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出遅れた勇者は聖剣を貰えなかったけれど異世界を満喫する  作者: 魔王軍幹部補佐
第十九章 島国
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1218 超越者の超越者

「……ちょっ、マジで何か臭くねぇか? 誰だよ屁なんぞこいたのは?」


「言っておくけどね、このメンバーの中でおならなんかするのあんただけなんだからね、早く死になさいっ」


「何だと死神コラ! お前が屁こき虫だから他人に罪をなすりつけようとしてんじゃねぇのか? あんっ?」


「だからさ、そういうことしないんだってば私も、ここに居る他のキャラも」


「まぁ、確かにそうよね、そういう汚いことをするのは、見渡す限りで勇者様しか居ないんだから」


「クソッ、どうして屁もこかないってんだこの世界の女子はっ!」



 女子は屁をこかない、そんなウソのような常識が現実に存在している異世界に送られてしまった俺は大変に不幸である。


 こういう状況で唯一疑われることになるわけだし、疑われたら最後、それはもう俺が屁こき虫として未来永劫蔑まれることを意味しているのだ。


 だが周囲を見渡してみよう、充満する屁の臭いの発生源は……残念なことに間違いなくこの付近のようだな。


 どこかから流れて来たとか、地面に衝撃が加わったことで地割れが起き、地中深くに封じられた古の屁が噴出したなどということは考えにくい。


 そしてこの俺様は断じて犯人では、屁こき虫などではないのだから、原因はこの付近にある何かということで……そうなると怪しいのはたったひとつだ。


 今しがた討伐完了した、完全に消し去ることに成功した大蟯虫クリーチャーのキング的な何かである。

 最後は『大蟯虫クリーチャーペースト』として、ドロドロに溶けた状態からさらに攻撃を受け、蒸発するようにして消滅したものだ。


 これが何か、文字通り最後っ屁をかましたことによって現状が、付近一帯に漂う屁の臭いがあるのではないかと思料するのだが、果たして……



「……ちょっと勇者様、まだ臭いじゃないですか、どうしてそんなにガスが溜まっていたんですか?」


「だから俺じゃねぇって、あの大蟯虫クリーチャーの野郎が原因に決まって……おい、上見ろ上! 間違いなくアレだぞっ!」


「……あらっ、勇者様のそれがあんな濃密な、茶色い雲のような状態で空中に……しかもどんどん成長していますよ」


「だから俺じゃねぇって……と、このままだと町全体を覆い尽くしてしまいそうだな……発生源は……何か自然に集まって来ている感じか? その辺から……」


「しっかり見えていないここでさえ臭いというのに、あの茶色い雲の中に入ってしまったらそれはもうとんでもないことになるであろうな……マーサ殿、しかっかりするんだ、カレン殿みたいに目と耳と鼻を上手に塞いで小さく屈んで……そうだ、上手だぞ」


「ホントにやべぇ状況だな、まぁ、どのみちアレが新しい敵であることは間違いないんだし、どうにかしていくしかないってことだなきっと」



 上空に広がる茶色い雲、それがどんどんと成長しているのであるが、どう考えても『人間のそれ』ではないため俺の疑いはそのうち晴れそうだ。


 だがその屁のような何かが人間の屁ではないと考えると、どう考えても新たな敵であって、これからその何かと戦わなくてはならないという事実がある。


 またしても不潔で、ガス状であるだけに掴みどころのない敵ではあるが……もしかしてこんな敵、ついこの間も苦戦させられたのではなかろうか。


 そう、それは『神の屁』であった、魔界人間を操って俺達を付け狙いつつ、ピンチになるとその特性を生かして上手く逃げ出すというあの敵だ。


 そして最後は建物の火災に乗じて何かをやらかし、爆発と共にその放ち手である『ケツ穴の神』をこの場所に呼び出した……ところから今この現状が繋がっているのであったな……



「……なぁおい、アレってさ、どう考えても『神の屁』なんじゃないのか?」


「勇者様、どうしてここで原点に戻るのよ? あの、何というか凄い名前の神様はやっつけて、そこから出て来たさっきのキモいのもやっつけて……それで何で最初の汚物が復活して……」


