208 ゴリラ・ゲリラ・ゴリラ
「あっ! あそこに1人居るわよ、私に任せて!」
「待て、やめるんだセラ、あれはゲリラじゃない、ゴリラだ!」
「あらっ、良く見たらゴリラね、次から気を付けなきゃ」
危うく無関係の善良なゴリラを殺害するところであった。
おそらく筋肉団員を仲間の群れだと勘違いして近寄って来たのであろう。
というかゴンザレスと親しげに話している、知人、いや知ゴリラなのか……
「すまんなゴンザレス、知り合いのゴリラを誤射するところだったよ」
「はっはっは、こちらの方は魔法で撃たれたぐらいでどうにかなってしまうゴリラではないさ、ウチの団員の母親だからな」
「いやいや、団員にゴリラ居るのかよ……」
「ん? 純粋なゴリラではないがな、ハーフなんだ」
「人間とゴリラのハーフって、どうなってんだこの世界は!?」
「違うぞ、その男はゴリラとチンパンジーのハーフなんだ」
「人間の要素ゼロじゃねぇか!」
ゴリラお話はもう良いにしよう、でないと混乱の状態異常になってしまう。
ゴリラ、じゃなかったゲリラ狩りに戻るんだ……
俺が索敵を使うまでもなく、カレンとマーサが音と臭いで茂みに隠れているゲリラを発見し、それをセラとユリナが魔法で殺していく。
一方の筋肉団はゴリラ達の協力を得てゲリラの場所を教えて貰い、引き摺り出して捻りつぶしているようだ。
静かな森には俺達の足音と、それからゲリラ兵の断末魔が時折響き渡るのみである。
「勇者様、あそこに隠れている1人、生け捕りに出来そうですよ」
「わかった、じゃあ捕まえて耳と鼻を削いで目玉をくり抜いてリリースしよう、脅しになるだろうからな」
すぐにミラが茂みに飛び込む、あっという間に1人のゲリラ兵を制圧し精霊様の前に引き立てた。
「おのれっ! どうするつもりだっ!」
「イヒヒ、こうするのよ」
「あぎゃぁぁぁっ! あぁぁぁ……」
「はいおつかれさま、あなたは帰って良いわよ」
「……うぅぅっ」
ヨロヨロと逃げて行くゲリラ兵、次は皮を剥ごうかなどと言いながら笑う精霊様。
いや、見せしめは1人で十分だ、既にこの場から去ろうと動いているゲリラ兵が多い。
まぁ、仲間があんな目に遭ったらそうなるのも自然だ、むしろこれで逃げ出さない奴はどうかしているとしか思えないのだが?
と、索敵に何か巨大な反応が引っ掛かる。
何だろう? ゲリラのボスが登場したのか?
「リリィ、向こうの方に何か居るか?」
「えっ? う~ん……あっ、銀色のゴリラが居ますよ、大きくて強そうです」
「銀色のゴリラ? ちょっとゴンザレスに聞いてみるよ、どうも敵みたいなんだが……」
少し離れた所でゲリラ狩りをしていたゴンザレスの下へ行き、シルバーゴリラについて聞いてみる。
するとゴンザレス、顔色が変わった、友達のゴリラと何か話しているようだ。
「何だ、どうしたんだ?」
「おう勇者殿、それはおそらくメカゴリラだ、きっとゲリラが放ったのだろう、かなりの強敵だぞ」
意味がわからないが強いらしい、どういう経緯でメカになってしまったのだそのゴリラは?
メカゴリラは徐々に近付いて来ている、しばらく戦闘態勢のまま待機すると、ゴリラの群れが雄叫びを上げ、ドラミングし出した、この連中にとっても敵らしい。
「見えたぞ、やはりメカゴリラだ」
「何だアレ、完全にメカじゃないんだな……」
巨大なゴリラの首は3つ、そのうち真ん中の首だけがメカである。
ボディーの部分もメカだったりそうでなかったり、とにかく理解不能な出来栄えだ。
『ウホ、テキハッケン、テキハッケン、コウゲキカイシ、ウホウホ』
「来るぞ! うわっ、速いじゃないか!?」
こちらに走り込み、飛び上がって組んだ両手を叩き付けてくるメカゴリラ。
地面が揺れ、そこにあった木の根は粉々に砕け散った。
デカい、速い、そしてパワーも凄まじい、とんでもない奴だ……
「勇者殿、メカになった真ん中の首を狙うんだ、そこさえ潰せばあとはただのゴリラなのだよ」
「ただのゴリラにしてもそこそこ強いと思うんだがな」
とりあえず奴の動きを止める必要があるわけだ。
だが、俺達のような通常サイズの人間にはちょっと手が余る。
メカゴリラは俺達と比べて3倍、ゴンザレスよりもふた周りほど体がデカい。
となると対応することが出来るのは……リリィぐらいしか居ないか……
「リリィ、ドラゴン形態に変身して戦って良いぞ、ただし森の中だからな、ぜ~ったいに火を吹くなよ」
『は~いっ!』
既にドラゴンの姿になっていたリリィ、いつの間に……
しかしこれならあの巨大なメカゴリラよりもさらに倍以上の質量だ。
組み合えばあっという間に捻り潰せ……潰せないのか?
