22 第一王女の企み
「ホントに馬鹿じゃねぇのか?」
井戸に酒を撒いていた犯人を捕らえてみれば、第一王女からの依頼であることを示す依頼書を持っていた。
こんなもの偽造することなんてまず不可能である。
王家の紋章も、それからサインも入っているのだ。
そしてそれらは王家やその関係者のみが使うことを許された特殊なインクで書かれている。
どういう原理か知らんが特別な魔法を当てると光るのだ。
王宮に持って行って文書を確認し、インクも、それから第一王女のサインも本人のもので間違いないということがわかった。
「失礼しますっ!」
そのとき、兵士が王の間に入ってくる。汚いおっさんだ、本当に王宮の兵士か?
「申し上げます!第一王女殿下、私兵を連れて逃走いたしました!」
逃がしたのかよ、疑っておきながら誰か監視とか居なかったのかよ?
しかし逃げたとなるとこの酒井戸事件と王位簒奪計画も繋がってきそうだ。
この国ほどの大馬鹿揃いであれば、井戸に酒を入れただけなら馬鹿が調子に乗っただけということで済むかも知れないからな。
おそらく謝れば許してもらえる程度の悪戯であろう。
「失礼致します!」
また兵士が入ってくる、今度は女性だ。第一王女の部屋をガサ入れしていたのだそうだ。
「王女の自室より、状態異常に関する書籍が多数見つかりましてございます。」
状態異常?本を手にとって見る。
どの本も『状態異常:慢性アル中』のところに付箋がしてあった。
「おい、どうやら王女は駄王をアル中にして引退させようと考えていたみたいだな。」
「勇者殿、アル中とは?」
「何だ、知らないのか?酒飲みがかかる状態異常、というか病気でな、最悪…というか普通に死ぬ。」
「ん?しかしこの本にはすげぇダメになるだけで死にはせんと書いてあるようじゃが…他も同じだの。」
「舐めすぎだ!現に駄王を見ろ。ボロボロじゃないか、あれがそのまま進行して死なないように見えるか?」
「とにかく今のうちにわかって良かった、このまま安静にして回復させよう。駄王が酒を欲しがって暴れても、絶対に飲ませるなよ!」
現在、駄王はグデグデの状態で王座の前で大の字になって寝ている。誰がどう見てもヤバい。
「ああ、わかったぞよ。では勇者殿は王女殿下を追いかけてくれぬか?わしらでは戦えぬし追いつくことも叶わんじゃろうて。」
「生け捕り…だよな?」
「うむ、絶対に殺さぬよう頼むぞ!」
※※※
パーティー全員で王女を追いかける。俺達の拠点がある城門に向かっているらしい。
「ご主人様!敵の兵隊は何人ぐらいなんでしょうか?」
「しまった!知らんぞ、聞くのを忘れた!」
「全く、ダメな勇者様ね、そんな重要なことも聞かないで来るなんて、頭が悪すぎてため息が出るわ。」
「なんだとぉ~…おいセラ、大丈夫か?パンツがビショビショのようだが、どうしたんだ?言ってみろ。何があったんですかぁ~?」
「…っ!先程ご覧になった通りよっ!」
「2人共喧嘩なら後にしてください!まずは第一王女を何とかしましょう。あとお姉ちゃんは少し反省してちょうだい、いっつもいっつも、誰がパンツを洗っていると思っているの?」
…いつもセラがおもらししたパンツをミラが洗っているのか、本当にどっちが姉なのか全くわからんな、この姉妹は。
「ねぇ、その第一王女とか兵隊って殺しても構わないわけ?」
「ダメだ。王女は殺さないように言われているし、兵隊は命令されているだけで悪い奴じゃない。カレンもリリィもだぞ!」
「はい、頑張ります。」
「わかりました~」
本当にわかっているのか、不安である。
皆で走って追いかける。リリィには体力のないルビアを乗せたため、俺も走らされている。
運動不足の体には堪える…最近楽しかしていないからな、勇者なのに。
明日は絶対に筋肉痛だ、よし、後で皆にマッサージしてもらおう。
「居ました!あの集団じゃないですか?槍持った兵隊が一杯居ます!」
視線の高いリリィが最初に見つけた。どうやら城門を突破して森に逃げるつもりのようだ。
「リリィ、槍の兵隊さんは何人ぐらい居る?」
「え~と…20人ぐらいです。全部女の人ばかりみたいですよ!あと真ん中に馬車が居ますね…」
なるほど王女の私兵だ、全員女でもおかしくはないだろう。そしてその真ん中に居る馬車に本人が乗っているのであろう。
しかし20人か…結構な人数だな。
しばらく走るとようやく追いつく…
「おいっこらぁ!第一王女だろ?さっさと出て来い、今からお前を張り倒して王宮に連れ帰るっ!」
停止する槍の軍団、馬車の中から第一王女が姿を見せる。
「あら、追っ手はあなた達だけのようね。」
ん?確かに…他は?他には兵とか来てないの?丸投げですか?いい加減にしてくださいよ!