「復活してんじゃねぇんだよ、元々死んでもいないし、そもそもさっき精霊様が上空で捕まえたアレはどうしたんだ?」


「ん? 私が取って来たのは……あら、袋の中で萎んでいるわね、中のガスだけ袋の目を抜けて出ちゃったみたい」


「そう、さらに言うとその程度のガス量じゃないだろうよ、あのバケモノの中で熟成された最近の死骸とか何とかがガス化した、そんなモノはな」


「……って考えると、じゃあもしかしてアレが全部、全部『神の屁』ってことになるのかしら? あそこまで濃縮していてなお町全体を覆い尽くす汚物が……どうするわけ?」


「……ひとまず逃げよう、コレはもう無理だぞ、浄化するならルビアの回復魔法でも良いかもだが、さすがにまだチャージに時間が掛かりそうだからな」


「やっぱそうなるわよね、死神も連れて退却するわよっ、この町の魔界人間? どうなっても良いわよそんなの、ほら、早く行くわよっ!」


「ホントに無責任なんだから困っちゃうよね……いえ、何でもないです……」



 上空で肥大化を続け、もう手が付けられないような状態になってしまっている神の屁、いや『神の屁supercloud』とでも呼んでおこう。


 とにかく現状ではアレを始末する方法も、臭くないように身を守る術もないのだから、逃げの一択であることは議論するまでもない。


 しかしどこまで逃げれば良いのか、supercloudはこの町全体程度でその肥大化を止めるのか、その辺りがまるで見えてこないというのが現状だ。


 もしかしたらエリア全体を覆い尽くすかも知れないし、魔界全体があの茶色いガスの中に封じ込められて激クサになるかも知れないではないか。


 まぁ、いずれにせよまだ空気が透明なうちに、『cloud』と呼べる範囲の中にINしてしまわないうちに、この場を離れてどこか遠くへ移動することが重要であろう……



「ひとまず町を出よう……いやこのエリアを出ようか」


「そうね、拠点のエリアに戻って体勢を立て直すしかないわ、それが最も安全かつ確実だと思う」


「待ちなさい、そしたら私が転移させてあげるから、良い感じの所まで逃げたら言いなさい、それからとっと走るのが速すぎるわよっ」


「うるせぇな、ちょっ、誰か死神を抱えてやれ、それか後ろから鞭でビシバシやって追い立ててくれっ」


「ひぃぃぃっ! そういうのはやめなさいよねっ!」



 雲のようなの屁はそこまでの勢いで迫って来ているわけではないが、もちろん元々俺達が居た場所の地表はもう完全にアウトな状態となっている。


 そこで魔界人間が死亡しまくっているとか、今のところそういう感じはしないのであるが、中長期的な健康被害などを考えれば逃げておくべきだ。


 それに俺達の仲間にはこういう臭いとか汚いとかがダメなキャラが多いし、その辺の雑魚魔界人間と同じにされては困るといったところ。


 もちろんその臭いガスに覆われつつある町の魔界人間も、先程までの戦闘騒ぎで運良く生き残った者のうち異変に気付いた者は、次から次へと建物を飛び出し、逃げる姿勢を見せているのであった。


 だがこのままパニックのような状態になってしまって良いのか、それはかなり疑問だし、そもそも町から逃げ出した魔界人間を受け入れる場所がないではないか。


 このまま町を脱出されて、流れで俺達に付いて来られたりしたら……狭くて何もない隣のエリアまで来てしまうかもしれないな、それだけは避けなくてはならない……



「おい死神、あいつ等どうにかならんのか? 魔界人間がこの町から脱出しやがるぞっ」


「大丈夫に決まっているじゃないのっ、この町から出たとしても、魔界人間は上級堕天使以上の許可がないと別のエリアになんか行けないんだからねっ」


「そうなのか、じゃあそのうちに諦めて、あの臭っせぇ町に戻るってことだな、まぁ、町の外で野宿でもした方がマシなのかも知れないがな……」



 かわいそうな町の魔界人間共は、最終的に俺達がこの神の屁supercloudをどうにかするまでこの町で、臭い思いをしながら過ごさなくてはならないということだ。


 これでは食事も不味くなるであろうし、洗濯物など干せたものではない、極めて不快な日常生活を送ることとなるであろう。


 だが結局のところその状態を解消し、異臭騒ぎを解決するのは侵略者でもある俺達になるのだ。


 つまりそこで感謝されるようなノリを作り出しておいて、俺達が居たから臭い町が浄化されたとか、そういう話に仕立て上げていくのがベストであるに違いない。


 そして『偉そうにしている癖に何の助けにもならなかった』魔界の神々に代わって、侵略者から救世主にランクアップした俺達が実権を握って……という未来を目指そうではないか。


