クロエ 驚愕する
仕事が、早いよ……マリオ。
その日の昼には、仕立て屋さんが、来てたよ……
マリオが手配してるって事は、たぶん、黒龍大公家、御用達の、” 特別な仕立て屋さん ” だろうなぁ…… アンナさんも、いつもみたいな、きっつい顔してないよ。 採寸されてる私をニッコニコで見てるよ……
あぁ……どんなドレスが用意されるんだろう? 不安になって来た。
「お嬢様、こちらのカタログに流行のドレスが描かれております。 参考までに、ご意見、頂けませんでしょうか?」
仕立て屋さんの、おっちゃんが、分厚いカタログをテーブルの上に広げてた。 あんま、見る気しない。 ちらっと見た感じ、フリフリ、モコモコだよ……でも、胸周りがばっちり露出してて、私のお胸では、スッカスカになるの、わかり切ってるよね。 私を、どうしたいんだ、この人たち?
パラパラとめくって行っても、実用的なモノ皆無だった。 これ、どうやって座るの? とかさ。 ちょっと聞いてみたくなる様なモノまで、あった。 後ろの方に別冊になったモノで、 ” いい感じ ” の、モノがあった。
「これ……いいですね!」
指さした先のドレスはシンプルだった。 デコルテはレースで覆われ、パフ袖じゃない。 いたって普通の袖が付いてる。 スカートは踝が隠れるくらい。 パニエもいらないんじゃないかな? これ。 うん、いいね。ストン体型の私にもってこいだよ。
「えっ? なぜ……お仕着せのカタログなんか……。 失礼しました。 これは、お嬢様向きでは、御座いません。地味に過ぎます」
ダメなの? よっしゃ。 説得してみよう。 う~ん、そうだ! 大公家の意志ってやつだ。
「お言葉ですが、黒龍大公家の、【娘】 といたしましては、華美なドレスは家風にそぐいません。 黒龍大公家の家風は、質実にして、剛健。 ドレスは、いわば、黒龍大公家令嬢の戦装束です。 そこに、過剰な装飾はいりません。 龍騎士様方々がお召の装具に華美な装飾が無いのと同じでございますわ。 先代様も、御当主様も、そして、子爵様も、皆様、家風を守っておいでで御座います。 クロエも、その家風に倣いたいと思います」
どや? 怪しげな、説得力あるじゃろ? ” 家風 ” を、前面に持ち出したら、逆らえんじゃろ? この、 ” お家 ” には暫く、女児が誕生してないって言ってたしね。 女性の服なんて、知らんと思うし、どや? ほれほれ!
おっちゃん、考えてるね。 追撃するよ?
「お色も……出来れば、わたくしが、好きな、色を使用して頂ければ……有難いのですが?」
「お色……で御座いますね。如何様にも」
「はい、深い森の、木漏れ日と、清らかな湖。いつまでもそこに居られるような……そんな、何時までも愛用出来る、”お色” が良いですね。 あとは、すべてお任せいたします。」
ほら、赤とか桃色とか、女の子らしいって、言われてる色…… あれ、苦手なんだよ。 なんか、フワフワし過ぎてるって言うか、似合わないの判ってるって言うか…… そこんとこ、よろしく!
「―――左様で御座いますか…… 難しいご注文ですが、承知いたしました。 全力で取り組みまして、ご満足頂けるものをご用意いたします」
「よろしくお願いしますね」
よし、終了! あとは、お任せ。 でもって、何着作るのかも知らん。 そこはマリオとアンナさんが、色々考えて、必要な分を作ってくれると思う。 私の仕事は、” 飾らない、実用的な、地味なものを指定する事! ” よし、大丈夫。 あの注文で、フリフリは無いじゃろ?
