1159 戦争になる
「うむ、俺達の大活躍はもう神界中に知れ渡っているようだな、ババァ神の一派らしい神々からの抗議文がこんなに、ほとんど単なる誹謗中傷とか殺害予告とかだけどな」
「勇者様、それはちゃんと取っておいて下さいね、せっかく敵側がそういうことをしてきてくれたんですから、糾弾する際に利用しない手はないです」
「わかっているって……っと、また新しい何かが届いたようだな、どこから放り投げたのか知らんがピンポイントで……あっ、爆発すんぞっ! ギョェェェッ!」
「何をしているの勇者様は? ほら、床が崩れちゃったじゃないの、爆発するなら外でやって欲しいわよっ」
「お……俺じゃなくて小包が爆発したんだ……と、何か手紙のようなものも入っていたみたいだな、どれどれ……普通に死ねって」
「明らかに殺しにいってからそんなこと言われても困るわよね……」
俺達が神の名の下にこの地を占領してからまだ1日と経っていないというのに、喧伝の効果が凄まじかったことが良くわかる世間からの反応を得ている。
本当にこの件に反対している者が多く、どう考えてもこちら側が悪で、ババァ神側に正義があるかのような反応なのだが……もしかして伝えられ方がどこかでおかしくなっていないであろうか。
事実、女神が頼んだ天使の組織による喧伝では、俺達の主張が通っているらしいということがわかる反応が返ってきている。
しかしそれはこの近くから、あり得ない勢いで税を徴収されたり、その他ババァ神の所業の被害が甚大であろう周辺のエリアからの反応ばかり。
神界の中でもかなり遠いらしい場所から来ているのは、今のような爆破小包や通常の殺害予告、その他どうにかして俺達の計画を粉砕しようとしているから覚悟しておけなどの内容が大半を占めている。
当然その中にはババァ神はではない、普通の中立的立場にある神々やその使いも含まれているのであって、つまりその連中がこの件に関して聞きかじったような内容は、少なくともババァ神側に正義があるかのように歪曲された内容であったということ。
まぁ、この付近だけなら直接話が伝わるものの、やはり遠くになると伝言ゲームのようなものが発生し、その内容が少しずつ変わってしまうのかも知れない。
いや、むしろその伝言ゲームを利用して、誰かがこちらの主張する内容を故意に切り取ったり付け加えたり、意味が変わるように加工して次に伝えて……ということをしている可能性の方が高いな。
遠く、本当に広い神界の本当に遠い場所までこのことが伝わるまでには、幾度となくババァ神派の何者かのところを情報が通過していることであろうから。
で、そんな感じで近くの反応は良く、遠くの反応が悪いのが原則となっているのが現状、なのであるが、少し違った反応を返してくる『近くの連中』も居るには居る。
それはこの町への侵攻を計画していたという、徴税によって全てを奪い尽くされ、この町に未だ残る雑草や汚物、便所コオロギなどの『栄養』を求めて、残された力の全てをもって襲い掛かってこようとしていた町の連中のようだ……
「……これはその隣町からの反応ですね、剃刀の刃が沢山入っています……『この物資と君達の命をトレードしようぜ』とか、面白いつもりで言っているのだとしたらセンスがありませんね」
「センスはないが紙は上等なものだな、この剃刀の刃にしたってかなりの高級品だ、こんなモノがあるなら食糧だって十分にあるだろうに、おかしいと思わないかミラは?」
「そうですねぇ……まぁ、もしかしたらこの手紙自体がどこか別の場所から、嫌がらせ的に送り主、というか送った場所を詐称して届けたものなのかも知れませんが」
「う~む、その可能性もあるのか、何とも言えなくなってきたな……」
「あんらぁ~っ、神界人間から送られてきたらしいのものにしてはそこそこ上等な剃刀の刃があるじゃなぁ~い、どうしたのかしらそれぇ~っ?」
「あぁ、実はかくかくしかじかでな、そんな感じで送られてきたんだよ、脅迫文みたいなのと一緒に」
「相手は相当なお金持ちねぇ~っ、その剃刀の刃、この私のグレートジョリ髭でも1本ぐらいは討ち取ることが出来るシロモノだものぉ~っ、というか、神界人間にこんな良い商品が渡っていたなんて思わなかったけどぉ~っ」
「確かに、ホモだらけの仁平が言っている通りです、この剃刀……少なくとも神界人間が使って良いようなものではありませんね、あの程度の生物には黒曜石のナイフで十分ですから」
