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第百五十話

 あれから一月。

 なにもやることがなく過ぎ去った。

 嫁ちゃんは皇帝就任までまだ儀式が詰まっている。

 この間は帝国の安寧と発展を願う祈願を3日かけてやったところだ。

 次は民の幸福を願う儀式とのことだ。

 なお帝国民のほとんどは今やってる儀式のことをよくわかってない。

 俺もわからない。

 嫁ちゃんすら理解は浅いだろう。

 だけど偉そうに廃止を訴える気にはならない。

 いや装束一つ、小物一点なくすだけで膨大な数の失業者が出るという……。

 世の中にはいじってはならないものがあるのだ。

 今はただ呼ばれたら正装して横でニコニコするのがせいぜいだ。

 なので俺と遊んでる時間は少ない。オデカナシイ。

 さてさて、俺はいま、寮の食堂でメシを食ってる。

 生姜焼きにナポリタン、あと山盛り野菜と餃子。ご飯と味噌汁。

 給養員のおっさん(特別職待遇軍曹)が作ったメシはたいへん美味い。

 カロリー、タンパク質、単純な総量。すべてが満たされてる。炭水化物が多いのは日系文化だろう。

 給養員が配置されてからは男子のクッキー地下経済、女子の凶暴化も収まり学生寮は平和を取り戻した。

 それに、ようやく帝国軍が盛り返した。

 いくつかの戦場で勝利を手にし、地方の惑星を解放することに成功した。

 できんじゃん。

 今まで実家が心配だった生徒も安心している。

 もうこうなったら精神が緩むのはしかたない。

 男子どもが談笑していた。


「はっはっは、隊長殿」


「いやいや、隊長殿」


 全員少尉が発表されてから、士官学校では男女関係なくお互いを隊長呼びする遊びが流行っている。

 現実を知らないということは、かくも幸せなものなのだろう。


「おーい、レオ」


 男子がやって来る。


「なあなあ、この予定表の【士官養成キャンプ】ってなんだ?」


「あー、とうとう気づいてしまったな。俺のジャージ、ワッペンついてるじゃん。ダイヤモンドの」


「それ自分でつけたんじゃねえの?」


「いや、これな。ほら、幼年学校で俺さ、脱走事件起こしたじゃん」


「あったな。メチャクチャ怒られたやつ」


「その次の年、長期休暇で俺いなかったろ?」


「あー、うん、そういやお前、いつも家帰らないで寮にいるのに……いなかったな。おいおい嫌な予感してきたぞ……」


「そのときさ、罰で受けさせられてたんだよ。上級課程員養成キャンプ」


「は?」


「教官からしたら脱落させて世界の広さを教える気だったんだろうけどさ。意地になって修了までやりとげてやった。もう一度脱走すればよかったと後悔してる」


「ま、待て。それって特殊部隊……」


「特殊部隊員養成課程の受験資格が手に入るだけだ。少尉になるとき必ず受けるんだってさ」


「……嘘だろ。待て待て待て! 全員?」


「うん、全員。いってら~」


「お、おい、女子にも連絡しろ! 脱走するぞ!!!」


 男子どもはこういうときだけ団結する。


「いま脱走したら追ってくるのが特殊部隊になるぞ。あきらめろ」


「レオ! お前はどうやってやりすごしたんだ!!! 教えろ!!!」


「耐えろ」


「え?」


「なにも考えずに終わるまで耐えろ。なあに、半日でなにも考えられなくなる」


「嫌じゃ!!! そんなキャンプ嫌じゃああああああああああッ!」


「はっはっは、泣け泣け! アホども!!! 士官学校成績優秀者は伊達じゃないのだよ!!!」


「懲罰だろが!!!」


「ぐわーはっはっは!!!」


 勝ち誇りながら自動洗浄機に食器を入れて部屋に去って行く。

 完全勝利である。

 もう二度とあの地獄に行くことはない!!!

 って調子に乗ったのが悪かった。


「大尉。一緒にキャンプね」


 この大学校の教頭である大佐と校長の准将に校舎の応接間に呼び出されていた。

 お偉いさんになると引退前に学校の偉い人になるんだって。

 嘘みたいだろ。こんな温和な顔してるのに猛者感すごいよ!

 俺はお偉いさんの登場にアホ面さらしてた。


「は?」


「特殊部隊の要請キャンプが同日開催になったんだけど。一緒に行ってそっちに参加してくれたまえ」


「いやなんで特殊部隊……?」


「そりゃ君、あれだけ無茶な戦いするんだもの。この際だからちゃんとスキル叩き込んで生存率上げようって話になるよね」


「え……」


「今回の特殊部隊は超能力戦闘部隊。ちょうどよかったでしょ。君も超能力を使った戦闘の訓練受けてないみたいだし」


「えーっと……拒否なんかできちゃったりとか?」


「だめだよ。そりゃ軍を辞めるっていう裏技もあるけど。君にやめられたら組織が崩壊しちゃうよ。最悪殺しててでも引き留めなきゃ」


 校長先生は目が笑ってなかった。

 教頭も目だけ鋭い。

 二人とも本気だ!


「りょ、了解です」


「はっはっは! そう言ってくれると助かるよ。あ、あとで寮に差し入れするからね♪ いやー、よかったよかった。ちょっと通話させてね」


 うん? 通話?


「あ、うん、レオくんの了解取れたから。捕獲部隊と護送車下がらせて。うんよろしく!」


 すでに部隊が差し向けられてた!

 部屋の外の廊下からも足音が聞こえてくる。

 数は数十人はいただろう。

 個人に差し向ける数か?


「……ええっと、本気なんですか?」


「本気だとも。君らはね将来の国の重鎮だよ。かと言ってゾークとの戦いで君らを出さないわけにはいかない。今の軍がゾークとなんとか戦えてるのは君らの戦闘データを解析した結果だ。それほど君らは我が軍で重要視されてる。だとしたらどうするか。我々のやり方で君らを守るしかない」


 それは100%嘘偽りのない善意であった。

 スーパーソルジャーに鍛えてやる。

 本来なら選別落ちになる……というか特殊部隊に入れるようなのは本当に上澄みだ。

 俺だって体力はともかく知識、技術は及ばない。

 戦闘経験だけは一丁前だが、上澄みに到達してるはずもない俺らをコスト度外視で上澄みに育ててやるという意味だ。

 おかしい……俺の人生……どうしてこうなった?


「ようこそ、最強の世界へ」


 嫌でゴザル。

 荒んだ心で寮に帰ると大量のお菓子と果物が差し入れられてた。

 腹ぺこどもがすでに手をつけている。

 最初から用意してやがったな!!!

 もういいや! 俺もバカになる!

 バナナオイシイ。

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― 新着の感想 ―
パーフェクトソルジャーになるのか。 拒否したら、『出荷よー!』だったんだね。
レオ君、割と元からアクション映画主役位できそうな子だったのね…
……(-人-)南無阿弥陀仏 チーンΩ\ζ゜) 同級生達は喜びと共に迎えただろうなw
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