281 魔法薬
「とりあえず今日はこんなもんで良いにしようぜ」
「結局あのバケモノは出て来なかったわね」
「いや、何度か接近を試みてはいたぞ、でもすぐに諦めたか知らんが散って行ったんだ」
漆黒のバケモノ、というよりも大魔将の分体を殲滅することを諦め、急遽瘴気避けの魔法薬に必要な素材を集める方向へシフトした討伐隊。
いくら森に慣れている連中が多いとはいえ、総勢40名程度で150種類もある植物をそれぞれ100kg、しかも後でわかったことなのだが、乾燥させた状態で100kgとなるよう集めなければならないのはかなり酷だ。
ちなみにそれぞれの素材の乾燥重量は平均して元の植物の20%程度、茶葉を摘んで来て製品になるまで揉むのとそう変わらない歩留まりである。
つまり集めるべき素材の元の重量は500kg程度ということなのだ……無理じゃね?
「さて勇者殿、早く森を出ないと暗くなってしまうぞ、しかも採集した植物の仕分け作業もしないとだからな」
「げぇ~っ、これを全部種類ごとに分けるってのか……」
それぞれの持つ篭の中には、雑多に積み上げられた大量の植物。
俺の篭ですら10kg以上ある、他のメンバーはおおむねその倍、本日のMVPとなるのが確定であろうマーサに至っては、山盛りの篭を4つ抱えている、俺の5倍以上の量であるに違いない。
これを地道な作業で仕分けするのは無理だ、メンタル的に。
別に危険がある作業ではないのだから誰かに依頼してしまおう。
現状の森へ入ることが出来るのは、王都でもトップクラスの戦闘力を持つここに居るメンバーだけである。
だが仕分け作業ぐらいは他の連中にやらせても罰は当たらないはずだ。
「とにかくさ、いろんな所に依頼して仕分け作業をやって貰おうぜ、俺達が徹夜でやって明日また森に入るってのは普通に考えて頭悪いからな」
「うむ、では部隊に参加出来ない筋肉団の下位構成員を呼んでおこう、それから冒険者ギルドや軍にも頼んでおくべきだな」
「となると俺達もどうにか人員を供出……それは余裕か……」
森を出て王都へ向かう途中には、俺達の経営するドライブスルー専門店がある。
そこの従業員であるコリンを初めとする4人は街道が封鎖されている以上暇人だ。
せっかくだから奴等に仕事を回してやることとしよう。
森を抜け、一旦入口近くの拠点で俺達の馬車に薬草を積み込む。
そのまま各グループの代表者だけを乗せて出発し、王都の城門を目指した。
もちろん途中でコリン達の住む小屋に立ち寄り、中身を回収しておくのも忘れない。
合法的に休めると踏んで下着姿でゴロゴロしていた4人を捕まえ、そのまま馬車に押し込んで再出発した。
「おう勇者殿、仕分け作業の分担量は王宮の前庭で決めることとしようではないか」
「そうだな、じゃあジェシカ、王宮まで頼む」
馬車は進み、王宮へと辿り着いたところで停まる、出迎えた兵士の1人が建物の中へ入って行き、しばらくするとババァを連れて戻って来た。
「諸君、ご苦労であった、おおよその報告は昼のうちに受けておるが、誰か詳細を話すために王の間へ来てくれぬか」
「じゃあ俺が行くよ、皆こっちは頼むぞ」
「勇者よ、おぬしでは馬鹿すぎて話にならん、う~ん……ではゴンザレスよ、来るが良い」
「・・・・・・・・・・」
ババァ如きに拒否されてしまったではないか、それを見て御者台に座ったままのジェシカが吹き出している、後でパンチしておこう。
しばらくすると、呼び出してあった関係各所の連中が徐々に集り始める。
仕分け作業の報酬は別途王宮から支払われるはずだ、俺達も十分な量をキープしておこう。
ニコニコ顔でやって来て、全てを持って行こうとした内職斡旋業者のおっさんを張り倒し、どうにか篭1つ分の素材を確保することに成功した。
「じゃあコリン、1晩掛けてこれを仕分けするんだぞ、無理だったらデフラ達にもやらせるが、可能な限り暇人のお前らでやれ」
「これ……全部で何種類ぐらいあるのかしら?」
「150種類だ、間違えないようきっちりな」
「……無理に決まってるじゃないの、誰か専門家を呼びなさい」
確かにそうだな、一掴み分ぐらいであれば図鑑を使って地道にやっていくことが出来るかも知れない。
だが篭一杯となるとそうはいかない、となると指導員としてカイヤを使うしかなさそうだな。
