1219 強神
「やれやれ、また可能性の薄いもんに期待して戻って来てしまったな、ホントにあるのかよ超越者をさらに超越した者を滅ぼすことが可能な武器とか、その攻撃に耐え得る防具とか」
「う~ん、もし期待するようなものがなかったら無駄足よね、でもその分だけ何かゲットして帰れば良いじゃないの」
「まぁ、そういうことになったらこの私が、適当に神の座でも得ておくことにするわ、てかそろそろ勝手に神を名乗っても大丈夫なぐらいの偉さになっていると思うし」
「精霊様はまだ神様になることを諦めていなかったんですわね……無理だと思いますことよ普通に」
「ふふんっ、やってみなくちゃわからないわよ、タイマンなら勝てる現役の神も多いわけだし、そういう奴から『禅譲させる』ということも考えればどうにかなるわ」
一旦魔界から戻り、どうにかして神界へ行く権利を獲得したいところである俺達は、まず屋敷で作戦会議の方を始めていた。
そこで『神になる』という主張をしてくる精霊様であるが、そもそも神になるための試験の受験資格に届かない、いやむしろ欠格事由にさえ該当しそうな性格と日頃の行いを見せているところ。
無理矢理に何かをやらかして、神界入りはしばらく勘弁してくれなどと言われてしまわぬよう、精霊様に関しては確実に制止しておかなくてはならないであろうな。
で、そんなどうでも良いことはさておき、まずは女神の奴を呼び出して神界に『それらしき武器防具の類』がないかどうかを確認したいのだが……ひとまずここへ呼び出しておくこととしよう。
そう考えて神界とコンタクトを取ると、女神の馬鹿はあの温泉での事件以降、まだあの温泉宿に留まって何やらしているという報告を受けたのであるが、一体あんな寂れた場所で何をしているというのだ……
「しょうがねぇな、やっぱりいつものボタンで強制的に召喚する以外になさそうだな、はいポチッと」
「最初からこうした方が早かったんじゃないかと思いますが……あ、また素っ裸で顕現されましたよ女神様、ちょっとバスタオルを用意してきます」
「全くしょうがねぇな、どうせ温泉にでも入ろうとして……うわっ、ビッタビタじゃねぇかっ!?」
「……さ、寒いのですが? どうして温泉に浸かっている最中にいきなり……はっ! 事件の方の解決がまだでした、勇者よ、用があるのは理解しましたが後程にしなさい、今はちょっとその、温泉宿での事件がっ、私の推理がっ」
「温泉宿に残って探偵ごっこしてたのかお前……」
「困った世界の統治者だこと……やっぱり私に交代した方が良いんじゃないかしらコレ?」
「何かそんな気がしないでもなくなってきたのが恐いぞ……」
本来はこの世界の全てを見ていなくてはならないはずの女神が、マイナーでほとんどの人間が知らない温泉宿の、しかも毎週のように起こっているショボい殺人事件にばかり構っている。
しかもただ見守っているだけではなく、探偵の真似事をして不覚介入しているという辺り、この件を深海に報告でもしてやったら大変なことになりそうな勢いだ。
そしてそのどうでも良い殺人事件などが、緊急の用件で呼び出したとしか思えない俺達の話よりも大切だと思っているのがまたヤバい。
ミラからバスタオルを受け取りつつ何やら文句を言っているそんな女神の頬っぺたを思い切り抓り上げ、まずは話を聞くようにと強くお願いしておく……
「いへへへへっ、わ、わかりましたっ、話を聞きますのでそういう乱暴なことはやめなさい勇者よっ」
「よろしい、じゃあ早速だが俺達の話を簡潔にまとめたものを聞いて、それに即した行動を開始してくれ、良いな?」
「えっと、何があったというのでしょうか一体?」
「魔界で神を超越した者をさらに超越した者みたいなのが出現した、それをどうにかするための武器と防具を神界で探してくれ、あったらすぐに連絡を寄越せ」
「……それはどういうことなのでしょうか? もう少し詳しく話して頂かないとさすがにわかりません」
「理解力のない馬鹿ねぇ、もう少しわかり易く話してあげるけど、とにかく『神よりも2段階上の存在』が敵として出現したの、しかも臭くて汚いガスで、放っておくと広がる一方なの、わかった?」
「わかりましたが……それに対抗するための武器や防具とは?」
「だからそれをお前が探すんだよっ! このっ、イライラさせやがって!」
