1236 このさらに下に
「よっしゃ、それじゃあ今日も張り切っていくぞ……と、その前に朝食が運ばれて来るんだったな、またどうせ俺の分はナシなんだろうけどよ」
「仕方ありませんね、ちゃんとパンをおかわりしておきますので、その分だけでも食べてちょっと元気になって下さい」
「ビタミンが足んねぇんだよ、あとミネラルとか、まぁ文句を言うよりも早くここを壊滅させるべきなんだろうがな、で、天使が台車を持って来たぞ、相も変わらず豪華な食事だな……」
「最初も思ったのですが、これが豪華とか、一体どういった生活をしていたのですか元の世界では?」
「元の世界っていっても転移したからふたつあるんだけどな、最初の世界では主にカップ麺のとにかく安くて量が多いやつとか半額の弁当とかか? 今の世界ではまぁ、そもそも金がないからな普段は、誰かの持ちじゃない限りはとんでもねぇ内容の食事だぜ」
「勇者よ、そのようなことを言っていると私が管理する世界がまるで貧しいような感じに……まぁ、事実ではあると思いますが」
「おう、事実だからしょうがねぇよな、今の世界じゃ不作に凶作に戦争に、その前の世界じゃ搾取搾取搾取、この年齢までまともに生きてこられたのが不思議なぐらいだぜ」
「恐ろしい、暗鬱とした世界もあるのですね、神界以外の下界というのは……」
「まぁな、そのぐらいの仕打ち、神界以外じゃ当たり前のことだと思うぜ」
などと適当なことを言いつつ、俺がこれまでどの程度苦労して来たのか、どの程度まで頑張ってきたのかということにつきかなり盛った話をし、神々にその凄さを誤解させておく。
まぁ、聞いている限りでは他の異世界転移に関してこのようなことはなく、転移または転生した途端に最強で、人々から敬愛されつつやりたい放題をやっていくというのが通常らしい、
だがそういったことに関与していない、神界だけを見ている神々にはそのことがわかるはずもなく、そのまま俺の話を鵜呑みにしてくれるので大変助かってしまうところ。
というか、そもそも俺がここまで苦労しているのは、転移する前とした後のどちらの世界も管理している女神が、ハゲのおっさんクリーチャーから助け出され、やれやれといった顔で朝食を貪り食っているアホのせいなのだが……そのことに関して認識してくれることは確実にないであろうな。
むしろ自分は良くやっている、魔界などというものが発生してしまっている世界を受け継いで、召喚した勇者に強大な力を持った魔王軍を討伐させ、そして今、神界に巣食う邪悪なる神々にまで手を伸ばしているのだから、非常に頑張っているものだと感じているに違いない。
そして今でこそ仁平一派に所属している単なる雑魚神であるが、この件が片付き、本格的に『神界のやべぇ奴等』がその利権と共に排除された後には、かなりの確率で調子付いてわけのわからないことをし始めるタイプの馬鹿だ。
それをさせないために、この神界や俺達の世界に更なる混乱を招かないために、やはりここは大勇者様であるこの俺様が女神を、さらにはその他諸々、有象無象の馬鹿共を制御しなくてはならないことであろうな……などと勝手に思っているのであるが、その有象無象の中に自分が含まれないということを、確信を持って主張することなど出来ないのもまた事実である……
だがそんなことはもう気にしなくても良い、少なくとも俺がこの場で信頼を得て、凄い勇者様だと思って貰えれば、その後どうなろうと一向に構わないのだ。
肝心なのは今この場で、俺が俺としてこの神々の上に立つ、ドMで雌豚である神々と、それから天使を支配する立場になるということなのだから……
「……でだ、朝食を終えたら今日も『お散歩』をしつつ、ロボテック女神にさせる『作業』の現場へ向かうこととしよう、そこまでは皆良いな?」
「はい、一応お手伝い……のようなことをすれば良いのですよね? もちろん役に立たないことが確定していますが」
「うむ、だがあまりにもわざとらしい失敗をするのもアレだからな、真面目にやっている感を出しつつ、馬鹿でアホだから上手くいかない感じを……少し難しいかも知れないが」
「どうにかやってみたいと思います、そして失敗する度に何かこう、罰を与えて頂ければ満足です」
「それは任せておけ、神だろうが天使だろうが、鞭でビシバシとだな……おい女神、お前だよ、お前もだからな」
「勇者よ、私は別にそのようなことをして頂かなくとも……」
