55 聖都決戦
「あれが聖都か、高い壁だな~、王都の倍ぐらいはあるんじゃないか、あの城壁?」
「確かに凄いわね、倒れたりしないのかしら……」
「なぁ、勇者ハウスの壁もあのぐらいの高さにしようぜ!」
「日当たりが悪くなってお洗濯物が乾きませんよ」
「そうか、じゃあ要らない」
ようやく聖都に到着した、今日は先行する意味が無いため、王国軍と一緒になって道を進んでいる。
時間帯は既に夕方、総大将はインテリノだ、今日ここから攻撃を始めるような馬鹿はしないであろう。
「おい見ろよあの分厚い門の扉、薄っぺらのベニヤ板で作ったどこかの王都とは気合の入り方が違うな!」
「勇者様、王都の城門にあった扉はインテリノが夏の自由研究で作ったものです、ショックを受けてしまうので本人には言わないで下さいね」
何でそんな重要な物が限りなくいい加減な出所なのだ?
よく今まで誰にも滅ぼされなかったな……
「勇者様、軍の人が呼んでいるわよ、どのテントを使うか決めて欲しいって」
「セラが決めて良いぞ、できるだけ炊事部隊に近いところにしてくれ」
野営の準備が始まっている王国軍の陣をうろうろしてみる。
既に総指令用のテント、その横の救護所は設営が完了しているようだ。
とりあえず総司令部に入って偉そうにしておこう。
「インテリの王子は居るか? お、居るじゃないか、何やってんだ?」
「あ、勇者様、ちょうど良かったです、今城門の突破について協議していたところです」
「結構分厚い扉だもんな、どこかと違って……」
「うっ……で、何か良い手段はありそうですか? 持ってきた槌では壊せそうにありません」
「そうだな、精霊様に水をぶつけて貰えば破壊出来るかも知れんが、そうすると跳ね返った水でこっちにも被害が出そうだ、別の案を考えなくてはならんな」
こっちが危険になる作戦はダメだ、となるとリリィの炎で地味に焼いていくか、しかしブレスは温存したい。
ユリナが爆破するってのも危険そうなんだよな……いや待てよ、ユリナの火魔法を使おう!
「インテリノ王子、今回村とかで略奪した鉄製品をここで溶かすことは出来るか?」
「ええ、火魔法を使えば大丈夫かと思いますが」
「じゃあ今から紙に書く物を作ってくれ、可能な限り頑丈なもので頼む」
ざっくりで描いた設計図をインテリノに渡し、今度はユリナを呼びに行く。
「ユリナ、ちょっと尻尾を貸して欲しいのだが」
「何ですの? 悪戯はしていませんわよ、洗濯ばさみはやめて欲しいのですわっ!」
「そうじゃない、ちょっと火魔法を使って欲しいだけなんだ」
「あら、あの扉を破壊するのですね、この正義の悪魔少女ユリナちゃんにお任せ下さいまし!」
「それをやったら憑依されているだけの人にも被害が出るかも知れん、もうちょっと頭を使った技があるんだ、ちょっと一緒に来て欲しい」
インテリノは隅っこの方で設計図のブツを作成している兵士を指揮していた。
既に水魔法とか何とかで冷やし終わった後のようで、土で作った型を崩している最中であった。
「勇者殿、このような感じのものでよろしいですか? 単なる大きな矢筒のようにしか見えませんが……」
「大丈夫だ、ちゃんと底近くにも小さい穴が空いているな、ではそれを地面に固定して破城槌を中に入れるんだ」
大砲を作らせた、なぜか知らんがこの世界には火薬とかそういったものは無い。
しかもそんなのどうやって作るかなんて俺は知らないのである。
よって、ユリナの火魔法をその代替とし、破城槌を発射してしまおうということだ。
「ユリナ、その底にの方に空いた小さい穴から尻尾を入れることが出来るか?」
「ええ、入りますわよ、ここで火魔法を使えば良いんですの?」
「待て、危ないかもだから一応防御魔法を掛けてもらってからにしよう」
シールドを探し出して連れて来る、ユリナに防御魔法を掛けさせ、実験開始である。
まずは槌を抜き何も入っていない状態で魔法を使う、ボンッっという音とともに、筒の入り口から火が噴出した。
何かいけそうじゃないか!
