141 もはや見慣れた山小屋
「……それで、またしてもデフラの山小屋が敵のアジトになっていたということだ」
「国の方で差し押さえたりはしなかったのかしら?」
「憲兵が一度はやったみたいなのですが、結局めぼしい証拠品も出て来ずにそのまま……」
「まぁ、あのデフラの兄が実際に使っていたというわけじゃないからな、というか中はほぼデフラの私物ばかりだったろうよ」
一度憲兵が捜索を掛けた際に出て来た物は、全部憲兵団の倉庫で預かっているらしい。
大事なものもあるかも知れないし、いつか回収してデフラに返してやろう。
まぁ、今はそんなことよりも今は魔将補佐の討伐だ。
「山小屋ごと魔法で粉々にしちゃいましょ」
「やめてくれ、そのとき小屋に居るのかもわからないし、死体の確認も出来なくなる」
最低でも首だけは残しておかないとだ。
どこかに体だけ消滅する都合の良い魔法が無いものか……
「とにかく、何をするにしても一度偵察はしておいた方が良いわよね、私が行って来るわ、銀貨1枚で」
「じゃあ頼んだ、ほらよっ!」
「つべたいっ!」
銀貨を1枚、精霊様の服の中に入れてやった。
必死になって探しているが、もう下に落ちましたよ。
やっとのことで銀貨を探し当て、偵察に向かう精霊様を見送り、俺達は山小屋についての会議を続けた。
とはいえ、どうせ馬鹿ばっかりのメンバーである。
ろくな意見は出てこないのであった……
そうしているうちに精霊様が帰って来た。
「ただいま、面白いものが見られたわよ」
「何だ、おばさんの風呂でも覗いてきたのか?」
「じゃなくて、奴がワープする瞬間を見たのよ」
「マジか、シュンって消えるのかやっぱり」
「消え方はそんなところ、でも問題は2回ワープして2回とも同じところに戻って来たという点よ」
精霊様曰く、山小屋から出てきた魔将補佐のツボネはすぐ傍の一定箇所でしかワープ出来ない可能性が高いとのことだ。
そしてそうなると、山小屋以外の場所、もちろん王都のどこかにもそのようなスポットが存在しているかも知れない。
つまり、そのワープスポットがわかってしまえば簡単に捕らえたり殺したり出来るはず。
「早速王都側にある、何だ、そのワープスポットを探そうぜ」
「待ちなさい、スポットがあるのは王都と山小屋だけではないはずよ、感付かれて他の所へ逃げられたらお終いだわ」
「じゃあちょと慎重気味に探そうぜ」
などと言いながら結局皆でわらわらと町へ繰り出す。
ついでに夕飯の買出しも済ませておこう。
買い物ついでに商店街の人達に聞き込みをし、例の詐欺師がよく出没する場所を調べる。
各自地図に印をつけ、後で突き合せてみる作戦だ。
1時間程でそれぞれの買い物も終え、町の入り口に再集合した。
「どうだった皆、何か有力な情報は得られたか?」
「ダメね、目撃情報は沢山だけど、現れた地点まではちょっと」
意外と情報収集に苦戦しているようだ、かく言う俺もであるが。
そこで、カレンの耳がピクピク動き始める。
何かを見つけたときの感じだ、しきりに臭いを嗅いでいる……
「スンスン……ご主人様、この間消えちゃった敵が近くに居ます」
「お、確かあのときはまだ本物だったんだよな、てことは今回もそうか」
「ええ、あっちです」
カレンが指差した人混みの中にチラッと見える黒いフード。
間違いない、今度こそ奴だ。
「……居たぞ、後を付けよう」
買い物袋を持ったまま敵を追跡して行く。
日常と戦闘が隣り合わせすぎて萎える。
見つからないように慎重に追いかけるものの、敵は何を目的としているのか、商店街をうろうろと歩き回るのみである。
尾行されていないか確認しているのかも知れないな。
それがあるとき突然、、何の前触れもなく門を曲がる。
ついにワープスポットに……エッチな本屋に入っただけであった。
奴め、そういう書店に入る前に尾行の有無を確認するとは、なかなかの手練れだ。
「よしっ! すぐに俺達もあの書店へっぽっぺっぷっ!」
3回ぐらい殴られた、セラとマーサ、それからジェシカが拳を握り締めている。
そしてミラは居なくなってしまった。
どうやら例の書店に入ってしまったようだ……
「しょうがないわね、私と勇者様でミラを連れ戻しに行くわ、他のメンバーはここで待機ね」
「構わんがセラ、どうして手を繋いでいく必要があるんだ?」
「雰囲気を出すためよ」
セラと2人、エッチな本専門店に突入する。
ちなみにこの世界では15歳から入って良いそうだ。
「ミラが居たぞ、変態本コーナーで我を忘れているようだ」
