1185 不毛の極み
『はいっ、お集りの皆様っ! どうか、どうかお静かに願いますっ! 今すごくやかましいですっ! イベントの開始に当たってはどうかお静かに願いまーすっ!』
「やかましい連中だな、実況の声も聞こえていないみたいだし、誰かまた『お静かに』の札を持って巡回しておけよ」
「たぶん『ブチ殺しますわよ』の札しか用意してありませんの、というか、こんな格好の選手団が入場したら、このぐらい興奮してしまうのは普通かと思いますのよ」
「確かにな、こっちのチームはちゃんと布の服で隠しているけど、向こうはもう……丸見えに近いからな、特におっぱいとかポロリ寸前だぞ」
「ちょっとでもダメージを受けたらポロリしてしまうでしょうね、ですがそのポロリが敵の得点になるとか、そういうこともないとは限りません」
「一体どういう戦いをするつもりなんだよマジで……」
おそらくは敵の雌豚軍団のエッチさに興奮したのであろう外野がやかましい中、両者出揃って一旦前に進むようだ。
そこでルールの最終確認と、それから敗者、というか敗北した側のトップに対するペナルティーの再認識が行われ、いよいよ試合開始となる。
向こうの雌豚軍団からは、おそらく最弱なのであろう神界人間の女性が最初の1人として選出されているのだが……となると強大な力を持っているのは残りの雌豚、しかも天使でないキャラのどちらかだ。
一見するとどちらも普通の神界人間のように見えるのだが、やはりどちらかは改造なり何なりで、それとは到底思えないようなパワーを身に着けているのであろう。
おそらく次、ここで最初の選手が倒れた先で出て来なかった方が、その強大な力の持ち主であると考えて良い状況。
こちらはやはりセラを先鋒戦の選手として繰り出したようだが……まぁ、さすがにこのカードで敗北ということは考えられないな。
おそらくどんな戦いであっても一瞬で決着して、敵は次のキャラを繰り出すことになるはずだ……
『両者向き合って下さいっ! 先攻と後攻を決めますから……はいっ、じゃあえ~っと、簡便化するために白チームと黒チームにしましょう、白チームが先攻ですっ!』
「お姉ちゃんが先に攻めるみたいですけど、どういうことですかね? 明らかに後攻の動きをしているんですけど……」
「ターン制だからだろう? いや違うか、普通にセラが地面に寝転がっているのはおかしいか……ビーチフラッグ的な……でもねぇよな実際?」
「……あ、わかりました、この雌豚対決は『ドMさ』を競うものなので、きっとほら、『責められる方が攻め』みたいな扱いなんじゃないですか?」
「意味がわからんぞ、だがどうやらマジでそのようだな……」
先攻に決まったというのに、そのまま地面に寝転がって完全に『受け』の態勢に入ってしまったセラであったが、ミラと2人でその理由を推測していく。
この戦いはもはや、精霊様と敵の豚野郎使いが勝手に盛り上がってしまっている者であって、どうもこちらにその詳細な内容が伝わってこない。
というか、やっている両者も普通に話し合いをしたわけではなく、謎の意思疎通でどんな戦いをするのかということを自然に決めているのではなかろうか。
で、そんな状態のセラを前にして立ったままである敵の雌豚、黒い革系の衣装は面積が狭く、実にポロリしてしまいそうなものであるが、実のところセラと同程度に『貧しい』ためその心配はなさそうだ。
その代わり、この選手も含めて敵全員がそのブラックさに合わせるような黒髪で瞳の色も黒、俺達の世界ではなかなか見かけない容姿をしている。
だが、全てを比較した場合の可愛らしさではこちらの方が勝っているな、総合的に見てバリュエーションに乏しいし、エッチだからとあのような、食い込みまくった革製品のみを身に着けるような格好はあまり好みではない……
「……勇者様、さっきから何で敵の女の子ばっかりガン見しているんですか? ほら、もう始まるみたいですよ」
「おっとすまんすまん、ちょっと敵の吟味をしていて……っと、向こうのボスが動いたな……」
『さぁ~っ! やってしまいなさいこの雌豚がっ! あんな白豚! 一気に畳んでしまうのよっ!』
「ひゃぎぃぃぃっ! うっ、承りましたっ!」
「とても後攻に決まった奴等の台詞とは思えねぇな……」
「しかもやっぱり鞭で打つのは自分の所のキャラなんですね……」
立ったまま指示待ちをしていたらしい敵の雌豚に対し、豚野郎使いの女神が後ろから鞭を入れて動くようにと命じた。
