クロエ 王家主催の【精霊祭】から、排除される
「おい! シュバルツハント! お前に話がある!」
ミハエル殿下は、その取り巻きをほとんど連れて、大食堂、貴賓席に見えられた。
うん、こんだけの人数、大食堂の普通の席に来られたら、迷惑で仕方ないよね。 まぁ、何時ものごとく、エリーゼ様 及び、 その取り巻きも一緒に行動しているのだから、迷惑感倍増だよね。
「はい殿下。 なんの、御用でしょうか?」
ものっそい、平坦な声が出てしまった。 あーあー、大丈夫だね。 ちゃんと、声出てるよね。 この頃さぁ、いっつも、思った事とか、話したい事の半分くらいで、止められたり「話の腰」、折られたりしてるからねぇ。
「この所、学院の授業も出ずに、色々としているらしいな」
えぇ、まぁ、授業に来なくて良いって、言われてますしね。 続きは?
「わたしの寵愛を受けれぬからと言って、やって良い事と悪い事があると、思わないのか?」
「なんの事でしょうか? まったく、心当たりがありませんが」
エリーゼ様が、なんか、鼻を鳴らしてたよ。 フンってね。 ものっそく、蔑んだ目をしとるね。 なんだ? なにが言いたいんだ?
「グレモリーに対し、何をしている。 アレの持ち物が無くなったり、壊されたり…… 全く、いい加減にしろ!」
そうなの? へぇ…… 答えてあげない。 だって何もして無いんだもの。 それに、私が授業出て無いのは、飛び級して六年次に成ってるからよ。 そんで、六年次の授業も、免除されて、各寮のお手伝いしてるんだもん。 忙しくて、学院にすらいないよ。
「全く、反省の色が無いな…… これだから、下賤な者は! いくら、俺から、気持ちを向けられて居ないからと言って、嫉妬から、目を掛けて居るグレモリーに嫌がらせをしても、お前に目を向けるつもりは無い!!」
何言ってんだ? 頭にでも虫が湧いたのか?
「もう一度、申し上げます。 心当たりはありません」
「もうよい。 目撃者の証言は山程あるのだ。 ……お前には罰を与えねばな」
「……罰ですか。 罰を受ける様な事を、した覚えは、御座いませんが」
「もうよい! 来たる 王家主催の【精霊祭】には、お前は呼ばぬ!! 王家の一員に成るやもしれぬ者が、国外の賓客に対し、無礼を働いているのだ!!! 本来ならば、厳罰に処す所なれど、情状の余地もあると、第一婚約者でもある、エリーゼが庇ったのだ。 感謝するがいい!!」
「承知いたしました。 他に御用事は?」
側に居る、ヴェルから、殺気が漏れているのよ。 さっさと済まそう…… ミハエル殿下を、ヴェルが、なんか睨みつけてるしね。 気が付かれない内に、行ってくれないかなぁ……
私はね、もう、なにも言う気はないの。 馬鹿共の茶番に付き合う程、おひと良しじゃないし。 うん、そうだね、エル達に、裏取りして貰おう。 そんで、うちの暗部の人達に、状況を確かめよう。 必要ならば、色々と対策を取らないとね。 特に、証人って、人達にね。
それに、エリーゼ様が庇ったって言ってるけど、それ多分、ボロ隠し…… 大事に成って、白龍大公翁閣下の耳に入れば、それこそ、大変な事になるからね。 その位の分別はある筈……と、思いたい。 その理解で、いいんでしょ? ニッコリ、エリーゼ様に笑って差し上げた。 なんか、エリーゼ様、引き攣ってたけどね。
ミハエル殿下……なんか、顔、真っ赤にして、怒ってたね。 そんで、いきなり帰って行った。 ほんと、アレが、私の婚約者なんだよねぇ……変な笑いしか出てこないよ。 まぁ、王太后様が、無理矢理お膳立てした婚約だからね。 婚約式の時、顔すら見せて無いんだし
……婚約って、なんなんだ?