「大人しく投降すれば今殴るのだけは勘弁してやる。後からはどうなるか知らんがな。」
「ふふっ!私の完璧すぎる作戦を見破ったのだけは褒めてあげますわ。まさかあの用意周到な計画が露見するとは思いませんでしたもの。」
どこが用意周到でどのあたりが完璧過ぎたのだ?
依頼書はモロだし、部屋には証拠が満載だし。
おそらく俺が主体になって捜査していればこの女はもっと早くブタ箱に居たであろう。
「投降する気は無いんだな?戦うことになるが…」
「ふんっ、鍛え上げた私の兵に勝てるとでも?異世界勇者が相手だからといって容赦はしないわよ!」
「ヤリヤリ隊、前へっ!」
何なんだその名前は…
戦闘が始まった、向こうは数えたら19人、結構な数だ。
全員女性なので怪我のないよう気をつけて戦って欲しい。
こちらの作戦としては、カレン、マーサは一人で回避して間合いに入り、相手を気絶させる。
ミラは攻撃を受け止め、その隙にセラが軽めの魔法で攻撃する。ここは2人でセットだ。
ルビアはもちろん回復、リリィは全体のサポートを担う。
あと俺は後ろで鼻くそをほじっている。槍とか間違えて刺さったら痛そうだからな。
「ちょっとっ!何で勇者様は戦わないのっ!?」
「よく見ろセラ、向こうも大将はまだ出てきてないだろう。」
戦いたくない、そもそも走って疲れたので適当なことを言って誤魔化しておく。
さすがに無理がある良い訳だが…納得してしまったようだ。
セラは詐欺に遭わないよう注意した方が良い。
しかし結構強い兵だな…カレンやマーサに対しても、一人当たり10秒ぐらいは戦っている。
もちろん、間合いに入った後はワンパンなのだが、その前に多少粘っているのである。
ステータス自体はそうでもないが、技術、というやつなのであろう。
それがこんなアホの子に使われて、おかしな部隊名まで付けられて、さぞかし悔しいだろう。
だがそれも今日までだ、気絶して目覚めたときには全員他の部隊に異動になっていることだろう。
徐々に数を減らしていくヤリヤリ隊、一方こちらはたまにミラが怪我をするぐらい、特に大丈夫そうだ。
俺とリリィはやることがない。帰っていいかな?屋敷近いし…
そうこうしている間にヤリヤリ隊は全滅した。全員気絶している。
セラの魔法で負傷したヤリヤリ兵にのみ、ルビアが回復魔法をかけて回る。
「さて第一王女、どうする?仲間全部やられちゃったよ?まだ戦う?」
「ふんっ、なかなかやるようね!でもそれで本気なら私にもまだ勝機はあるわ。」
いやいやいやいや、今の本気に見えた?俺とリリィ明らかにサボってたよね?
そもそもドラゴン混じってんのよ、このパーティー。
本気で勝てると思っているのか?それともただの強がりなのか?
自信満々で槍を構える第一王女…
「言っておくけど、私は学院時代ヤリサーの会長をしていたのよっ!」
こら、槍サークルって言い直せ!誤解を招く表現はやめるんだ!
「死になさいっ!異世界勇者!」
こっちに向かってきやがった。俺が戦うのか?
うん、さっきサボるために大将がうんぬんみたいなくだらない言い訳をしてしまったからな、戦う他なかろう。
失敗した!
突き出された槍を聖棒で弾く、するとまた突いてくる。
さすがヤリサー姫、突きが半端ない。
しかしコイツも本当に強い、ステータスは俺の半分程度しかないにも拘らず、鋭い突きで攻撃の隙を与えない。おそらく先程のヤリヤリ隊の誰よりも強いであろう。
前情報の『槍で多少戦える』というのは過小評価のようだ。
もしくは実力を隠していたか?
