1126 カラフル城
「おいお前わかってんのかこのボケ、何で夜通し黙って座ってんだよそんな所に? やる気あんのか? ねぇなら死ねこのクソがっ!」
「あぎゃぁぁぁっ! す……すみません……ちょっともう昨日色々ありすぎて、何したら良いかわからないというか……ぐべふぉっ!」
「チッ、靴が汚れちまったじゃねぇかお前のせいで、本当に迷惑な野郎だな、サッサと行って適当に馬車をどうにか出来る奴を拉致して来いっ!」
「へ、へぇっ、ですが昨日の悪霊はその……」
「あぁ、それなら夜のうちに始末しておいたわよ、偶然窓から外を見ていたら、どこかへ逃げようと漂っているのを見つけたから、だからもう居ないの……あんたも同じ目に遭いたくなかったら早くしなさいっ」
「ひょげぇぇぇっ! すぐに行って参りますぅぅぅっ!」
脅され、とんでもなくビビリながら面白い動きでどこかへ走っていったチコン野朗、それを指差して笑い、一旦宿へと戻って休憩を始めた。
御者は予備も含めて2人程度は欲しいところであるが、まぁ、長くて数日の旅になるということだから、途中の町などに立ち寄って調達することも考えれば、ここでは1人調達しておけば十分であろう。
せっかくなのでということで昼食用の高級弁当も注文し、これまでの分も含めたお支払を全て女神の奴にツケておくよう頼んでいると、どうやらチコン野朗が戻ったらしい。
知らないおっさんの襟首を掴んで引き摺り、慌てた様子でこちらへ戻って来ているのだが……調達出来たのであればそこまで焦る必要はないというのに、一体何があったというのであろうか。
まぁ、戻って来たらすぐに出発ということになっているわけだから、そこで詳しく事情を聞きつつ、目的地へ向けて馬車を走らせれば良いか……
「ひぃっ、ひぃっ……つ、連れて参りました、しかし急がないとヤバいかと存じます」
「コチンコチンのチコンよ、良いから早くその御者の知らないおっさんを作動させなさい、何があったのかは出発後に聞きますし、くだらない内容でしたら女神であるこの私の時間を無断に浪費させた分、キッチリと弁済して頂くことになりますよ、そう、ここでの支払を肩代わりするというかたちで」
「はひぃぃぃっ! 畏まりましたでございましたぁぁぁっ! おいこのボケ! 貴様下級神界人間の分際で動きがトロくて……(どうのこうの)……早くしやがれこの無能クズがぁぁぁっ!」
「は、はいぃぃぃっ! 畏まりましたぁぁぁっ!」
「……全く、強い者には媚びて、弱い者にはあの態度とは、こんな者がとても市長などという大役を任されていたとは思えないぞ私は」
「まぁ、神界人間という存在の中ではマシな方だったんだろうよ、知らんけどな」
もう毎度毎度のことで、無能&カス&クズ野郎ムーブを見せてくれるコチンコチンのチコンなるどうしようもない神界人間。
こんなチコン野朗であっても、確かに他の神界人間と比較して戦闘力が遥かに高いし、所詮神界の存在といっても末端はこの程度なのかと、非常にガッカリさせてくれる者である。
チコン野朗は御者に次いで自らも馬車に、もちろん御者台の方へと乗り込んで、俺達にも早く来るようにと、珍しく意見するようなかたちで催促している様子。
黙っておけと蹴りでも入れてやりたい、そんな程度にはムカつく顔をしているのだが……まぁ、本当に何かありそうなので一応話だけでも聞いてやることとしよう。
俺達も馬車へと乗車し、出発の合図があったのを確認してから、御者台に居るチコン野朗を恫喝して話をさせた……
「でででっ、ですからっ、凄く臭ったんですよこの町の一角がっ!」
「臭ったって、そんなもん生ゴミでも腐ってたんじゃねぇのか? お前みたいなクズの死体とかよ」
「決してそうではありませんっ、アレは何者かのその……屁をこいたような臭いでした、もしかしたらこの町の地下から……火山性のガスがっ、とある異世界の下界と繋がる、そしてあの激キモ女神が言っていた魔界ともっ!」
「屁のような臭い……火山性のガス……なるほど、少しどころかとんでもねぇ心当たりの塊だな……どう思う皆?」
「ガスって、もしかしてあの瘴気がどうのこうので、人族が魔族にみたいな話だったやつ?」
「それもそうだし、屁のような臭いってのがまたな……俺達がこんな所まで来ている理由のひとつが、暴走して魔界を覆い尽くすかも知れない『神の屁』であることも考えた方が良いぞ、どっちとも付かん」
