第二百七十六話
ゾークの事情は現状わからない。
だけど戦艦級を投入するくらいだ。
全力で俺を殺しに来てるのだろう。
俺はブリッジに飛び込む。
「嫁ちゃん! 自爆の危険は!?」
「なさそうじゃ! どうやら、あれはゾークの方もとっておきだったらしい」
だったら普通に戦えるね。
「いま兄上が向かっておる。すでに斥候も出しておる」
「いやトマス義兄さんって! 大丈夫なの!?」
「サイラス兄様が副官じゃ。あのな、婿殿。少し訂正しておくぞ。前回の遠征は諸侯も、副官も、諸侯の騎士団も、トマス兄様の近衛も、持ち上げてた連中も、その連中に選抜された兵も……一人残さず無能ぞ。そんな地獄みたいな状況でなんとか持ちこたえてた理由がわかるか?」
「え……まさかトマス義兄さんって……」
「兄様は生まれながらの将じゃ。優秀な遺伝子を掛け合わせて最も優秀な皇帝として生まれた男ぞ。それゆえ無能どもたかられ、おもちゃにされ、足を引っ張られ能力を生かすことなく生きてきた。婿殿がいなければ妾は兄様に勝てるはずもない。皮肉なものじゃ、皇位継承権第一位でさえなければ、平時に生まれさえしなければ評価されたのだろうがな……ま、偉そうに言う妾も分析結果見て初めて知ったのじゃが」
なんだ!
シゴデキ将軍いるじゃん!!!
身内にいるじゃん!!!
「えーっと、じゃあ俺は?」
「義理の兄の無事を祈れ。サイラス兄様の分もな」
トマス嫌いじゃないし。
サイラスだって好きだ。
って、サイラスは?
「サイラス兄さんは?」
「婿殿……よく考えよ。サイラス兄様は父上の暗殺をするほど現状を理解しておる男ぞ。サイラス兄様はトマスの副官になるために生まれたのじゃ。あの二人が行くなら問題ないじゃろ」
つまりだ。
超子だくさんの麻呂の子どもは……みんな優秀!?
たしかに冷静に考えれば遺伝的に妖精さんの子孫だからな。
優秀な人間が出現しやすいのか。
「とにかく婿殿にはジェスターのバフをかけて欲しい」
「了解ッス。自分で制御できない能力だけど」
「身内だから自動で効果あるじゃろ」
というわけで見守ることに。
「……待てよ。つまり俺はなにをすれば?」
「スパイの逮捕じゃろ。今は憲兵なのじゃろ?」
嫁ちゃんは俺の腕章を指さす。
そうだった。
憲兵の任務中だった。
「わかった! 速報頼むっス!」
「あいよ~」
自分の近衛隊と女性型ゾークの取り締まりに加わる。
「レオ少佐! 少佐が来た!!!」
なぜか女性たちが俺を見てキャーキャー言ってる。
アイドルのように扱われることはない。
だってもう結婚してるし。
しかも嫁ちゃんの管理課にあるハーレムやぞ!
火遊びしようなどという命知らずは軍にはいない。
「よかった! こっち来てください!!!」
「え?」
女性たちに連れて行かれた場所は女子部屋。
士官じゃないので二段ベッドが並んでる。
ただ野郎の部屋と違ってトイレとシャワールームがある。
「シャワールームに立てこもっちゃって」
しかたないのでコンコンとシャワールームの扉を叩く。
「ちわーっす、憲兵でーす。どうしたん?」
「れ、レオ少佐!!! は、は、は、早く逃げて!!!」
殺気がしたので振り返りつつ何か来たものを払う。
戦闘用のコンバットグローブしててよかった。
ナイフだったわ。
「おっと、俺刺されるようなことしたっけ?」
先ほど俺をここに連れてきた女子たちがナイフを持っていた。
「ごめん君らの思いには応えられないんだ。既婚者だから!!!」
とわけわからないことを言いながらジャンプ。
ヒャッハー!!!
天井の通風口に逃げ込む。
エンジニアをなめるなよ!!!
カトリ先生からどこからでも逃げられるようにしてあるわ!!!
なお通風口は飛び上がった勢いで破ったので破片がちょっと刺さった。痛い。
「殿! ここは我らが食い止めます! お逃げください!!!」
レイブンくんが叫んだ。
「殺さないでね!!!」
「かしこまりました!!!」
後は頼んだぞ!
「妖精さん! 救助頼んで!」
「もう通報しました!」
通風口を超高速で匍匐前進する。
とりあえず食堂に逃げ込めば誰かいるだろ。
クソッ! 完全に俺をターゲットにしてきてる!
よし、油でぬめってきた。
食堂が近い。
食堂に降りる。
「あーッ! レオくん! トマト洗ったばかりなのに!!!」
ホコリと一緒に飛び降りたのでニーナさんに怒られた。
「いや暗殺されかけちゃってさ。なんかおかしくなった娘が出た」
「あらら……うーん、内緒だよ」
なんだろうか。えっちだ。
するとニーナさんは調理台に下を蹴飛ばした。
調理台の下部分が開いて銃器が出てくる。
「はい、暴動鎮圧用のショックショットガン」
「なぜにこんなところに?」
「うーん、あのね。軍艦はね。食堂で暴動起きたとき用に隠してあるの。むかーし、サッカーの中継を見て兵士が暴徒化する事件がいくつもあったんだって。それで給養の専門職には武器の場所教えてくれるの。まさか使うことになるなんてね~」
ショットガンゲット。
「ニーナさんはここにいて」
「うん?」
じゃきん。
なんかゴツイハンドガンを持っているのだが。
「私も行くよ~」
「それはなんですカ?」
「暴動鎮圧用ハンドガンだよ。撃たれると気絶して3日くらい悪夢を見るんだって」
「お、おう……」
「えーい」
ニーナさんがいきなり発砲した。
俺の後ろにいたおっさんに当たる。
「なぜに撃った?」
「なんか嫌な予感がしたからだよ~♪」
よく見るとおっさんはパルスハンドガンを握っていた。
周りの兵士があっけにとられる。
「捕まえてね~」
ニーナさんに言われて拘束した。
「じゃ、レオくん行こ。みんな~、トマトは洗って食べてね~」
「姐御! 了解であります!!!」
なぜかみんな敬礼。
どうしよう。
ニーナさんの中にビーストがいることは知っていた。
だってそうじゃなきゃ自走砲軍団ぶっ放したりしないじゃん。
もしかして……俺は一番ヤバい人をパーティーメンバーにしてしまったのかもしれない。




