クロエ 人事局からのお仕事を遂行する さん
グノームの集落……
そうだよ、私達は、今、半魔物の真っただ中にいるのよ。 何体いるか判んないし…… 個体はそんなに強くないけど、【 治癒 】魔法は持ってるし、魔力も底なしだし……
ヤバイかもしれない。
敵対行動し始めてたって……騎士さん達が、そう言ってたから……問答無用で襲って来る可能性もあるよね。 ほら、実習の時みたいにさぁ…… 私たちは二人。 最強と謳われる、黒衣の騎士が居るとしても…… 私も、爺様の護剣を振り回せば……
ゾロゾロ出てくんなぁ…… 一、二、三……・ダメだ、二十体以上いる。 みんなボロボロのローブ姿だ。 相当、痛めつけられて居たよね、これ。 あぁ……目が怒りに満ちてるよ。 ヤバい…… ヤられるかもしんない。 くそっ! ミルブール国教会の奴らめ。 事切れて倒れてる男の一人に八つ当たりで、睨みつけちゃたのよ。
あぁ~ もう!!
一番、年配そうなグノームが、私の目付きに目を丸くしてるのが判る。 でも、もう、感情が言う事聞かない。 こいつらのせいで、樹と土の精霊様がドンダケ苦しんだか!! ヴェルは騎士だ。 倒れた者にも、敬意を払う。 そう、どんなに怒りを覚えようともね。
でも、私は違うの。 騎士の宣誓してないもん。 だから、あくまで一般人。 どんな格好してようがね。
⦅あのね、クロエ、お話が有るって⦆
今にも手とか足とかを転がってる死体に出しそうな私。 そんな私を、ズルズルと、ヴェルが、引き剥してる最中に、水の精霊様が話しかけて来たのよ。 珍しいよね。 精霊様から話しかけるって。 で、ちょっと驚いたんだけど、まぁ、そこは、大切な精霊様なんだから、聞くよ。
⦅はい……すみません、取り乱しました。 えっと、お話って?⦆
⦅土の精霊が、お話したいって⦆
⦅ええ、大丈夫です。 何でしょうか、土の精霊様⦆
近くに、茶色い顔した、土の精霊様が歩いて来たの。 そっちに意識を向けたのよ。 そしたら、目を真ん丸にしてた、一番、年取ったグノームが後をついて来てた。 私は精霊様とお話をする為に、しゃがんだから、自然と、そのグノームを仰ぎ見る形になったのよ。
⦅うん、ちょっと話が…… あぁ、後ろに居るの、此処のグノームの長老⦆
⦅そうみたいね。 なんのお話?⦆
⦅うん、なんで、そいつ、睨みつけたの?⦆
⦅あぁ……こいつらが、ミールフルール呼び出して、貴方と、樹の精霊様を喰ってたから……そんで、この、グノームの村の者を、操ってたからね。 色々と被害にあって…… それでね、怒りに我を忘れちゃって……⦆
⦅そっか……だからか…… 君は、僕たちの為に……祈って呉れたもんね……ちょっと待って⦆
くるっと、回って、お爺ちゃんグノームになんか言ってたのよ。 でも、ちょっと言葉が判んない。 かなり歪な、聖句らしいから……断片しか、判んない。 なんでか、そのお爺ちゃん、ウンウン頷いてた。 そんで、なんか、喋ってた。
まだ、周りのグノーム達の目は赤いよ…… いつ、襲い掛かられても、不思議じゃない…… ヴェルも身構えている。 まだ、納刀したままだけどね。 状況が状況だから、何時でも抜けるようにしてるのよ。 殺気は押さえてるね。 こんだけ囲まれてたら、あっという間に、切り刻まれるよ。 ほんと、どうしよう。
⦅あの男の仲間じゃないのか? って⦆
⦅ちがうよ!! 奴等、わたしの事も殺そうとしたんだよ? それに、この国をダメにしようとしてる。 妖魔精霊を信奉してるし!! あれは敵だよ。 この国にとっても、人と、精霊様にとっても⦆
⦅そんじゃさぁ、おねえちゃん、この森の周りの人と同じ感じ?⦆
⦅そうだよ! とってもいい森が有るんだもん。 一緒に生きて行くべき森だよ。 周りの人も、王都シンダイの人も、大事にしてるよ。 森が荒れたら、水は貰えない。 水が貰えなかったら、人は住めない。当たり前の事じゃん⦆
⦅そっか、そうだよね。 わかった⦆