こういうときのためにそんなに強くない振りをしていたのであれば、ドラゴンが居るパーティーに臆しないのも納得がいく。
だが、今度は逆に自信過剰だ。
強いとは言っても一般的な範疇での話、毎日狂ったように魔物狩りに行ったり、意味のわからん魔将を討伐したりしていた俺達のレベルからすれば、こんなものはどうという事はない。
王女の槍を強く弾き上げ、その隙に太ももに横薙ぎの一撃を加える。
本来は脇腹にいくべきなのであろうが、即死されるとルビアの回復魔法も使えない。
比較的安全と思われるところにダメージを与えることにしたのだ。
衝撃でひっくり返る王女、足が変な方向に曲がっている。
折れたか?いや、明らかに折れている。バッキバキだ。
ついでに意識も無いようだ、我々の勝利である。
「ルビア、王女に回復魔法を!」
槍を取り上げ、回復魔法で足を治す。
しばらくは意識が戻らないであろう。念のため、縛り上げておく。
ルビアに縛るのを任せたため、凄くエッチな縛り方になってしまった。
このまま王宮に連れて行っても良いものなのだろうか?怒られるよね、絶対…
「リリィ、王宮に行って作戦終了を伝えてくれ。あと、護送用の馬車も欲しい。」
ヤリヤリ隊の隊員もしばらくは目を覚まさないだろう。
馬車に乗せて詰所かどこかのベッドで寝かせてやる必要がある。
「さて、終わりね。どのぐらいご褒美が貰えるかしら?」
「そうだな、上層部で内緒にしておきたい事だろうから大々的には表彰されないだろうが、金はもらえるだろうな。」
「でもご主人様、この王女様はこれからどうなってしまうんでしょうか?結構強かったし、殺してしまうのはもったいないです。」
「う~ん、まぁあの駄王のことだ、殺したりはしないだろう。そのうちまた模擬戦とかで戦えるかも知れんぞ。」
カレンがちょっと不安そうだったので宥めておく。
強い奴は殺さず、後でもう一回戦いたいのであろう、どっかの戦闘民族みたいに。
しかし確かに強かったからな、カレンとしては自分も手合わせしたかっただろう。
俺は面倒だから戦いたくなかったのにな…
護送馬車が来たので気絶した王女とヤリヤリ隊を任せる。
ヤリヤリ隊の皆さん、次はもっとまともな名前の部隊に入れると良いな…
「じゃあ俺達はこれで、屋敷も近いし、今日は帰っても良いよな。駄王にはしばらく安静にするように伝えておいてくれ。」
「ハッ!伝えておきます。勇者殿には後日連絡が行くと思います。それまでお待ちください!」
「さて、帰るか…というかもう朝だな…だが明日からは張り込みも無い、普通の生活に戻れるぞ!」
※※※
「眠いわ…温泉に入ろっと!ミラ、パンツはどこに置いておけば良い?」
「ダメよお姉ちゃん、今回は自分で洗って!」
「そうだぞセラ、あと、ばっちいからちゃんと流してから入れよ!」
「面倒ねぇ~」
「さて、俺達も風呂に入ろうか。その後は今回の作戦の反省会をしておこう。終わったらさっさと寝るぞ。」
全員で風呂に入る、入浴後の反省会の内容はもちろん『無駄に殺そうとするな』である。
寝巻きに着替えて俺の部屋に集合する・
「で、カレン、リリィ、そしてマーサ、何か弁明は?」
「ありません…」
「ごめんなさい…」
「私も一応、謝っておいてあげる!」
なんだ一応って、結局あいつは悪い奴でもなんでもなかったんだぞ?
国家事業だと思って真面目にやっていたんだ。まぁ、あんな内容のもの受ける時点で相当アレなんだろうが…
「マーサは反省が無いようだな、どうしてくれようか?」
「あら怒ったようねぇ、どうする?お仕置きする?」
「セラ師範、お願いします!」
おっぱい背負い投げが炸裂した。この技の存在を忘れていたようだ、哀れなウサギめ。
ちなみにこの技は一子相伝らしいので教えて貰えない。
「じゃあとりあえず3人はしばらく正座っ!あとそれを黙ってみていた誰かさんもだ!」
4人が正座する、反省会は続行だ。
「他に何かある者は挙手!」
ミラの手が挙がる、指すと発言し出す。
「大変申し上げにくいのですが、どうも作戦中にトイレに行きたくなり、挙句おもらししてしまうメンバーが居るようです。如何致しましょう?」
ミラはご立腹であった。ここのところ毎回のようにセラのおもらしパンツを洗わされ、遂に自分で洗うよう指示したところ、面倒、なる答えが返ってきたのである。
これは許せないであろう。
「なるほど、そういうメンバーが居るとは初耳です。該当者は挙手をお願いします。」
顔真っ赤のセラが手を挙げる。
ざまぁみろ!勝った、完勝だ、大勝利だ!
