第百五十一話
「ばななー」
俺は完全に思考を放棄していた。
男子がつぶやく。
「や、やべえぞ……。あのレオが壊れやがった……」
俺たちはトラックで運ばれ、市民が脇で見守る。
俺は精神が壊れた状態で手を振った。
宇宙港の普通空港から輸送機で訓練基地へ。
みんな修学旅行気分だ。俺以外はな!
「旦那様、はいバナナ」
レンがバナナをくれた。
「ばななー♪」
バナナオイシイ。
「隊長さー、いいかげん正気に戻ろうよ~。怖くなってくるじゃん」
プロペラだけど旅客機なので、いきなり【パラシュートGOシュート!】はない。
幼年学校のときは冬山にいきなり落とされた。
あのときの恨みは忘れない。
今は暖かい時期でよかった。
しばらく飛ぶと軍事基地に着陸。
なぜか完全武装の部隊が出迎えてきた。
「ちょっと、なんでそんな重武装してんのよ!」
メリッサが怒ると冷徹な声が返ってきた。
「カミシロ大尉が本気で脱走したときの措置だ。申し訳ないが我慢してもらう」
「ばななー」
「もしかして……隊長、前のキャンプでなんかやったの?」
メリッサがとうとう気づいてしまった。
すると監視役の兵が口を開く。
「カワゴンと呼ばれた猿人の噂を聞いたことが?」
「あー……幼年学校のころによく報道されてたUMAってやつ? よく男子がカワゴン探検隊ごっこしてたわ……そういや隊長それ見て嫌そうな顔してたな……」
「カワゴンの正体はカミシロ大尉だ」
「は?」
「冬山での訓練での空腹に耐えきれなくなったカミシロ大尉は……食料を分けてもらいに麓の村に降りた。特殊部隊による監視の目をくぐってな。その際に自分で仕留めた猪の毛皮を被ったためにUMAと勘違いされ……」
「隊長なにやってんの?」
「さすが旦那様。人類が絶滅しても生きられそうです」
「あー……なんとなくわかってきた。隊長がその辺にあるものなんでも武器にするのって」
「誰も教えてないのだがな! 終了時に逃げ回ってあやうくメディアに発覚する寸前に……」
バナナオイシイ。
「あー……自分の旦那がお坊ちゃん育ちなのに妙にワイルドなわけがわかったわ」
「旦那様は行動がビースト種っぽいなと前からなんとなく」
バナナオイシイ。
「……隊長。自分の知られたくないやらかしが発覚したからごまかしてるでしょ?」
「オレ……カワゴンチガウ……。肉ト野菜交換シタ」
「懐かしの川岸村はもうすぐですよ。大尉」
「キシャアアアアアアアッ!」
川岸村の空港に着く。
【村】だなんて言ってるけど観光地だ。
キャンプとか冬山スキー目当ての観光客が毎年……。
今年はいるわけねえか。
みんな休み返上で復興作業だわ。
その観光地なんだけど、夏はジャングル。冬は極寒の冬山が体験できる。
中途半端に砂漠があったり、荒れ地もある。
つまり軍の訓練施設もあるわけだ。
スキー客は入山禁止レベルの自然環境の厳しい山とその裾野。
今は季節は森林が広がっていて、イノシシや熊がいる。
空港に降りるや否や荷物が没収される。やはりだ。
「はい、諸君らはこれから装備なしですごしてもらう。サバイバルだ」
俺は石を拾いながら森に入っていく。
ずんずん奥に行く。
勝手知ったるサバイバル場である。
「カワゴンが! カワゴンが自然に帰っていく!」
男子があおりやがったのでこっちも怒鳴る。
「うるせえ! 石拾っとけぶぁーか!!!」
「大尉! 貴様はサバイバルまでは参加せよ! お前が責任者だ!」
嫌でゴザル。
でも拒否権などない。
「あー、もう! みんな石拾え!」
「だから何に使うんだよ!?」
「狩りに決まってるだろ」
まずは息を殺して待つ。
鳥だ。
キャンプでは狩猟許可が降りている。
野鳥に石を投げる。
やつらも野生生物。
生半可な隠密では殺気に気がつかれる。
完全に気配を消さねばならない。
シュッと石を投げて仕留める。
「お前は原始人か?」
「開拓惑星でもこんなことしねえぞ!」
「うるせええええええええええッ!!! おい、お前ら羽むしれ!」
「は? なんでよ?」
「弓矢を作るんだよ! 女子は網の生産!!! 残りの野郎どもは寝床を作れ! そっちは教本で習っただろ!」
「知識でしか知らねえよ!」
「あー、はいはい! 妖精さん! 哀れなクズどもに教えてやって!」
「はいはーい! 並べクズども!!!」
妖精さんの指導で男子どもがキャンプの設営をする。
俺と手先の器用な男子は弓矢を作る。
もうね三日かな。
どうせ監視されてるけど、あとで抜け出して麓で飯買ってこよう。
耐えよう。
って頭の中で計画を立てたわけよ。
そしたらさ、男子が見つけやがったのよ。
「なーなー、隊長。これなんだ?」
「は? なによ?」
大きな木の幹に深く刻まれた爪の跡があった。
どう見ても熊のサイズじゃない。
というか指の本数が違う。
……うん、見なかったことにしよう。
「うん、たぶんイノシシじゃないかな?」
「どう見ても手じゃねえか!!! 嘘ついてんじゃねえぞ!!! 熊だろ!!!」
熊じゃないから問題なんだな。
でもさ、出会うとは限らないよね。
「とりあえず音出しながら移動するぞ。はい、宇宙海兵隊賛歌歌うぞ」
「幼年学校の遠足か!!!」
怒られながら歌う。
メロディーなんか無意味。
声の大小で音程を表現する応援団方式だ。
で、獲物はあんまり獲れずに夜。
各々の焚火の前でみんな表情が絶望に染まっていた。
まだ冬じゃないからイージーモードなんだなー。これが。
冬山で熊に襲撃されたときの絶望感ときたら……。
生暖かい笑顔になる。
さあ、みんな空腹で凶暴になったし提案しよ。
「さーて、腹減りども。喜べ。これから俺がありがたい作戦を提供してやる。このキャンプのバグをついた作戦だ」
「隊長が最高に悪い顔してるってことは面白い話だね。あははははは……」
さすがに疲れた顔をしたメリッサが空笑いした。
「うん、夜中になったら軍の施設の食料を奪う。まずはここの基地の連中が育ててる芋畑だ」
「……嘘でしょ?」
「妖精さんの解析でも脱走はマイナス評価だが軍の施設を襲っちゃいけませんって減点項目はなかった! つまり軍の食料を奪うのは認められてる!!!」
「あはははははは! やっぱ隊長大好きだわ! やろう!!!」
「やるぞレオ!!!」
「おっしゃー! やるぞカワゴン!!!」
くくくくく。
UMAをなめるなよ。
俺は顔に泥を塗った。
二つの意味で。
ぐははははははは!
俺たちの激戦の成果を見せつけてやる! 後悔するがよい!!!
と思ったんだけど。まさかあんなことになるなんて……。