「よし、次は槌を入れろ、ユリナ、軽~く討つんだぞ!」
いよいよテスト本番である、出力をかなり抑えた火魔法が行き場を失い、筒の中に入った槌を打ち出す。
飛んでいった破城槌は城門の真ん中より少し上に突き刺さった、城壁に乗ってこちらを監視していた敵兵はパニックになっている。
「あれだと少し重さが足りないようだな、インテリノ王子、この筒に入るぐらいの鉄球も作ってくれないか? 鉛でも良いぞ」
「わかりました、すぐに作りましょう!」
その後も何度か実験して、上手くいきそうだということで今日はお開きとなった、暗くなったしまったしな。
戦闘が始まる前にもかかわらず、城門は既にボロボロになっている、城壁の兵士はとっくに逃げ出したようだ。
「ご主人様、衝撃で尻尾がジーンとしますわ、後で擦ってくださいまし……」
「良いだろう、その代わり明日も頑張れよ」
夕食後、皆と明日の作戦について話し合う、マリエルだけは本部に行っているためここには居ないが、他のメンバーはすべて揃った。
「よぉし、まずユリナは膝に来て尻尾を出せ」
「待っていましたわっ!」
明日の攻撃はユリナの大砲から始まる、周囲に被害を与えることなくピンポイントで城門のみを破壊し、軍を聖国内に突入させる手はずだ。
そのために重要となる魔法発動用の尻尾から、今日の実験での疲れを取ってやる。
「セラはリリィに乗って空に上がれ、最初はサリナを乗せて行くんだぞ、サリナの魔法で苦しみ出した奴は取り憑かれているだけだ、皆攻撃しないように!」
「私と精霊様はそのまま宮殿の方に向かって行けば良いわけね」
「そうだ、俺も付いて行くが幽霊が見えないからな、攻撃して欲しい位置があったらしっかり指示してくれ」
「私は兵隊さん達と一緒に突撃します、攻撃が効く奴だけやっつけていきますね!」
「うん、カレンはミラとジェシカも引っ張っていけ、お化けにビビッているようなら爪で尻を引っ掻いてやるんだ」
「ひぃっ!」
「主殿、その罰は酷いぞ!」
「2人共痛い目に遭いたくなかったら真面目にやるんだな、後は皆適切に動くんだ、ルビア、ちゃんと考えて動けよ」
「あの、私はその爪でお尻を引っ掻く罰が楽しみなのですが……」
「カレン、今やってしまえ!」
「……ぎぃぇぇぇっ! 痛い、痛いですっ!」
ルビアも満足したようなので全員さっさと寝ることとした……
※※※
「ユリナ、準備は良いか?」
「ハイッ! 万端ですわ!」
「インテリノ、そろそろ頼む、セラ達も行け!」
『攻撃開始ぃ~~っ!!』
ユリナが大砲に尻尾を突っ込んで火魔法を発動すると、鉄や鉛で適当に作った玉が飛んで行き、既にボロボロであった城門を砕いていく。
ちなみに大砲は3つ用意してあるため、連続で発射することが可能である、三段式だ。
「よし、城門が崩れたぞ、これでこっちの軍を中に入れることが出来る」
リリィが戻ってくるのがわかる、ここで一旦サリナを降ろし、この後はセラと2人で攻撃に参加することとなる。
戦闘力の低いサリナは本部でマトンと一緒に菓子でも食って、合戦の終わりを待つべきだな。
「ご主人様、憑依されている人間はそこまで多くありませんでした、むしろ魔族の数が半端じゃありません!」
「わかった、霊を出したら抜け殻の人間は軍の方で回収して貰う、それ以外は皆殺しだ、インテリノ王子、もう行けるぞ!」
『全軍突撃! 目標は宮殿だ!』
まずは王国軍の突撃、カレンはまた先頭に立っている、だから貴族の人達にも……
続いて俺と抜け殻回収班、そしてマーサと精霊様がバスターズ装備で続く。
俺が苦しんでいる敵兵を聖棒で突き、霊を出す、出てきた霊は精霊様の餌食、抜け殻となった人間は回収版が抱えて戦闘地域から離脱する。
「どうだマーサ、吸っているか?」
「ええ、バッチリよ! でもカートリッジの消費が早いわ、精霊様が食べないということは魔族ばっかりなのね……」
「そうか、では俺が聖棒で突いた霊はもう無視するんだ、そいつらは放っておいてもそのうち成仏するのか死ぬのか知らんがとにかく消える、他のもともと浮遊してるのを吸うんだ!」
「わかった、そうするっ! 関係ない霊も吸い込んじゃうかもだけど、人間のは精霊様が食べるから関係ないわ!」
そのまま進んで行く、宮殿はまだまだ先のようだが、ここまで来ると憑依された人間は全く居ない、捨て駒として前線で使われていたのであろう、中身はヤバくなったら離脱して逃げるつもりだったのだのか?
「ねぇ、そう言えば宮殿ってどっちなの?」
「知らん、兵士が向かっている方なんじゃないか?」
「使えない異世界人ね……」
「でも見ろマーサ、カレン達に追いついたぞ!」
カレンをはじめ、貴族連中やその他の王国軍が敵と交戦している、それを潰した後をほぼ戦わずに通ってきた俺達は、先行組に追いついてしまったのだ。
ミラとジェシカも必死で戦っている、2人共尻にデカい引っ掻き傷があり、パンツも破けて丸出し状態である、傷も酷い、誰がこんなことをしたのだ?