「石器時代なのかよ、しかしコレ、ほら送ってきているのが隣の町? とかなんだぞ、元々この町への侵攻を計画していたここよりもやべぇ状況にあるっていう、何がどうなって今の状態があるのか、ちょっと謎すぎやしないか?」
「これは……えぇ、送った場所は確かにそうですね、隣の町からしか送付出来ないはずです、どういうことなのでしょうか? 少し調べてみる必要があるかも知れません」
「ん、じゃあ頼んだ、俺達はその他の近所から送られてきている激励の手紙でも読んで癒されるよ、俺達に読めるような文字で書いてあればの話だがな」
結局その脅迫文の詳細に付いてわかるようなこともなく、ただ女神にそれを手渡しただけで忘れてしまっていた俺達。
他にも似たようなものがいくつかあって、やはり隣の町から送られてきているようなのだが、適当に横に除けて手紙等を漁り続けた。
特に金銭的価値があるようなものは見つからないな、ミラも俺もそれを期待していたのであるが、結局その目的での『手紙仕分け作業』は無駄に終わってしまったようだ。
むしろ何度か爆破小包を引き当て、俺が3回とセラが2回、無駄に吹っ飛ばされてしまったことを考えると、やった分だけ損をしていたのではないかという説もある。
で、そこそこのところで諦めムードになって、他のことをしようとその場を離れた際に、救助してやった徴税官が1人、かなり慌てた様子でボロボロの拠点に飛び込んできたではないか……
「大変! 大変なことになりましたっ! 攻撃を受けている……というか受ける寸前だったようですっ!」
「いや、攻撃なら何度も受けてんぞ、まぁ小包を開けなければセーフだったんだろうがな」
「そんなっ……いえしかしっ、こちらは毒の攻撃なのですっ、なぜか隣の町から送られてきたリヤカー1杯分のフルーツがありまして、それをちょっと盗み食いした若者5人が泡を吹いて倒れてっ!」
「……マジかまた隣町か……これは何かあるな確実に、しかも明らかな攻撃としてだ」
「あのっ、このままだとその若者達が死んでしまいますが……どうするべきなのでしょうか?」
「そのまま死なせておけ、あ、もちろん『必死で助けようとしたけどちょっと無理っした、合掌』ぐらいの演技を織り交ぜてな……そうすればいざ戦いの際、若くて尊い犠牲のお陰でこっちの士気が上がる、敵は卑劣にもどうのこうのみたいなノリでな」
「そうね、フルーツを盗み食いしたのも悪いのですから……マーサちゃんどこへ行くんですか? そのフルーツは毒ですよ、目にも留まらぬ速さで窃取した毒を喰らうような真似はしないで下さいね」
「はーい……フルーツ食べたかったな……」
拗ねて転がってしまったマーサ、まともに食事をしている俺達の中からでもこういう反応をする仲間が出てくるのだ、飢えている住民の反応は押して知るべしといったところか。
しかしやはり隣の町、ここに何か起っていない限りはこのようなことにはならないはずで、その調査に関してはキッチリしていかなくてはならない。
さもないとこちらが危なくなるのだ、せっかくキープしたこの壊れかけの町が、完膚なきまでに叩き潰されてしまうのは明らか。
すぐに女神を呼び戻したところで、その問題となっていたフルーツ盛りのリヤカーが運ばれて来たらしい。
中身は確かにフルーツなのだが……精霊様の見立てでは、俺達でも口にすれば多少ピリピリする次元の猛毒が含まれているとのこと……
「……どうだ女神? 何かおかしな所はあるか?」
「そうですね……あっ、このリヤカーはっ! ホモだらけの仁平よ、この紋章をご覧になって下さい、これはまさしく」
「……あらぁ~っ、これは大当たりを引いたんじゃないかしらぁ~っ!」
「どういうことだ? 俺達にもわかるように説明してくれ」
「これぇ~っ、私達が今追っている税庁の支配者たるエリート神の紋章よぉ~っ、やっぱり奴がとなり町の変化に一枚噛んでいるんだわぁ~っ」
「なるほど、じゃあやっぱり神が出てきて何か変化をもたらしたってことか、様子を見に行きたいが危険でもあるな……よしっ、その辺のモブで偵察のセンスがある奴に任せよう、死んだとしても特に悲しくないモブを集めるんだ」
仁平による検分で明らかになった敵の存在とその動き、どうやら一発で釣られて出てきたらしいのだが、賢さが高いのであろうからまだあまり油断は出来ない。
