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第百六十九話

 常夏の……って言うほどクソ暑くもないちょうどいい気温。

 湿気も少なくカラッとしていて快適。

 海には珊瑚礁が見える。

 ビーチのずっと奥では桟橋があって釣り場になっていた。

 高級リゾートすげえ……。

 これ領主の屋敷という名のホテルの施設である。

 ここまでやって客取ってない完全プライベートなんだぜ!

 バカじゃねえの!

 公爵会の公爵ども、ウルトラ金持ちの頭が悪すぎて価値観がついてこない。

 そんなビーチで座る京子ちゃん。

 額にしわが寄ってる。


「京子ちゃん、どうしたん?」


「父様が暖かいとこの魚は美味しくないって」


 そういや大野の惑星は冬期にクソ寒くなる。

 寒い海なのでマグロやらほっけやら美味しい魚が獲れる。

 ここはどうなんだろう?

 常夏の楽園の魚は美味しくないって聞くけど。

 あとで聞いてみよう。

 男子も女子も泳いだりビーチでバレーしたりと好き勝手に遊んでる。

 嫁ちゃんはベンチで寝っ転がってくつろいでる。

 横にはくり抜いた果物の皮に入ったジュースが置かれていた。

 これがエロそうな顔したおっさんだったらムカつくが、嫁ちゃんはやたらかわいい水着である。

 なんだかほっこりする。

 俺もビーチの屋台でヤシの実を頼む。

 悪そうなおっさんが鉈で頭を削ってストローを刺して渡してくれた。


「へへ、お殿様。がんばって!」


 なにをがんばるのだろうか?

 よくわからないのでスルーして嫁ちゃんの横に座る。


「どうした。もっとくつろいだらどうじゃ?」


「はっはっは……逆に落ち着かねえ……これを家と言い張るの心の底から頭おかしい……」


「普通ならそう思うだろうな。だが来るぞ」


「なにが?」


「親戚じゃ」


「いやそれ佐藤家であって、俺の親戚じゃねえじゃん」


「だからじゃ。向こうは家臣の身分が保障されるかヒヤヒヤしてるのじゃ」


「雇う雇う、地元民敵に回すわけないじゃん」


 地元民の敵だったら容赦なく潰すけどね。

 俺が欲しいのは各地元民の有力者であって、嫌われ者の悪党はいらん。


「どうやら同じ事を考えてるようじゃな。民の陳情も大量に来るぞ」


「それは覚悟してる」


「気をつけよ。官より民の方が厄介じゃ」


 ですよねー。

 生活に危機感あるのは民の方だもの。

 家臣は最悪夜逃げすればいいしね。

 テンション下がるわー。

 そのときだった外でワーワー叫んでる声が聞こえた。


「ちょっと見てくるわ」


 ホテルに帰るとすでに来客の列が出ていた。

 来たときに宇宙港にアホみたいな数の出迎えが来て、近衛隊と俺たちで排除したのは本番じゃなかったようだ。

 家臣団がもの凄い数来てる。

 この時点で侯爵家の家臣団の10倍はいる。

 まだ俺はやつらの視界に入ってない。

 よし、夜逃げしよう。

 そう思って踵を返すと嫁ちゃんがいた。


「安心せよ。そのガラスはマジックミラーじゃ。ここからは見えるが向こうからは見えぬ」


「ふ……あやうく夜逃げするところだったぜ」


「婿殿は本当にやりかねんからな……。やつらと面会するな。なめられる」


「じゃあどうすんの?」


「家長のみの予約制にせよ」


「わかった!」


 返事だけはよくして、時間を稼いだら夜逃げの用意を……と思ったら、執事さんが横にいた。

 俺に気配を察知されなかった……だと!

 って殺気がないからか。


「かしこまりました。予約制にいたします」


 というわけで謁見の日時が決まっていくのである。

 ……ぼく……家出したい。

 ヤケになって遊びまくって夜。

 鯛、まぐろ、いくら、ほたて……。

 アワビになんか高そうなの!!!