そんな事してる、ミハエル殿下、どうして自分が、好かれているって、思えるのかしら? まったく、謎ね。 全ては、自分を中心に回っているって、感じて居られるのかしら。 あぁ……そうか……私の方から、婚約者に成りたいと、” 望んだ ” と、思っているのかも…… はぁ……溜息しか出ないよ……
あれ? グレモリー様…… 居なかったよね。 まぁ、あんな連中に四六時中取り囲まれてたら、嫌になるよねぇ…… そっちも、情報取り、しとくか。
まぁ、去年と同じ事遣らかす筈だからね。 なにかしら、こっちも対策とっとこうか…… まぁ、まずは、お部屋に帰ろう。
**********
「お嬢様、いくらなんでも、あれは…… 内郭に、抗議文の一つでも入れて……」
お部屋への道すがら、ヴェルがそう言ってきた。 もちろん、誰にも聞こえないような声でね。 でね、止めたの。 わざわざ、揚げ足取りの理由をあげる必要なんてないもの。
「ヴェル、やめておきなさい。 内郭の中には、聞く耳持つ者は居ないと。 そう、認識しておきなさい。 揚げ足を取られるばかりよ。 情報はきちんと取っておいてね。 許可します。 暗部の使用を」
「はい…… お嬢様、それでは」
「ヴェル、危険な香りがするわね。 ダメよ。 耳と、目だけ。 手は出さないで。 お願いよ」
「はい……」
ヴェル、よく我慢したねぇ…… さっきは、ヴェルから、危険な匂いがしてきたから、さっさと終わらせたよ。 ハイハイってね。 だって、あそこで、暴れたら、ヴェル居なくなっちゃうでしょ……いくら護衛騎士だとしてもね。 ほら、直接手は出されてないし。
それにね、あんな所に行くのは願い下げだったから、渡りに船よ。 絶対に教皇猊下いるだろうし、何回も同じ手に乗るような馬鹿じゃなさそうだし、魔方陣の書き換えだって、面倒くさいし。 勝手にやってろ! ってな、感じかな? 個人が、汚染されるなら、その人の問題なんだよ。 わざわざ、そんな所に行く方がおかしいしね。
国葬までして、フランツ殿下が亡くなった事にしたんでしょ? なのに、なんで、王家が主催で【精霊祭】すんのよ。 庶民階層の人達だって、今年の【精霊祭】は自粛して、大きなお祭りにしないのよ? 各個人で、精霊様にお祈りを捧げようって…… それなのにね…… 馬鹿じゃないかしら。
そんなこと考えているうちに、お部屋についた。 うわぁぁ、なんか久しぶりね。 ここんとこ、忙しかったからね。 そんでね、テーブルの上に、一杯お手紙があったのよ。 へぇ……なんだろう。
―――――
丁度、帰って来たメイドズと一緒に、ヴェルにお茶を入れて貰いながら、その手紙なんかを読んでいったの。 お茶しながら、手紙を確認しつつ、エル達が集めてくれてた、学院内の噂話を、聞いてたのよ。 私が居ない間に、学院の中で、出所の判らない噂話が飛び交ってたんだって。 その変な噂話を、エル達が可能な限り集めて、纏めててくれたのよ。
勿論、ラージェ、ミーナも各教室でね。 と、言う事は、貴族科以外の教室の噂話ね。 貴族科の噂話は、マリーに聞くとして……
へぇ……私が嫉妬に駆られて、グレモリー様に、色々やらかしてたらしいねぇ…… 曰く、グレモリー様の持ち物が無くなった、壊された、お部屋の前に不審なモノが置かれた、等々……
ここ10日間くらいの間に集中して起こったんだって……
私、居なかったよ?