王の間で諸々の報告をして戻ったゴンザレスと相談し、今日の分の仕分け作業は集合形式で依頼を受けた者を俺の領地の一角に集めるかたちで行うこととした。
とはいえ今から全員出て来いというわけにもいかない、暇潰しの内職感覚で受ける人も多いのだし、夜勤は敬遠されるはず、作業開始は明日の朝からとしよう。
そのまま各機関、団体等が受注した分量を紙にメモし、翌朝王都北門に作業員を集合させるとのことで合意した。
素材はそのまま馬車に乗せ、俺達の屋敷から城壁を越えた辺りの位置に保管場所を作り、シートを掛けて見張りまで立てる。
「ジェシカ、皆を迎えに行こう、他の連中は野営するのかも知れんが、俺達はせっかく屋敷が近いんだ、帰って普通に寝ようぜ」
「わかった、では私だけで行って来るから、主殿は屋敷で夕飯の準備をして貰えるよう頼んでおいてくれ」
「了解、じゃあまた後でな」
ということで俺は屋敷へ戻る、コリン達は着替えを取りに行かせろなどと喚いていたが、面倒なのでそのままの格好で連れ帰った、気温も高いし、風邪を引くようなことはないであろう。
屋敷ではやることがなくなったアイリスが1人ダラダラしていた。
「あら~、おかえりなさ~い」
「ただいま、アイリス、これから皆が帰って来るからな、夕飯の支度を始めてくれないか」
「わかりました~……ふぁ~っ」
欠伸をしながら下の厨房へと降りていくアイリスを見送り、コリン達はその場で待たせておき、もうひとつ明かりが点いていたラフィーとパトラの部屋へと向かった。
きっとフルートとカイヤもそこに居るはずだ、突然入って行って驚かせてやろう。
そう思って静かに近付き、ドアを開ける、凄い光景を目にしてしまう、ドアを閉める……
『あぁぁぁっ! 何か見られたッス、見られたッスよぉぉぉっ!』
『ちょっと静かに、一瞬だったし見られていないかも知れないわよ』
『そうですよ、そもそも異世界人がこれを見たとしても何なのかわからないはずです』
「もしもしそこの4人組さん、バレバレなんですが、入ってもよろしくて?」
『……ど……どうぞ』
諦めたかのように開くドア、部屋の中で正座する4人の傍らには煮え滾る謎の壷。
危険な魔法薬を精製しているに違いない、4人の顔からもそれが真であると推し量ることが出来る。
「お前らは一体何作ってたんだ? 事と次第によってはタダじゃおかないぞ、まぁ屋敷の中で火を焚いている時点でアウトなんだがな……」
『ふ……不老不死の魔法薬です……』
「またとんでもねぇものを、はい、これでツーアウトな、で、何に使うつもりだったんだ?」
『量産して売ったら大金持ちにと思いまして……』
「発想がやべぇな、そんなモノ市販したらこの世は終わりだ、ちなみにスリーアウトだからな、覚悟しておけよ」
『ひぃぃぃっ!』
壷の中の液体は作りかけ、もちろん放置すると大爆発して王都を吹き飛ばすとのことなので、一旦最後までやらせることとした。
出来上がってきた試作第一号(本人達はそう主張している)不老不死薬を没収し、壷も片付けさせる。
「おい、他に隠し持っていたりしないだろうな? 特にカイヤ、おっぱいの隙間に入れていたりとか……おっと、皆が帰って来てしまったようだな」
カイヤの胸の谷間に手を突っ込もうとしたところで殺気を感じ、手を引っ込めた。
間違いなくセラが放った殺気だ、見えない所に居ても俺がエッチなことをしようとしているのがわかるらしい。
窓の外にチラッと見える馬車、やはり帰って来たようだ。
とりあえずこの馬鹿4人も連れて大部屋に戻り、コリン達には仕分け作業に関して、俺達は明日以降のことに関して、食事を死ながら話しをすることとしよう……
※※※
「ご飯の支度が出来ましたよ~っ」
「わかった~っ! カレン、リリィ、運ぶのを手伝ってやるんだ」
2人が大喜びで運んで来た料理を食べつつ、明日のことについて相談をする。
俺達はまた森へ入って素材狩り、現在今日の採集分を保管してある場所には朝一で仕分け作業員を集め、研修の後にカイヤの指導の下、作業をして貰う。
慣れてきた者からそれぞれ内職なり、それから組織の拠点に持ち帰るなどして場所を分散していけばよいであろう。
干すためのスペースも確保しておかないとだが、それは無駄に土地の広い俺の領地であればどうにかなるはずだ。
「じゃあコリン達は明日の先生であるカイヤの補助が出来るよう、今晩のうちにきっちり作業内容と素材の分類を把握しておいてくれ」
