1211 死神宅
「……だからどうするってんだよ? 変装して近づくにしても、何かのキッカケで気取られたりしたらもうそれは大事だぞ、その場で全面戦争だ、間違いなく町ひとつは滅びる」
「ついでに大曉虫クリーチャーも撒き散らされて、そこら中の水源とかに乗って大変なことになるわね、このエリアよりも魔界人間の数が多い分、悲劇の方もなかなかのものになりそうよ」
「そうなると困っちゃうわね、だって死神様のエリア? この後も結構使えそうな気がしていたし、魔界人間が居なくなったらそれがなくなっちゃうじゃないの」
「せめてお金儲けをしてからにして下さいよあのエリアをダメにするのは、私が儲かってからです、それまで作戦の開始は認めません」
「せめてショッピングをしたり、私とサリナが注目を集めてアイドル化出来るだけの人口は残しておかないとなりませんの」
「ねぇーっ、また生野菜食べちゃダメとかなったら私イヤよ、どうにかしてよねっ」
「……バラバラに好き放題言いやがって」
作戦は決まっている、もちろんいつも通りのことで、それが有効だという裏付けもなければ、安全性の検証さえもしていない至極いい加減なもの。
しかも今回は大曉虫クリーチャーを、忌むべき寄生虫をあえて使っていくという方針であるから、下手をすると俺達が想像している『とんでもないこと』よりもさらに数段酷い、『超とんでもないこと』になりかねないのである。
それはもう事件事故の類ではなく、純粋な崩壊を意味するのであって、何か対処をして解決し、現状を復帰することなど困難な、そんなトンデモ事態のことを指す。
とはいえまぁ、ターゲットであるケツ穴の神がやって来るのは比較的小さいとされる、魔界人間の人口がおよそ100万の都市ひとつ。
もちろんこのエリア、かつて毒剣の神が支配し、それをブチ殺した俺達が奪ったエリアの最大都市であるこの場所の、5倍程度はあるのではないかという規模なのだが……最悪そこを完全に捨て去るという方法もなくはない。
もし上手くいけばそのようなことをしなくとも、例えば何らかのかたちでターゲットと対談し、いきなり残雪DXから大曉虫クリーチャーの卵などが入った弾丸を、その口でありケツ穴である場所に、ダイレクトに放り込むことが出来たなどすれば問題ないのだ。
だが失敗してしまった際、おそらくそのままにしておけば破局的な事態に、数千万、いや億の魔界人間が暮らすエリアひとつが、大曉虫クリーチャーによる汚染地域となってしまうこととなる。
それを防ぐために、その小規模とされる都市ひとつを犠牲にして……つまり完全に消滅させ、塵ひとつ残さずこの魔界から消し去るという方法なのだが、それに対する仲間の反応は……
「……でもご主人様、もし町を消し去ったとしても、まともに大曉虫クリーチャーを喰らった神様……ちょっと口に出しては言い辛いですが、その神様が生きていたらダメなんじゃないですか?」
「何だルビア、何の神様なのかハッキリ言ってみろ」
「ケツ穴の神様です……きゃーっ」
「馬鹿な奴め、で、確かにその馬鹿なルビアの指摘通りだな……おいっ、ルビアの分際で生意気だぞっ! カンチョーを喰らえっ!」
「はうっ! カンチョーの神様が居たら……その神様には勝てそうですね……ガクッ」
そんな都合の良い神など居ればどれだけ戦闘が楽になることであろうか、ケツ穴の神の弱点はおそらくそれであって、確実に、毎ターン有効打を放つことが可能であるそんな神が……まぁ、居ればとっくに出現し、ケツ穴の神など滅ぼしていることであろう。
で、問題なのは確かにルビアの言う通り、俺達の攻撃によって大曉虫クリーチャーに寄生されたケツ穴の神を、確実に仕留めない限りはリスクが解消されないということだ。
もしかしたらケツ穴の神には大曉虫クリーチャーが無効なのかも知れないが、だとしても奴が生きたまま野放しになれば、攻撃の際に『付着』しているであろうその卵などが『拡散』してしまう結果をもたらす。
結局のところ、そうなるのであれば町を消滅させようが、エリア全体を炎の渦に巻き込み、汚物を消毒し尽くそうが、結果はまるで変わらないということにもなる。
つまりもう勝つしかない、今回の敵の訪問時に、確実にそれを仕留めてこの魔界から消し去る以外に、悲劇を起こさずに次のステップへ進む術はないということだ……
「……と、いうことなのね、わかったわ、とにかく勝利するためには相手の神様を殺す、それしかないってことね」