「何でも良いけど臭いのはイヤね……それで、どうしてこの場所でそんなのの臭いがするの? どっちでもヤバいじゃん、ここ神界なのに、ねぇどうしておじさん?」
「うるせぇっ! ペットのウサギの分際で話し掛けてんじゃねぇぞこの下界の魔族がっ……え? あれ? 何か違いました?」
「ねぇ、怒鳴られたんだけどいきなりっ」
「許し難いゴミですねこの者は、マーサちゃん、安心して下さい、こんな者はいずれ天罰を、いえ神界ですから神罰を受けるはずですから」
「待ってらんない、今やってよ今!」
「ということなのですが女神様……如何致しますでしょうか?」
「問題ありません、既にこの低能者には神罰を、これ以降食した全てのカレーうどんの汁跳ねが10倍、シミの広がりがなんと30倍になるという罰を与えました、無様にシミだらけの茶色マンになりなさいっ」
「ひぃぃぃっ! なんと恐ろしいっ! 申し訳ございませんでしたっ、ホントに知らなかっただけなので超勘弁してつかぁさいっ! この通りにございますっ!」
「神罰が微妙なんだよな毎度……まぁ、だがマーサ、どうせコイツは不要になったら処分する対象になるんだ、そこまではカレーうどんのシミ程度で勘弁しておいてくれ」
「そうよ、まだ情報が出たり、こうやって御者を用意させたり、あと盾とかにもなりそうだからこの硬さなら、しばらく残しておくべきよ」
「う~ん、まぁ、良いやもう別に、興味なくなっちゃったし」
こうして紙一重で許されたチコン野朗であったが……いや、そんな話をしている間に本題からかなり逸れてしまったではないか。
そもそもこの馬鹿が感じ取った『屁の臭い』、それが火山性ガスの類なのか、それともどういうわけか魔界に留まることなく、神界までやって来てしまった『神の屁』なのかについてだ。
もちろんどちらでもない可能性もないとは言えないし、もし火山性ガスであったとしても、俺達の世界でかつて起こった、火山から瘴気が噴出して人族だけであった人類が……というものとは無関係であるということも考えられる。
だがリスクとしてはかなり大きいうえに、話の流れ的には何かストーリーに関与してこないとおかしいものであることからも、これに関しては要警戒と考えておいた方が良いであろうな。
チコン野朗からは『臭った』以外の情報は得られず、ついでに言うと自分があまりにも臭いのを勘違いしたとか、周りに臭い奴が居たとかいうことではないことも確認した。
なぜならばどれだけクズであったとしても、神界では町の清浄さを保つために、あまりにもアレな奴を収容して洗ったりしているのだから。
もっとも、『堕ちた』状態になってガン無視されている奴はその悪臭を発するか否かのセーフティーネットには掛からないのだが、それでもそういう奴が居ればわかる、というか見えることには見えるし逆に目立つのだ……
「う~ん、これはアレかもね、もしかしたら魔界と神界が、モロに接続されつつあるのかも知れないわね、あのキモ顔のババァ神のせいで」
「奴が直接やっているわけじゃないだろうがな、天使とか神界人間の誰かに命じたり、あとは結託している他の神々にやらせたりしているんだろうが……あとであの使われていた天使さんに聞いてみよう」
「そうね、どうせ仁平とかいう奴の所へ預けるのに、一度迎えに来なきゃならないわけだし、実際に使われていた存在なら何か掴んでいないとも限らないわ」
あのクソババァ神の性格からして、リスクの伴う行動を自らやってのけるとは到底思えない。
もし神界に穴を開けて魔界と接続……などということをするのであれば、それは当然他の者を使うはず。
そして何かあったときに責任を取らされるのはその『使われた者』であって、トカゲの尻尾として切り落とされたそれのみが酷い目に遭い、元締めのババァには何の影響もないというスキームであることは疑いの余地がない。
どうやって辿ればババァの犯罪行為が明るみに出るのか、芋づる式に摘発したいと思ったら、どの程度慎重に蔓を引っ張らなくてはならないのか。
地中に隠れている『本当の悪』の全容が確認出来ない限りはなんとも言えないのであるが、方向性としては下っ端から辿り、最後にはあのババァと、それから奴と魔界でセッションしているにたような考えの奴に行き着かなくては。
そのためにはまず、ウチのどうしようもなく低能な女神ではなく、強大な力を持つという、これから会う二瓶という神の協力が不可欠だ……