「痛い痛いっ! ちょっ、お尻痛いっ! そんなに強く抓らないで下さいっ! 何だかわかりませんがわかりましたからっ! すぐに神界へ行ってそういうのがないか照会を掛けてみますからっ!」
「馬鹿ね、そんなことしたら何に使うのか聞かれたりして、今魔界とかこの世界とか、色んな場所で起こっていることが神界全体に知れ渡るわよっ」
「そ、それは大変なことになりそうで……ではもし見つけたらどうするというのですか精霊よ?」
「……奪うか、騙し取るか、或いは窃取するかね」
「もう犯罪じゃないですか普通に……」
それらしきモノを発見した際の『やり口』にドン引きする女神であったが、犯行の方は俺達でどうにかしてやると言ったところなぜか納得していた。
その片棒を担がされることになるということにまで理解が届かないのであろうが、冷静になる前にこうやってどんどん話を進めれば、他にもあり得ない譲歩を引き出すことが出来ることであろう。
もちろんそれらしきモノがあればの話ではあるが、ついでに俺達が神界入りすることについてもここで許可を得ておくべきか。
早速そのことを女神に、依然として尻を思い切り鷲掴みにしながら告げると、聞いていたのかいないのかはわからないもののOKのサインを出す。
これで後から『そんな話はしていない』ということにならないように、ミラに用意させた書面にサインさせ、そこでようやく解放してやる……
「いてててっ……では私は先に事件の方を解決してから、神界へ向かってその何でしょう? 超越者を超越した者に対抗するための装備を探そうかと思います」
「おいちょっと待て、そっちの殺人事件とかはもうどうでも良いんだよ、そんなもん、解決しなくても特に困らないだろうよ」
「いえいえそんなっ、私はこの世界の女神として、あの温泉宿から捧げ物などを献上されてですね、まぁ、何かちょっと美味しさ控え目のアレですけど、とにかく貰ってしまっているので最後までキッチリ……」
「慈善活動かと思ったら買収されてやってんのかよそんな不公平なこと……うむ、これはちゃんと世界全体を見ていなかったということにつき神界に報告だな」
「やめなさい勇者よ、そういうことは本当に、いえマジでっ、ちゃんと頼まれたことはやっておきますから何卒!」
「じゃあ、サッサと調べて来い、3日以内だぞ、良いな?」
「はっ、はい畏まりましたっ! で入って参りますっ!」
などと言いながら、どう考えても温泉宿がある方角を目指して飛び去った女神に、果たしてそこまで期待しても良いものなのであろうか。
だがこれで俺達が神界へ行くという、目的を達成させるためのキッカケとなる行動に関しては許可が下りたのだ。
あとは女神が『そんなモノはなかった』と断言しない限り、直接出向いてガサ入れを行うという方法でどうにかなることであろう。
その武器や防具が具体的にどのようなモノなのかについてはまだ何とも言えないのであるが、まぁ、超越者のさらに超越者を討伐するためのものであるから、それなりに伝説感のある超兵器に違いない。
また、武器に関して言えばそのまま使用するものではなく、話の流れ的にも、またせっかく登場しているというのに忘れ去られるのはかわいそうであるということからも、残雪DXにインストールして使用するタイプのものが発見される可能性がある。
そういえば最後に討伐したあのバケモノも、ボディーの表面は強化素材であるガンメタで覆われていたような気がしなくもないのだが……まぁ、もしかしたら戦闘の完全な終結後に回収することが出来るかも知れないな。
残雪DXをもう一段階強化することに成功すれば、それでもう超越者の超越者を始末することが可能な、即ちあの薄汚いガスを祓うことが可能な武器になる可能性がある。
むしろその流れを期待して、俺達は女神の奴から報告があるのを待つこととしよう。
さすがに急いでくれるとは思うので、きっと本当に3日程度でどうにかなってくるはず。
もし時間が掛かっているようであればこちらから『督促』することも可能だし、そうでなければそれで良いのである。
だが問題となるのは、女神の奴が馬鹿すぎてその探しているものが何であるのかということを、他所に漏らしてしまうことなのだが……その際には奴をシバき回し、追及してきた者に対しては『コイツが興味本位で、ふざけてやったことだ』などと説明することとしよう。
ということで今はひたすら待つのみ、このまま屋敷に滞在しているのみである……
※※※
「……これはっ、女神様のご気配が感じられますね、どちらにおいでなさったのでしょうか?」