「……さすがにそれはちょっと厳しいんだけど」
「そうか、鞭で打たれたいんだな」
「ひぃぃぃっ! やります、やりますから叩かないでっ!」
脅し完了である、これで素材の仕分け作業については今のところ問題がないな、あとは先程この馬鹿共が作った不老不死の魔法薬とやらについてだ。
こんなヤバいもの、二度と日の目を見ることがないように細心の注意を払って破棄しなくてはならない。
その辺に撒いたら昆虫や土中の微生物が不老不死化し、とんでもないモンスターが誕生してしまうからな。
「さてカイヤ、本当にこれ1本だけなんだな? 嘘はついていないな?」
「も……もちろんですことよ、オホホホッ」
「そうかそうか、ラフィー、パトラ、フルートはどうだ?」
『・・・・・・・・・・』
パトラだけは悪びれた素振りもなく首を横に振る、意外と悪い奴のようだ。
だがラフィーは目が泳いでいるし、フルートは申し訳なさそうな顔で俯いたままである。
一番弱そうなのはフルートだな、2度も敵に捕まって監禁されているあたり、運だけでなく気も弱いところがあるはずだ。
「おいフルート、こっちを見るんだ、目を見て話せ……本当に何も知らないな?」
「ご……ごめんなさい」
次の瞬間、諦めたカイヤがその胸元から小瓶を取り出す、やはり俺の予想は正しかったようだ、おっぱいが大きい奴は胸元に大事なものを隠す、これがお約束である。
「ちなみにお前ら、これをいくらで売り出す予定だったんだ?」
「市販品は50万本限定で金貨10枚、それ以外に大口で1万本を@金貨5枚で売ろうとしていました」
「高いけど安すぎるだろ、そもそも50万人も不老不死になったりしたらだな……」
と、そこへ部屋のドアが開く、入って来たのはシルビアさんである。
「あ、カイヤちゃん、例の魔法薬、サンプルは出来たかしら?」
「出来ました、ですがこの勇者さんに没収されて……」
大口で注文を入れた悪い商人はこの人であったか、とにかくわけのわからないもので利益を追求し、その後どんな事態に陥るかについては一切考えようとしないシルビアさん。
今回もその辺の貴族とか何とかにコレを売り込むつもりでいるに違いない。
王都ではカイヤ達が金貨10枚で売るといっているのだし、情報の届かない遠隔地で金貨100枚ぐらいで売りそうだな。
「とにかくシルビアさん、コレは危険なので没収です、製造も禁止しますからそのつもりで」
「あら、それは残念ね、せっかくぼろ儲け出来ると思ったのに、まぁ良いわ、次は墓地の骨すらたちまち生き返る魔法薬を作ってちょうだい」
「それもダメですってばっ!」
4人、特にカイヤには、シルビアさんが何かを要求してきても絶対に応じないように勧告しておいた。
何も考えずにヤバい行為に手を染める結果になるのは火を見るよりも明らかだ。
「さて、シルビアさんの入れ知恵があったのかも知れんが、この行為を許すことは出来ないな」
『はぁ~い、ごめんなさ~い』
「よし、ではお仕置きだ、ルビア、アレを持って来てくれ」
「わかりました、ではマーサちゃん、ちょっと手伝って」
2人が両手に持って戻ったのは組み立て式の箱が4つ、普段は折り畳みコンテナの如くコンパクトに収納出来るようになっているものの、組み立てれば完全に箱だ。
それを見て恐れおののくのはパトラ、そう、この箱は以前パトラのお仕置きに使った『箱尻』の改良版なのである。
体を入れる穴だけでなく、箱の全ての面に小窓が設置され、それを外側から開けることで、表情だけでなく全身の様子を覗き見することが出来る、お仕置きする側に優しい設計となっているのであった。
とりあえず風呂に入り、そのまま4人の上半身のみを箱に投入する。
良い眺めだ、ちょっとランダムでカンチョーしてやろう……
「喰らえっ!」
『はうぅぅぅっ! ゆ……許して下さい……』
フルートの反応はイマイチだ、やはり最も元気が良いのはラフィーのはず、ラフィーには黙って近付き、サイレントカンチョーをお見舞いする。
『ひぇぇぇッス、もっとお手柔らかにお願いするッスよ!』
「そうか? じゃあ次はこのぐらいの強さでっ!」
『ぎぃぇぇぇっ! さっきより強くなって……いる……ッス……ガクッ』
ラフィーは気を失ってしまった。