「何をしに来るのかわかりませんが、とにかく……と、そもそも何をしに来るんでしょうね? 別の、しかも自分の系列じゃない神様が治めているエリアにやって来て」
「そこだよな、もしかしたらアレかも、ホネスケルトンとかいう馬鹿自体も魔界の制圧を狙っていて、その派閥に与さない死神を排除すべく……みたいな?」
「まぁ、あり得なくもないわね、あの神の屁とかいう偵察も、本当は死神とかその配下の動向を探るためい寄越していたのかも知れないし」
そんな予感がしているのは事実で、気のせいなのかも知れないしそうではなく真実なのかも知れない。
とにかく戦ってみなくては、そしてその際に目的を聞き出してみなくてはわからないことでもある。
で、そこまでの話はそれで良いとして、ここからは具体的にどうやって戦うのか、如何にしてケツ穴の神を確殺するのか、それについて検討していくこととしたい。
まず、大前提として大曉虫クリーチャーを使った作戦を実行に移すというものがあるのだが、これについてはもう修正が不可能。
俺達勇者パーティーはやると決めたらやる、そんな男前な性質の……まぁ、パーティーは俺を除いて全員女なのだが、とにかく女前でも何でも良いから、基本的なところに修正を加えるようなことはしない。
というか、能力が低すぎてそのようなことが出来ないという面もあるのだが……その辺りを指摘すると、パーティーの中で賢さをメインに活動している仲間達に失礼なのでやめておこう。
そんな具合で、根本的な作戦を変更せず、また、エリナとその装備武器である残雪DXをメインに使っていくということも変えずに……そういえば残雪DXの意見はどうなのであろうか。
そこが気になってしまったため、エリナに頼んですぐに残雪DXを、厳重に保管してある場所から持ち出して貰う。
しばらく放置されてご立腹な様子を見せていたその魔界の武器なのであるが、最強だの何だのと適当に煽てたところ、すぐにいつもの勢いを取り戻したのであった……
『それで、私にどんな攻撃をして欲しいって言うんですか? 火の攻撃、水の攻撃、風の攻撃……でも土とかはやめて下さい、砂噛みとかすると凄く面倒なんで』
「じゃあ、海水を使った水攻撃をしましょうか、そこそこ塩分が凄いやつ」
『錆びるのでやめて下さいっ! もしそうなってしまったら責任を取って、キッチリと磨いて貰いますからね、ピッカピカになるまで』
「おうよ、サンダーでバリバリ削ってやるからよ、火花でも散らしとけってんだ」
『・・・・・・・・・・』
結局その場では『水属性の攻撃をする』ということだけを伝え、残雪DXはその水の中に大曉虫クリーチャーが含まれているということ、それを本体内部に投入して発射するということを知らないままであった。
さて、ここまでは規定通りだが、やはりどうやって敵の口でありケツ穴であるその部分に、当該『水』を突っ込むのかというところだが……
やはりその場で、行き当たりバッタリで考えるのが俺達らしくて良いかも知れない、もしターゲットとの距離をつめることが出来ないのであれば、それはもう遠距離からスナイプするしかないし、そうではない可能性もある。
そんな不確定要素をいちいち、ひとつひとつ検討していても、特に何かが確定するわけではないし、そもそも考える気がない仲間が大半であるため会議にならないのだ。
まぁ、今回注意すべきはこちらの航空戦力、いつもは小型で機動力に優れた精霊様と、巨大で威圧感があり、大軍を相手にした際にその敵を混乱させる効果を持つリリィの2枚看板のところなのだが、そうはいかないのである。
あまりの寒さにリリィが固まってしまい、おそらく外に出したらもうあっという間に冬眠状態に、もちろん空を飛ぶことなど出来ないし、巨大で熱の拡散が激しいドラゴンの姿になど、到底なることが出来ない状態なのだ。
今でさえ仮説庁舎に勝手に持ち込んだこたつのようなものの中で丸くなっているというのに、そこから出て動き回ることなど、どれだけ温めようと無理な気候を恨むしかない。
で、そこも考慮しつつ、ひとまずは『必要なもの』を全て持って隣のエリアに移動しようということになり、まずは疫病をレジストする魔界の女神と対談している死神を連れて来るよう、堕天使さんに命じておく。
すぐに戻って来た死神は、どうやらここの新しい統治者であるその魔界の女神とは上手くいきそうな感じらしく、これから俺達の戦いに巻き込まれることなどすっかり忘れて上機嫌の様子。