「……ホントだ、何だよアイツ? この世界に顕現していきなり便所にでも行ってんのか? 何か悪いものでも食ったってのか?」
「でもあれからちょうど3日よ、もしかしたら『まだ見つけていない』の報告をしに来たけど、やっぱり恐くなって隠れているとかかも」
「あの大馬鹿め、それならそうと早く言いに来いってんだ、とっととダメダメ報告をして、張り倒されてすぐ仕事に戻った方が懸命だとなぜわからないのか、いやわかってやってんのかもしかして?」
「それは張り倒されるのがイヤだからそうだと思いますが……あ、外で手を振っていますよ、女神様です」
「何やってんだあいつ?」
俺達の屋敷の庭で、苦い笑顔を見せながら手を振っている女神を、周囲を見渡していたマリエルが発見して報告してくれた。
この感じはきっと何かあったのであろうな、もちろん何かとは俺達の意に沿わないような、いきなり報告したら凄く怒られるような何かだ。
だがその内容を俺達が知らないというわけにもいかないため、さすがにここは手を振り返して以上終了などということにはならない。
手を振るのではなく、ちょっとこっちに来いと手招きをして、ピクッとなりながら同時に固まった女神を屋敷の中へ移動させる。
どうやら怒られ、そしてお仕置きされる覚悟が出来たようだな、ゆっくりと浮かび上がった女神はそのまま屋敷の、俺達が集まっている2階の大部屋へと入って……普通に正座したではないか……
「……この度は申し訳ありませんでした、深く反省しておりますので、どうかあまり厳しい罰はナシにして下さい」
「いきなり何なんだよお前は? 謝罪するよりもまず何があったのかを教えてくれないと困るぞこっちも」
「一応鞭は用意しておいたわよ、で、何なわけ?」
「それがその……言われていたような武器防具が封印されているということまではすぐに掴めたんですが……その封印をしているめっちゃ強いお方に色々とバレまして……」
「……どんな奴にバレたの?」
「圧倒的大勝利と強靭な肉体のチラ見えによる不戦勝の女神である『ホモだらけの仁平』様です」
「絶対強いだろそれ、それでそいつが何だって?」
「それが、そういうことであれば勝負して勝ち取れと、どれだけ戦力を集めても構わないし、仁平様は全力の100分の1以上の力を出すことはないとのことでした」
「勝てないんですかそれでも?」
「床に落としたコンタクトを探す際の腕のスイープで万の異世界を消し去ってしまったことがある伝説のお方ですから、100分の1の力でもさすがにキツいかと」
「強キャラすぎんだろそいつ、もう魔界とかその仁平とやらがどうにかしろよなマジで……」
現れたのが非常に濃いキャラであることはその名称から、そして圧倒的な強キャラであることはその名称だけでなくエピソードから、それぞれ推し量ることが可能だ。
そんな奴に計画がバレて、どうしてこの女神は無事に戻ってくることが出来たのかというところなのだが、そこまはぁ、『強者と戦うことが出来ればどうでも良い』というような性格の持ち主なのであろう。
しかしこちらで考えていた『もしアレならその装備品を強奪する』という計画があったにせよ、まさかそのような強キャラが番人として出てくるとは思いもしなかった。
話を聞く限りではまともにぶつかって勝てるような相手ではないし、その100分の1の力を500分の1、1,000分の1にして貰ったとしても、それでどうにかなるとは思えないような相手だ。
戦うのであれば弱点を探って、そこを重点的に、ネチネチと攻めてどうにかする作戦が必要になってくるのだが、果たしてどうなのであろうか……
「ということでだ、その仁平とかいう神の弱点とかって知らないか? じゃないと勝ち目がないぞ普通に」
「弱点と言われましても……」
「ねぇねぇ、私わかっちゃった!」
「何だマーサ? 見てもいないのに弱点を看破したってのか?」
「だってね、さっきコンタクトがどうとかって言ってたじゃないの、それっていつもあんたが『見えない』言い訳に使っている、目が悪い人の補強アイテムのことじゃないの?」
「まぁそうだとは思うが……まさか目が悪いのが弱点だろうってか?」
「そうじゃないの?」
「残念ながらウサギ魔族よ、あの方は確かに目が悪いかと思われますが……それは第二形態のときだけです」
「あら残念、他の形態だと意味ないのねそれ」