また、後ろ向いた。 あれ? あれれ? この子…… 通訳してくれてるの? グノームと? マジで? そんで、初めてグノームに意識を向けたのよ。 そう、仰ぎ見る感じだったけどね。 ジッとグノームのお爺ちゃんの目を見る。 真っ赤だった目が、若干薄くなってるよ…… そんで、土の精霊様の言葉を聞く度に、だんだん薄くなって、青くなっていくの……
⦅お姉ちゃんの事、いい奴だって、判ってくれた。 長老みんなに言って呉れるって。 そんでね……⦆
⦅……なに⦆
なんか、取引かな…… 半魔物とはいえ、魔物…… ちょと身構えるよ。
⦅長老はね、この森が好きなんだよ。 出来るだけ荒らして欲しくないんだよ。 それでね、今まで通り、この森で暮して行きたいんだって。 出来るだけオトナシクするって。 そんでね、こんど、こいつらみたいな奴等が来たら、助けて欲しいって⦆
⦅……助けて? どういう意味?⦆
⦅治療系の魔法は得意だし、穴掘ったり、細工物も出来るけど……戦闘は空っきしダメだから、もし、人が大勢でやって来て、そいつらに、斬られたり、突かれたり、攻撃魔法使われたら、負けちゃうんだって。 そんとき、誰か手助けしてくれたら……って⦆
⦅どうやって、連絡取るの?⦆
⦅狼煙上げるって⦆
ちょっと考えた。 魔物とは言え、半分は妖精……案外いいかもしんない。 それに……
⦅こっちからも、お願いあるの、聞いてくれるかな?⦆
⦅なに? 聞いてみるよ⦆
⦅うん、この森の水を守って欲しい。 そんで、綺麗な水を森から外へ出して欲しい⦆
⦅いいよ、聞いてみる⦆
そんで、土の精霊様は、くるっと振り返って、長老さんにお話したのよ。 ゴニョゴニョ言ってる。 なんか、目を丸くしてるよ。 でね、大きく頷いたのよ。 よし、なんとか、なりそう。 で、土の精霊様くるっと振り返って、満面の笑みで答えてくれた。
⦅良いって。 いつもやってる事だから。 樹と土を大事にすると、水は自ずと綺麗になるし、あんまり多いと、樹がダメになるから、適時放出してるんだって。 今も、多すぎるから、出したかったって。 良かったね⦆
⦅うん、ありがとう。 一応聞くけど、ここら辺の魔力が揺らいでいたのって……⦆
⦅そうだよ、奴らが霧の迷路を作ったからさ。 で、維持するのに、この地の魔力を使ったから、揺らいだのさ。 ほんとに、迷惑!⦆
やっぱりね。
これで、宮廷魔術師さん達からの依頼だった、アレーガスの森における、地域魔力濃度の調査も、終わったね。 だってさ、これ以上、揺らがないんだもんね。 ええっと、そんじゃ、監視所の隊長さんに、万が一この森に出入りする輩が、グノームの森を攻撃したら、そいつらを排除してもらおう。 いいよね、その位。
「ねえヴェル、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんでしょうか」
「魔物との約定って……今まで、前例があるかしら」
「うっ……いえ、寡聞にして存じません……可能なのですか?」
「いま、その話をしてた。 グノーム達、今まで通り、此処に住みたいんだって。 そんで、森の水源で、綺麗な水を守ってもらう代わりに、ここのグノーム達を攻撃する馬鹿達の排除……なんだけど」
「……それならば……可能かと……思われます」
「そうだよね。 そうだと思った。 まぁ、森の周囲の警戒を上げれば、中に入る人間の数も抑えられるしね」
よし、契約しよう。 我が名を以てね。 土の精霊様もいらっしゃるし。 よし。 グノームの長老に向き合ってと。 ジッと相手の目を見た。 相手も、私を見詰めるの。
⦅我が名、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハントの名をもって、…… 違う……、我が名、クロエ=ハンダイの名を以て、土の精霊様の御前にて誓約する。 此れより後、この地のグノームが、水を護り、森を護る限り、その安寧を護る事を誓う。 精霊様の御前にて、我、誓約す⦆
⦅;l;ll、ンljlkンllj。、;きぽんlkんほ;ぉ位ポlmポll;おこポ⦆
私と、長老の間で何かが結ばれたの。 うん、精霊誓約ね。 間に居た土の精霊様が頷いたの。
⦅我、誓約に立ち会う者なり。 この誓約が幾久しく、護られん事を⦆
よし!! 精霊誓約が、結べた!!