たぶん、私が居ない事知らない人が、私のせいにして、やらかしたんだろうね。 そういえば、ミハエル殿下も、そんな事言ってたなぁ……
目撃者が沢山いるって…… どこで見たんだろうね。
「エル、その噂の元になった事がある筈ですよね」
「確かに、グレモリー様付の侍女の方から、学院の事務官様に、苦情が入ったようです」
「なるほど……私が、そのやらかした人だと、云った目撃者の方は?」
「クロエ様の報復を躱す為、という名分の元、名前等は秘匿されていますが……エリーゼ様の従者、白龍大公家の傍系の方々が、大声で、” 私は見たの!! ” と、そう言われております」
ふむ、……嘘も集まれば、本当のように見せかけられる訳だ。 なんとも、いやらしい手を使うね。 で、エルはどう思ってるかな? もし、本当に私が何かしたんなら、どうなると思う?
「そうですね、今頃、グレモリー様は、本国にお帰りになって居られるんでは、ないでしょうか? それも、表面的には、ご自身の御都合と云われて」
そうだよねぇ……証拠、証人、残すなんて事しないし、徹底的にするよねぇ……私だったら。 うん、やっぱり、エルは、私の事ホントよく知ってるよね。 流石だ。
「如何致しましょう?」
「信じているのは、貴族科の人達と、白龍系の貴族の方々?」
「ええ、左様に御座います。 庶民階層の方々、白龍系以外の方々は、クロエ様が嫉妬される事が、想像できないと、仰っておられました。 ” なぜ、ミハエル殿下は、クロエ様が嫉妬する程、好意を持たれていると思ってらっしゃるのか。 そちらの方が、不思議だ。 ” そう、仰られる方々も居られました」
うん、やっぱり、見えている人もいるようだね。 それって、やっぱり、白龍系以外の貴族の方?
「白龍系の中にも、疑問を持たれている方は、沢山いらっしゃいますね」
私の疑問に答えてくれたのは、ミーナだったよ。 彼女、この頃、凄く ” 洞察力 ” 、付けて来てね、諜報、防諜官にどうか、って話も出て来てるみたいね。 まぁ、アレクサス御爺様仕込みだからねぇ…… 謀略戦と捉えて、要所、要所の人に、楔打ってくれてるみたいね。 おかげで、変な噂一色じゃない感じなのよ……
まぁ、彼方には、ミハエル殿下がいらっしゃるから、表立っては言えないけどね。
大体の立ち位置は判った。 対応……・どうしようかなぁ…… 面倒だから、放置って訳には行かないよね。 それにさぁ、王家主催の【精霊祭】、有るんだよねぇ…… 教皇猊下が御臨席されるよね。 きっと。 その対策はしとかないとね。
龍王国の精霊様が喰われるのは、良くないし。 内郭でさぁ、ミルブール国教会の奴が、ミールフルール呼出しやがって、龍王国の精霊様が喰われたら、絶対に加護が失われるよね。 ほら、王家がそれを認めたって思われちゃうでしょ。 いかんよなぁ…… 本当に、何考えてんだろ。
でね、手元の手紙類を、眺めてたのよ。 黒龍のお屋敷からとか、学院の事務方の方とか、まぁ、雑多な事が多いけど、王家の封印がある手紙が二通、紛れてた。
「これは?」
「侍従長様が、わざわざ、お越しくださいまして、手渡しでお受け取りしました」
あぁ……懲りたな。 他人を挟むと、何かしらやられるもんなぁ…… そんで、私に遣り込められる。 そんな事ばっかりするから、私も、半分以上脅してたもんなぁ…… 殺気出しちゃったしなぁ…… 気を使わせちゃったなぁ…… まぁ、いいか。
で、内容はなんだろうね。
” 【精霊祭】ご招待状 ”
” 王太子主催の舞踏会について ”
だって……なんか、ちょっと、笑顔が浮かんだよ。 勿論、黒い方のね。 だってそうでしょ? 今しがた、” 来るな ” って、云われたばっかじゃん。 こんなのばっかじゃん。
