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第百九話

 漆黒の銀河を眺めながら私はため息をついた。

 第一皇子、その軽さにはだいぶ前から気づいていた。

 遠征を止めることはできなかった。

 名だたる公爵家が名を連ねる大遠征。

 目的は我らとは違う知性を持った宇宙生命体ゾークの討伐だ。

 生態も、その知性も、なにもかもわからないのに討伐とは傲慢の極みだ。

 その傲慢さの代償は積み上げられた兵の遺体。

 若者の遺体で踏み固められた道で踊る貴族ども。

 ああ、こいつらこそが国家の敵なのだ。

 私は道化を演じなければならない。

 やつらを道連れにするために。

 破滅へといざなうのだ。

 すべては帝国のために。

 なあに、妹なら滅びかけた帝国を立て直せるはずだ。

 ああ、なぜ俺は妹の夫、レオ・カミシロのようになれなかったのか?

 俺はため息をついた。

 戦闘機が発進するのが見えた。


【ARTデスロイヤー】


 敷島インダストリー製の最新式戦闘機だ。

 対ゾーク用に一から設計された機体でスペックは帝国史上最強の戦闘機だ。

 ……スペックはだ。

 新規設計にこだわるあまり不具合が多く、操作性も劣悪、オーバースペックで乗りこなすが難しい。

 なぜシャークトルネードがずっと使われてきたのかがわかる。

 あれに搭乗した兵士は帰ってこないだろう。

 むごいことだ。

 我々は現在、ゾークの艦隊と交戦している。

 ゾークの船はフジツボの塊のような外見で、攻撃を仕掛けるとカニ形態のゾークがわいてくる。

 デストロイヤーの主砲であるプラズマ砲は船とカニに効果がないことがわかっている。

 それはとっくに妹の夫の報告でわかっていたことだ。

 愚かな。

 公爵どもは未だに現実が見えてない。

 敷島に利益供与でも……されてるのだろうな。

 私は巧妙に意思決定から外されている。

 遠征の可否からも、武器の選定からも、戦術からも。

 その結果が実質敗北の膠着状態である。

 膠着状態と言ってもゾーク側が攻撃を仕掛けてこないからにすぎない。

 惑星サンクチュアリにたどり着くことは不可能だろう。

 それをわかっているにもかかわらず公爵どもは作戦を継続し犠牲者を増やしている。

 私はそれを見てイライラしていた。

 そんなあるときそれは起こった。


「殿下! ゾークの大攻勢です!」


 侍従の声を聞いたとき。私はとうとうそのときが来たのだと思った。

 この遠征の終焉を。

 無能どもが一掃される歴史的瞬間を。

 私の人生の終わりを。

 私は艦隊司令官の席に座った。

 責任者として船と運命を共にしよう。


「ブルータス公爵艦隊壊滅! 公爵閣下討ち死にしました!」


「アイゼンハワー公爵艦隊壊滅! 公爵閣下行方不明!」


「日影公爵……」


 次々と訃報が流れてくる。

 公爵家だけでも星の数ほどある。

 まともな家だけが生き残ればいい。

 そう、遠征に参加しないか敵前逃亡するような。

 少なくとも勝てないという事実を理解できるものだけが生き残ればいい。

 私はここで死ぬ。

 無能どもを道連れにして。

 そう覚悟を決めた次の瞬間、世界は一変した。


「殿下! か、海賊がやってきました!!!」


「はあ?」


 海賊?

 こんなところに来たら死ぬぞ!


「ち、違いました! ヴェロニカ様が! ヴェロニカ様が海賊や下級貴族を引き連れてやってきました!」


「あのバカ! 来るなと言ったのに!!!」


 思わず汚い言葉が出てしまった。

 だがヴェロニカ。

 お前にだけは死んでもらっては困る。

 ヴェロニカの船にはサイラスもいるはずだ。

 二人ともバカなのか!?

 侍従がディスプレイに映像を出した。

 ヴェロニカの艦船から戦闘機が発進した。


「ほう……わかってるじゃないか」


 戦闘機はシャークトルネード。

 レスポンスが速く、洗練された操作性、最高速度こそ新型機に劣るが人間が操縦しきれなければ意味はない

 実質的に弱点にはならない。

 戦闘機はドローンを引き連れていた。

 戦闘機がゾークをスポットしていくとドローンからミサイルが発射される。

 ゾークが次々と撃墜されていく。


「この帝国にあのような猛者がいたとは……」


 俺がつぶやくと声が響いた。


「士官学校の学生よ」


 それはホログラムだった。

 なにものかがシステムを乗っ取りホログラムを投影したのだ。


「なにものだ!?」


 侍従が銃を構えた。


「皇女ルナと言えばわかるかしら。ぼうや」


「皇女ルナ! 何百年も前の人間では!?」


 意味がわからない。

 なぜ処刑された皇女が出てくる。


「あーもうめんどうくさいな。マザーAIの中の人って言えばわかるかしら」


「……なん……だと……」


 マザーAIの中!?

 そんな機密をさらっと言ってしまうなんて!

 頭が追いつかない。


「トマス。ご主人様と合流したら海賊領……リリィ男爵領に逃げるわよ」


「ご主人様?」


「レオ・カミシロ。帝国の高レベルAIは彼の傘下に入ったわ」


 とうとう人ならざるものまでレオ・カミシロについたか。

 もはや嫉妬すら持ちえなかった。

 すごい男だ。


「レオ・カミシロと自分を比べない方がいいわ。彼はその……少々頭のネジが外れて……それがいいところなんだけど」


 AIに頭のネジが外れてると思われてるなんて。

 普段どんな言動をしているのだろうか?


「と、とにかく! さっさと逃げるわよ。この艦を後退させなさい。適当に主砲を撃ちながらね」


 俺は一瞬迷った。


「……俺が責任を取らなくてもいいのだろうか」


「バカね! あんたがいなかったらヴェロニカちゃんもサイラスくんも悲しむでしょ!」


「……ああ、そうだな。撤退だ」


 俺が命令すると侍従が各部署に連絡した。

 艦が進路を変える。


「かたじけなく思う。ルナ様。私は仇の子孫だというのに」


「べーつーにー。あんたのことなんて恨んでないしー。それにね、今さら復讐するくらいならレオ・カミシロの物語に加担してた方が面白いし。ほら、アホども盾にして逃げるわよ!」


 中身は案外幼いようだ。


「……かたじけない」


 レオ・カミシロには借りができてしまったようだ。

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― 新着の感想 ―
おもすれーー
間に合う展開からしか得られない必須栄養素がある 情緒爆上げなんよなー AIもお兄様もすっきやで
[良い点] >バカね! あんたがいなかったらヴェロニカちゃんもサイラスくんも悲しむでしょ! やだルナちゃん優し可愛い
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