※※※
「ここですね、この町がホモだらけの仁平神の居所へ至る道の、最後に位置する村になります、ということなので早く入りなさい」
「へへーっ! おいこのクズがっ! とっととせんか!」
「へへーっ! 畏まりましたコチンコチンのチコン様!」
命令の伝達がややこしいのであるが、まさか下等な神界人間の中でもさらに下等な者に、女神から直接の指示を飛ばすわけにはいかないのである。
よってチコン野朗を間に挟むという面倒なことをしているのだが……正直なところ、女神ではなく別の赤間が代わりに命令を出せば良いだけだ。
となるとこのチコン野朗は一切不要な汚物にすぎないということになるのだが、まぁ、それを言い出すとまた処分だの処刑だのと、本来やるべきこととは別のことが始まってしまう。
それを回避しておくためにも、今はこのまま間接的な命令をしつつ、最後の村で休息を取った後に仁平とやらの居所を目指すべきところだ。
などと考えつつ馬車の窓から顔を出して見ると……何やら微妙に臭いではないか、これは明らかに何者かが屁をこいた際に感じられる不快感で……
「おい臭っせぇぞオラッ! チコン野朗、お前屁なんかこいてんじゃねぇよボケ! カス! 死に晒せゴミがっ!」
「私ではございませんっ! この御者の者が……でもないようです、もう1週間以上水だけで生かしてあるので、屁も出ないとのことで……となるとやはりっ!」
「……おう女神、この村には近付かない方が良さそうだ、これはアレだぞ、明らかに魔界のアレがアレして、それによって汚染されている感じだぞ」
「神の……アレですか、超越者をさらに超越した途轍もない存在であって、今の勇者パーティーでさえも逃げ帰る以外に術がなかったという、あの神のアレだというのですねやはり?」
「そう……じゃないと良いんだけどな……」
「まぁ、もう可能性的にちょっと無理があるわね、見なさい、村の中心部、たぶんあの規模なら井戸とかがあるんでしょうけど、そこの上空はもう真茶色よ」
「ホントですね、何だか禍々しいモノが……噴いているような感じでしょうか? とにかく近付きたくはありません、十中八九不潔な何かです」
「そうするのが無難なようですね……してコチンコチンのチコンよ、それがわかったというのにいつまで村に向かっているというのですか? 死にたいなら1人で行きなさいっ」
「へへーっ! おいオラァァァッ! 話聞いてなかったんかこのボケがっ! ブチ殺すぞハゲェェェッ!」
すぐに進路を変えて村から離れるルートを取りつつ、これからどうするのか、どこへ向かって進むのかについて考え始める。
途中の町や村で食糧を溜め込んであったため、とにかくどこかに停まりさえすれば食事は可能。
だがあの村から常に流れているのであろう、明らかな『屁』が、どこまで到達するのかわからないというのが問題だ。
おそらく風向きの関係など一切無視して、まるで意思があるかのように……いや、実際にそうなのかも知れないが、とにかく自然の流れとは関係なく広がってくるのは明らか。
そしてその『屁』に、わずかでも触れてしまえばもう、激クサで食事どころではなくなってしまうし、そのままそこに居たらもう大惨事である。
全身に臭いが染み付き、洗っても洗っても落ちないトンデモな臭いに苛まれ続ける未来しか見えない。
そうなったらもう、神界も魔界も、それから元々の世界も、救っているような暇ではなくなってしまうことであろう……
「とにかくこのまま逃げようぜ、ミラ、食料の中から調理しなくても大丈夫なものを見繕ってくれ」
「わかりました、火を使わなければ多少切ったり貼ったりも……」
「いや貼るのはあまりないと思うわよ……あ、ほら缶詰があるじゃないの」
「……お姉ちゃん、コレはアレよ、勇者様のことを先輩先輩と呼んで慕っていた謎生物が出てくる缶詰なのよ」
「ちょっと待て、それはやめよう、てかそんなもんどうして仕入れたんだよ?」
「いえ、そのうちネタとして使えるかと思いまして……とにかく、他に牛肉を詰めたのとかビーンズとか色々ありますから、食事はこれで済ませて……」
「そのままその、何だっけ? 仁平という神の所へ向かうのがベストね、きっと……」
「そうするしかないってことだな……あ、俺は適当な缶詰で良いぞ、余ったやつで一向に構わん」
「では謎生物のこれを……」
「いや、せめて食えるので頼む」
