第百二十五話
ウォルターは俺を見るとこちらにやってきた。
「これは、これは! 我が帝国最強の騎士にして我が義弟、レオ・カミシロではないか!」
説明口調うぜえ。
そもそも最強じゃねえっての。
ピゲットとのスパーリングじゃ毎回ボコボコにされてますわ!!!
俺はあくまでゾークに強いだけなの!
キレかけてるとなぜかウォルターは笑顔でハグしてきた。
演技じみた動きがムカつくから鯖折りしてやろうかと思って手を伸ばす。
だけど嫁が【やめろ】と合図した。
しかたないのでやめてやる。
はい背中ぽんぽん。
「皆の衆! 救国の英雄が来た! これからの帝国を我が右腕として活躍する義弟ぞ!」
あ、この野郎。
どさくさ紛れに俺が下についたことにしやがった。
「ウォルター義兄上。その者は我が婿、比翼の鳥の片割れです。残念ながら義兄様の右腕にはなりませぬ」
「はっはっはっは! 細かいことを言うでない!」
細かくねえよ。
右腕へし折るぞ。
あ、そうか。
俺、ウォルターと相性悪いんだ!
この自分の都合押しつけてくる図々しさが嫌い!
「ではまた」
ウォルターは余裕がありそうな顔で去って行った。
「昔からああなの?」
「昔を知ってるほど親しくない。我ら兄弟姉妹は直接接触しないように育てられたのじゃ。妾は後宮育ちじゃしの」
トマスも同調する。
「俺は宮殿で育ったな。サイラスは宮殿の別館で、ウォルターはたしか文官派閥の公爵の惑星で育てられたと聞いたことがある」
「公爵の? 嫌な予感がするんですけど」
「妾も婿殿と同意見じゃ。公爵会みたいに文官も汚染されてたとすれば……」
「だとしたら……なんで軍は汚染されなかったんだ?」
トマスが素直な疑問を口にした。
「軍も汚染されてたのじゃ。ただ帝都奪還時に戦死しまくって上層部が一新されただけで」
たまたま俺たちの中では死人が出なかった。
でも帝国の死亡者は人口統計に深刻な影響が出るほどの規模になっていた。
軍なんか徴兵逃れが横行するほど戦死者が出ている。
せめて生存率が高いところに配属されたいと、ヴェロニカ親衛隊への入隊希望が殺到してるらしい。
運がよかっただけだと思うけどね。
本来なら俺なんて最初の襲撃で死んでるはずだしね。
夜会は特に大きなトラブルもなく終わった。
……ただね。
【レオ・カミシロ、ウォルター殿下を圧倒する。眼光だけで貴族を制圧か?】
なんでこうなった……。
次の日、ネットニュースのトップは俺の晩餐会での立ち振る舞いばかりだった。
まるで見てきたような話で捏造されまくり。
俺を見て逃げ出したのは公爵ども。
おそらく公爵会関係者か、その周辺でコウモリやってた連中だろう。
そもそもだ。
俺とウォルターはライバルではない。
ウォルターと皇帝レースを競ってるのは嫁ちゃんだ。
俺は嫁ちゃんの付属品でしかない。
俺が皇帝になるわけじゃねえぞ!!!
わかれ!!! 理解しろ!!!
ところが俺の事が好きすぎる勢力。
特に記事の穴埋め用フリー素材として俺の事を使い倒してるメディアはほめ散らかしてる。
これ絶対バッシングの準備してるだろ。
ケビンあたりを取材して【巨乳美少女と禁断愛】とかやらかすのだろう。
なんか殺意が目覚めてきたぞ。
と思ったらもうやってた。
【レオ・カミシロ。巨大怪獣説】
【レオ・カミシロ。地底人説】
【レオ・カミシロ、男子生徒と不倫か!? 「いつも獣のような目で見てたんですぅ」】
ちょ、最後!
男子でも女子でも獣のような目でなんか見ねえボケが!
誰だ! 面白がってインタビュー受けたアホは!?
キレて地団駄踏んでると嫁ちゃんがやってきた。
「あー……その様子だと記事を見たな」
「最後の記事、誰? 今すぐ殺しに行くから」
「落ち着け。妾の策じゃ。……人選は間違えたような気がするが」
「誰?」
「原稿書いたのは妖精さんで、インタビュー受けたのは男子どもじゃ」
「待って? 複数」
「うむ」
「なぜにそんなことを?」
「婿殿は異常なほど持ち上げられすぎている。それをゴシップメディアを使って下方向にコントロールしてるのじゃ」
たしかに、やれ【護国の士】だの【軍神】だの崇められるのは気持ち悪かった。
原因の大半は良いニュースがないせいだろうけど。
でも誰かが悪意でやっている部分もあるのだろう。
上げてから落とす。
いつもの手だ。
そこを頭悪そうなゴシップで下方向に補正してやれば、落とされたときにダメージが少ないわけだ。
この場合、俺がアホアホ学生なのが知れ渡ればいいだろう。
俺に高潔な人格を要求する方が間違ってるのさ。
「うむ……今回のは調子にのりすぎた。すまん」
「まあいいっすけど。なんかないんすか【冬に花火やった】とか【チャリで田んぼに落ちた】とか【海でエビ捕まえて漁師さんにどちゃくそ怒られた】とか」
「なんだその楽しそうなゴシップは!?」
「それでアレクシアは?」
「今のところわからん。というか昨日の今日じゃ! 今のところわかった部分だけ言うぞ。遠藤公爵。文官派の有力者じゃ。領地は帝都近郊。帝国大学を卒業し官僚へ。妻は当時の上司の娘。二男二女の画に描いたようなエリート家庭じゃな。アレクシアは末の娘じゃ」
「へー」
「で、ここからが重要じゃ。アレクシア以外の三人は帝国大学を経て文官じゃ。アレクシアは帝都の私立大学の学生じゃな」
「へー」
「登校記録はない」
「一気に怖くなってきたんですけど……」
「なお帝都奪還から遠藤公爵の妻、それに三人の子どもは行方不明じゃ」
「……公爵自身は?」
「帝都奪還から先の勤務記録はある。いないと困る人材じゃな」
普通に有能か。
ということは本当はアレクシアなんていない説?
でもそこまでする?
「で、なんでウォルターはアレクシアをパートナーにしてたの?」
「なんでも婚約者に内定するそうじゃ」
へー、お嫁さん候補。
全然うらやましくない……。
やはり俺は変だ。
「またトマスのときのような暴走をされては困る。遠征でもされたら今度こそ帝国が滅びるじゃろうな」
うーん……本当にゾークのスパイだったら困るな。
絶対に正体を暴かねば。