次いでパトラにも一撃お見舞いし、最後にカイヤの後ろに立つ、尻をクネクネさせて誘っているようだ。
そういえばコイツはドMだったな……
だが防御力が高く、俺程度の攻撃力では、たとえ物理攻撃としては比較的技の威力が大きいとされるカンチョーであってもダメージが通ることはない。
ここは精霊様と交代すべきだ、直前まで俺が攻撃する感を出しておき、油断させておいて実は、という流れでいくことを精霊様とのアイコンタクトで確認する。
「じゃあいくぞ……コイツを喰らえっ!」
『へっ!? はうぁっ!! き……きっくぅぅぅっ!』
「どうだ、参ったか?」
『いえ、もっと、もっとお願い致します!』
「ダメだこりゃ」
作戦は失敗である、精霊様の攻撃力の高さのみに依存した不意打ち作戦は、カイヤの防御力とドM力には通用しなかったようだ、もう諦めよう。
「じゃあ4人共寝る前までそこで反省な、わかったか」
『はぁ~い、わかりました~』
その後は4つ並んだ尻を眺めながら適当に酒など飲む、さて、そろそろ寝ることとしよう。
2本になってしまった不老不死の魔法薬をどう処分するのかなど完全に忘れ去ってしまった俺は、小瓶の入った袋をその辺に放り出して就寝した……
※※※
翌日以降、およそ1週間もの間森に入っては植物を採取し、それを王宮の前庭に運んで仕分け作業員に割り振ってということを繰り返す。
仕分け作業本部、つまり俺達の屋敷から城壁の穴を潜ってすぐの所にある仕分けの終わった素材の集積場所には、それを乾燥させるための天日干し台が所狭しと並んでいる。
まるで港町に干物が並んでいるかの如くだが、残念ながら食べて美味しいようなものはほとんどないらしい。
「カイヤ、そろそろ原料の方は大丈夫か?」
「そうですね、今乾燥させているものが出来上がってこないと何とも言えませんが、おそらく今日の分で必要量が揃うかと思います」
「そうか、じゃあ明日晴れれば乾燥も終わって製作段階に移行出来るな」
「ええ、そうなるはずです」
おおむね予定通りに事が運んでいる、森での収集は今日でお終いにして正解であったな。
もちろん完成した素材から順次製造工程に投入していくことも考えたのだが、一度素材が切れて製造が止まってしまうともう一度やり直すのにはそれなりにコストが掛かるとのことであったため、全部の素材が必要量揃ってから製造を開始することとした。
翌日はきっちり晴れ、昼過ぎには乾燥した素材を持ったカイヤ達が屋敷に戻って来る。
そのままラフィーの部屋に向かい、4人で壷を抱えて再び外へ出た。
「お~い、精製は外でやるのか~っ?」
「もちろんですよ、途中で凄い幻覚作用のあるガスが噴出しますから」
「気を付けろよ~、あと爆発させんなよ~」
「は~い」
どうやら領地の方へ行くようだ、軽いノリで送り出してしまったのだが、もし何らかの失敗で爆発すれば、この王都は跡形もなくなってしまうであろう。
まぁ、そのときはそのときだ、念のため精霊様に警戒しておいて貰えばどうにかなる。
結局爆発の類は発生せず、夕方には壷を抱えた4人が戻った。
カイヤの背中には木箱が見える、きっとあの中に魔法薬が入っているのだ。
「おかえり、魔法薬の方はどうだ?」
「バッチリです、これを1日1回水またはぬるま湯で服用すれば、体の周囲にある瘴気が避けて、それに触れることなく進むことが出来ます」
「効果時間は1日か、ちなみに効果切れになる前に前兆とかあるのか?」
「いえ、突然切れてハゲになります、その際は諦めて下さい、もう元に戻しようがないので」
なかなかリスクは高いようだ、だが今回はもし途中で何らかの失敗が生じ、パーティーメンバーの誰かがハゲになってしまったとしても、大魔将を討伐するまで戻るわけにはいかない。
早く大魔将本体を討伐し、そこらじゅうに居るその分体を消し去ってやらないと、おそらく都市封鎖状態にある王都はそう長く持たないのだ。
「うむ、じゃあ明日の朝にはトンビーオ村に向けて出発だ」
「勇者様、その道中にもあのバケモノが居るんでしょ、警戒を怠らないようにしないと」
「だな、森の中に入っている間は誰かが屋根の上で見張ることにしようか、そうすれば奴等も近付いて来ないはずだからな」
翌朝、屋敷を出た俺達はトンビーオ村に向けて馬車を進める。
今回は急ぎだ、洞窟ダンジョンで足止めを喰らわないと良いのだが……




