニカの計画ではレオの子孫と婚姻させようと思っているだろう。

 将来の公爵候補だ。

 ああ、なんということだろう。

 ヴェロニカとレオの周りには傑物が集まっている。

 うらやましいかぎりだ。

 これこそが英雄の才なのだろう。

 それにしても尻とはな!!!

 ゾークなど恐れぬという決意が垣間見える。

 そう、やつらは我らの恐怖や絶望を力にする。

 恐れててはならない。

 俺はナイフを抜き、軽く手の平を切った。

 血がにじむ。

 俺は傷を皆に見せる。


「尻は誇張だ! 皆のもの! 手の平か腕の外側……いや動きの邪魔にならぬところならどこでもいい! 少し切れ! 痛みが我らを現実に引き留めてくれる!!!」


 ブリッジにいた士官たちは俺の傷を見て一斉に手の平を切った。

 俺の副官をしてるサイラスもとまどいもせず手の平を切った。


「銀河帝国万歳!!!」


 皆が切った手の平を掲げ、傷を見せつけた。

 その瞬間、我らの心は一つになった。

 先の遠征を繰り返さぬと。

 サイラスが命令を下す。


「兵にも通達せよ! 邪魔にならぬところをナイフで切れと!」


 兵士たちは多少のとまどいはあるものの次々と腕の外側や手の平を切っていった。


「帝国万歳!!!」


 俺たちの精神が痛みで引き締まる。

 これは醜い帝国の歴史の続きではない。

 ヴェロニカとレオが新しい歴史を作るのだ。

 戦艦型ゾークの群れが動く。

 なんという大きさだろうか。

 ヴェロニカの超巨大戦艦よりも大きい。

 だが妹と義弟がすでに倒した敵でしかない。


「機雷をばら撒け! カニのゴリ押しの方が厄介だ!」


「はッ!」


 我が艦隊は間合いを一手に保ちつつ、対ゾーク用の機雷を設置していく。

 領主たちも同じだ。


「皆の衆! 安心めされよ!!! やつらは戦術を知らぬ! 訓練どおりやれば負けぬ!」


 俺が活を入れるとブリッジのクルーが笑った。


「武門と言われながらも戦争を知らぬまま幾百年……。我らの武勇を見せつけてやろうぞ!!!」


「はっはっは! 学生には負けられん! 大人の威厳というものをレオ殿に教えねばな!」


「そうじゃそうじゃ! 我ら武門ここにありと見せつけてくれようぞ!!!」


 本当なら退官近くの年齢であるはずの軍人たちが笑う。

 平均年齢が異常なほど若いヴェロニカ艦とは違い、我らの艦隊の平均年齢は高い。

 先の遠征で子を失った親が中心だ。

 そんな彼らではあるが俺に恨み言の一つも言おうとしなかった。

 直接聞いてみたこともある。


「悪いのは公爵会や侍従ら裏切者にございます」


 だがそう言われるだけだった。

 遠征失敗の原因は俺にもある。

 思えば、遠征失敗は子どものころから運命付けられていたのだろう。

 幼少期に友人としてあてがわれた貴族子弟……あの遠征でほとんどが死んだ私の友人。

 かわいそうな仲間たち。

 彼らはあのとき無残に死ぬためだけに生まれたのだ。

 彼らは公爵会の手のものだった。

 彼らは遠征で無駄死にさせられた。

 俺を逃がすためにゾークの餌食になった。

 自分たちが裏切者であることすら知らされずに。

 彼らは公爵会や侍従、文官……この国を動かしていた連中のゲームの駒でしかなかった。

 俺も同じだ。

 公爵会や侍従や文官の子どもたちだけと友誼を結び、社会を知らずに育った。

 なにもさせず、試練を与えず、ただ暗愚になるように。

 サイラスも同じだろう。

 ただ我らは運がよかった。

 200人を超える兄弟姉妹の中で一人だけ、ヴェロニカだけが後宮から旅立ち、良き伴侶を得た。

 皇位継承権128位で公爵会にも文官にも侍従にも目をつけられずに軍で頭角を現した。

 我らのように縛りを受けずに育ったのだ。

 うらやましくもあるが、マネができるはずもない。

 もう我らのようなものを作り出さぬように。

 なにものかの思惑で人生をメチャクチャにされぬように。

 そんな未来を目指すため……そのためなら命など惜しくない。


「旋回、主砲を向けろ!」


 角度を調整し作戦ポイントで待ち構える。

 機雷にかかったゾークが次々爆発していく。


「トマス様、戦闘機発進いたします」


 通信が入った。

 人型ではない戦闘機だ。

 パイロットは戦闘機乗りにしては年齢を重ねた男だった。

 カーフマン伯爵。

 公爵会傘下の一門にいた男だ。

 ただ公爵会には直接関与してない。

 彼は一族を率いて本家の公爵級惑星を救うために参戦し、そこで子どもたちをなくした。

 彼自身はすでに引退した身だったが、たっての希望で遠征に参加した。


「カーフマン卿、死ぬなよ」


「勝敗は兵家の常。お約束はできかねます」


 そう言ってカーフマンはニヤッと笑った。

 ブラックジョークである。

 さすがに引きつった笑いしか出ない。

 勘弁してくれ。


「発進!!!」


 我が艦隊には人型戦闘機は近衛隊ものしかない。

 義弟の活躍で人型戦闘機のパイロットが注目された。

 新しい戦術、新しい戦略、新しい技術……まさに新しい時代の幕開けだった。

 だがそれはパイロットの要求スペックが上がったいうことでもある。

 ゾークとの戦いで生き残ることができるのはエース級のみ。

 エース級ですら下限に近い。

 今のところ義弟の部下やヴェロニカの近衛にしかいない。

 正直言うと、「彼ら……本当に人間なのかな?」と思わなくもない。

 それほどまでに従来のパイロットの操縦技術とかい離しているのだ。

 そこで俺は従来型の戦闘機の運用を提案した。

 純粋な戦闘機能のみ搭載された機械による戦闘である。

 その結果が今出ようとしていた。

 戦闘機が蟹の群れに近づかんとしていた。

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― 新着の感想 ―
公爵会に絡め取られた子供たち、なんつーか毒親にダメにされた子供みたいで悲しいな……。ジェスター効果外は地獄、の一面な印象。
なろう感想欄の書く際の禁止事項の最初が ・意味を為さない日本語  ……小説を公開されている作者さま方々も大変なんですね(遠い目) 今回のトマスとイソノの間の齟齬は結構大きいのだけど、 まだ充分に意味…
レオパートとの温度差で風邪をひきそうw
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