コイツはもしかすると馬鹿なのではなく、普通に中身が子どもなだけなのかも知れないと、そうも思わせるようなムーブである……
「さてと、準備もそこそこにして、すぐに隣の、死神のエリアに向かうぞ」
『うぇ~いっ』
こうしていつもの如く上手くいくのかわからない、そもそも実行に至るまでに何をすべきなのかも決定していない作戦を引っ提げて、俺達はもう一度死神の、巨大な統治エリアへと足を運んだのであった……
※※※
「……へぇ~っ、その装置なしで出来る転移は結構便利だな……で、ここがお前の家なのか? 死霊の館とかそういうのじゃなくて?」
「コウモリ飛んでますよご主人様! 吸血鬼です、吸血鬼のお城みたいですっ!」
「ちょっとそこの狼獣人、私をそんな下賎な存在と一緒にしないでちょうだいっ、ヴァンパイアロードとかそんなのなんかノミ以下の存在なのよ私にとっては」
「結構強いじゃないですかノミって……」
「あんたは毛が多いからでしょっ! とにかく中へ入る……ことが出来ないんだったわ、あの神界の女神のせいで……」
「お家の鍵、どっかいっちゃったんでしたねそういえば」
「うるさいわねっ! ちょっとどうにかしなさいよあんたっ!」
「わぅぅぅ、怒られてしまいました」
やたらとカレンに厳しい死神であるが、やはりこういう生命力に満ち溢れた、非常に元気な存在が気に食わないのであろうか。
もちろんカレンの抵抗力があれば、死神の鎌による死の攻撃など容易にレジストしてしまうであろうし、物理的な戦いでも、死神が強化されていたあの状況において互角程度であったのだ。
つまり、今の死神がこの小さなカレンを戦って制圧することはまず出来ないということであって、それがこの態度にも繋がっているのではないかとも思う。
で、余計なことしかしない余計な女神が馬鹿であったため、死神宅の入口の扉はもう、破壊して中に入るしかないということである。
防犯のための結界はかなり強力で、適当な攻撃では絶対に打ち破れないような雰囲気は漂ってくるのだが……それを感じ取っている間に、サリナがマイナスドライバーとヘアピンを使って上手く解錠してくれた……
「あら、鍵を壊すことなく開けるなんて、やるわねそこの小さい悪魔、褒めて遣わすわよ」
「え~っと、凄く偉そうなんですね、さすがは魔界の神様……ご主人様、どう対処したら良いか分かりません」
「放っておけ、そのうちに静かになるからな、それで、もう屋敷の中に上がり込んでしまって良いのか?」
「まぁ、ちょっと汚いのは勘弁しなさい、ひとまずこっちへ」
ようやく建物内に入ることが出来たため、そのまま死神の案内に従って2階の部屋へと通されることに……どうやらそこが死神の自室らしいな。
果たしてどのような良いアイテムがあるのか、そんな期待を抱きつつ入室すると……邪悪な力を放つ謎の結晶が、無造作にゴロゴロと転がっている状況。
これはお世辞にも片付いているとは言えないし、そもそもそんな結晶を、かなりゴツゴツしたものをうっかり踏んだりしたらひとたまりもないであろう。
どうしてこのような空間で生活することが可能なのか、そこを確認しておきたいとは思うのだが、その前にこの『邪悪な力を放つ結晶』そのものが何なのか、それが気になって仕方のないところだ……
「……ふ~ん、この結晶、ちょっとは値打ちモノなのかしら? 沢山あるみたいだし1個ちょうだい、小さいので良いから」
「待って! どうしてそれを平気で触ってんの? あんた下界の精霊でしょ? てかそれ、置いて、マジで置いて、その1個が町ひとつなんだからねっ!」
「どういうことかしら? あ、もしかしてこのゴツゴツした結晶が町の……」
「そう、町のコアよ、それひとつ潰されるだけで町がひとつ崩壊するの、粉々に、もちろん中の魔界人間なんて1匹も助からないわ、最悪堕天使も何体か死ぬかも」
「そんなもん無造作に転がしてんじゃねぇっ! ちょっと片付けて棚かどこかに……いでぇぇぇっ! 踏んだじゃねぇかぁぁぁっ……あっ、ごめっ、砕けちっまったぞ」
「はい終わったーっ! あんたのせいで魔界人間の町ひとつ終わったーっ、まぁ、そこ最小規模の、100万匹ぐらいしか飼っていなかたっところだから良いわよ、どうせ次のゴミの日に出そうと思ってそこに転がしておいたの、治安とか悪化してもうダメな感じだったし」