 などと考えていると、何か察したらしい死神がこちらを、疑いの眼差しでチラチラと見てきているのだが……まぁ、コイツに関しては邪魔をするなと脅せば良いであろう。


 今はひとまず逃げて、隣のエリアで作戦を立てることを優先し、さらに戦いによって失ったエネルギーの補給もしておきたい。


 そして万全な状態をもって、どこまで広がるのかさえわからない、そして弱点さえも定かでない神の屁supercloudに立ち向かうのだ……



 ※※※



「……あれから3日か、隣のエリアの様子はどうなんだろうな?」


「死神様が何か通信をしていたようですから、ちょっと聞いてみませんこと?」


「おっ、そんなことしていやがったのかアイツ、そうだな、どこに行ったのか……下の階か、すぐに行くぞ」



 死神のエリアを脱出し、最初の拠点である隣のエリアに移動してから3日経ったのだが、そろそろケツ穴の神や大蟯虫クリーチャーキングとの戦いによる消耗からも回復してきた。


 いや、回復という言葉を戦闘で消費したエネルギーだけに限定した狭義の者とした場合には、それはもう帰ってすぐにフル満になっていたはず。


 だが『何となく疲れた』というところの回復まで含めた広義のそれとした場合には、3日経過してようやくそれが癒えてきたということである。


 そういうことなので、これまであまり触れずにおいた、というかほぼ忘れかけていた隣のエリアの敵の状況に関して、そろそろ確認の方をしていこうと考えたのだが……それを追っていたのはどうやら死神だけのようだ。


 エリアの町の仮設庁舎、そこに滞在している俺達は、偉そうにひと部屋を占有してしまっている死神の元へと向かった……



「お~い、やってるか~っ?」


「ちょっと、ノックもしないで入ってどうするつもりっ? てか何をやっているか聞きたいわけ?」


「いやさ、すっかり興味なくなってたんだけどさ、お前のエリアのあの町、どうなってんのかなって思ってさ」


「無責任にもほどがあるんだから……で、今守護堕天使……あ、あの変なのじゃなくてモブB美さんね、添れに頼んで通信させていたところよ」


「ふ~ん、で、どうなんだ状況は?」


「この3日間だけで町は完全にあの茶色い雲に覆われてしまったそうよ、隅々まで……あと隣の、結構離れた町でも異臭騒ぎが連発して、昨日からで通報が5,000件以上だって」


「あっそう、どのぐらい死んだの?」


「死んだのは潔癖症の個体が何百体か自殺しただけで、あと体調不良を起こしている個体の数は夥しいみたいだけど、死にはしないみたい」


「そうなんだな、じゃあ、引き続き状況を観察して、何か対応策が見つかったら教えてくれ」


「自分達でも考えなさいよねっ! ねぇちょっとっ! もうっ!」



 なかなかに最悪の状況らしいが、ひとつわかったことはあの神の屁supercloudが、直ちに人を殺す性質のモノではないということ。


 雲の中に包み込まれてなおこの状況、つまり潔癖症の奴が『屁に包まれている』という現実を嘆き、自殺した程度であるということがそれを裏付けている。


 まぁ、死神が興味なさげに言っていた『夥しい数の体調不良者』について、具体的にどのような症状を有しているのかが気になるところでもある。


 だがその件に関しては死神の感性からして詳しく聞くことなどないであろう、実験用に飼育している何かの群れの一部が、多少元気を失った程度にしか感じられていないのだから。


 で、ひとまず俺達の方も死神に指摘された通り、ここから具体的に何をしていくべきなのか、そのことについて話し合いを始めていくべき時間なのであろう……



「……ってことなんだ、死にはしないらしい、あの雲の中に閉じ込められたとしてもだ」


「だからと言ってわざわざ近付くようなことはしたくありませんね、臭そうです、というか確実に臭いですから」


「じゃあどうするよ? このエリアから遠距離攻撃とか出来ればそれで良いかもだが、ちょっと無理があるぞ」


「そうね、せめてそのブツがあるエリアまでは行かないとだから……でもどうせ臭いのは臭いと思うのよね、このまま広がり続けたらアレよ、エリアの境界線もきっとあの茶色い雲に包まれるわ」


「となるとやっぱアレか、完璧すぎる防護服を使って、絶対にあの臭っせぇのを吸い込むことがないようにしろってことか、難しいだろうがなきっと」



 神の屁supercloudに対抗するための防護服、そんなモノがこの魔界に、いや神界も含めた世界全体に存在するのかという疑問がある。


 おそらくアレは神を超越した、もちろんケツ穴の神をベースにして、その神の屁を超絶強化したようなものなのであろうから、神を超えた者をさらに超えるもの、つまり神の2段階上の装備が必要になってくるということだ。