「じゃあそっちは私が対処するわ、勇者様は敵の方を探して」
そう言われて全てのコーナーを探すものの、敵の姿は見当たらない。
ミラも回収されたようだし、そろそろ俺も出て行こうかな。
そしてちょっと気になるエッチな本があったのでそれを買って行こう。
ええ~っとレジカウンターは……
魔将補佐ツボネがレジ打っていやがる。
あれはもう普通にパートのおばさんだ、気が付くわけがない。
一旦エッチな本の購入を諦め、皆のところへと戻った。
「おい、敵を見つけたぞ、従業員として働いていたんだ」
「意味がわかりませんわ、アレは相当プライドが高かったはずですの、普通に雇われて働くなんて考えられませんのよ」
「そう言われてもな、居たのは確かなんだよ」
「もしかしてまた偽者ではないんですの?」
「そうだな、じゃあ今度はユリナが来てくれ、あと臭いでわかるカレンもだ」
カレン、ユリナの2人と手を繋いでいかがわしい本を扱う店に入る。
ビジュアルだけなら即現行犯逮捕だが、2人共規定の年齢はクリアしているのでセーフだ。
もちろん店内に居た人々は白い目でこちらを見ているが……
「カレン、サリナ、アイツをよく見るんだ、あれが魔将補佐のツボネかどうか判別してくれ」
店内のカウンターに居る魔族は、俺の能力ではツボネ本人となっており、もちろん敵意も感じられない。
だがカレンとサリナは苦笑いである。
「ご主人様、もう臭いが全然違いますよ」
「幻術も低俗です、一応前回捕らえた魔族よりは頑張っているようですが……」
前回の中級魔族は俺にもただの変装とわかるほどの幻術であった。
だが今回はその失敗を生かし、対象物を鑑定した程度ではわからないレベルに上げてきたのであろう。
それでも、幻術ガチ勢筆頭のサリナに掛かれば子どものお遊びと同じである。
「じゃああの魔族の術を解きますね」
「頼むぞ」
そのまま俺達の下を離れ、魔族のほうに近付いて行くサリナ。
何だコイツはという顔の偽ツボネに連続ビンタを喰らわせる。
自分の姿に掛かった術を解くのもあの方法でいけるのか……
『いてぇなっ! なんだこのガキ……え? あれ? どういうことだ?』
「よう、気持ち悪い姿になったな、さっきまでのもなかなかアレだったが」
『何だてめぇらは!? 何をしに来たんだ?』
「俺達は異世界勇者パーティー、お前を殺しに来たんだ、と、その前に魔将補佐の情報は吐いて貰うがな」
『なんだとぉ、貴様、ここが魔将補佐であらせられるツボネ様の経営する店と知っての狼藉か?』
「ほう、ここは魔王軍が関与している店なのか、じゃあ余計にアレだな、店ごと滅ぼさないと」
ツボネはこんな店をオープンして何をしたいのであろうか?
だが今はそんなのどうでも良いことだ、この魔族からツボネ、というかワープに関する情報を引き出したい。
「おいお前、死にたくなければ俺が今から聞くことにすべて答えろ」
『誰が答えるか、貴様ごとき……そういえば異世界勇者って言ったか?』
「そうだ、やろうと思えばお前など一撃だ」
『ギギッ! ここは退散だっ!』
そのとき、目の前の雑魚魔族が何らかの魔力を発したのが確認出来た。
拙い、ツボネに頼んでワープするつもりだ。
……しかし何も起こらない。
『どうしてだ!? ツボネ様、ツボネ様っ!』
「お前さ、顔とかキモいから捨てられたんじゃね?」
『ギギギッ! こうなったら来るときに使ったワープスポットへ』
「何それ? そんなのがあるのか?」
『本来はツボネ様専用だ、だがここに送られて来るときは特別に使わせて頂いた』
「あ、じゃあどうぞお使い下さい」
『おっ、悪いね見逃して貰っちゃって』
「いえいえ、どういたしまして」
馬鹿な魔族はツボネ専用だと言うワープスポットへと向かう。
当然俺達3人もそれに付いて行く。
エッチなコスプレ衣装の試着室の前で止まる魔族。
そこのカーテンを開けた……何の変哲もない試着室だ。
『ギギッ、ここで待っていればいずれツボネ様がワープさせてくれるはずだ、あばよっ!』
「案内してくれてありがとう、カレン、地獄にワープさせてやれ」
『へっ? あげろばぺっ!』
頭の悪い魔族は細切れになってしまった。
まぁ、どうせ戻ってもワープスポットをバラした以上殺されるはずだ。
ここで瞬殺してやったのは大変慈悲深い措置と言えよう。
というかこの魔族、おそらくツボネに騙されていたんだろうな。
行きはワープスポットを通したが、帰りまでは想定していなかったはずだ。
そのまま使い捨てにし、俺達が仕掛けてくるか待つつもりだったのであろう。
で、、ここからどうしようか?