「なかなかに酷いわね……神界の神様とか女神様もこういうことしているのかしら?」
「セラ殿、女神様を疑ってはいけないぞ、きっとあのお方はそのようなこと……していない……と、信じている」
「きっとでっかいくしゃみしてんだろうなアイツ今頃……」
至極いい加減なノリでエリア内の都市を管理していた死神であったが、コイツもやはりその都市に住まう魔界人間などどうなっても構わない様子。
今の事故にしても、自分の家の庭にある、無数のアリの巣がひとつ、落石か何かで崩壊してしまった程度にしか思っていないことであろう。
で、せっかくその邪悪な力を放つ結晶が町のコアであるということがわかったため、もう俺達のモノとなった、そして今はあのクソ馬鹿守護堕天使に留守番をさせてある町のものを見せて貰うこととした。
いくつもある結晶の中から、パッとそれを見つけ出し、こちらに差し出してくる死神……ゴミ屋敷の主というのゴミの中にある必要なものの場所を正確に覚えているという話を聞いたことがあるが、コイツもその類なのであろうか。
そしてその見せられた結晶なのだが、紫色をしてはいるものの基本的には透き通り、中の様子が見えて……なんと、町の様子が監視カメラのモニターでも見ているかのように確認出来る。
魔界人間の様々な日常生活、特に事件や事故など、平常ではない何かが起こった場面をメインに、その情景が映り込んでいるではないか……
「すげぇ……おっ、強盗が弱そうなキャラを3匹ブチ殺したぞ、白昼堂々、道のど真ん中でだ、まぁあの町を見ている限りじゃこれが普通なんだろうがな」
「もうっ、そんな町ばっかりになってんのよね、一旦完全にリセットしてセーブデータを作り直そうかしら? もちろん財だけはキッチリ回収して」
「すげぇなコレ、あ、てかじゃあさっき俺が踏んづけて壊した町のも……」
「あら、見ていなかったんですか勇者様、キッチリ映っていましたよ、理不尽極まりない謎の天災によって、阿鼻叫喚の地獄に陥った町とそこの人々の姿が、もっとも、数秒後には全て消え去りました、怨念だけを残して」
「何かちょっとイヤだなそれ……まぁ、アレは事故なわけだし、どのみち俺がやったなんて知りながら死んでいった魔界人間なんぞ居ないだろうよ、だからセーフッ!」
「ゴリゴリのアウトだと思いますわよ……」
なかなかに見応えのある邪悪な結晶、だがこれについて、何人かの仲間が興味深そうに見ているのとは別に、少し別のことを考えているらしいのが……精霊様とジェシカだ。
どうやらこれを、この邪悪な結晶を使って敵の動向を監視することが出来ないのかと、そのようなことを考えているらしい。
確かに見るべき場所はわかっているわけだし、そこで何かが起これば、その情景がこの結晶のどこかに、優先的に表示されることはこれまでの感じからして明らかなこと。
しかしそれをどうやって活用するのかというところが……ジェシカには何か策があるようだ、ひとつ話を聞いてみることとしよう……
「……うむ、そこなんだがな、やはり私達も接近するにはして、敵に攻撃が届くギリギリの距離か、或いは感付かれる直前の位置まで行って、そしてそこから監視して……というのはどうだろうか?」
「そうすればチャンスになったタイミングですぐに動くことが出来るわけね、良いかも、やってみたらどうかしら?」
「う~ん、まぁ、良いんじゃね? 知らんけどな」
「相変わらず適当だな主殿は……」
死神の自室にあった邪悪な結晶、それが存在しているということなど今まで知りもしなかったのだが、どうにも使えそうな、しかし使い方がイマイチわからない感じのモノである。
だがここはもうジェシカの案を採用してしまって、それを既存の作戦に組み込んで動いてしまう他ないであろう。
で、ひとまずのところ、ケツ穴の神はまだ目的の町に来ていないようだということ、そして町にも特に変化がないことなどを確認し、その日は死神宅に泊まることとした。
狭いだの薄暗いだの、散らかっているだのと文句を言いつつ、ついでに死神がストックしていた高級な食材もそこそこ奪い、満足したところで1日を終える。
明日は目的の町へ移動して、そのままそこでケツ穴の神を待ち構え……いや、その前にアレだ、ゴミ野朗の守護堕天使がその任を解かれ、先日まで下界の人族であったモブB美さんに交代させられるという屈辱、その瞬間の表情を拝むのが先だ……




