第二十一話
目が覚めた。
不死身がどうたらと言われた気がする。
でも高確率でクローンでの復活だよな……。
脇を見ると嫁が寝ていた。
泣いていたのか顔の部分が濡れていた。
……股間に違和感があった。
めくってみると最終破壊兵器に管が入っていた。
あー……全身麻酔で手術したのか。
ロボアームによる全自動手術だろうけど。
傷口はガーゼが当てられていた。
傷口にも体液排出用の管が取り付けられている。
おまけに点滴もつけられてた。
おそらく化膿止めだろう。
人工呼吸器がつけられてないだけマシか。
動いたせいでセンサーがはずれたらしく警報が鳴った。
「んが! なんじゃ!」
嫁が起きる。
「おっす。ところで俺、クローン?」
「起きたのか……婿どの……って違うわ!!! クローン処理やだって言ったのお主じゃろ!!!」
「まあね、生き返るの俺の記憶持ってるだけの他人だし」
そう言ったところで無情にも嫁によってナースステーションの呼び出しボタンが押される。
「妾も同意見じゃ! ……さて、言わせてもらうかの……心配したんじゃからな!!! このバカ!!!」
「いやさー、人間側にスパイがいるなんて……暗殺されるとかまったく考えてなかったわ。それでケビンは?」
「逃げようとしたところを確保されて、いまは地下に幽閉しておる。キレたメリッサが刀抜いて追いかけ回すわ、キレたクレアが無言で銃ぶっ放すわ、男子が泣きながら逃げまどい、近衛隊がケビンを守るために女子より先に捕まえての……妾は婿殿が倒れてわけわからなくなるし……それは悪夢のようじゃった」
「ごめんね」
ものすごく迷惑かけたのは理解した。
「で、いま俺はどうなってるの?」
「ナノマシンでの治療が間に合わなかった。手術ユニットを使って止血して、失った血を人工血液で補充した。その間、二回心停止したがな」
「え、やだ。怖い」
「それは妾のセリフじゃ!!! 結婚していきなり寡婦になるとか……もう涙が出てな……」
「ホントごめん……」
反省。
「それで、ケビンはなんだって」
「ああ、自分をゾークだと主張しておる。そこでな体を調べたのじゃ。爆弾などがあったら困るからな」
「なる」
「GPSが仕込んであった。それも我らの技術ではない。タンパク質で作られた臓器として機能するものがな」
一気に怖くなった。
リアルガチ本気だわ。
「本人に洗脳とかは?」
「ない。がな……一つ問題があっての」
「なんすか。問題って?」
「男じゃ……ないのじゃ……」
「あれっすか? 女であることを隠してた系の」
「いやそうじゃない。両性じゃ」
「……マジっすか?」
ゾーク、テキトーすぎんだろ!
遺伝子操作技術とかはあるのに、他の種族に興味なさすぎて似せて作った生き物が悲惨な姿になるとか生々しすぎるやろ。
嫁も嫌悪感を隠そうとしなかった。
ならば……ここは一発ギャグで場を和ませよう。
「俺の最終破壊兵器もゾークの技術で……」
「最終破壊兵器を改造する阿呆は実の父親だけで充分じゃ! 婿殿も余計な事したらぶち殺すぞ!!!」
やだマジギレ!?
「あ、はい。あの見たことが?」
「あるわけなかろう!!! 子ども産まされた姉上がぼやいておったのじゃ!!!」
あーうん。
皇帝陛下のことがなんとなくわかってしまった。
おそらく……皇帝陛下は最終破壊兵器がたいへんミニマムな姿でお生まれになってしまったのだ。
笑われたとかでコンプレックスになってロリに走ったと。
その反動で最終破壊兵器の改造に余念がない、と。
「あんのクソ親父ぃッ!!! いつかぶち殺してくれるのじゃ!!!」
嫁は実の父親の話題になると必ずキレる。
よほど腹に据えかねているのだろう。
俺が嫁だったらもっと早期にぶち殺していただろう。
「あー……だから改造手術をするゾークは許せないと」
「おー、よくわかったな。妾は人の体を弄ぶのが嫌なのじゃ!!! あのカニども! 絶対に絶滅させてやるからな!!!」
そこまで話すと看護師のお姉さんと医師が入ってくる。
ガーゼを取って傷口の壊死した組織を取り除く。
これらはナノマシンが取り除いた組織なので取っても問題ない。
管を取って患部を洗って終了。
すでに組織のほとんどが修復されている。
あとは最終破壊兵器の管である。
カーテンを閉めてそのときが来る。
「ああん!」
「気持ち悪い声を出すな!!!」
カーテンの外から嫁が怒鳴る。
「だってこれリアルガチで痛いんだもん!!!」
「お、おう、痛かったのか……大丈夫か?」
「それだけ元気だったら明日退院で問題ないでしょう」
「ひゃっほーい!!!」
と言うわけで明日退院になったのである。
なおメリッサとクレアはキレて暴れた罰で営倉入りだそうだ。
今日は来られないらしい。
次の日、着替えて退院。
嫁と近衛隊が迎えに来る。
いきなりおっさんたちに胸倉をつかまれる。
「ああ! ゴラァッ!!! てめえ殿下泣かすなって言ったよなボケェッ!!!」
正直言っていいっすか?
ゾークの数倍怖い。
そのね、顔の圧が……。
こういうの洗礼受けると実質的にヤクザの娘の婿になったんだなあと思う。
「許してやれ。婿殿もまさか級友に撃たれるとは思ってなかったのじゃ」
「次はねえぞ。ああゴラァッ!!!」
「うっす」
「おう、婿殿。これから銃で撃たれてもいいように鍛えるぞ」
「それ人間じゃねえっすよね?」
「オドレコラァッ!!! 死ぬ寸前でヒール使うとかなめてんのかボケェッ!!!」
「え? ヒール? 誰が?」
「婿殿じゃ。自分にヒール使って死を回避したのじゃ」
「使えたの!?」
いや低レベルの超能力は全部使えるはずなんだよね。
パラメーターが絶望的に低いだけで。
知ってはいる。
でも実際使うのは難しい。
車の運転方法レースゲームで知ってても、本物の車を運転できないのと同じだ。
「無意識に使ったようじゃの。まあいい。この惑星を制圧したら訓練するぞ」
「えー……超能力は訓練できないんじゃ?」
「使え」
「え?」
「使いまくって慣れろ。自由自在に使えるようにしろ」
思ったよりはるかに体育会系脳だ。
これは……俺、死ぬかも。