「あっ! 勇者殿も来たのか、では宮殿はこちらで合っているのだな!」
拙い、こいつらも道がわかっていないようだ、どうしようか……
空を見上げる、リリィが飛んでいる位置はここから右に向かった大分先だ。
セラのことだ、おそらく敵本拠地である宮殿を直接攻撃するに違いない、つまりリリィの居る方角に向かうのが正解だ。
「皆上を見ろ、あそこにリリィが居る、おそらくそこが宮殿だ!」
ビンゴだ、アホみたいに巨大な宮殿がある。
宮殿は既に凄い勢いで燃えている、これでは中に入れない。
「セラ~っ! 聞こえるか? 精霊様に消火してもらうから攻撃を中断してくれ!」
「了解よ~っ!」
精霊様をマーサが背負った掃除機から出し、しばらく待つと上空からとんでもない量の水が降ってきた。
やりすぎである、しかしこれで突入することができるな、というか血の気の多い連中はもう行ってしまったのか。
カレンに脅されたミラとジェシカも泣く泣く付いて行ったようだ。
「マーサ、俺達も行くぞ、念のためカートリッジを交換しておけ、ハイパー木札を使うんだ!」
宮殿へ入る、索敵に巨大な反応があるがかなり遠い、おそらくそれが魔将レーコであろう。
それ以外にはもう強い敵は残っていないようだ。
数少ない索敵の反応も次々消えていく、今消えたのがカレン達の居る場所だろう、レーコとは全然違う方向に進んでいる……
「しかし凄く入り組んでいるな、迷路みたいだ……」
「確か私が子どもだった頃、あ、500年位前ね、その頃はもっとこぢんまりしていたはずよ」
「信者から金が集まるようになって、図に乗って増築したんだろうな、ところで聖都内にはまだ女神像が立っているんだな」
「そうね、あの偽勇者パーティーの女の子達も普通に女神を信じてたみたいだし、僻地から徐々に洗脳して行ったのかもね……」
徐々にゆうれい魔将レーコの居る部屋に近づいてきた。
カレン達とも合流でき、結構な大所帯での進軍となる、怨霊系はそのままスルーし、物理の効く敵のみ狩りながら進んできたそうだ。
よく見るとミラ、ジェシカの尻の引っ掻き傷が増えている、また逃げ出そうとしたようだな。
「ここだ、この豪勢な扉の向こうにレーコが居るは……」
言い終わる前にカレンが扉を蹴破っていた、中には誰も居ない、だが索敵に反応はある。
見える者達が身構えたり漏らしたり、気を失ったりしていることから、俺には空っぽに見える玉座に何かが居るのであろう。
だが、声だけは確かに聞こえる。
『あらマーサ、久しぶりねぇ、あなた、300年前に貸した銅貨1枚を早く帰してちょうだい!』
「お久しぶり、会うたびにそれよね、今度返してあげるわ!」
『言っておくけど、ちゃんと利息も払ってよね、年10%の複利計算よ』
「生憎だけど私は足し算しか出来ないのよ、リアルに!」
魔将レーコと思しき声は、マーサと実に程度の低い喧嘩を始めた。
というか300年間10%の複利計算なのか、とんでもない金額になっているであろう。
「おい、魔将レーコとやら、始めまして、異世界勇者のアタルだ、早速だがどこに居るんだ?」
『おや? あなた私の姿が見えていないのね、勇者なのに霊力はゾウリムシ以下ですのね』
「ああ、クソみたいな雑魚勇者なんだ、申し訳ないがこの棒の先を持って居場所を教えてくれないか?」
『この変な棒に触れてあげれば良いのかしら?』
「そうだ、早くしてくれ、明後日の方角を向いていたら交渉が出来ないだろう」
『じゃあいくわよ……あぎゃぎゃぎゃぎゃぎぎぃぁ~~~っ!』
「こんな怪しげなもの本当に触るとか馬鹿じゃねぇのか?」
『おのれ勇者っ! よくも騙したわね!』
マーサが腹を抱えて笑っている、良いから早く戦え。
突如、笑っていたマーサが俺のすぐ近くに掃除機を向ける。
表情は真剣そのものだ、レーコが俺に襲い掛かろうとしていたのであろう。
そこからは一進一退の攻防……らしい、肝心の戦いが全く見えない。
俺の目には馬鹿なマーサが1人で踊り、それを周りが囃し立てているようにしか映っていないのである。
邪魔をすると悪いから後ろの方で座っていよう。
シールドが缶に入った飲み物を2つ持ってくる、缶コーヒー的な何かだ。
「勇者殿はあの戦いが見えないのか?」
「ああ、まるっきりセンスが無いようでな」
「実は僕も見えていない……」
「そうなのか、まぁここでゆっくりしていようか」
「帝都のときもこんな感じだったような気がするな」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
マーサは掃除機のノズルをあらゆる方向に、必死で突き出している、竹槍訓練かな?