上から振り下ろされたリリィの腕を平気で受け止めるゴリラ、足蹴にする攻撃も両手を使ってガッシリと止め、そのまま押し返そうとする。
凄いパワーだ、ドラゴン形態になったリリィと互角など通常では考えられない。
しかも何だアレ、真ん中のメカ首が口を開いて何か準備している。
その何かが危険だと察したのか、とっさに距離を取るリリィ、顎が外れんばかりに開いたメカゴリラの口が光を放つ……昭和中期の特撮みたいな光線を吐きやがった。
「何だあの攻撃は、火魔法なのか?」
「見て勇者様、地面の石が溶けてるわよ!」
「当たったら痛そうだな、ちょっと気を付けようか」
「おう勇者殿、それどころではないと思うぞ、あれは全てを破壊する光線だ」
「ヤバいのか?」
「まともに喰らえば重傷を負うのだよ」
「ふ~ん、まぁ良いや、とにかく用心しよう」
正直言ってそんなにヤバそうには見えない、だって特撮の光線だし、明らかに絵に描いたようなギザギザの、オレンジ色の何かだしな……
「リリィ、気を取り直してもう1回組み合うんだ、その隙に後ろから攻撃しよう」
『は~い、でもそんなに長くは無理ですよ』
そう言いながらもメカゴリラに向かって走って行くリリィ、今度はお互いの腕同士を組み、力比べの様相だ。
今のところ若干だがリリィのパワーが勝っているらしい、メカゴリラの手首は直角を超え、自分の側に向かって鋭角に曲がり始めている。
そして次の瞬間、真ん中にゴンザレス、その両サイドをカレンとマーサが固め、3人同時に真ん中の首を目掛けた攻撃を放つ。
ガキンッと凄まじい金属音、ゴリラの頭部には……ダメージが入っていないようだ。
カレンは爪で攻撃したにも拘らず、その装甲には傷ひとつ入っていないのである。
「あててて、拳の皮がめくれちゃったわ、ちょっと治療して来る」
「大丈夫かマーサ、ゴンザレスもダメージを負ったんじゃないか?」
「おうっ、あまりの衝撃に肘までの骨が全て粉砕骨折してしまったよ、もう完治したがな」
「もう心配するのやめるわ……」
しかしこの3人の攻撃でビクともしないとは、しかも次第にリリィが押され始めている。
このゴリラ、疲れるとかそういう概念を持ち合わせていないようだ、エネルギーが無限ということか。
『ご主人様……もう限界です、ちょっと離れますよ!』
「ああ、すまん、少し下がって良いぞ」
さてどうしたものか、パワーで押さえ込むことも出来ない、超硬い装甲、そして先程からセラやユリナの放つ魔法は全く効果がない。
精霊様の全力水鉄砲を喰らってもどこ吹く風だ、このゴリラ、強すぎる……
だがちょっと待てよ、アレはどういう原理で動いているんだ? それがわかれば何らかの対策を取れるかも知れない。
「ゴンザレス、あのゴリラについて詳しく知っている者は居ないか?」
「詳しく、と言ってもな、待ってくれ、少し森の賢者に聞いてみよう」
「森の賢者? オランウータンか何かか?」
「そうだ、今居るのは……見つけた!」
走り去っていくゴンザレス、そのまま待機しておこう。
メカゴリラの対応は素早い連中に任せておけば良い、ダメージは通らないが翻弄することぐらいは出来るはずだ。
しばらくすると戻って来るゴンザレス、何かメモ帳のようなものを持っている……
「わかったぞ勇者殿、あのゴリラは雷魔法の一種を使って動いているらしい」
「何でオランウータンがそんなこと知ってんだよ……」
だがそれがわかればもうこちらのターンだ。
木の上から風魔法を放っていたセラを呼び出し、作戦を伝える。
「良いかセラ、次に精霊様が水の弾丸を放った後に落雷を喰らわせてやるんだ」
「でもあの頭には魔法が効かないわよ、今もせいぜい注意を逸らすぐらいしか出来ていないわ」