「はぁ? 調子乗んなよこのクズめが、お前のせいでこっちは大変なんだよ、ロボテック女神だけならともかく、お前までいきなり拉致られてな、ホントに困ったものだったぜ」
「それはその……大変申し訳ないことだし、私の不注意だとは思いますが……あまりにも屈辱的なことを、本来は管理すべき自分の世界の勇者からされてしまうというのはあの、その……神としての威厳がですね……」
「まだそんなもんがあると思っていたのか自分に……」
「……なかったんですか私それ?」
もはや溜め息も出ないほど女神には呆れてしまったのであるが、こんなかわいそうな知能の神に統治されている俺達の世界は実に残念で、地獄のようなものであると考えて良いであろう。
で、そんな調子に乗った馬鹿も、他の神や天使、ルビアと一緒に首輪で繋ぎ、まるで犬のように、しかし犬にするように優しくはせずに、鞭で追い立てる感じでその日の『お散歩』を、朝食後すぐから開始していく。
もちろん今日は、というかこれ以降は全ての日程、全ての時間においてこの連中を俺の好きにして良いということなのだが、それは基本的に『M』の力を大量に抽出しているという前提が伴う。
俺がハゲのおっさんクリーチャーのフリをして、それとして認められ、このような自由極まりない活動を許されたのも、天使がそうするのよりも遥かに多くの『M』の力を搔き集め、この施設の結界維持に『貢献』したためなのだから。
で、その『貢献』をすればするほどに、外で待機している俺の仲間達がここに突入する際の障壁が硬く分厚くなってしまうのは言うまでもない。
自分を有利にするために、間接的には自分の首を絞めているようなものであるのだが……まぁ、この時点ではまだそれも仕方ない、やむを得ないことだと考えておくべきであろう。
最終的にはその結界を発動させている何者かを排除したうえで、これからロボテック女神が弄り回すことになっている装置の方も破壊し、ここを完全フリーの状態にしてしまうのだ。
その際に『M』のちからがどれだけ残っているのか、どれだけどこかのドMから発せられているのかなど関係のないこと。
とにかくフリーになったこの場所を皆で襲撃して、捕まっている者は全て逃亡させ、そして捕まえている側のゴミ共は、この天使のようにドM堕ちさせて良いように使うか、そうでなければ処刑してしまうのが目標である。
まぁ、本当の本当の最後、このマゾ狩り収監施設の完全制圧後には、一度破壊した結界装置をロボテック女神の力によって修繕したりなどして、この場所自体を仁平一派の強固な砦として使ってしまうのもありか。
などと考えつつ、ドM達を時折鞭で打ち据えて喜ばせつつ移動した先では、厳重な警戒体制の元で、地下に続いている階段のようなものがあり、当然ながらその前で何らかのチェックのために止められてしまったのであった……
「おい止まれこのハゲ、相変わらず臭っせぇハゲだなこの野郎」
「マジだ、くっせぇぇぇっ! おいお前っ、どうして自分の臭いで臭くて死んだりしないんだよ? 鼻詰まりか?」
「ギャハハハッ! まさかこんな命さえ持たない人形風情が鼻詰まりなど、そもそも呼吸しているのかさえ怪しいというのに」
「・・・・・・・・・・」
「チッ、まともに会話出来ねぇってのも不気味なもんだな……で、今日もその女神様……どころか大量だな、ドM祭じゃねぇか」
「へっへっへ、俺にも分けてくれよなぁっ、神だと不敬になるから、そこの天使のドMで良いからよぉっ、なぁこのハゲ! 聞いてんのかオラァァァッ!」
「・・・・・・・・・・」
ヘラヘラと舐め腐った態度から、いきなり回し蹴りを喰らわせてくる下っ端で見張りの天使……どうしてこういうわけのわからない奴ばかりなののであろうかと疑問に思ってしまうではないか。
とにかく何らかのチェックをするならとっととして欲しいところだが、悪戯をされてしまう可能性がある天使が警戒し、神々とルビアがそれを守り、ついでに俺はハゲとしてこの天使共から殴る蹴るの暴行を受けている間に、どうやら自動でのチェックが完了してしまったようだ。
普通に地下へ続く階段が青、というか緑色に変化し、これは通っても良さそうであるということを雰囲気から見て取ることが可能なものである。
禿げである俺に暴行を加えていた天使共も、もう終わりかと舌打ちをして、どさくさ紛れに俺が連れている天使の尻を撫でて、事件解決後には確実に殺される立場となったことをより一層揺るがないものとしていく。
