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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十二章 熱血
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267 これからのこと

「よし、とりあえずは俺達の勝ちだな、もう行こうか」



 極大の魔法を放って気絶したセラは俺が、ハンナは精霊様が抱えて会場を後にする。

 半死半生の大魔将エルニー、もといエルニダトスはスタッフが片付けるようだ。


 何か考え込んでいたゴンザレスもブツブツ独り言を発しながらどこかへ行ってしまったし、今回の件で生じた謎を解き明かす作業は一旦落ち着いてから始めよう。



『え~、これで本日のイベント、異世界勇者パーティーVS魔王軍大魔将の決闘を終わります、賭けに勝った方は今日中に換金を、負けた方は地団駄踏んでないでとっととお帰り願います』



 おっと、アナウンスを聞いて思い出した、そういえばこの会場は岩竜王の好意で貸して貰ったものであったな、後で菓子折りを持って行くのを忘れないようにしないとだ。


 コロシアムの外に用意されていた竜車に乗り込み、宿泊していたコテージを目指す。

 氷魔法使い達は既に戻っているようだ、こちらも話し合いをしてここを出る日時を決めておかないと……



 コテージのベッドにセラとハンナを寝かせ、一休みする。

 精霊様の見立てでは、2人共夕方には目を覚ますであろうとのことだ。



「しかし大変なことになったわね、精霊の私でも人族が魔族に変化するなんて知らなかったわよ」


「そうなのか、女神とかなら知っているかもだが、果たして教えてくれるかどうかってとこだな」


「むしろその答えに近付きすぎると危ないかもだわ……」



 女神がこのことを知っていて俺達、いや管理するこの世界の存在全てに隠していた、その可能性は否めない。

 だとしたらこれを調査していくことで女神の怒りを買ってしまわないとも限らない。


 そうなると奴のことだし、いきなり巨大隕石を降り注がせて世界自体をサービス終了に追い込む可能性すらある、この先は気を付けて進んで行く必要がありそうだ……



「ん? 誰か来たな、早速刺客か?」


「違いますよ勇者様、案内係のドラゴンです、何か焦っているようですが……」



 ノックもせずにバタバタと走り込んで来た人間形態のドラゴン、そういえば最初に岩竜王の所へ行ったときに案内してくれた奴だ、ファイトマネーでも持って来たのか?



「大変ですよ勇者さんっ! 死んだものだとばかり思っていたあの大魔将が蘇生しました!」


「マジで? でも瀕死なのは確かだろうに」


「そんなことありません、既に完全復活です、もう余裕で食事してますよ!」


「……まぁゴンザレスの弟だったわけだしそんなもんか」



 そのドラゴン曰く、エルニダトスは死んでいるか、生きていてもすぐに死ぬと判断したため、棺桶に突っ込んで貝塚に放り込んでおいたという。


 しかし帰ろうとしたところで棺桶が突然粉々になり、中身が貝塚から這い上がって来て腹が減ったから何か食わせろと要求してきたという、ホラーじゃねぇか。


 てかアレだな、わりと文明的なように見えるドラゴンだが、ゴミ置き場はアナログの極みとも言える貝塚なんだな……



「じゃあ仕方ない、俺達も行ってみようか、アイリス、寝ている2人の面倒をよろしく頼むぞ」


「はぁ~い、いってらっしゃ~い」



「では竜車を回しますね、そういえばあのそっくりな人族も向かっている頃だと思いますので、向こうで会えると思いますよ」



 ゴンザレスの耳にもその事実が伝わっていたか、というか奴の炎が消えた状態であの2人が居たら、どっちがどっちだかわからなくなるぞ、名札でも付けて貰わねば。


 すぐに用意された竜車に乗り込み、エルニダトスが居るという岩竜王の城を目指した……



 ※※※



「おう、異世界勇者君ではないか、君も掛けたまえ」

「おう勇者殿、来たようだな」


「待て待て、とりあえずゴンザレス、挙手」


「こっちが俺だ」

「そしてこっちが俺だ」



 やはり完全に一致してしまっているようだ、これが可愛い女の子の姉妹というのであれば最高なのだが、残念なことにゴリマッチョのおっさんが細胞分裂したような状況に陥っている。