やっほい!!
綺麗な水、それも、かなりの量確保だよ!! 魔物と契約しちゃったけど…… まぁ、妖精って事で……いいよね。 長老に手を差し出したの。 長老、ちょっと、戸惑ってから、それでも、手を握ってくれたよ。 よかった。 ホントに、よかった。 異形のモノでも、何となく、友誼が結べたと思うよ。
周囲のグノーム達、目の色が青くなってたよ。 よかった。 ……ヴェルも安堵してた。 立ち上がって、周囲を見ると……ほんとビックリ。 総勢で五十名以上のグノーム。 ふぅ……決裂してたら……って思うと、冷汗が背中を伝ったよ。
そんで、一応、契約のお祝いって事で、腕を振って、「ブラッディ」 出したよ。 まぁ、ビックリしてるよね。 そんでも、武器じゃない事は判ったらしい。 なんにしようかなぁ…… そうだ、あれにしよう。
ダランダールの 『新しき未来』 第四楽章
合ってるよね。 そうだよね。 こっから、新しい未来が始まるんだよね。 よし! 頑張っちゃお!
ボディを叩き、リズムを取る。 後は、イメージだ。 最初の一音、極々弱く。 夜明け前のまだ星が満天を埋め尽くす、序盤。 曲の進行は、細く、弱く、密やかに。 徐々に東の空が明るくなり始める。 星が、一つ、また一つと消えていく、寂しさの中に、喜びが生まれ始める中盤。
徐々に周囲が明るくなり、夜の帳が上がる。 天空は、深い青から、水色のグラデーション。一片の雲も無く晴れ渡った朝。 地平線はマルーン。 仄かに赤みがさす。 曲は終盤。 リュートの音が大きく強くなっていく。
あぁ、精霊様。 お願いします。 我等の大地に、” 闇 ”を置かないでください。 この国に住む、諸々の種族に、幸せを運んでください。 感情が音に乗る。 大きく強く、高らかに!
東の空に太陽が昇る。 曲はクライマックス。 最大音量、一途に、一途に祈ります。
我等、龍王国に住まう者達に、新しき未来を!
最後の一音が終わった。
グノームが、微笑んだ様な気がした。 そんでね、長老が彼の持つ杖をくれたの。 周囲のグノームが息をのんだのよ。 なんだろう。 土の精霊様がそっと、教えてくれた。
⦅グノームが杖を渡すって云うのは、信頼の証。 そして、長老の杖は、一族の証。 君を一族に加えるって。 グノーム達は、この国だけじゃなくて、他国にも存在するよ。 で、その杖を見せれば、グノームは敵対しない。 もう一つ、その杖……魔法の杖だよ。 治癒の魔法が練り込まれてる。 持ってるだけでも勝手に発動する⦆
⦅そんな、大事な物……⦆
グノームの長老が、にこやかに微笑み?ながら、杖を持った私の手を、軽くポンポンって叩いたのよ。 まるでね、とって置けって云うようにね。 有難く頂こう。 そして、この友誼を確実なものにしよう。 杖を押し頂き、お礼をする。 年長者に対する、最高礼をね。
ボンヤリと、周囲が光る。 まるで、この約定と友誼を喜ぶみたいにね。 光の粒が立ち上る。 そっか……精霊様達が、祝福してくれてるんだ……
そっか……
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グノームの集落を出たのは、夕暮れ前、昼も回って遅い時間だったけど、真っ暗になる前に、監視所についた。 水の精霊様が道案内してくれたからね。 早かったよ。 そんで、あそこに、男達の骸を置いておく事なんて、出来なかったから、緊急で、土のゴーレム作り出して、運んできたのよ。 よかった、ゴーレムの核、魔法騎士団の人に貰っといて……
なんか、とっても疲れたね。 監視所の隊長さん、迎えてくれた。 闇に沈む監視所の、隊長室で、隊長と、私と、ヴェルの三人で話し合いをしたの。 まぁ、当然、全部、話すわけじゃないけどね。
でも、最低限の、グノームとの契約の内容を伝えたの。
隊長さん、最初は、ビックリしてたけど……なんか、納得してた。 そうだよね、ずっとココに詰めてる人だもんね。