変な怨霊魔族を吸い込みすぎたのであろう、満タンになったカートリッジの交換に手間取ったところを狙われ、こちらに吹き飛ばされてくる。
「おいマーサ、大丈夫か?」
「ええ、ちょっと失敗しただけよ、見ればわかると思うけどかなりダメージは与えているわ!」
だから見えないんだってば……
その後も交戦しているようだが、マーサの突く位置がだんだんと一点に絞られてきた、敵の動きが鈍っているようだ。
そして時折チラチラと、何やら白いもやのような物が見えるようになってきた。
レーコの姿を見えなくさせる効果が薄れているのか?
「勇者殿、僕にはマーサ殿が女性と戦っているのが良く見えるようになってきたよ、勇者様はどうだ?」
「俺は白いもやもやがたまに見える程度だ、やはり俺は相当に才能が無いらしいな……」
徐々に、しかし確実にもやの見える頻度は高まり、それが徐々に人間の姿を取っていく。
まるで魔王の幻影が出るのをコマ送りで見ているような感じである。
「クッ! 今完全に吸ったと思ったのに、逃げられたわ!」
『ちょっとマーサ、待って、待ってってば! 何なのよそれ、何が入っているのよ? さっきの棒といい異常だわ!』
「うるさいわね、後でちゃんと教えてあげるから黙って吸われなさい!」
『いやぁぁっ! やめて、やめてぇぇっ!』
ここで、ようやく霊的センス皆無の俺にもゆうれい魔将レーコの姿が見えた。
2つの村でみた像と全く同じ顔、しかしおっぱいは盛りすぎだろ、現物はセラ並みじゃないか!
「またカートリッジが一杯よっ! どんだけ外野が多いの!? ちょっとあんたたちどっか行ってなさいよ!」
何もない空中に怒鳴るマーサ、こちら側の外野がそうだそうだと言っているところを見ると、実際には何か居るらしい。
「あら、カートリッジの残りが無いっ! 仕方ない、精霊様が食べちゃってよ!」
「イヤよあんなの、不味そうだし……」
「予備のカートリッジは……そうだマーサ、これを使うんだ!」
「これは……マスター木札ねっ!」
「ああ、一発で決めるんだ!」
一閃、マーサの腰を落とした突きがレーコの胸元に刺さる。
目を見開くレーコ、次の瞬間には、まるでブラックホールにでも吸い込まれるがごとくノズルの中へと消えていった。
「敵将を捕らえたぞっ! 宮殿に王国の旗を!」
シールドとバトラーが大喜びで駆けて行く。
俺は地面にへたり込んだマーサの背中から精霊様と、レーコの入ったカートリッジを回収する。
『あの……狭いんですが、もう少し広いところに封印し直して頂けますか?』
「まだ喋れるのか、ダメだぞ、貴様は永久にその中だ、反省したら考えてやらんでもないがな」
『反省しますから、ちゃんと謝りますから別の場所に移して下さい』
「今は無理だ、そのうち考えてやるから大人しくしておけ」
『……は~い』
「ご主人様、皆のところに戻りましょう、ここはお化けが多くて怖いです」
戦いが終わると、これまでアドレナリンの力で恐怖を掻き消していたのであろうカレンが怯え始めた。
ミラとジェシカは意識が無い、2人共おもらししているからおんぶはイヤだ、引き摺って行こう。
「よし、王国軍の陣に戻るぞ!」
聖都の外に出ると、他のメンバーに出迎えられた。
王国軍には少なからず死傷者が出ているようだが、勇者パーティーで怪我をしたのはミラとジェシカのみ。
カレンに引っ掻かれた尻の傷だ、ルビアに頼んで治療して貰う。
「勇者殿、お疲れさまです、これで聖国との戦いは終わりですね、あとは片付けのみです」
「おう、インテリノ王子も初陣でこの勝利はなかなかの功績になるんじゃないか? 俺達の方も報酬には期待しているがな」
「報酬に関しては王都に帰ってから父上から何かあるでしょう、ひとまずは帰ることにしましょうか」
「そうだな、早く帰って屋敷でゆっくりしたいよ」
来たときと同じ馬車に乗り込み、王都へ向かって出発する。
レーコの入った木札は、シオヤネンが入っているものと同じ、魔力を奪う素材で出来た箱に入れ、厳重に管理するとのことであった。
帰りは特に急ぐ必要は無い、高級な宿にでも泊まりながら、ゆっくり王都を目指そう……