「てか変身すんのかよそいつ、やべぇなマジで」
「えぇ、第一形態は普通に頭部と、それから両腕がない胴体だけの状態です。それが第二形態になると、ゴリマッチョな両腕とおっさん……オカマバーのママみたいな顔した頭部が生えます、これは滅多に見せない戦闘形態ですが」
「なるほど……しかし変身前変身後で表記していないってことは、さらにもう一段階以上あるってことだろ?」
「そうなんです、最終形態になると今度は頭部と両腕だけが、何か画面の向こうからバキバキ突き破って出てくるタイプの姿になって……」
「どこのラスボスだよっ!」
「もっとも、この勇者パーティー如き相手にそこまで見せてくれるとは思えませんが……もし気に入られたのであればちょっとだけ、そのときの肖像画ぐらいは見せてくれるかもですね」
「見たくないわよそんなキモいのは……」
とにかく色々と凄まじい奴であるということがわかってしまったその……ホモだらけの仁平とかいう神界の強キャラ女神。
捥ぎ試合をするのであれば、せめて第一形態、つまり絶対に凄いことになっているのであろう頭部が生えていない状態のそれと戦いたいところだ。
というか、どこかおかしな世界に居そうな最終形態というのを絶対に見たいとは思わない。
おそらくとんでもなくデカくてキモい何かであるはずだし、最悪その感じで息まで臭そうだ。
まぁ、第一形態であろうが何であろうが、そもそもそれと戦うこと自体がもうどうかと思うところではあるのだが……どうにかそれを回避する方法がないか考えてみよう……
「ねぇ、それで結局弱点って何なわけ? 目が悪いのはえっと……第二形態だけで、他はどうなの?」
「他ですか……あ、そういえばあの方はメチャクチャ強いわりにはいい加減、というか抜けているところがあって、確か所持しているカードがいつの間にか全部リボ払いにされていて、気付かないうちに残高が増え続ける一方になっているとかいないとか」
「神とは思えねぇやらかしだな、てか神界にもリボ払い誘導してくる悪質な業者が居るんだな……」
「そうなんですよ、いきなり連絡してきて『リボ払いに』みたいなことを言ってくる罪人が多くて、処分しても処分しても湧いてくる始末でして、そんな神界人間如きに騙される神は少ないのですが」
「いや、むしろそれ罪人なんだ、あと何だ神界人間って? 魔界人間と対になる存在か?」
「そういうことになると思います、それであの方、仁平神の弱点というか何というかで判明しているのはそれだけでして……」
「う~む……だがアレだな、もしかしてこっちでその勝手にリボ払いにしてきた馬鹿を捕まえて、元の一括払いとかに戻させることが出来たら……どうだ?」
「もしかしたらご褒美が頂けるかも知れません、或いは守護している大事な装備品を売り払うよう仕向けて、こちらで買い取るとかそういうテクも使えそうですね」
「だな、戦闘自体に係る弱点じゃないが、それはそれで使えそうだな」
「あの、念のため言っておきますがあまり失礼なことをして怒らせたりしないように……わかっていますよね?」
その程度のことは俺達もわかっているし、そんな強い奴を無駄に刺激して敗北を喫するようなことはしないと、そう女神には答えておいた。
というかそもそも、こちらは怒らせたり戦ってどうにかしたりしたいわけではなく、どうにかして戦闘を回避したいのだから、相手をキレさせるようなことはしない……であろうと予想している。
いや、もし万が一があったとしても、そこまで暴れるようなことはないであろうと、そう考えているのだがどうであろうか。
そいつは間違いなく神界の偉い、そして強い神なのであって、もちろん自分が少しムカついた程度で暴れれば、各方面に様々な影響、というか破壊がしょうじることぐらい当然に理解しているはずなのだ。
それゆえ俺達の態度がどうのこうのでキレ出して、全力ないしこちらを完膚なきまでに叩きのめすことが可能な程度の力で襲ってくるようなことはまずないのである……
「……じゃあそういうことで、その仁平? とかいう神に会うために神界へ行こうぜ」
「魔界に続いて神界にも行くのですね、少し緊張してきました」
「なぁに、どうせたいしたことねぇさそんなもん、ほら行くぞっ、女神、早く準備しろっ」
こうして神界へ、そのわけのわからない神に会うために向かうこととなった俺達。
戦わなくて済むかどうかは、そこでの交渉次第になってきそうだ……