などというやり取りをしつつ、御者の知らないおっさんなどどうせ死んでも構わないということで、俺達はそのままホモだらけの仁平なる神の居所を目指すこととした。
進路を微妙に調整させ、なるべく早く到着するようにと、多少荒れた道も通って……なかなかハードで均されていない街道だな、本当に神界人間などは来ることさえ稀で、めったなことでは立ち入ることの叶わない場所に来ているようだ……
※※※
「……見えてきました、あの巨大でファンシーな、ピンクの城がホモだらけの仁平神のものです」
「すげぇ色合いだな、ピンクとか青とか、どうなってんだよアレ?」
「全てお菓子で出来ているらしいですよ、お菓子のお家……というよりもお城でしょうか?」
「ご主人様、これは期待出来そうです、お菓子のお城なんて夢のまた夢ですよ、普段の生活を考えるとっ」
「ちなみに、現在では禁止されているような危険極まりない合成着色料をふんだんに使ったジャンクなお菓子ばかりだそうで、あのお菓子のお城には町ひとつを簡単に滅ぼす程度のトランス脂肪酸が含まれているとか何とか……」
「……やっぱ要らないです、ご主人様、帰ったらケーキを買って下さい」
「うむ、その方が間違いなく良いと思うぞルビア……しかしお菓子の城か……耐震強度とか大丈夫なのかそれで? 湿気たらお終いだろうに……」
これから相対することになる神の城であるが、色々と問題を抱えていそうな感じであるため、無駄に心配になってしまうのがこの俺様の優しいところだ。
もちろん何かあっても俺達が困るわけではないし、もし仁平なる神が勝負を仕掛けてきたとして、それで壊れてしまうのは自分の城である。
そのことを強く主張すれば、もしかしたらギリギリの状態からでも戦闘を回避することが可能になるかも知れないと、その期待も考慮に入れておくこととしよう。
で、接近したそのお菓子の城はそこそこに巨大で、確かに甘ったるいような香りが鼻に……これは明らかに良くないタイプの甘さだな。
ホモだらけの仁平にはぜひ、こういうものではなくもっと自然の甘さを持つ、健康的な菓子類を食すと共に、それを、そういうモノがより良いということを広く一般に向けて啓蒙して頂きたいところであるが……無理強いはやめておくべきであろうか……
「下等生物たるコチンコチンのチコンよ、そこに駐車スペースがあるので、馬車を停めるようその最下等生物に命じなさい」
「へ、ヘイ畏まりました、オラァァァッ! サッサとしねぇと殺すぞこのボケがぁぁぁっ!」
「本当にやかましいですね、あなたも死んだ方が良いということは承知していますか?」
「ひぃぃぃっ! スミマセンスミマセンスミマセンスミマセンッ!」
「わかったから早くしろよ、ほら、何か天使みたいなのが窓から覗いてんぞ、不審極まりないんだよ俺達、特にお前」
聳え立つお菓子の城、その外にある明らかな駐車スペースに馬車を回させ、チコン野朗と御者にはそこで待つようにと厳しく命じておく。
窓からこちらを見ている天使らしき……おっさんなのだが、当たり前のようにドギツい色の女性風衣装を着用して、バッチリ、ではなくゴテゴテのメイクをしている。
もちろん筋肉はバッキバキで胸毛もモジャモジャ、女性用の天使衣装ははち切れんばかりで、少し力を入れればボタンを全て弾き飛ばすことが出来そうな勢いだ。
そんな感じの存在は1人、いや1体ではなく、窓ごとに顔を出してこちらを見て……目を合わせると何をされるかわからないな、ひとまず正面玄関らしい門の方へと向かうこととしよう……
「近付いていると改めて思うけど、凄い色合いの建物ね」
「目がチカチカしますよ、あと何かここ、ドロドロになってます、凄く甘い匂いがするし……ちょっと蹴飛ばしてみても良いですか?」
「ダメだリリィ我慢しろっ、そこはアレだ、何かの熱でチョコレート的な何かが溶けてきているだけだ」
「触るとベッタベタになるわよ、あとたぶんコレ、甘いどころの騒ぎじゃないわね、毒よ毒」
「ひぇぇぇっ、毒は嫌いですっ!」
「あっ、だから壊すなって……えっと、え~っと、あ、向こうから開けてきたのか、まずは……どうも~っ……みたいな?」
近付いてワチャワチャしていたところ、向こうから開いてこちらを迎え入れてくれる様子のドギツい色をした城。
この向こうにはこれから面会すべきホモだらけの仁平とやらが居るのだが、どうやらまずはドギツい色の天使諸君が対応してくれるらしい……