ビシッと、かなり長いそれがほぼ丸出し、革製品が食い込みまくった敵雌豚……仮に1号としておこう、それの尻にバシッと赤い筋を残す。
それを受けてようやく動き出し、寝転がったまま動かないセラに近付いた1号……一瞬だけ何かを調べるように、その全身を隈なく見たように思える。
そして次の瞬間には寝技のように組み付き、一気に攻撃を仕掛け始めたのであった……
「それっ、こちょこちょこちょこちょっ!」
「ひゃっ、ひぃぃぃぃっ! きゃはははっ! ちょっ、いきなりそれはっ! ひぃぃぃっ!」
「あの雌豚! いきなりセラの弱点を突きやがったぞっ!」
「凄まじい観察眼でしたね、転がっているお姉ちゃんを見ただけで、『どんな目に遭わされたいのか』ということを瞬時に判断してしまったということです」
「ひゃひゃひゃはっ! 無理! もう無理だけどっ! ひぃぃぃっ!」
『さぁ白チームの選手! くすぐられて一気に大ピンチだぁぁぁっ! そしてこのやられ行動に対し、審査員の何かキモいおっさん達が得点の札を挙げて……なんとっ! 初回の攻撃で5雌豚ポイントを獲得したぁぁぁっ!』
「え? 審査員とか居たんですか?」
「雌豚ポイントって何だよ……」
いきなりくすぐりの刑に処されて悶絶し、どう考えても『負けている』としか思えない状態のセラであるが、そのやられっぷりに対し、謎のおっさんばかりで構成された審査員が『雌豚ポイント』を入れる。
どうやらこのゲームにおける『攻撃』とは、何かをやられてその反応の良し悪しでポイントの獲得を行うことであって、即ち責められて反応することこそがそれの最大要素ということだ。
もはや意味不明の極みであるが、敵の豚野郎使いも、精霊様も納得したうえでそのルールを適用しているらしいということは、攻撃側の監督としてポイントを獲得させた精霊様の表情からもわかる。
そしてここで敵の……ではなくこちらの攻撃が終了したため、黒雌豚はセラから離れてまた棒立ちになってしまった。
かなりくすぐられたセラはその場でピクピクしているのだが、実に満足気な表情であって、これを変態と言わず何と言うのかといった感じである……
『さぁ~っ、白チームの選手が復活するのを待って、いよいよ後攻、黒チームの攻撃ですっ! 白チームの選手、フラフラと立ち上がって、地面に寝転がった黒チームの選手を引き起こすっ! そしてビンタしたぁぁぁっ!』
「痛そうだなアレは、てかさ、ここで守りである責める側が手を抜いたらお終いなんじゃないのか?」
「欠陥ルールの極みですね、でもお姉ちゃんは馬鹿だからそんなことに気付いたりしません、キッと真面目に責めると思いますよ……ほら、往復ビンタの態勢に入りました……」
「きゃいぃぃぃんっ! はぁっ、もっとビンタして下さい、ひゃぁぁぁっ!」
『どんどん頬っぺたが真っ赤になる黒チームの選手! しかしそれでいて嬉しそうだぁぁぁっ! おっとここでもう得点の札が上がり始めるっ! 2点! 2点! そしてキモいハゲの審査員はドツボに嵌まったかっ、なんと5点の札を挙げて……合計9点! 一気に逆転しましたぁぁぁっ!』
「……負けそうじゃんかセラの奴、緒戦で敗北は相当に痛いぞ」
「もう強いとか弱いとか関係ない戦いですからね、どうなるのかなんてまるでわかりませんよ」
お互いのターン終了時で既に5対9という圧倒的? なスコアの差になってしまったではないか、このままだと普通に負ける。
だが敵の方も今のセラによるビンタラッシュで頬がパンパンに腫れていて、これ以上は本当にギブアップしそうな勢いでもあるようだ。
そして交代し、今度はセラが攻撃を受ける……のではなく攻撃する番が回ってきて……これは実にわかりにくい状況だな。
やられればやられるほどに得点が入り、しかしそのやられたことによるダメージが蓄積して、次のターンでやられた際の反応が、おそらく変態ばかりを集めたのであろう謎の審査員連中のツボに嵌まらないこととなる。
なかなか駆け引きが必要な、奥の深い戦いであるようだ、精霊様は最初のターンを小手調べとしたのに対し、敵はそこで一気に決めようとしてきたと……もちろんやっていることは意味不明であるが……
『第二ターン! 黒チームの選手は仕返しとばかりに白チームの選手を引き起こし、罵声を浴びせながらビンタを連打していくっ! だが弱い! そこまで力がないのかっ! 白チームの選手にはあまり効果がなくて……だがそれでも嬉しそうだぁぁぁっ!』