「アレーガスの森の周囲に警戒線を張りましょう。 むやみに入る者が居ない様に。 ギルドにも通達を出します。 ここで採取、狩りをする時は、監視所に登録する事にします。 理由は……水源地を護る為……いかがでしょうか?」
「宜しいのでは? 新しい、隊長が見えられても?」
「勿論、申し送りいたします。 最優先事項として。 それに……」
「はい?」
「森から湧き出す河の水量が、霧が晴れてから、俄然多くなりました。以前、そうだったように…… これで、周囲の者も水争いせずに済みます。 良い事です。 まぁ……バレたところで、王都の奴らが、どうこうする訳には行きませんよ。 なにせ、飲料水が掛かっているんですから。 バレるまでは、この監視所の特別処置として、対応します」
「有難うございます……報告には上げますが……ぼやかしてですが」
「宜しいのでは? クロエ様……貴女と言う人は……言葉がありませんね」
「あぁ、それから、もう一点、外に、五人分の死体が有ります。 どうやら、森の中で、魔物に襲われて亡くなったようなのです。 此方で、発見したという事で、王都に連絡を入れて頂けませんか?」
「ええ。構いませんが……何者ですか? 冒険者ですか?」
「いえ……外国の方でした」
ニッコリ笑って、誤魔化しといた。 ミルブール国教会、どうする? お前らの仲間の導師で、例の魔法を使える奴、相当数が減ったよな。 もう、龍王国内で、新しい操りグノーム作れんよな……。 楽観視しすぎかなぁ…… かなり潰したと思うけど…… さてと、ちょっと、眠らせて貰うよ。 ほんと、疲れた。
―――――
次の日、朝の鍛錬を終えてから、監視所から、” ペシェ ” 湖畔の村に帰って来た。 半日未満で、移動してきた。 うん、クリークの足、素晴らしいね。 まぁ、ヴェルの馬もそうなんだけどさぁ…… でね、役所の人、飛び出して来た。 湖を指さしてなんか言ってるの。
「満水です!! 満水!! 綺麗な飲料水に適した水が、満水になってるんです!!!」
あぁ……森が、過剰な水を一気に放出したからねぇ…… あれだけの霧を作り出してた水だもんね……そりゃ、満水にもなるよ……そんだけ、取り込まれてたんだもん。
「アレーガスの森に問題が御座いました。 幸いな事に、問題は解決されましたので、水量が復活致しました。 宜しかったですわ」
「おかげさまで!! これで、王都の飲料水問題も、あらかた解決の道筋が見えました!! ほんとうに、有難うございます!!」
「いえいえ、わたくしは、ただの調査ですので、何もしておりませんわ」
ニッコリ笑っといた。 もう、いいよね。 他に色々と喋っちゃうと、ボロがでそうだし。 笑って誤魔化しても。 ちょこっと、報告書を書かせてもらう為に、お役所の一室を借りたのよ。 ヴェルが、なんか言いた気ね……何となく判るけど……
「お嬢様……」
「手柄は要らないの」
「……」
ほらね。 そうだと思ったよ。 でも、まぁ、見る人が見れば、判るようには書くよ。 ……これで、渇きに苦しむ人が居なくなるよね。 大体さぁ……渇きに苦しむ人って、庶民階層の人なんだよねぇ。 だから、いまいち、内務寮でも躍起にならないんだよ。 ちょっと、ムカつくんだけどね。 まぁ……そこは……仕方ないよね。
報告書は書き上げた。
水源が復活した
” ペシェ ” も満水になった。
渇きに苦しむ人も、きっと、居なくなるんじゃないかな。
ふぅ……課題は……
こなせたかな?
ブックマーク、感想、評価、そして、昨日はレビューまで頂き、誠に有難うございます。
ホントに有難うございます。 中の人、とても、とても、喜んでおります。
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今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
また、明晩、お逢いしましょう!!!