 まぁゴンザレスは普段から影分身だの何だの言って増えているから今更突っ込むようなこともないのだが、とにかく2人同時に喋るのはやめて頂きたい。



 まずは名札を付けさせ、ゴンザレスの居る側に座ることとしよう。

 テーブルの上に並んだ大量の料理が物凄い勢いで減っていくのが気掛かりだが。


 もう1つ、カレンとリリィが勝手に料理を注文し出したのも問題だ、金取られたりしないよな……



「勇者殿、エルニダトスには大体の説明をしておいた、さすがに当時の記憶はないようだがな」


「はっはっは、実に驚いたよ、俺が元々人族であったなど、しかも証拠まであって戯言ではないと」



 衝撃の事実を告げられた直後にも拘らず、ヘラヘラと笑いながら骨付き肉を貪るエルニダトス、さっぱりした性格なのが功奏しているのか、普通ならひっくり返って意識を飛ばすはずだぞ。



「俺もその件に関して調査に協力したいのはヤマヤマなんだが、まずは炎の力を取り戻さなくてはならん、ゆえに何かわかったら手紙などで連絡してくれ」


「おいおい、また世界を灼熱地獄に変えようってのか?」


「いやいや、人族の領域には踏み込まんよ、元々大魔将としての職務がなければ来ることもなかったはずだ」



 そういうことであれば問題はない、魔族領域などどれだけ暑くなろうが知ったことじゃないし、そもそもこれまでコイツが居て特に問題が生じていなかったのであれば今後も大丈夫なのであろう。