「ちょっと演技入ってんなセラの奴、ホントはもっとハードにして欲しいに違いない」
「それも含めての採点なんでしょうね、雌豚としてご主人様を喜ばせることが出来るかどうかに比重が置かれていそうです」
『さぁここで先程ビンタされた黒チームの選手に高得点を入れた変態審査員! なんとここでも5点の札を上げたぁぁぁっ! そして他の審査員も軒並み高得点! これで再逆転しましたぁぁぁっ! そして攻撃が終わって……黒チームは最初の雌豚を下げましたっ! これ以上は怪我の可能性がるという判断でしょうっ!』
何気に戦闘力の高さ、力を絞ったなりに上手く相手にダメージを与えたセラの勝利であった。
下げられた最初の黒雌豚は治療を受け、そのまま敗者としてステージ横に正座させられる。
一方、勝利したセラは何の治療も受けることなくそのまま戦闘を続行することになるのだが、特にダメージなどは受けていないため問題はないであろう。
次は敵の攻撃から、つまりセラが責めなくてはならない方から始まるのだが、果たしてどんな奴が出現するのであろうか……もちろん見た目は普通の神界人間の女性であるが、そのドMポイントがわからないのだ。
オンステージした段階で既にハァハァと息を切らし、顔を赤くしている敵の雌豚選手であるが……これは見られて喜んでいるということか。
通常あり得ないような格好で、町の神界人間や変態ばかりの審査員などにガン見されて、それを起因とする喜びを感じるタイプの変態だ。
どちらかというと雌豚よりも露出狂のような気がしなくもないのであるが、敵がこれを『エリート雌豚である』と判断しているのであれば仕方がない。
セラもどうするべきか迷っているようだが、普通に責めてやる以外に攻略の方法はないし、そうせざるを得ないであろう……
『さぁ~っ、白チーム、1人倒した選手が第二の選手に接近して……剥ぎ取ったぁぁぁっ! 上を辛うじて隠していた謎のレザー系衣装を剥ぎ取って! 完全にポロリさせてしまったではないかぁぁぁっ! 慌てておっぱいを隠す黒チームの雌豚選手! だが……あっと、隠すような素振りをしつつ実際には見せ付けているようにしか思えない動きだぁぁぁっ!』
「イヤァァァッ! そんなっ、見られちゃって困るぅぅぅっ!」
「馬鹿だなアイツ」
「えぇ、とんでもない馬鹿ですね」
『おっぱいをポロリさせられた黒チームの二番手! そしてそのまま白チームの選手が下がって……放置されたぁぁぁっ! この放置によってさらに黒チームの選手は意味不明な行動をっ、なんと自ら下まで脱ぎ出して……ここでさすがにストップが入った! 何をしでかすかわからないと判断した審判のファインプレーですっ! 得点は……伸びた7点だぁぁぁっ! 違法行為ギリギリまで攻めた大馬鹿者のド変態がっ! なんとここで7点まで伸ばしてきましたぁぁぁっ!』
「……ちょっと、ここから白熱するとヤバそうですね」
「うむ、後ろで興味なさ気にお茶しているサリナを連れて来よう、モザイクが必要だ」
『さぁ~っ、盛り上がったところで次のターン! 白チームの選手に対して、先程高得点を叩き出したばかりの黒チーム二番手、露出狂のド変態雌豚が……正座させて罵声を浴びせ始めたぁぁぁっ! 上から目線でっ、正座した対象におっぱいが小さいだの貧乏人だのっ、そしてなぜか頭が悪いことも看破していたようだぁぁぁっ!』
「概ね事実しか述べていませんね、残念なことです」
「あぁ、あんなので喜んでいるセラの方が心配になってきたぞ」
「ちなみに、モザイクは要らないみたいなので戻っても良いですか? 紅茶が冷めてしまいますから」
ステージ上のくだらないショーには興味を示さないサリナに、まだ次があるから少し待ってくれと要請したところで、罵声を浴びせられていたセラがガタンッと崩れ去る。
どうやら事実を指摘され続け、自分の不甲斐なさに限界を感じてしまったようで、また、正座しすぎて足が痺れたという、どれだけ強くなったところで解消されない弱点を突かれたかたちになったようだ。
一応得点は入ったのだが、このままだと次の守りであって責めである行動が出来ないため、精霊様はセラを下げる……のかと思いきや鞭で打って鼓舞し出したではないか。
雌豚選手の安全のために1番手を下げた敵の豚野郎使いと、何もいたわることなく、危険を顧みることもなく当たり前のように続行を指示する精霊様。