「おやおやセラさん、まさかあなたでしたか、全く驚きですよ!」
「お姉ちゃん、今日という今日は許さないわよ!覚悟しなさい!」
「もっ…申し訳ございませんでした~っ!」
今日は実に気分が良い、寝よう。
※※※
戦いから3日後、王宮から使いが来た。ちょっと来いとのことだ。
疲れたんだからそっちから来やがれって話だが、仕方ないのでセラと迎えの馬車に乗り、王宮へと向かう。
「おいセラ、なんでそんな変な座り方してるんだ?」
「ミラが凄く怒っているのよ!あれから毎日お尻をぶたれているわ、1週間の刑らしいの。それで痛くてこんなになっているのよ!」
「大変だな、ちなみにその後は俺からも同じ事をさせてもらうぞ。」
「ふざけないでちょうだい!お尻が取れてしまうわっ!」
「なるほど、取れてしまうのか。ということはセラは以前のお仕置きでおっぱいが取れてしまったんだな、かわいそうに。」
殴ること無いだろう!
「そうだセラ、痛いのなら王宮に着くまで抱っこしてやろうか?」
「あら、気が利くわね!じゃあ遠慮なくそうさせていただくわ。」
当たり前のように乗っかってくるセラ、実に硬い、全体的に硬い、柔らかな部分が微塵も無い。
きっとゴーレムとかそっち系の魔物なのであろう、後で討伐しておこう。
※※※
王宮に着くと、王の間に通される。駄王は少し元気になったようだ。ちゃんと王座に座っている。
「おぉ、ゆうしゃよ、この度は身内のゴタゴタに巻き込んですまない。今日は報告と、それから報酬がある。」
話を聞く、まずは今回の事件についての結果発表。
やはり読み通り、王女は駄王をアル中にして退位させ、王位を簒奪することを目的として動いていたようだ。食事に粉末酒を混ぜたり、元々飲んでいた酒にさらに混ぜたりとしていたらしい。気付けよ!
そして、やりすぎて駄王が死にかけてしまったため作戦を中断。
大量に保有していたブツを処分するため、王都民を使って井戸に捨てさせていたそうな。
それが酒井戸事件となったのである。
実際に井戸に粉末酒を撒いていたのは全部で15人居り、全員身元が判明しているとのこと。
ただし、王家の紋章と王女の署名が入った依頼書で請けた仕事である。全員特に悪いことをしていたという認識は無かったようである。
一応、国の方から口止め料を払ってあるとのことだ。
ヤリヤリ隊に関しては、王女の命令を受けていただけであること、それから部隊名が余りにもかわいそうであることを考慮しても、異世界勇者に武器を向けたのである。
全員減給10%3ヶ月間という、笑えない処分となってしまった。
「さて、第一王女マリエルのことなんじゃが…」
駄王は第一王女の話になると、少し、いやかなりテンションが下がった。
当たり前だ。今回の事件の元凶にして自分の長女である。かなり気まずいであろう。
「そなた…要らぬか?」
くれるのか?第一王女、俺にくれるのか?
「どういうことだ?可愛いし、エッチなことしても良いなら俺はがっ!」
セラに殴られた。今日はコイツも居るんだった、発言に気をつけなくては…
「うむ、やったことがやったことじゃし、さすがにこのまま王宮に置いておくことは出来ぬ。じゃがどこへなりとも行ってしまえと言えば、また力を付けて何かしでかすやもしれぬ。」
「そこで罰としてそなたのパーティーに入れ、根性を鍛え直させる、という案が出ておるのじゃ。どうじゃ?戦えるのじゃし損はせぬと思うが。期間は魔王を倒すまでの間で良いぞ。」
魔王倒すまでって全てじゃないか?
あと、勇者パーティー加入を罰にするのはやめて欲しい。
「おいセラどうする?」
とりあえずセラに意見を求める。余計なことを言って殴られるのはごめんだからな。
「私は別に構わないわよ、強かったし。その代わりしばらくは地下牢にぶち込んで様子を見るべきだと思うわ。」
「…だそうだ。それで良いならこっちは構わない。」
「うむ、そうしよう。褒美とともに引き渡すゆえ、連れて行くが良い。じゃが、あまりいじめるでないぞ。あと好物は…」
「わかった、良いからさっさと金を寄越せ。」
報酬を貰い、ホクホクで王の間を出る。セラもそろそろミラを奴隷から解放するのに必要な金貨100枚が溜まりそうだと喜んでいた。
俺の方は大食いドラゴンのせいで出費も多く、しかも奴隷が2人なのでまだまだである。
帰りの馬車のところまで行くと、既に第一王女が待機させられていた。
いきなり舐められると困るので最初はオラオラな感じでいくことにした。
「おいこらテメェ何突っ立ってんだ?早く行くぞオラァ!」
「へへぇ~、畏れ入りました、異世界勇者様!どうぞご自由にお使いください!」
あれ…何これ?ホントにこの間の小生意気な王女か?影武者?というか地下牢にぶち込んでおく必要があるのか?
まぁいい、連れて帰ろう。
こうして8人目のパーティーメンバー、ヤリ使いの第一王女マリエルを手に入れた。