「あ、参考までに聞いておきたいんだが、炎の力ってどうやって取り戻すつもりなんだ?」


「なぁに、地道に修行し直すのさ、そのまま修行を続けて住職(寺の)を目指すのもアリかと思っていてな」


「ああ、住職(住所不定無職)か、お似合いだと思うぜ」



 エルニダトスは今日中にここを発ち、魔族領域に戻るという。

 既にエリナが通行許可証の手配を始めているそうだ。


 そういえば戦いが終わって以降、次第に季節相応の気温になってきているな、この男が人族の領域を去るのを待つことなく、熱波事件に関しては解決しているといえよう。


 ちなみにエルニダトスが身に着けていたペンダントはゴンザレスが預かるそうだ。

 そこから何かがわかる可能性は低そうだが、念のため研究所で調べてみるべきであろう。



「おう勇者殿、俺は王都へ帰ったらまず、エルニダトスが行方不明になった火山を調べるが、勇者殿はどうする?」


「パスだな、暑いのはもうこりごりだ、ついでにこの男の炎エネルギーの秘密も探って来てくれ、どう考えても食事だけであの熱量を維持していたのはおかしいからな」


「そうか、ではついでに調べておくこととしよう」



 正直言ってそちらの調査に関してはサブだ、まずは人族が魔族と化してしまう現象の謎を解き明かすのが先決なのである。



 十分な量の栄養を摂取すると、ゴンザレスもエルニダトスも席を立って帰って行った。

 俺は寝ているセラ達や留守番組の食事を注文し、それをテイクアウトしてコテージへと帰る。


 セラもハンナも未だに目を覚ましていないものの、最後の攻撃で砕け散った杖の残骸だけは、スタッフによって掻き集められ、布に包まれて届けられていた。


 布を広げ、中の状態を確認してみる、粉々になってしまっているようだ……



「これはもう直りそうもないな、伝説の杖とか言っておいて情けない棒切れめ」


「そもそもこれが伝説武器だったのがおかしいのよ」


「精霊様、それはどういうことだ?」


「だって、魔を打ち払うべき伝説武器にハンナちゃんが平気で入り込んでいたなんて変じゃない? つまりこれは神々の認証を受けていない非正規品だったってわけ」



 確かに思い当たる節はある、最初に手に入れたカレンの爪武器、そのあとセットで現れたミラとジェシカの剣、その3ついずれもが白い光を刃としているのだ。


 それがどうだろう、セラが使っていたこの杖、元々はハンナが持ち込んだものであったのだが、伝説の武器にしてはどことなく普通である。


 精霊様が言ったようにハンナが平気で触れられることもおかしいし、強化しているのも風と雷の魔法だ。



 つまり、この伝説の杖は俺達が使っているほかの伝説武器とは違う、ただ単に古の勇者の仲間とか何とかが使っていたことがあるから伝説というだけの代物であったに違いない。


 だが、この杖がセラの戦い方とマッチし、その力を最大限に引き出していたのも確かだ。

 ゆえにこれを失うのは痛いし、セラ、そして本来の所有者であるハンナにも悪い。


 どうにかして元通り、いや、欲を言えばパワーアップして2人に返してやりたいところである……



「これは神界を頼るしかなさそうだな、ついでに人族の魔族化に関してもそれとなく聞いてみよう」


「杖は女神に頼めば大丈夫そうね、でもそっちの方は気を付けて聞きなさいよ、何か隠す素振りがあったらそれ以上追求しないことね」


「わかった、まぁとりあえずどれもこれも王都へ帰ってからだな」



 その後、マリエルが氷魔法使い達と話を付け、出発は明日の昼過ぎということに決める。

 岩竜王にも連絡を入れたところ、それで構わないとの返答を得た。


 あとはこの2人が起きるのを待つだけだ……



 ※※※



 夕方、戦闘直後に魔力回復薬を飲ませてあったハンナが先に目を覚ます。

 戦いが終わったこと、杖が損壊して使い物にならない状態であることをユリナとサリナが説明する。



「困りましたね、そうなるとこれからしばらくは入っておく武器が無いんですよね、ランクの下がるものには入りたくありませんし……」


「当分は我慢しろ、で、あの杖が強化されて戻って来ればもう一度中に入って戦うってことだな?」


「ええ、より強い武器に入り込む習性はどう足掻いても捨てられませんから」



 より強い武器を目指して渡り歩くハンナ、まるでヤドカリだが、上等なものさえ用意してやればそこから出て行ってしまうことがないということはわかっている。


 これまでも散々な目に遭いながら、そして時折泣き叫び、逃げ出そうともしながら、何だかんだ言って最終的にはセラの杖に納まっていたのだ。


 ハンナに関しては心配なさそうだな、今後も一緒に戦う道を選んでくれるはず。

 杖さえどうにかなればの話ではあるが……



「勇者様、お姉ちゃんもそろそろ目を覚ましそうだと精霊様が言っていましたよ」


「わかった、じゃあ俺が見ているから、皆は先に風呂へでも入っていてくれ」


「ええ、ではお風呂から出たら夕飯にしましょう」



 ミラとアイリスが風呂から出て夕飯の支度をしている間にはセラも起きるはずだ。

 既に寝返りを打とうとしていたり、寝言を発している場面も見受けられる。


 そのまましばらくセラの顔を眺める、時折額の上に乗せた濡れタオルを取り替えてやったりしながら1時間程が経過した……



「ん……うぅっ……」


「おっ、遂に目を覚ましたか、おはようセラ」


「……勇者様、皆はどうしてるの?」


「もう風呂に入って夕飯の準備をしているぞ、起き上がれそうか?」


「ちょっと無理ね、でもお風呂は私も入りたいわ、運んで行って」


「へいへい」



 セラを抱えてコテージに備え付けの風呂まで移動する、軽いから助かるが、服を脱がせたりするのはそれなりに大変だ、揉む所も少ないしな……



 ついでに俺も風呂に入り、セラの背中を流してやりながらあの後の話をする。


 大魔将エルニーはやはりゴンザレスの弟エルニダトスであったこと、セラの使っていた杖は粉々に砕け散ってしまったことなどだ。



「ほら、湯船にぐらい自分で入れるだろ」


「無理よ、膝が笑って立ち上がれないわ」


「しょうがない奴だな、無理をするなと言っておいたのに」


「すまないわね、後でお仕置きして良いわよ」