「雷なら効くかも知れないんだよ、ビタビタに濡れていると尚のこと効果的なはずだ」
「う~ん、とりあえずやってみるわ、どうせ暇だし」
ということで作戦実行である、背中を剣で斬り付けたミラを追い掛けようとするゴリラの後頭部に、精霊様が渾身の水鉄砲を放った。
ドンッという音と共に少しだけ動くゴリラの頭、水の弾丸は弾け飛び、ゴリラは水浸しだ。
「今だセラ! 全員離れろっ!」
カッと閃光が走り、轟音が辺りにこだまする……雷はゴリラを直撃したようだ、そして動きがおかしい。
作戦は成功に違いない。
『ウホ、メインキバンソンショウ、ゲンイン、カデンアツ、コウドウ……フ……ノウ……ウホウホ』
「おう勇者殿、何が起こったんだ?」
「あのゴリラを動かしている雷魔法より遥かに強い雷を通したんだ、ああいうのはそうなるとすぐに壊れる」
「ふむ、良くわからんが勝ったという認識で良いのだな?」
「まだだ、自己修復するかもだからな、念のため真ん中の首を取り外すんだ」
完全に静止したゴリラ、兜のようになった首と胴体の繋ぎ目にジェシカが剣を食い込ませる。
そのまま梃子でバキッと首を取り外したところ、硬直していたゴリラの体がガックリと力を失った。
ちなみに残り2本の首、普通のゴリラの首はもう黒コゲも良いところである、あれならもう脅威にはならないであろう。
「主殿、このゴリラの首はどうしようか?」
「王都に持って帰って研究所で調べて貰うんだ、どう考えてもこの世界の技術じゃないからな、あと暗黒博士も問い詰めてみようぜ」
「うむ、では馬車に乗せて……装甲の内側に何かのマークが描かれているのだが」
どれどれ、ということでそのマークを確認する。
良く見えないが、マークというよりも紋章のようだ、どこかで見たことがあるようなないような……
「あら、これはハンナの軍が使っていた紋章よ、そうよねユリナ?」
「間違いないですの、帰ったらハンナにも聞いてみないといけないのですわ」
治療を終えて戻ったマーサがそう言い、後から覗き込んだユリナもそれを肯定する。
後ろでサリナも頷いていることだし、これが以前ハンナが指揮していた軍に関係のある何かであることは確かなはずだ。
そういえばハンナと戦ったときに機械兵団がどうのこうのと言っていたな、それは自爆させたはずだが、このゴリラもその類の奴なのであろうか?
だがこんなものどうやって作った? いくら魔王が異世界の知識を持ち込みまくっているとはいえ、元女子高生にこんな高度なマシンを作る技術は無いはずだ。
何でもアリの異世界とはいえこれは納得がいかない、裏にとんでもない陰謀が渦巻いて……そんなことはないか……
「さて勇者様、メカゴリラの討伐も終わったことだし、ゲリラ狩りに戻りましょう」
「だな、これ以上このゴリラが出てこないと良いんだが……」
「おう勇者殿、メカゴリラが出現したということはメカゲリラも出て来るかも知れないぞ」
「そっちもメカなのかよ!?」
「とはいえメカゲリラはたいして強くないがな」
「じゃあ放っておこうぜ、ゲリラ共も大半は今の戦闘中に逃げ出したみたいだしな」
森に隠れていたゲリラのうち、精霊様による残酷な処刑を見ても逃げなかったゲリラ、奴等はこのメカゴリラの準備に当たっていたのであろう。
しばらく捜索すると、巨大な箱とその横に転がる5人のゲリラの死体が発見された。
箱には黒と黄色のテープが巻かれ、外れて落ちた蓋には『最終決戦兵器在中』と書かれている。
これにメカゴリラを入れて運搬していたのであろう。
そして起動と同時にスイッチを入れたゲリラ兵を殺害し、そのまま俺達のところに向かって来た、と考えるのが妥当だ。
敵味方識別装置の類は搭載されていなかったのか?