待っていたらツボネ自身が来るかも知れないが、そのまますぐに逃げられてしまいそうだ。
「ご主人様この魔族の残骸はちょっと隠しておきましょう、その気になればすぐに見つかるところへ」
「サリナ、それでどうするつもりなんだ?」
「ちょっと作戦があります……」
サリナの作戦はこうだ。
まずここに魔族の死体を放置し、店は閉めておく。
売上が入ってこないことを気にしたツボネは当然様子を見に来るであろう。
そこで部下の惨殺死体を発見するのである。
当然急いで本拠地である山小屋に戻ろうとするはずだ。
「で、俺達は山小屋の方で張り込んで、ツボネがこちらへワープした隙に……」
「向こうのワープスポットを檻で囲んでしまえば良いということです」
試してみる価値はありそうだ、早速外に居る仲間と合流し、今の話を共有する。
マリエルは王宮へ連絡し、筋肉団に魔力を奪う檻を運んで貰えるよう手配。
俺とカレン、マーサの3人でグチャグチャになった魔族の死体をカウンターの後ろに隠す。
他のメンバーはこれだけ騒いでも居座る一般客を追い出したり、殺害現場の清掃をして痕跡を消したりした。
ようやく全ての準備が整い、王都路地裏のエッチな書店は完全に閉ざされた。
「じゃあ筋肉団の到着を待ってすぐ山小屋へ移動だ!」
一旦屋敷へと帰り、筋肉団と魔力を奪う檻の到着を待つ……
※※※
「おう勇者殿、また王宮から檻を借りて来たぞ!」
「ありがとうゴンザレス、だがな、そんなデカいのをどうやって持って来たんだ?」
「ああ、ちょっと重かったな、小指だけでは力が足りず、薬指も使って持ち上げたんだ」
「・・・・・・・・・・」
檻はおそらく700kgぐらいだ、もしこの男が俺の世界に来ても、フォークリフトは要らないであろう。
「とにかく出発だ、精霊様は先行して様子を見てくれ」
急いで行かなくてはならない。
もし俺達が山小屋に着くより先に雑魚魔族の殺害が発覚してしまった場合、この計画は完全に破綻するのだ。
馬車で行くことが出来る限界地点まで行き、そこからは歩いて山小屋を目指す。
もう方向音痴の俺にも道がわかるぐらいには慣れた場所だ。
「精霊様が戻って来たわよ」
「本当だ……両腕で丸を作っているということは、小屋にはまだツボネが居るってことだな」
しばらく歩くとようやく目的の山小屋に到着した。
時間は夕方、よく見ると中に明かりが灯っているのがわかる。
「よっしゃ、この岩陰に隠れようぜ、もしかしたら今日はここで野宿になるかも知れんがな」
「ご主人様、お風呂に入りたいです」
「我慢しろルビア、ツボネを倒したらゆっくり浸かれば良い」
「はぁ~い」
風呂に入っている時間も無かったわけだが、それは耐えるしかない。
もしこのまま動きがなかった場合に備え、夜の見張り当番も決めておいた。
30分……1時間……まだ動く気配はない。
しかし空が真っ暗になった頃、ようやく小屋の中で人影が移動するのが見える。
ドアが開く……ツボネで間違いない。
どうやら外に出て来るようだ。
「何かキョロキョロしているな、誰か探しているみたいだ」
「もしかすると今日の売上を待っているのかも知れませんね、毎日誰かが持って来るとか」
「かもな、金の亡者っぽい顔してるし」
「ということはミラも歳を取ったらああいう顔になるのよね」
「イヤだわお姉ちゃん、あんなブサイクになるぐらいなら財布を捨てるわよ」
「シッ! 静かにしろ、出て来るみたいだ」
山小屋から出てきたツボネは、庭の中央付近に向かう……そのままパァーッと光を放ち、姿を消した。
「よしっ! ワープしたようだ、すぐにあの場所に檻を置くんだっ!」
マーサとゴンザレスがダッシュで檻を運び、床板を剥ぎ取って捨てる。
そしてワープスポットにそれを置く、というか格子の下部分を地面に突き刺す。
「おう勇者殿、ここに入ってしまえばもうワープなんぞ出来はしないぞ」
「ああ、しばらくここで待機だな」
10分程待ったところで、再びその地点に光が現れる。
場所の設定は完璧だ、光は檻のど真ん中でその光度を増してゆく……
「どうして部下が殺されて……あら? 何かしら、力が、力……誰だねあんた達は?」
「誰って、ここに居るのはマーサ、それからユリナとサリナも居るぞ」
「ひぃぃっ! 異世界勇者に捕らわれたはずの魔将様っ! ということは……」
「俺様が異世界勇者様だ、お前は死ぬ」