どちらの方がより優秀な『使い手』なのかということは一目瞭然なのであるが、そこはもう、性格なので仕方がないといったところか……
「このっ、このっ、起きなさいセラちゃんっ! あんたが戦わないでどうするのよっ!」
「いでっ、ひぎゃっ……ちょっと精霊様、ホントに足が痺れて立ち上がれないのよっ」
「女王様とお呼びっ……と、それだともうこの戦いに勝ち目はないわね、次の責めというか守りもアレだし……まぁ良いわ、相手は最初の攻撃で限界まで出し尽くした感じだし、交代なさい」
「あぁ~っ、じゃあジェシカちゃん、バトンタッチよ」
「うむ、ちなみにセラ殿、向こうで主殿とミラ殿が呼んでいるぞ、敗者待機所に行くとどうせ正座させられて余計にえらいことになると思うから、その前にそちらへ行ってやると良い」
「あら、ねぎらいの言葉でも掛けてくれるのかしら? わかったわ、じゃあ頑張って」
こうして同点、セラが敗退して両者二番手の選手に入れ替わった状態となったステージ上、そこに新たに姿を現したのはジェシカである。
今回はこちらが先攻らしいが、その前に相手が一度ステージの下へと戻り、何やらアイテムを準備しているように見えた。
凶器は反則なのではないかと、そうも思ったのであるが、どう考えてもそんなルールが通用してしまう戦いではない。
裏で道具箱らしき何かをゴソゴソと漁っていた敵の二番手が、その中からようやく発見して取り出したのはふたつの長物……布団叩きとハエ叩きのようだ……
『ここで黒チーム! アイテムを使用することにしたようですっ! 持ち出したのはふたつの武器系アイテム! 布団叩きにハエ叩きにっ、これらを用いて……おっと、早速白チームの二番手選手を立ち上がらせっ、そのまま前屈みになるように命じているっ! そして突き出したかたちになったお尻に思い切り布団叩きを振り下ろしたぁぁぁっ!』
「ひぎぃぃぃっ! い、痛い……だが私が悪いのでもっと仕置きして欲しい、お願いだ……あうぅぅぅっ!」
「こう見るとジェシカもまぁまぁやべぇよな、とんでもない変態だぜ」
「布団叩きでお仕置きされて喜んでいるなんていつものことでしょう、それから……あ、やっぱり」
「嬉しすぎて漏らしてしまったということなのでしょうか……」
『あぁ~っと! ここで白チーム二番手の選手! 布団叩きでお尻ペンペンされたのがよほど嬉しかったのかっ! なんとおもらししてしまったぁぁぁっ! しかもそのおもらしの罰としてっ、今度はハエ叩きで打ち据えて欲しいと懇願して……ここで札が挙がったっ、3点! 5点! 3点! 全部で11点! おもらしで大量得点だぁぁぁっ!』
「あの、もう帰っても良いですか? こんなのモザイクとかそういう次元のものじゃないんですけど?」
「さっきから誰か止めないものかと思ってはいるんだがな、参加者が全員馬鹿のようだからもう無理だ」
「諦めて向こうでお茶でもしましょうって、さっきからユリナちゃんが視線を送っていますよ……それと脚が痺れて仕方のないお姉ちゃんがようやくここまで到達しました」
もうこのバトルに関しての全てを諦めていたところに、敗北して、さらに足の痺れが限界に達して這い蹲っているセラがやって来た。
そういえば呼んだことを忘れてしまっていたし、もう後ろに下がって茶でもしようとしていたところなので、正直今更来られても何の意味もないし必要もない。
仕方ないので四つん這いのまま、脚を庇いつつ手を振ろうとしたセラに対し、こちらから手を振ってやってそれで席を立った。
えっ? というような表情でしばらく追い掛けて来たセラであったが、這い蹲っている馬鹿が立ち上がって歩いている天才に追い付くことなど出来るはずもないのだ。
すぐに群衆の中に消えた俺達に追い縋ることをやめたセラは、どうやら係員の雌豚共によって運ばれ、敗者が待機すべき場所に放り込まれてしまったらしい……
「しっかし、このまま続けてどうなるんだろうなこの戦いは?」
「どうでしょう? 最後にあの強キャラが出て来たら話が変わってくるとは思いますが」
「結局それ待ちになるんだな、セラからおそらく四番手の誰かまではほとんど無駄な活躍になるだろうな」
「活躍……しているんでしょうかアレは?」
『・・・・・・・・・・』
ということで馬鹿馬鹿しい限りの戦いはしばらく続きそうだ、今はジェシカが勝って、敵がその次を繰り出したところまできている……




