第百六十七話
アホの子を寮に残して、俺たちは英霊祭にのぞむ。
失敗したら責任問題になるから連れて行けない。
箸やフォークをグーで握るやつを大事な儀式に連れて行くわけにはいかない。
その代わり寮の清掃と洗濯を申しつけてきた。
高確率で手を抜くのであとで叱らねばならない。めんどくさ。
今回はゲーミング僧侶の方じゃなくて神様の方の儀式だ。
【帝国建国以来の戦没者に対して哀悼を捧げ、尊崇の念を表し、御霊の御安鎮をお祈りする儀式です】
公式パンフレットより。
なお、帝国民の9割が無宗教。
身内が死んだときだけゲーミング僧侶を頼むといった具合である。
俺も、というかカミシロ侯爵家は無宗教。
地元の惑星に寺がないレベルだ。
お墓はあるんだけどね。
葬式も通信教育で無宗派僧侶の資格を取った地元民が副業でお経を唱えに行くといった具合だ。
まともな領主なら伯爵から上は寺を誘致してるが、うちはまともじゃないからな……。
なお、寺の政治介入が嫌だったとか、別の宗教の惑星だったなどの意図はない。
単にド田舎すぎて副業にしかならんから寺が来てくれなかっただけだ。
僧侶だって食っていかなければならないのだ。
と、このように信心深いとは言えない我が帝国であるが、皇帝の代替わりは一大イベントである。
新年の初詣かと思うほどの人が押しかけていた。
俺たちは儀式が行われる国立公園内にある建物で着替えをしていた。
嫁ちゃんはメイク&着替えで別の部屋。
俺はスタイリストに整髪とちょっとだけ化粧を施してもらう。
軍人が紅をさすと死合に望むシチュエーションっぽい。
いや死なないけど。
帽子を被るといっぱしの士官に見える。
見た目だけだけどね!!!
儀礼用のサーベルを腰に差してスタイリストに礼を言って部屋の外に。
手袋はいいかー。熱いし。
着物姿の嫁ちゃんがいた。
いやー、改めて美形だわー。
その辺のアイドルとか裸足で逃げ出すビジュアルだわー。
「どうした? 惚れ直したか?」
「直すまでもなく惚れてますが」
「カカカカカカ! よい婿をもらったものよの!!!」
さーて、貸し切りの建物のロビーで雑談タイム。
俺のクローンの話だ。
「ねえねえ、嫁ちゃんが俺のクローン作る命令出したの」
「……」
嫁ちゃんは黙った。
あーやっぱり。
「勝手に作られて事後報告ね。俺の子どもたちもそうか」
「妾は弱い皇帝じゃ。計画の首謀者を処分することもできぬ」
そりゃね。
軍がバックじゃ無理か。
大将閣下には通報済みだろうから、大将閣下にすら難しい案件なんだろう。
怒る気にもならない。
そもそもこの世界は俺の目の届かない所は地獄だ。
非人道な実験なんて星の数ほど。
カミシロ家はただ無能なだけですんでるけど、世の中にはわざと領民を虐待してるクソ領主もいる。
それが許されるのが帝国だ。
銀河の半分はタチアナみたいに箸やフォークをグーで握って犬食いする人間なのだ。
そのくらいの方が支配しやすいのさ。
死んでしまったクローンの俺たちには同情するが、俺ができることはない。
俺にできるのは……後宮の子どもたちを認知するくらいか。
「後宮の俺の子たち。認知できない?」
「い、いいのか!?」
「まだ学生だし、大尉の給料じゃ全員引き取って育てるのは無理だけどね」
「そ、それは大丈夫じゃ。後宮で育てることは決定しておる。妾ができたのはそこまでじゃ」
「俺のクローンに関しては事件の詳細と責任者の名前を記録して。俺たちが権力を手にしたら永遠に晒し上げてやればいい」
何百年も教科書に非人道的な悪い作戦例として載ればいいさ。
お前らに名誉はやらん。
後の人の民度次第だけどね。
あとは機を見て弔おう。
にしても兄弟が実験動物として殺されたと思うと怒りがわいてくるな。
どうしても人の心がないやつがわくんだよね。
特定の職場って。
うーん、どうやって報復しようかな。
これからが楽しみだ。
そんなわけで儀式に臨む。
俺は今回、嫁ちゃんの横で「キリッ」とする役。
やたらメディアに写真撮られてるな。
クローンの件が発覚でもしたか?
でも俺は被害者だしな。
素直に知らないって言えばいい。
俺がびっくりするのは数時間後の話だ。
「レオ・カミシロ公爵です。キャーッ!!!」
最近よく見るアイドルが黄色い声をあげた。
「……は?」
「あれ? 知らなかったのか?」
帰ってきて化粧を落として芋ジャージ姿になってくつろぐ嫁ちゃん。
二人で寮の食堂でお菓子を食べてた。
なおそのジャージ、俺のだ。
「なにがよ?」
「婿殿、いま大人気じゃぞ。それこそタレント扱いじゃ」
「いやさ、スポーツ大会の優勝者くらいの扱いはわかるんだけどさ。それにしてもキャーッてなによ?」
「そりゃな。婿殿は久しく見ない軍服の似合うワイルド系だからの。それにメディアは婿殿の中身のわけわからなさを知らぬからの」
おう、中身で減点か。厳しいな。
「婿殿が基本的に善人なのはわかってるみたいだがな……」
「わかってないみたいよ」
「それはどういう……」
タンッと音がした。
俺は空中でなにかをつかんだ。
あちゃー、思いつきでやってみたけど手の皮べろっとめくれたわ。
そりゃそうか、摩擦で止めたんだもんね。
手の皮むけるわ。
手の中には一発の弾丸があった。
「む、婿殿」
「嫁ちゃん……」
「お、おう! どうした!」
「思いつきでやってみたら泣くほど痛い」
「バカなのかな?」
いやさ、さっきから殺気がびんびん飛んできてたのよ。
だからとっさに弾丸つかんだってわけだ。
よけることもできたけど、演出を考えてやった。後悔しかない。
もう二度とやらねえ。
軍の動きは速かった。
犯人はあっという間に捕縛された。
夕方のニュースはこの話題で持ちきりだった。
犯人は嫁ちゃんじゃなくて俺を狙ったんだって!
俺が弾丸をつかんで、ゆっくり手を開いて下に落とす場面が繰り返し流されていた。
俺はクールな、どちらかというと冷徹な顔をしていた。
あとで「ぴえーん痛いよ~」と嫁ちゃんに泣きついたとは思えない顔だ。
骨折れるより皮はがされる方が瞬間の痛みが強いの、なんかのバグだよね?
自動回復とナノマシンの力で手の皮はもう再生してる。
まだ少しだけヒリヒリしてる。
犯人はどうやら有名になりたかっただけらしい。
アホか!
儀式は一応終わったことになった。
なんだかなー。もやもやする。
だけど俺よりも怒ってる人たちがいた。
大将閣下だ。
わざわざ病院まで来てくれた。
「私が甘すぎたと反省しているよ。大尉、安心してくれたまえ。全員潰す」
嫁ちゃんも怒りマークつけながら笑う。
「そうじゃな。妾も悪かった。なめられたままにしたのが悪かったのじゃ」
あーあ……知ーらないっと。