 そのような次元の装備を使えば、おそらくは神界所属の神のうち、戦うことが出来ないような神など瞬殺。

 また神界の強い神や魔界のキモい神などに対しても、絶大な効果を発揮するようなものとなるであろう。


 これは神界魔界問わず、神にとって非常に危険なものであって、その存在を脅かしかねないものであるから……きっとあったとしてもそのまま残しておいたりはしないはず。


 破壊やその他の処分はしないまでも、間違いなく封印などして厳重に、敵対者がそれを手にすることが絶対にないように保管しているに違いない。


 当然のことながら、おいそれと手渡されるようなものではなく、最悪の場合神界か魔界の神をブチ殺して奪わなくてはならないものだ。


 まぁそれが、そのような装備品が本当に存在していたと仮定したらの話ではあるが……探してみる価値はあるかも知れないな……



「……よしっ、じゃあ伝説の装備だ、神殺しの装備とでも言うべきかな? とにかく神の屁supercloudの中に突入してもダメにならないようなバトルスーツと、あとはアレを完全に消し去るような、そんな伝説の剣的なものも欲しいな」


「神界と魔界、どっちから先に探す方が良いんでしょうかね? やっぱそういうのは神界かな?」


「どうだろう、ちょっと女神の奴にも聞いてみて、そういうのが、いやそういうのである可能性が僅かにでもあるアイテムとかあれば持って来させるか?」


「持って来させるって、それが結構無理なんじゃないかしらね? 女神様、ヘタレだから強奪してきたりとかは出来ないでしょうし」


「確かにアイツじゃなぁ……むしろ俺達が神界まで出向くって手もあるよな?」


「許可されると良いんですが……ウチには魔族の子も居ますし……」



 もし神界に俺達が欲するような装備があるとしたら、もう直接出向いて取りに行く、いや獲りに行くというのが手っ取り早いことであろう。


 だが俺達の仲間にはマーサ、そしてユリナとサリナという3人の魔族が居て、このままの状態でその3人を神界に連れて行くことが叶うであろうかといったところ。


 まぁ、魔族であるエリナが謎の神界クリーチャーガチャで召喚されるという、意味不明な事象が発生していることからも、それを元にツッコミを入れれば相手が折れるかも知れないが。


 とにかく普通に神界入りさせてくれるとは到底思えないため、ここはあの馬鹿でヘタレで無能な女神の口添えなどを得て……と、その前に本当にそんなモノが存在するのかを調査した方が良いな。


 神を超越した者をさらに超越した者、それの攻撃を完全に防いだり、それを一撃で葬り去ってしまったりという強烈すぎる装備を俺達は探すのだ。


 存在している可能性よりも、存在していない可能性の方がどちらかと言えば高くなってくるため、『そんなモノないのに神界に突撃して大暴れ』、などということをやらかす残念な人々にならないとは限らないのであるから……



「じゃあこうしましょ、まず女神の奴に調査をさせて、それでちょっとでも可能性がありそうなモノがあれば突撃、そういう情報が一切なければ今度は魔界に目を向ける……どうかしら?」


「まぁ、それでいくしかありませんね、まずは可能性の高そうな神界からということで」


「OKじゃあすぐに移動を開始しよう、死神は……ちょっとこのエリアで待たせておくか、どうせもうアイツには何も出来ないだろうからな……」


「戻って来るときまでに被害がとんでもないことに、このエリアにまで来ちゃっていなければ良いけど……」



 ということで俺達は一旦元の世界へと戻り、神界に目的物があるのかどうかのリサーチに移行することとした。


 その間、魔界については完全に放置されてしまうこととなるのだが……まぁ、このエリアにもし神の屁supercloudが流れ込んだとしたら、大蟯虫クリーチャーとの二重苦で滅亡確定な気がしなくもない。


 よってそのような事態に陥る前に、神界で『超越者の超越者』を始末する装備やアイテムと獲得し、ここへ戻って来なくてはならないのだ。


 本気でそのようなものが見つかると思っているのは……やる気満々のカレンぐらいのものだ、いや単に武器の類に興味があるだけなのか。


 とにかく元の世界で女神を呼び出し、そこで神界に隠されているかも知れない凄い装備品やアイテムに関する調査を依頼することとしよう……

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