そんな愚行にばかり走る馬鹿共はさておき……いや、こんな連中を捨て置くわけにはいかないな、後で何らかの方法を用いて、事故を装って殺してしまった方が、明日以降もここに来る場合に備えることが出来ていると言えそうだ。
とまぁ、今はともかく階段を降りて、昨日までここに来させられていたロボテック女神と、それから昨日まではこのマゾ狩り団体の構成員であった天使のみが知っている、収監施設の結界の増幅装置? のようなものの前まで辿り着いた。
見上げるほどの大きさの、金属で出来たまるでメカのような装置は、ロボテック女神がその前に立っているのが良く似合うような、どこか機械文明を意識させるものであったのだが……
「はい、これが例の装置です、このさらに下で誰かが何かしていて、それによって発生した結界をこの装置で増幅して、より強固なものにしているんですね」
「にしても仰々しいな、凄いハイテクだとか、もちろん魔導だとかも使えそうなのに、どうしてこんな、その、この間のゴーレムぐらいのサイズの装置なんだよ?」
「それだけこの『M』の力というのは扱いにくいものだということです、実際にはこの装置、その施設内から搔き集められた『M』の力を受け取ることを中心に造られたもので、私が改良している結界の力の増幅に係る部分なんてこの、ほら、パカッと開く部分ぐらいのものです」
「給油口じゃねぇんだからさ、どうしてそれはそんなに小さくて……というのは今の説明にあった通りだな、このっ、ドM共の力ってのはそんなにアレなんだな、このっ、使えない雌豚めがっ!」
「ひゃんっ! 使えなくてごめんなさいっ! 使えるように調教して下さいっ!」
「使えるようにって、知らんよそんなもん、しかしどうしようもねぇMだなマジで……と、ロボテック女神、それでそこを改良するに当たっては……どうなったら失敗するんだ?」
「こんな程度の低い装置をどうこうするのに失敗ということはありませんし、もしやらかすのだとしたらサル以下の原始的な、しかも神ではなく人間の類がエラーを起こさないとなりませんね、この装置、ナノレベルのマシンがおよそ10兆個集まったような、その程度のものですから」
「まぁ、そんなにも単純で簡単な装置だったんですね、それでしたら、いくらどこの世界も統治していない神とはいえ私にも秒で創造出来てしまうもので……もし壊してしまったとしても、『とっとと創り直せ』と言われてお終いになるでしょうねきっと」
「そうなると思います、ですので破壊するならこちら、この施設全体から『M』の力を搔き集めている、こちらの超巨大でかつハイテクで、私でさえ完全に分解してしまえば元に戻せるかわからない、ロボと魔導と神の力と霊力と、その他諸々の力をふんだんに使用した装置になるかと」
「てかお前等さ、ナノレベルのマシンが10兆個って……ホントにそんなモノを創り出すこととか出来るのか?」
「当たり前……ではない世界もあるのですね、そのような世界で過ごしてしまったのであれば、これで驚くのも無理はないかも知れません」
「・・・・・・・・・・」
ここであまりにも格が違う、俺が、俺の世界が低俗であるということをアピールしてしまっても仕方がない。
ひとまずそのことはスルーさせて、破壊活動の方を開始していきたいところなのであるが、まずはロボテック女神の説明を聞くところから始めよう。
事故を装って装置を破壊するにしても、その装置がどこにどう繋がっていて、どのような仕組みで稼働しているのかを知っておく方が間違いなく良い。
その方が効率的に、『絶対に触ったらダメな部分』を狙い撃ちして破壊することが出来るわけだし、うっかりが過ぎて大爆発……などということにならなくて済むのだ。
ということでひとまずその周囲をグルっと、もちろん首輪で繋いで四つん這いで這い蹲らせながら1周、見学のようなかたちで全員に見せておく。
次いでロボテック女神のみを前に立たせ、その生徒的な感じで地べたに正座させたルビア、俺達の世界の女神、看破の女神、さらにはその天使を、キッチリ説明を聞くようにと命じたうえで発言等許可しておいた……
「え~っと、ではですね、まずこの装置なんですが……どうやらこの下、というよりも別の亜空間になっていてそのまま接続しているのだと思いますが、そこに貫通していることがわかっています」