檻の隙間から聖棒を突っ込み、ツボネの腹を突いてやった。
「ひょげぇぇっ! おえぇぇっ!」
「汚ねぇっ! 顔も汚いしゲロも汚い、中身も相当腐っているみたいだなコイツは」
ツボネはそのまま気を失い、自らが吐き散らしたゲロの海に倒れ込む。
触りたくないので処理は軍とかその辺りに任せたいところだ。
「おう勇者殿、俺が今から行って兵を呼んで来る、魔力を奪う鎖を持って来させよう」
「わかった、では俺達はコイツを監視しておくよ」
走り去るゴンザレスを見送り、檻が地面から抜けてしまわないかを入念にチェックしておいた。
しばらくするとツボネが目を覚ます。
「あ……が……」
「起きたかクソババァ、早速尋問を始めよう」
「……待って、質問に……答えたら……助けて」
「では俺達と敵対したことは不問としてやろう、それで良いな?」
黙って頷くツボネ、必死の形相である。
もちろん俺達と敵対しなくとも、詐欺罪で普通に死刑なんだがな。
「じゃあまずはあの書店についてだ、どうしてあんな所に店を構えていたんだ?」
「最初は魔王軍の融資を受けて、あそこで企業魔将軍の資金集めをしていたんよ……」
どうやら純粋に金が欲しかったようだ。
続けて詐欺についても聞いてみると、それも資金調達の手段として行っていたことが発覚した。
「で、何をするためにそんなに金が必要だったんだ?」
「イエスマン様が人族の傭兵を雇ってあの町を攻撃するとか言ってたんよ」
「それでセコい詐欺とかエッチな本屋とかか? ちょっと規模的に無理があるだろうよ」
「ご主人様、イエスマンの無能さを忘れてはいけませんわ、奴の持ち込むプロジェクトはいつも無理があるものばかりなんですのよ」
「経営に向いてないだろそいつは、よく今まで罷免されなかったな」
「大体はノーマンが異常な活躍をして目標を達成していましたの、でもそれが気に食わなかったようで……」
「ノーマンを冷遇して閑職に追いやったと、その魔将は突出した無能だな」
そこで兵士と複数の筋肉団員を連れたゴンザレスが戻って来た。
兵士は憲兵のようだ、直ちにツボネを逮捕している。
「上級魔族ツボネ、貴様を詐欺容疑で逮捕する、なお、貴様には一切の弁明を認めないし、無罪を主張する権利もない」
「ひぃぃぃっ! あたしはこれからどうなるんよ? 助けてくれるんじゃなかったのかねっ!」
「だから俺達と敵対した分は不問だ、マリエル、詐欺罪の法定刑は?」
「原則八つ裂きか火炙りですね、もちろん死刑以外は適用されません」
「ぎぃぇぇぇっ! 助けてくんなさい、助けてくふごっ……」
あまりにもやかましかったため、聖棒でゲロの引っ付いていない部分を軽く突いておいた。
またしても気絶するツボネ、憲兵の皆さんも移送が楽になったと喜んでおられた。
お勤めご苦労様です。
「勇者殿、ご協力感謝するよ、コイツは帰って拷問するから、その結果はまた王宮経由で伝えられるはずだ」
「うむ、詐欺の犯人を摘発出来て良かったな、これで騙される奴もいなくなるであろうよ」
ついでに、以前ここを家宅捜索した際に押収した証拠品についても返還をお願いしておいた。
家具や食器、それからエッチな本ばかりだったとのことなので、おそらく全てデフラの私物であろう。
返してやっても問題は無いはずだ。
「じゃあ俺達はこのまま屋敷へ帰るよ、おつかれっした!」
筋肉団と憲兵に挨拶し、屋敷へと戻る。
ようやく風呂に入り、遅くなってしまったが夕食も取ることが出来た。
「ねぇ勇者様、ちょっと良いかしら?」
「どうしましたシルビアさん?」
「魔族がやっていたお店ってそのまま残っているのよね? 今回の報酬で経営権を貰ったらどうかしら」
「というのはつまり、シルビアさんはその店が欲しいと」
「だって、騙されそうになったのよ、変な不動産投資詐欺に、ちょっとぐらい得してもいいじゃないの」
「・・・・・・・・・・」
これはどう説得しても折れないであろう。
仕方が無いのでマリエルに頼み、勇者パーティーに店の所有権を移転して貰った。
経営は全部シルビアさんがやるとのことだが、利益が出ればオーナーである俺達の方にも還元してくれるそうだ。
それなら特に損をするということはないであろう。
だが、これで俺達は名目上とはいえエッチな本専門店を経営する異世界勇者パーティーとなってしまったのである。
ちょっと立場的にどうかとは思いますがね……