「しかしあれだな、このメカゴリラは虎の子の1台だったんだろうな」
「そうね、昨日の戦闘でこれを使われていたらかなり被害が出ていたと思うわ」
「あのぉ~、勇者様、ちょっと良いですか?」
「どうしたミラ、冷や汗なんかかいて?」
「この箱、横に『157号機』って書いてあるんですが……」
「……ウソだろ」
いや、確かに書いてある、横の文字は擦れて読み辛いが、どうやら『旧型メカゴリラ157号機』が本来書かれていた名称である。
つまり、最低でもこのゴリラがあと156体は居るということだ、しかもこれが旧型なら新型もあるに違いない。
考えてみよう、今の強さで、しかも大軍勢で襲い掛かって来たら……まず間違いなく敗北する。
「で……でも弱点はわかったんですし、どうにかなるような……ならないような……」
「現状このゴリラを倒すレベルの雷魔法を使えるのはセラだけだ、ちょっと厳しいぞ」
「まとめて相手するとしたら3体が限界よ、それぞれ一撃で倒せると考えてね」
これは相当にヤバい敵を相手にしてしまったようだ。
どうにかしてこれを乗り切る方法を考えないとだな。
その後は色々と話をしながらゲリラ狩りを続けた。
結局ほとんど見つかることなく狩りを終了し、協力してくれたゴリラの群れに別れを告げて本体に戻る。
メカゴリラのことを総務大臣に報告しておかなくては……
※※※
「……ではおぬしらでもようやく倒せる程の強敵が大量に居るかも知れんということじゃな?」
「かも知れんじゃない、普通に居るんだ、もう間違いない」
「弱ったの、思いの外犠牲を出さずに終えられる戦じゃと感じ始めていたところじゃったのに」
ゲリラが居なくなり、再び移動を始めた王国軍。
俺だけは馬車を離れ、国の主要人物が乗った豪華な乗り物に同乗し、ことの顛末を話していた。
もしかしたら今回の遠征はここで中止になるかも、などと考えていたが、どうやらここで退くわけにはいかないという結論に達してしまったようだ。
マジでかなりヤバいと思うぞ、今回に限っては……
「じゃが勇者よ、今1体倒したのであればこの先もどうにかならぬのか?」
「俺達が倒したのは『旧型』らしいぞ、新型はもっと強いんだろうよ」
「う~む、恐ろしいことじゃの、王よ、この件に関してはどうお考えか?」
「……どうって、それよりもウ○コしたいのじゃが」
「本当に使い物にならぬ王じゃの、ん?」
駄王が一切使えない発言をしたところで、乗り物の窓がノックされる。
伝令兵のようだ、偵察部隊からの報告を上げに来たらしい。
「申し上げます、敵総本山、厳戒態勢に入ったとのことであります」
「厳戒態勢とは、具体的にどのような感じじゃ?」
「ハッ! 何やらゴーレムのような兵を城壁を囲むように並べ、その内側に防御魔法を張ったとのことです」
ゴーレムというのは間違いなくメカゴリラかその類の何かだ。
向こうから攻め込んで来ることはしないようだが、それでも俺達の到達と同時に何か仕掛けてくるであろう。
そして旧型の方はこの先の道中でまたゲリラ的な何かによって解き放たれないとも限らない。
正直言ってかなり危険だ、俺達から遠い箇所を狙われたら被害甚大だぞ。
「城壁を囲むようにか……裏から回っても敵が居るってことになるよな」
「そうじゃの、じゃがこの地図を見よ、我らが目指しているのはここじゃ」
「総本山の裏山って感じだな」
「でじゃ、その横、こちらにも山、というか切り立った崖があるのじゃよ」
「そっちに陣を張ることにする、ということだな?」
「左様、ここであればその何とかゴリラも登っては来れまい、こちらから一方的に攻撃出来るのじゃ」
ババァの作戦はこうだ、まず崖の上から弓や魔法で攻撃を仕掛け、その下にメカメカした連中を殺到させる。
ある程度集まったところでセラが雷魔法を放ち、まとめて撃破してしまおうということだ。
果たしてそう上手くいくものなのか? だが現状取り得る作戦はこれしかない。
問題は敵が当たり前のように崖を登って来たときだが……その場合は王国軍が壊滅しかねない。
また、メカ何とか以外にも普通の兵が居るのは確実だ、それが俺達の攻撃にどう対応してくるか、それを見極めない限りは危なっかしくてやっていられない。
「とにかくじゃ、あらかじめ退路を確保しておき、ダメそうならすぐに撤退出来る体勢を整えておくのじゃよ」
「攻撃に参加しない兵はあまり前に出さない方が良いかもな」
「うむ、むしろ攻撃部隊はかなり絞って少数精鋭でいくこととしよう」
俺達勇者パーティーはその攻撃部隊に参加することが確定である。
それ以外は弓と魔法が使える兵、特に水魔法の使い手は重要になるはずだ。
その日の夕方、野営地に停めた馬車に戻った俺は皆に作戦を話す。
全員それで良いと言っているものの、自信はあまりないようだ。
もちろん俺も自身がない、今回は勝つ可能性よりも負けて逃げ出す可能性の方が高いはず、その際の被害を最小限に抑えることを優先して考えるべきかもな。
「勇者様、もし敵の殲滅に失敗したら、私達はどうやって逃げるわけ?」
「めっちゃ走るしかない、最悪リリィか精霊様に抱えて貰って飛んで逃げるんだ」
「相変わらず適当ね……でも大丈夫、何とか上手くやってみせるわ」
「頼んだぞ、あとこの先は寒くなるからな、蛮族の女戦士衣装は今日までにしておけ」
このまま何事もなく進んだとして、敵の本拠地、その裏の崖に辿り着くのは3日後になるらしい。
本当に作戦が上手くいくのか、この戦の結末はそれによって大きく変わってくるであろう……