「いや、今喰らえっ! こちょこちょこちょこちょっ!」


「ひぃぃぃっ! お許しをぉぉぉっ!」



 くすぐりの刑を執行しながら湯船に放り込んでやった。

 そのまま沈んでいくセラ、どうやら本当に力が入らないようだ。


 抱き起こし、支えながら入浴を済ませる、服を着せるのはさらに大変であることがわかったため、パンツと寝巻き用のスケスケキャミソールだけ装備させてそれで良いにした。


 本格的に、日常生活に必要な分までの魔力を使い切ってしまうとこうなるというのか。

 俺はその魔力がかなり少ないからな、気をつけねばなるまい。



 風呂から上がるとちょうど夕食の準備が出来ていた、とりあえず抱えて来たセラを俺の横に座らせ、あれやこれやと要求してきたものを口に入れてやる。



「勇者様、次はそっちの生ハムが食べたいわ、レタスは2枚ね、トマトスライスも挟んでちょうだい」


「へいへい贅沢ですな、全くどこの女王様だよ……」


「あら、私が頑張らなかったら今頃は皆で海のど真ん中よ、今日ぐらいは甘える権利があると思うわ」


「わかった、言っておくが今日だけだぞ、明日からはいつもの厳しい大勇者様に戻るからな」



 食事をしながらも、時折布の上に広がった杖の残骸に目をやるセラ。

 かなり気に入っていたのであろう、しかしこれがしばらく使えないとなるとセラはどう戦うべきか。


 おそらく以前までのものを引っ張り出してきても何の役にも立たないはずだ。

 強大な魔力を放出する今のセラでは、通常の杖では魔法発動1回ごとに使い捨てとなってしまう。


 人族の魔族化という謎も解き明かす必要があるのだが、どうも最優先事項はこの杖の修理と強化であるような気がしてきたぞ。



「さて、明日はここを出ることになっているからな、今日は早めに寝ることとしよう」



 竜族のリゾート地最後の夜は涼しかった、もう日中の熱波に悩まされることなく、本格的に夏を迎えるまでは快適な暮らしを送ることが出来そうだ……



 ※※※



 翌日、朝のうちに岩竜王への礼を済ませ、昼にはリゾート地を後にした。

 帰りはトンビーオ村まで船で一直線、そこからは馬車で2日かけての移動である。


 その馬車での移動の最中、トンビーオ村に帰還する避難民達とすれ違う。


 帰ってすぐに村の片付けをするらしい、腐って倒壊寸前になっていた俺達のコテージもどうにかしてくれるとのことだ。


 そこからしばらく馬車を進め、2日寝の昼にはようやく王都の南門がみえてきた。

 一旦屋敷へ帰ろうと馬車道を走っていると、兵士が駆け寄って来る……



「勇者殿、帰還されて早速で申し訳ないのですが、総務大臣から王宮へ来るようにとのお達しが」


「めんどくせぇな、そっちが出向いて来いって言っておけ」


「それが……王宮で保管している大魔将入りクリスタルに動きがあったとのことで……」


「あ、そんな奴も居たな、完全に忘れてたわ」



 そういうことなのであれば仕方がない、御者をしているルビアにはこのまま帰るように伝え、俺とセラだけで王宮の用意した馬車に乗り換える。


 王宮へ着くとすぐに王の間へ通され、駄王とババァの出迎えを受けた……



「おぉ、ゆうしゃよ、この……」


「この度はご苦労であったな、だろ? それは聞き飽きたから次から別の台詞を考えておけ、じゃねぇと殺すぞ」



「勇者よ、王は馬鹿なのだ、許してやってくれぬか」


「まぁ今回だけは勘弁してやる、で、大魔将入りクリスタルに変化があったんだって?」


「その通りじゃ、付いて参れ」



 案内されて行った先には、祭壇のようなところに設置された大魔将入りクリスタルがある建物であった。


 ちゃんと中に居る大魔将から豪華な食事が見えるように設置され、肉を炭火で焼く煙が団扇で扇がれて送られ続けている。


 これは出て来ざるを得ない、最初は牢の中にクリスタルごと放り込んでいたのだが、この作戦に変えてからは地味に反応が得られるようになったという。



「おいババァ、ちょっとここで宴でも始めようぜ、駄王も呼んで来るんだ」


「そうじゃの、見せるだけでなく実際に飲んで食ってをしてやれば我慢の限界を迎えるじゃろうて」



 部屋は十分に広い、せっかく帰らせたのだが他のメンバーも呼んで今日の夕食はここで取ることとしよう。

 幸いにもここは王宮の建物の外、奴隷の身分であるカレンやルビアでも入ることが出来るのだ。


 すぐにイレーヌが呼ばれ、マリエルの下へこのことを伝えに行く。



「よし、じゃあ酒も運んで来て、料理を取り分けるぞ」


「勇者様、こっちは空けて、あの子に食べてる姿がしっかり見えるようにしましょ」



 ちらっとクリスタルの方を見る、大魔将が足の先をクリスタルの外に出そうとしていたのが確認出来た。

 俺の視線に気付いてすぐに引っ込めてしまったのだが、この調子でいけば時間の問題だな。



 しばらくして集って来た他のパーティーメンバー、それに駄王やインテリノ、その他の大臣などと共に食事を始める。


 香ばしく焼けた肉、新鮮な野菜や果物、どれを取っても一級品、もちろん酒も最高の代物だ。



「お~い、アイドル大魔将……フルーティー麦茶だっけか? お前も出て来いよ、一緒に飲もうぜ!」


「・・・・・・・・・・」


「反応ナシか、残念だな、この宴は今日限り、ここを逃したらお前はもう誰にも気にされることなく、1人で宝物庫にしまわれて忘れ去られるんだぞ」


「……もう……もう我慢出来ませんっ!」



 クリスタルが砕け散る、ようやくまともに会話が出来る状態で俺達の前に立ったアイドル大魔将。

 そういえばコイツは人族と魔族が分かれた最初の存在、純粋魔族なのであったな。



「はじめまして、ではありませんね、2度も助けて頂いて、私は魔王軍の元大魔将、本名は()()()()と申します」


「フルートね、まぁとりあえず座れよ、色々と話しておきたいこと、それから聞いておきたいことがあるからな」



 純粋魔族のフルート、もしかしたらその先祖の記憶を頼りに、人族と魔族の境目について何かわかってくることがあるかも知れない。


 これから時間をかけて、様々な話を聞いてみよう……

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