第百九十九話
皇帝になった数日後。
俺たちはカミシロ本家に帰ってきた。
帝都はセキュリティー的にありえないってさ。
ここが都みたいになってきたな……。
実際、世間もそう考えてるみたいで処理しきれない数の開発の申し込みが来た。
ショッピングセンター、物流拠点、公爵邸の建て直しに、区画整理事業に工業団地に農場に水耕施設に観光地に……。
処理しきれない。
現状は嫁ちゃん暗殺の懸念を理由に保留してる。
たしかにアホどもを粛正し終わったカミシロ本家が銀河で一番安全ではある。
ここで妖精さんの提案でカミシロ一門はそれぞれの領地に行くことに。
みんな伯爵様だもん。
そろそろ自分の足で領地見てこないとね。
そのついでに婚活組は相手の惑星へ。
がんばれお前ら!
エッジたちにメリッサ、レン、ニーナさんに京子ちゃんは実家にも寄る予定だ。
クレアさん……いやクレア様は帝都で会社を手伝ってくるらしい。
クレアさんの実家の新しい会社だけど、俺と嫁ちゃんで出資して過半数の株を持っている。
あとは商社と銀行。
カミシロ工業の製品の供給元もこの会社に一元化した。
帝都に物流拠点と工場建てて、帝都で職をなくした人を優先採用したら嫁ちゃんの支持率が爆上がりした。
他の会社にも仕事を回して景気が悪くなるのを防ぎたいんだって。
それも戦況次第みたいだけどね。
さてカミシロ本家だけど、久しぶりに俺と嫁ちゃんだけである……。
「おなかすいたであります!!!」
「レオ~なんかくれ!」
あ、ワンオーワンとタチアナの二人はいたわ。
ほらよ、軍の若年者用栄養ブロック食え。
チョコ味で味はいいからな。
「他にもくれー!」
「欲しいであります!」
「せんべいならあるぞ」
「感謝であります!!! 隊長! ルナちゃんと遊んでくるであります!!!」
「ゲーム使っていいよな!」
「いいぞー」
二人はどこかに行ってしまう。
あー、静かだ。
夜会のあと、嫁ちゃんの近衛隊が宿舎を建設した。
俺も自分の近衛隊に宿舎を建設することにした。
レイブンくんも来るみたいよ。
侯爵家の末っ子が現役の公爵を近衛にする未来なんて誰が予想できただろうか?
レイブンくんは俺に敵意がないようだ。
貴族社会で無能と評されるカミシロ家の人間を嫌わない公爵はマルマ様以来である。
マルマ様は身内だから例外なので初めての経験だ。
俺は嫁ちゃんのところに行く。
嫁ちゃんは執務中だ。
たいていは政治家や実業家とオンラインで会談してる。
で、仕事中なのに俺が行くかというと……喜ばれるからだ。
ハプニングを装ったお仕事である。
執事さんがエレベーター前で待っててくれた。
俺はいつもの芋ジャージではなく軍服だ。
内勤用のパリッとしたやつ。
執事さんの案内で嫁ちゃんの仕事部屋に行く。
その途中でメイドさんと合流する。
「陛下、大公様がいらっしゃいました」
「入れ」
「愛する陛下、あまり根を詰めてはお体に触ります」
このセリフを言ってる間、俺の顔は笑顔で固まってた。
はっはっは。何度も練習したもんね!
「ああ、愛する大公。そうだな少し休もう。紹介しよう。我が伴侶のレオ・カミシロじゃ」
嫁ちゃんの方はおすましは得意みたいだ。
俺はセリフを口から出すたびに顔が引きつりそうになる。
「大公様! ワタクシ! 帝都商事社長のボルジと申します!!!」
相手は頭が薄くなったおっさんだ。
なぜか直立してご挨拶。
商社か。
一番大きな商社だったかな?
派閥的には軍だと記憶してる。
「よろしく頼みます」
歯をキランと輝かせて笑顔を作る。
俺は愛想よくしてればいいんだって。
俺を直球でバカって言われてるわけじゃない。
俺が顔を出すだけで相手は喜ぶみたいよ。
メジャースポーツの世界チャンピオンをイベントに呼ぶみたいなものかな。
「その……大公様。孫がファンでして、そのサインなどもらえれば……」
「わかりました。送ります。えっとお孫さんのお名前は?」
なんて会話をする。
あとは嫁ちゃんがお茶を飲み終わったのを見て退場。
あとで嫁ちゃんが俺が仕事してる部屋にやって来る。
「婿殿助かったぞ……円満に話がまとまった」
実はなんの話をしてたかわからない。
でも助けになったのはよかった。
俺の仕事も終わる。
いやー!
最終的な決断は俺だけど、旧佐藤公爵家の文官が優秀で助かるわ!
仕事半分未満よ!!!
はっはっはっはっは!
「なに一人で笑ってるのじゃ?」
「いや遠くへきたもんだなと」
「ふふ、妾もそうじゃ。まさか皇帝になる日が来るとはのう」
そう言って笑う嫁ちゃんは帝都のディスカウントストアのジャージである。
俺も士官学校の芋ジャージである。
うん良い傾向だ。
夫婦っぽくなってきたね。
なおタチアナとワンオーワンもディスカウントストアのジャージである。
するとインターホンが鳴った。
誰だろう?
「ただいまー」
ケビンが帰ってきた。
「お、どうしたよ? 早いじゃん」
俺が聞くとケビンは「えへへ」って笑う。
「うん、なんの異常もなかったよ。ほら、うちの領民女性型ゾークばかりだし。労働者多いからみんなでいろいろ建築してたよ」
ケビンは公爵会が遊ばせてた無人の惑星をもらった。
無人って言っても公爵級じゃないってだけで、危険生物もいなければ予想収益性も良好な惑星だ。
そこを一から開拓してるらしい。
女性型はネットワークから切断さえしてしまえば普通の人だ。
思想的な問題がなければケビンのところで人生をやり直す予定だ。
家族も連れてきた人が多い。
肉体年齢も若いので将来有望な惑星だ。
……他に山ほど問題あるやろって思うじゃん。
いいの、どうなるかわからないから。考えるのやめ!
こうしてケビンを加えてまったりする。
「ケビンちゃん発見であります!」
「あ、ケビンだ! 遊ぼ!!!」
妖精さんと遊んでたはずの二人もやってきた。
俺からおやつをカツアゲしにやってきたのだ。
「はーい。おやつね」
俺も食料ボックスを漁る。
買うの忘れてた。煮干ししかねえ。
「ほら煮干し」
「甘いの欲しいであります!」
「そうだよねー。ホットケーキミックスはあるでしょ? なんか作ってあげるよ」
「わーい!」
ほほ笑ましい。
ケビンとワンオーワンが並ぶと姉妹にしか見えない。
こうしてまったりな日常がすぎていく。
上様は別枠として、命の危機がないってのはいいことだ。
うん素晴らしい。
「……ね? 素晴らしいよね? 平和って」
「あきらめるのじゃ。婿殿に平穏は……ない」
やだー!!!