 すげえ量の海鮮が置かれていた。

 暖かい海の魚じゃないのが……養殖? なるほど。


「会席料理を提案されたが、こちらの方が好きじゃろ。なあ、皆の衆!」


「ヴェロニカちゃん! 愛してる!!!」


「嫁ちゃんは俺の!!! がうがうがう!!!」


「ということじゃ。あきらめよ!」


「はっはっはー!」


 アホ丸出しのやりとりを経て、海鮮をむさぼり食う。

 浜焼きもできる。

 わかってるじゃねえか。

 俺たちくらいの年齢じゃ高級料理よりもこういうのがいいんだよ!

 こういうのが!!!


「旦那様、こちらにお肉もありますよ~」


「うわーい」


 お肉も取ってくる。

 まぐろも肉もいいやつだな。

 少なくとも回転寿司よりも高級なのはわかる。

 ……それしかわからない。

 みそっかす侯爵家の末っ子じゃそんなもんよ。


「ふふふ、勝ったの。婿殿」


「なにが?」


 ほら見ろ。

 値踏みしてた連中の顔をな。

 給仕やってた使用人がそそくさと出入りして入れ替わるのが見えた。


「士官学校の皆は一見すると年相応の下品なものに見えるが、マナーに問題はない。見よ、タチアナの姿を」


 タチアナはさんざん直された結果、犬食いも箸をグーで握るのもやめた。

 いまは背筋を伸ばしてきれいに食べてる。

 タチアナ……成長したわね……。

 あたし……うれしいわ。


「ここの連中も軍人だからとバカにしてたのだろうが……面白くなってきたわい」


「俺さー、バカだからわからねえんだけど。なんで値踏みするの? 俺が帰るまで大人しくいい子にしてればいいじゃん」


「婿殿が怖いからじゃ。神とも思ってた公爵を蹴落とし、公爵よりもさらに上位の妾を妻にした。家臣からすれば化け物にしか見えぬじゃろうな。だから強がって婿殿の弱いところを必死で探すのじゃ」


「そこ突いてもなんにも出てこないんですけどー」


 むしろ俺の場合、やらかした数が多すぎて帝都じゃ誰もツッコミすら入れてくれない状態なのだが。

 俺にダメージに入りそうなのは軍がひた隠しにしてるカワゴン騒動くらいか?

 そこ突くと軍を敵に回すしな。

 恥の多い人生ゆえに我は無敵なり!!!

 と思ってたんだけどさー。

 ごはんを食べて風呂でも入ってゆっくりと思ったら、また執事さんが来た。


「お館様。問題が」


「なにかあったの?」


「騎士団長が面会を申し出てます」


「予約は?」


「いますぐと」


「なにか領地に問題起きてる? ゾークとか海賊の襲撃があったとか?」


「報告は上がっておりません」


「まあいいや。会おうかな」


 嫁ちゃんが最高に嫌そうな顔をした。


「なめられるぞ」


「ま、いいんじゃないのー。俺が呼んだことにすれば。俺は軍人だし不思議じゃないでしょ」


 ロビーに行くと背が高くて筋肉質の大男が俺を見下ろした。

 さらに後ろにはニヤニヤする屈強な男たち。

 うん、目的わかっちゃった。


「公爵様。顔貸してください」


「いいよ」


 いやー楽しそうなイベントが来てくれてよかった。

 空気読めだの、領主らしくしろだの、そういうのじゃないから楽だわ。

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― 新着の感想 ―
↓そこで調べもせずに馬鹿にして煽る連中も多いから、だいぶマシよ。
〈会席料理を提案されたが…〉 懐石料理しか知らなかったので「わーい誤字だー」とか思っていたら普通に存在していた言葉だったでござる(ノ . T) なんか負けた気分でおさる
なるほど、ただの猿山の馬鹿が来ただけか。それならどちらが上のボス猿かを教えてやれば大人しくなるだろ
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