第二百七十四話
戦いを前にしてピゲットが俺を見下ろす。
「レオ・カミシロ少佐。これはなんだね?」
ピゲットが持っているのは俺のタブレット端末。
教科書や読書用のものだ。
読書はARよりモノがあった方がなにかと楽である。
「じ、自分は裏切者ではありません……」
「そんなことはわかってる!!! 婿殿が裏切者だったら帝国滅んでるわい!!! これはなんだと聞いている!?」
「ギャルものの同人誌であります!!!」
この持ち物検査であるが、今回の待ち伏せで俺たちだってどこに出るかわからなかったワープなのに俺たちを待ち伏せることができた。
つまりスパイがいるのではないかと疑ったのである。
……そりゃいるよね。
ケビンみたいな女性型のゾークがいない方が不自然である。
で、検査で思いっきり俺のコレクションが見つかったわけである。
「そうじゃねえ!!! どうやって買ったのだ!!! それを言え!!!」
「妖精さんに年齢認証ハッキングしてもらいました!!! あと既婚者なので自分は法律上成人扱いであります!!! 違法性はありません!!!」
「ハッキングは犯罪だろが!!!」
ヘッドロックされた。
ギリギリ締め上げられる。
痛い! リアルガチ痛い!!!
タップ! タップ!!!
「陛下が【ふーん、婿殿はこういうのが好みか。残念じゃ】とたいへんお怒りであったぞ!!!」
「あ! 嫁ちゃんの嘘つき!!! 嫁ちゃんこないだこの部屋で読んだじゃん!!! 自分も怒られるから責任なすりつけたな!!! 嫁ちゃんだって自分で買ったTL作品、このアカウントに入れてるくせに!!!」
「……」
「いや無言で締め上げる力を上げるのはぎゃあああああああああああああッ!!!」
子どものころから育て上げた娘のような存在が婿とえっちな作品を読みあさる。
ピゲットの哀愁に満ちた両腕が俺の頭を締め上げる。
無理無理無理無理!!!
痛い!!!
さんざん締め上げられて解放。
もう! 俺の端末なんてどうでもいいじゃん!!!
本命は女性型ゾークなんだから!!!
というわけで今回俺は憲兵役である。
出撃まで暇だしね。
ピゲットのお仕置きから解放され、パイロットの面々と食堂で合流する。
「おう、どうしたレオ」
カトリ先生が現われた。
「いえね、憲兵役しろって命令されたもんで」
憲兵の腕章を見せる。
いや憲兵は別にいるんだけどさ、手が足りないのだ。
手が空いてる連中がサポートする形だ。
「お、そうか。暇じゃねえのか」
セーフ、セーフ!!!
「おう、じゃあおっちゃんが手伝ってやろう」
なぜか民間人が着いてきた。
まあいいやカトリ先生に憲兵の腕章つけとこう。
カトリ先生がパーティーに加入した。
食堂に行くといつもの面々。というかパイロット勢。
エディにイソノに中島にレンにメリッサ、あとクレア、それにエッジとアリッサである。
ニーナさんは食堂で忙しいし、ケビンは看護師のシフト中である。
カミシロ本家の近衛隊も俺の護衛でゾロゾロ来た。
女子の部屋の臨時検査は女子にまかせるとして、俺たちは野郎の中に紛れた女性型を追う。
存在するかどうかすらわからんけどね。
一般兵の部屋は複数段ベッドのプライバシー無視ルーム。
「ちわーっす臨検でーす」
「お、レオ少佐! おい少佐がきたぞ!!!」
「うぇーい」
写真を撮ろうとするのでダブルピースする。
「バカだ! バカがいる!!!」
男子どもがゲラゲラ笑った。
で、持ち物検査。
エロいものしかなかったぞ。
むしろこのプライバシー無視の中でエロを育む根性が素晴らしい。
変なお薬もなくタバコに酒に酒に酒に酒に……。
持ち物のほとんどが酒だね。
「一つくれ」
「カトリ先生! いける口ですかい?」
「おうよ!!!」
酒盛りがはじまりそうなので質問だけする。
「皆さんの中で最近きれいになったなーとか着替え見られるの避けるようになった人とかいます?」
「いねえっス」
「何か気づいたら教えてください。失礼しやしたー」
酒盛りはじめたカトリ先生は放置。
男性兵の宿舎区画をまわってこのやりとりを繰り返す。
検査が終わった人からカトリ先生の酒盛りにご招待。
野郎はこれで終わり。
今度は士官。
士官は個室だ。
一軒一軒まわっていく。
「イソノ……その……なんだ。堂々とエログッズを並べるのは……」
「俺は一向にかまわんッッ!!!」
ノーガードかよ。
なんか偉そうにしてるのがムカついたので、内緒で婚約者の両親、ハナザワ家に通報しておく。
俺は上官としてメッセージでやりとりしているのだ。
すぐに「結婚までに根性を叩き直します」と返事が来た。
ぐへへへ。
「なー、ケビンみたいな症状の噂あるか?」
「ねえな。だいたいよ~。そんなのすぐバレるわけでよ~。ケビンだって体つき変わったから焦ってレオのこと殺そうとしたんだろうよ」
そりゃそうか。
男子はこれで終わり。
で、問題は女子の方。
クレアたちが女子のところに突撃する。
俺たちは後から合流。
クレアが冷や汗を流してる。
「えっとレオ、落ち着いて聞いて。スパイはいなかったんだけど……違法な生産ラインの利用が発覚して……」
「なにそれぇ?」
「その女子……いや私たちじゃなくて新しく配属された士官を中心として、好き放題やっていたことがわかって……」
「何作ってたの?」
「野菜なんかもそうなんだけど……」
「待って、じゃあトマトの異常生産は? いやその前のイチゴも!?」
「……異常生産の原因よ。その……ラインをいじりすぎてエラーを引き起したみたい」
「さ、酒! 酒がなければやってられないのおおおおお!!!」
捕まった士官のお姉さんが叫んだ。
あー……、酒でブーストしないと軍畜やってられないタイプの人か。
「レオ聞いて……私たちはなれてるけど、普通の人は化け物との戦闘なんて怖くてできないから」
「ですよねー!!!」
かつてない説得力の言葉に俺は全力で納得してしまった。
異常なのは俺たちなのである。
するとアリッサとエッジがなにかを見つめていた。
「なにかあったん?」
女子士官の個室だった。
「鍵かかってる……なにかおかしい……と思う」
相変わらずエッジは無口すぎて言葉が足りない。
ま、そこをフォローするのも電柱の上でフハハハハ師匠の腕の見せ所だ。
「ちゃーっす憲兵ッス。臨検でーす」
ドンドンッと扉を叩くが応答がない。
「クレア、鍵かかってる。誰の部屋?」
「えーっと……ミーガン・ジャミル少尉って表示があるけど」
「妖精さん、中わかる?」
妖精さんを呼び出す。
「まーた、レオくん面白そうなことしてますね。中は人がいますね」
「寝てんのかな? まあいいや、開けるわ。妖精さんロック解除と室内に警告お願い」
「はーい」
ドアが開く。
次の瞬間、パルスハンドガンで撃たれた。
ヒューマさんの言いつけどおりパーソナルシールド常時オンにしててよかった……。
だって俺に命中してたもん。
「レオ大丈夫か! 取り押さえろ!!!」
「うおおおおッ!!!」
あたい……いま、事態に追いついてないわ。
なにが起きた!?