だが少なくとも敵の、ターゲットの意思でこちらに対抗するムーブをし始めたということだけは明らかになったため、こちらもそれに対応していくのみである。
すぐに町の住民の中から、比較的体力が残っていそうなモブを掻き集めてそれを偵察部隊とした。
もちろん女神の方から、その者共に対してわずかばかりの『物資』を提供するかたちでだ。
それは食料の少なさを乗り切るため、女神が俺達のために用意した食糧の一部であって、本当に多少の栄養をゲットすることが出来る程度の、しかも味気ないもの。
だがそれでも神からの賜りものであって、かつ食うや食わずの状態でしばらく過ごしていた偵察部隊の連中は歓喜し、そのことで今回の作戦に命を賭けるという約束をしてくれた。
あまりにもチョロいので逆に不安になってしまうところでもあるが……まぁ、さすがに裏切ってどうの項のということ荷はならないはずだ。
偵察部隊を見送った後、やはりというか何というか、マーサがリヤカーにあった毒入りフルーツをひとつゲットしていることに気付いたため、どうにか取り上げて廃棄処分した。
本当にもったいないことをしなくてはならないと、せっかく食べられるフルーツをこのようなかたちで無駄にして良いものかと、皆で憤りを感じつつの廃棄であったのは言うまでもない……
※※※
「……わうっ、偵察に行った人が帰って来ましたっ、1人だけですけど」
「ホントだな、皆同じような顔をしているモブだと思ったが、背番号を付けておいてよかったぜ、アイツは5号か……ヤバいな、相当な傷を負っているぞ、すぐに話を聞かないとっ」
「ひとまず回復魔法ね、ルビアちゃん、ほら早く来なさい、あと服も着なさいちゃんと」
その火の夕方には戻って来た偵察部隊であったが、もはや部隊ではなく単体で、しかもこのまま放っておけば確実に死亡してしまう程度の傷を負っていた。
そのたった1匹になってしまった伝書鳩のような、そんなノリのおっさんを迎え入れ、回復を施しつつ行った先で何があったのかを問い質す。
まず報告したいこととして、自分以外の仲間のうち半数が敵地でそこの住民に見つかり、『食糧ドロボウ』であると勘違いされて惨殺されたこと、そして残りのうち脱出に成功した自分以外が、途中で遭遇した敵の町の神界人間の一団に殺害されてしまったことなどが告げられる。
どうしてそのようなことになったのか、いやこの町で疲弊し切っている神界人間よりもさらに状態が悪いはずの連中が、どうしてそのようなことを出来たのかという点が疑問だ。
ということで引き続きその生き残りの話を聞くこととして、一旦建物の中で座らせ、詳細までキッチリ、記録も取りながら話して貰うこととした……
「……それで、俺はどうにかその攻撃を逃れたんすが、その先でまた変な奴の攻撃を受けて……弓で射られたんすよ、マジでやべぇっすあいつ等、ぜんぜんこの町とか攻める必要ないじゃないっすか、天使が『軍事指導』してるし、食糧だってあんなに運びこまれて」
「何だと? 食糧は枯渇しているんじゃなかったのか? 15公マイナス5民で徴税されて、もはや便所コオロギを食うしかないとか言っていただろうに」
「それが、天使の奴等が神の名の下にどんどん運び込んでいて、奴等それを上手そうに食いながら、今度は領土が欲しいからウチの町を……みたいな話をして、それじゃあ税庁のエリート神が直々にバックアップしてやるみたいな、町中で聞けた話はそれだけっす、そのあとすぐにその町の人間じゃないってバレちまって」
「……なるほどね、元々この町に攻め込もうとしていた、追い詰められた町の連中に色々と与える……いいぇ返してあげて、それを利用して私達のこの占領計画を潰しにきたわけね」
「それで偵察員殿、その、敵の町に神の姿はあったか?」
「いやなかったっす、天使、武器持った天使は結構居たっすけど……でもその天使の装備は神の兵のものっした、税庁の神の、直々の部隊なんじゃないかって皆で話して……皆死んじまった……」
「うむ、ご苦労だった、おい女神、このおっさんはこのあとどう処理する?」
「そうですね、やはり隣の町の神界人間が攻めて来るようだと、しかもなぜか神々がそこには食糧を与えて、苦しんでいるこの町を今がチャンスとばかりに蹂躙せんとする卑劣なものであると、それを実際に見てきた者として講演だとか何だとかさせて、さらに敵に対する憎悪を煽る係としましょう」
