第百九十七話
皇帝就任の儀である。
朝の四時に起きて宮殿へ。
女官さんに服を剥かれて風呂に入れられる。
汚いからじゃないよ。
儀式で使う香油からなにから決まってるんだって。
香油でマッサージされたあと和服を着せられて香を焚かれる。
【むむ、これはXXの香だな!】
とわかるほど香に詳しくない。
わかるのは寺の線香よりはマイルドだなって程度だ。
頭も油をつけられてオールバックみたいな髪型にされる。
気分は相撲取りだ。どすこい!
指の爪は整えられた後、透明のマニキュアというか樹脂の保護材を塗られる。
顔の毛を処理した後で化粧を施される。
これで斬首されても恥ずかしくないね!
足は足袋みたいなのを装着。
渋い伝統衣装。日本っぽいデザインのやつを着せられる。
チョンマゲパラダイスじゃなくて麻呂の方。
うん、自分一人じゃ着られねえ。
そりゃこんなのが毎日なら上様も徳田新之介になりたくなりますわ。
朝になったころにセッティング完了。
8時から全力儀式である。
トイレに行けないので朝飯は食物繊維入ってないゼリー飲料で。
顔を隠し神輿に乗る。
やんごとない身分の方は顔を直接見せないそうで。
そういや麻呂も会うまで顔知らなかったな。
嫁ちゃんはそういうのも改革したいようだ。
俺と嫁ちゃんの顔写真はガンガン露出させてる。
そうそう、遊園地の流出動画であるが、怒られるかなと思ったら各方面からほめられた。
本来なら射殺されてもしかたない暴挙を半殺しで止めたのが大きいようだ。
アマダも始末書一枚ですんだそうだ。
ああいうアホどもって無限わきするんだって。
どうしても俺と嫁ちゃんは人気者なので、逆張りするやつが出るとのことである。
いわゆる人力の乗用具、輿で運ばれて行く。
刀を差した屈強な男たちが輿を担ぐ。
俺は前を向く。
頭動かしちゃいけないんだって。
ゆっくりゆっくり、儀式を行う宮殿の庭園に向かう。
和楽器の奏者が曲を奏でている。
俺の後ろには一層豪華な嫁ちゃんの輿がいた。
あ、あたいはモブ。
今日はモブ、目立っちゃダメ!
そうして会場に着くと巨大な焚火があった。
火の神の浄化の炎が云々。
だめだ、元の世界と同じくらいこの世界の宗教に興味がない!
とにかく儀式が始まった。
演奏を聴くとだんだん眠く……だめだ!!! 起きろ!!! がんばれ俺!!!
気合で起きて無になる。
眠い。あと服が熱い。
演奏が終わると嫁ちゃんが輿から降りて儀式をする。
嫁ちゃんは紫式部とか小野小町的な宮廷装束である。
なお様式などの細かいところを判別するほどの知識は当方にない。
ただ僧侶と違ってゲーミングではなかった。
祝詞みたいなのを読んで、世の平和と安寧を祈願する。
祈願しても講和不可能な敵性生物との戦争中なんだけどね。
よくわからぬまま演奏が再開。
どうやら終わりらしい。
俺は輿から降りずに、またお着替えである。
まずはトイレ。
汗をかきまくったのでスポーツドリンクを飲む。
そしたらまた風呂。
未だに女性に洗われるのになれない。
この状態でえっちなこと考えるの無理だな。うん。
そしたら今度は洋風のクリーム塗って卵肌。
ボクサートランクスにワイシャツに……タキシード。
蝶ネクタイを着ける。
靴はピカピカのやつ。
「あら大公様。胸板が厚いのでたいへんお似合いでございます」
スーパーモデルってほどじゃないが鍛えてた効果が現れたようだ。
どうしても胡散臭くなるタキシードも胡散臭い細マッチョのタキシードに……。
変わってねえ!!!
蝶ネクタイはむしろ望むところ!
パーフェクトカミシロングがここに誕生した。
外に出ると閣僚との昼食会である。
女官さんに案内される。
軍の偉い人もいて、いつもヤクザスレスレの彼らの表情は非常ににこやかだった。
むしり閣僚である中立派の公爵家の方々の顔が青い。
こんなところ来たくなかったって顔だ。
奇遇だね。俺もだ。
おっさんとメシ食ってもうまくない。
夜じゃないのにタキシードかよと思ったらこういうイベントがあるわけね。
流れは聞いたけど理解が足りなかった。
うむ、わからん!!!
全員が集まると【皇帝陛下のお成りにございます!】と侍従の声の後に嫁ちゃんが入ってきた。
洋風のドレスだ。
まーかわいい!
でも【かわいい】って言うとちょっとだけ不機嫌になる。
幼生固定をかなり気にしてるみたいだ。
なので俺の横に座る嫁ちゃんに「今日も宇宙一のいい女っすね」と声をかける。
するとうれしそうに「当然じゃ」と笑顔で答えてくれる。
コース料理が運ばれてくる。
味がわからんが慣れとかないとな。
もうね、軍の偉い人たちがニッコニッコしてる。
お偉いさんにとっても嫁ちゃんは孫みたいなもんだ。
それに自分たちの派閥に好意的な皇帝でもある。
気持ちはわかる。
「大公閣下」
渋い顔したおじさんに話しかけられた。
俺は笑顔で顔を向ける。
「なんでしょうか」
「……本当に講和は難しいのでしょうか?」
「不可能です。基本的に会話すら成立しません。女性型も操っている存在は確認できましたが、超能力でアプローチしたところ回線を切断されました」
「超能力……そんな超能力が?」
すると嫁ちゃんが席を立つ。
「軍の一部しか知らない機密をこの場の皆に開示しようと思う」
「へ、陛下! 機密とは!?」
「皇籍回復させた皇女ルナじゃ」
「なぜ何百年も前の皇族の話を今なさるので?」
「なぜなら皇女ルナこそがその超能力者だからだ」
「処刑されたのでは?」
「生きておる。皆も知っているマザーAI、あれのオリジナルが皇女ルナじゃ」
「は!? な、なにを!?」
「帝国に裏切られたというのに何百年も帝国を守ってきた。それが皇女ルナなるぞ! なあルナ!」
「ええ」
ホログラムに映ったのは思いっきり年齢を詐称した妖精さんだった。
おそらくAIで盛りまくっているのだろう。
大人っぽい顔とか、胸とか。
俺は無の表情になった。
「ごきげんよう。子孫の皆様」
「あががががががが!!!」
教育大臣のおっさんが泡ふいて倒れた。
アウトー!
こうして【気絶してはいけない昼食会】という地獄イベントが開催されたのであった。
俺は陰謀に加担してないからね!