ヴェルにさぁ、招待状を見せたのよ。 目を真ん丸にして、見てたよ。 そりゃそうよね。 さっきの遣り取り知ってるんだからね。 だから、ニッコリ笑って、ヴェルに云ったのよ。
「侍従長様に、御欠席のお知らせいたしませんと、いけませんね」
「御意に。 わたくしが、お届けいたします。 先程の件、合わせて、ご報告いたしておきます」
「宜しくね。 では、お返事、書きますね」
窓際の机に行ってさ、お返事書いたよ。 出ねぇよ! ってね。 勿論、詳しく理由も書いたよ。 だってさぁ、私の婚約者様の御言葉だし、高位貴族の方々も、いらっしゃったし、もう覆せないよ? 侍従長様がいくら頑張ったって、無理なモノは、無理。 あぁ……きっと、去年みたいな事になりそうだから、王太后様、辺りから、侍従長、頼まれたのかもね。
まぁ、しゃぁないよね。
自業自得だよね。
私は、私で、やる事、有るし。 そっちは、そっちで、如何にかしてくださいね。 こっちに、如何にかさせようって、思うなよ。 自分達がしでかした不始末は、自分達で始末をつけて貰おうか。
書き上げた、お返事をヴェルに渡して、内郭に行ってもらった。 まぁ、ビックリするだろうね。 知らんけど。 私は、私で、必要な場所へお邪魔する事にするよ。 そうだね、ほら、人事局の人も言ってたじゃん。 【精霊祭】を楽しみなさいってね。
うん、精霊教会に行ってみるよ!!
でね、ヴェルを送り出してから、もう一通のお知らせを見てたのよ。
” 王太子主催の舞踏会について ”
ほー
へー
ふーん。
王位を継承する事が、確実になって、自分の名前を冠した舞踏会が開きたくなったのかな? お金、掛るよ? 国庫、大丈夫なのかな? なになに、内郭の大広間でするつもりなんだ…… と言う事は、高位貴族の人達ばっかりね。 まぁ、そうよね。 ミハエル殿下、自分の顔見知りバッカリ、集めるつもりみたいだね。
でもねぇ…… 時期が悪いんだよねぇ…… 【精霊祭】 と、 【降龍祭】 の間ってね。 夏季休暇のど真ん中だよ。 貴族の方々、この時期は領地に帰って、自分の領地の経営とか、出て来た諸問題を解決する時期なんだよ…… まぁ、そのついでに、近隣の人達と、夜会とか、茶会とか、舞踏会とか、しちゃうわけだけどね……
王都シンダイに残っているのは……ホントの大貴族か、領地を持たない、一代爵位の方々とかだね……後は、ちょっと、領地に帰り辛い人達とか……
まぁ……なんだ、大貴族様以外、まともな人達なんか、残って無いよ。
そういえば、マリーどうすんのかね、今年の【精霊祭】。 ちょっと聞いてみよう! ヴェルが帰って来て、どんな反応してたか、聞いてから、マリーのサロンに行ってみよう。 マリーなら、他の友達がどうするのかも、知ってるかもしんないしね。
そんな事、つらつら考えながら、エル達とお茶してた。
初夏の風が、窓から爽やかな空気を、送り届けてくれた。
穏やかな…… ホントに、穏やかな、午後だった。
エル達の笑顔が、大切に思えたよ。
美味しいお茶と、楽しい、お喋り。
こんな、時間が続くと良いなぁ……
ブックマーク、感想、評価。 誠に有難うございます。
中の人、盛り上がって参りました!!
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お仕事から、帰ってきたら、トンデモ状況。
ホントに、お疲れ様ですね、クロエ。
でも、やる事はやるのです。 クロエは出来る子なんですからね。
それでは、明晩、また、お逢いしましょう!!