「貫通して、その先に何があるのですか?」
「誰かが居ます、誰かと言ってもおそらく、このマゾ狩り団体の構成員ではないとは思うのですが」
「マゾ狩り団体の構成員ではない? あの、どうしてそれがわかるのでしょうか?」
「その謎の存在もまた、私達と同じ『M』の力を発しているのです……つまりこの結界の大元は、その何者かが自ら発した力なんですね、わかりますでしょうか?」
「つまり……その方を救出すれば、このマゾ狩り収監施設の解放という目的は一気に近付いてくるということですね?」
「ということです、しかし迂闊にその空間を目指しても、私達の動きがバレてしまうだけですし、そもそも見張りなどとして、太刀打ち出来ないような強神が待ち受けているに違いありません」
「……いや待てお前等、ということはアレか? このさらに下の亜空間で捕まっている何かを解放してやれば、それを逃がすまいとしている何者かを討伐してやれば、結界自体がもうボンッといくってことなのか?」
「えぇ、倒すことが出来れば、という話になってくるのですが、何か作戦があるのでしょうか?」
「うむ、まずは作戦通りここをメチャクチャにしてやる、しかもその際、明らかにわざとやってんだろこいつ等、ぐらいのノリまで増長してやるんだ」
「しかしそんなことをしたら作戦が……」
「バレても構わん、いや完全にバレてしまったらアウトだが、何かしていやがるこいつ等、ぐらいの疑いは持たせた方が良いだろうな」
「それで……どうするというのですか?」
「それでだ、おかしいと思ってこの空間に突入して来た神々を片っ端から潰して、最終的にはその、何だ? 下の亜空間を守っている『ドMな何者かの見張りのドSな何者か』も登場するはずだ、そいつもブチ殺して……というわけにはいかないかな?」
「あの、さすがに計画が短絡的すぎるというか、どんな敵にも確実に勝てるものだと、そのような考えで粋がっている雑魚がすぐ死ぬパターンというか……ひぃっ! ちょっ、勇者よっ、冗談ですっ、冗談ですからっ……ひぎぃぃぃっ!」
「ちょっと油断するとすぐにディスる奴が居るからなこの俺様を、しかしこの馬鹿が言ったように、さすがに敵をまとめて相手にするのはアレか……だとしたらどうする?」
「ひとまず今日は軽い破壊をしてみて、それに対してどういう反応を敵がしてくるのか、というところから見ていけば良いのではないかと……たとえばそこの配線を一度外して磨いた後、うっかり逆に繋いでしまうとかどうでよう?」
「まぁ、その程度ですね、私がやっておきますので、いざというときはこの私を突き出して皆さんは難を逃れて下さい」
「献身的なのかドM堕ちして振り切ってしまったのかわからんなこの天使は……」
ということで今回、というか今日の作業のうちに仕掛ける『失敗』はこれだけとしておいたのだが、それでも装置にとっては重要な部分であって、逆につないだだけでもかなり『M』の力を浪費してしまうものらしい。
現に、その配線のようなものを逆にしただけで、ルビアを適当に攻め立ててやっても、そこで生じた『M』の力が勝手にどこかへ霧散してしまうではないか。
だが看破の女神を引っ叩いたり、俺達の女神のおっぱいを弄り回した際には、キッチリシッカリ力が伝わっているようなので、どうやらごく一部がどうにかなってしまうにすぎないらしい。
とはいえ、ここ数日でかなり目立っているルビアから発せられた『M』の力が、ある瞬間を境に突然全くのゼロになってしまったとなれば、気になったマゾ狩り団体のゴミ共はすぐにその調査を始めることであろう。
俺の所にその捜査の手が及ぶ可能性がないわけではない、一発でここが原因だと発見することが出来るわけではないから、またしばらく完全なハゲのフリが必要になってはしまうのだが……
「ひとまずこれで完了のようですね、今日のメンテナンスとその他諸々の作業はここまでのようですし、少し早いですが牢屋のフロアに戻った方が良いかと」
「うむ、また引き摺り回してやるからちゃんと付いて来いよ、それから、一応またしばらくは話し掛けないように、俺はハゲのおっさんクリーチャーなんだからな」
『うぇ~いっ』
これで敵がどう反応して来るのか、それで今後の対応を変えていくこととしておこう。
少なくとも何らかのアクションというか調査というかが、すぐに開始されることであろうから……