「わかった、じゃあそっちは女神……いや配下の天使にでもやらせておいてくれ、こっちはこっちで戦争の計画を立てるぞ、確実に攻めてくるからな奴等は、もちろんターゲットの軍事力を利用してだ」
『うぇ~いっ』
もう何が起こっているのか、そしてこれから何が起こるのかなど、考えるまでもなくわかってしまうような単純なことである。
エリート神はこちらの計画を潰すために、自分は一切姿を現さずに『援助』だけをして、結果座ったままで目的を、ババァ神一派に反するこちら側を潰そうという魂胆だ。
もちろん攻め込んでくるのは天使と神界人間だけであるはずがない、それだけでは勝ち目がないということぐらい、エリートであればわかっていることであろうから。
だがもしそれをわかっていて、自分の下に位置する神々を送り込んでこなかったのだとしたら……それはそれで危険な香りがするな。
もしそのパターンであった場合、こちらがその差し向けられた集団を撃破した後に何かが起こる、もちろんこちらの不利になるような事象が生じるはずだ。
それは情報戦的な不利さであって、こちらが正統でも正当でもない、単に破壊をもたらすだけの狂った集団であるということを、何らかの方法をもって世に広めるものかも知れない。
念のためそれにだけは警戒が必要だ、もちろんそのエリート神自体を撃破してしまえばどうということはないのだが、この戦の勝利から本体を殺るまで、そのタイムラグは確実に生じるゆえ危険は消えないのである……
「さてと、いきなりの襲撃に警戒しつつ、相手がどんな出方をしてくるのかについて探っていかなくちゃだな」
「軍事教練みたいなことしているって言ったわよねさっきの偵察の人? だったら真正面から普通に攻め込んでくるんじゃないかしら、おりゃぁぁぁって」
「大軍勢でこの町を蹂躙するつもりだってか、まぁ、そうしてくる可能性は高いだろうな、一応さらなる偵察を何度か出して、向こうがどうしているのかのチェックを怠らないようにしないと」
「それと、帰り途中に襲われているってことは、やっぱり向こうの人達も偵察? の人をこっちに送っているんじゃないですか? その人達をやっつけないとです」
「うむ……あ、それならその偵察、向こうの奴等な、それを殺さずに生け捕りにして、拷問して向こうの動きを吐かせる方が楽かも知れないな、こっちから偵察を送るのと同時並行で、スパイ狩りとかもやった方が良いぞ」
「それならすぐに『スパイ狩り』と『スパイ』を募集しますの、報酬要件は……スパイ1人捕まえるごとにクッキーひとつ、スパイに行って情報を持って帰って来たらあんパンひとつぐらいで良いですわね、もちろん死んだら何もなしですわ」
「安いな命の値段、まぁ良いや、この町の神界人間にとってなら、そんなものでも破格な条件ということになりそうだからな」
「じゃあ、すぐに募集ビラを……『スパイ狩り』の方はヤバそうですねそんなことしたら、こっちは伝聞で広めましょう、生きたままの敵スパイ1人とクッキーひとつを交換してくれるって」
「おう、そっちは悪魔の3人に任せた、俺達は俺達でスパイ狩りでもしようぜ、もしかしたらこの近くにも忍び込んでいるかも知れないしな」
「それに、スパイが単なる神界人間とは限りませんからね、もしかしたら下級の天使を使ってくるということも考えられますから、すぐに……は面倒なので明日にしましょう、まだお風呂も入っていませんし」
「マリエルちゃんの意見に賛成です、もう今日は良いにしましょう、回復魔法とかも使ったので疲れてしまいました」
「スパイって夜に活発になるもんじゃないのか……まぁ、しょうがないかこんな感じじゃ……」
ということでその日はそれで良いにしたのであるが、ギリギリのタイミングでユリナ、サリナ、そしてエリナがやっていたスパイ募集の広告は間に合い、直ちに公布された。
ついでにそのまま女神配下の天使を使って、スパイ狩りの方の募集もキッチリ、しかしその話があまり派手に広がってしまわぬよう注意しつつ掛けさせておく。
翌朝、俺達が滞在しているボロボロ庁舎の前には、ガリガリのスパイ希望者が数十名と、それから隅の方に、これまたガリガリのスパイ狩り希望者が数名やって来ていた。
こんな連中が本当に役に立つのかと思えるほどの困窮ぶりであるが、特にスパイの方に関しては数撃てば当たる、そう考えて全員を採用することで調整していこう……