おっさん、頭抱えてたな。 アンナさん…… なんで、そんな目で見てるの? 感心したときとか、驚いた時の目だよ、それ。 ついでにマリオ、おめぇ、なんで、ドヤ顔なの? ……まぁ、いいけど。 とりあえず、厄介ごとの一つは片付いた。 あとは………… ” お姫様の、お相手 ” かぁ………… なんか、胃が痛い。 おじいちゃん先生に診てもらおうかなぁ。
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一ヶ月間……すったもんだが、ありまして…… 誤解が誤解を呼ぶ結果に相成りまして…… また、問題発言したようです。
アンナさんが、ああいった目をしたら、必ず報告が、閣下に行くよね……マリオと一緒に呼び出し喰らったよ。 もう……ね。 苦言か、お叱りか……はぁ…… 閣下の執務室で、どでかいテーブルの前に座ってた閣下。 にこやかに笑いながら、目が……なんでかなぁ……笑ってないよ……
「クロエ。 君は君の着たい物を着ていいんだよ? そんなに、気を使わなくても。 女性の着る物は良く分からないが、私も色々と社交の場に出ている。 女性の方々は、ドレスや宝飾品に大層関心が有るようだ。 君もその中で社交をしなければ、ならないのだから、然るべきドレスは必要なのでは無いのかな?」
ごめん、なんも言えねぇよ……ここで、横槍が入るとは、思わんかった。 考えている振りをしてたら、マリオが、口を出して来た。 ” 私に ” ではなく、閣下にだ。
「御主人様、 クロエ様の御考え、誠に黒龍大公家にとって素晴らしい物と思います」
「なに? どういう意味だ?」
「アンナとも話しておりましたが、お嬢様のお考えは、この黒龍大公家の威風を轟かせる物と相成りましょう。 昨今、社交の場での装いは、華美に走り過ぎ、また、その外見を阿諛追従する輩が大半を占めております。 御茶会に至っては、言うまでもありません。 幸い、当家においては、そのような風紀の乱れは御座いません。 まさしく、お嬢様の言う、当家の家風、『 質実にして、剛健 』が、息づいております。 お嬢様も家風に倣おうと、お気持ちを決めておいでに成ります。 此処は、お嬢様の御覚悟と、当家の威風を御守する為にも、このまま、進めました方が宜しいかと」
うわぁ……なげぇ…… でも、言わんとする事、理解できた。 要は、怪しげな説得を、マリオは信じちゃったって事。 アンナさんも、同意したと……そんで、自慢したくて、閣下に告げ口したと。 ……で、閣下、家風なんて考えた事無かったから、慌てて、フリフリの方が今風で良いんじゃね? って私に聞いて来たと。
ん~~~~ どうしようか? なんか言わないと、閣下納得しないよ? ……そうだ、いい考えが浮かんできた。 あの仕立て屋さん、お家の御用達じゃん。 じゃぁ、皆さんの嗜好、ご存知だよね。 いけるか? この説得。
「ウラミル伯父様。 あの方は、黒龍大公家に昔から取引されて居られるのですね」
「そうだが? それが、何か?」
「で、あるならば、何も問題は御座いませんわ。 だって、お召し物を作られる方って、それを着用する方の全てをご存知な筈。 そうで無くては、作れませんもの。 また、黒龍大公家と昔から取引を継続されておられるのならば、ウラミル伯父様の御懸念は不要かと、存じます」
「まぁ……ギリーガ服飾店ならば、間違いはなかろうな」
「私、楽しみにしておりますのよ」
「そうか……わかった。 マリオ、引き続き頼む」
「御意に御座います」
やっほい! 説得成功!! ゴテゴテ、フリフリから脱出完了! 気分はめっちゃ高揚しましたよ! あの注文だったら、きっと、お仕着せに毛が生えた様なものしか出来ない筈だしね。 大人しく、目立たんように出来るよ。 なんか、やらかし方が半端なくって、変に目立ってるしね…… オトナシクしよう。
と、考えておりました。
入学前の仕上げの行儀作法の練習に、礼法の先生と、 ” 特訓 ” してたんだよ。 相手によって変わるお辞儀の仕方とか、何処で、相手の階位、爵位を見分けられるとか、優雅に見える仕草とか。 色々と多段重装型猫鎧《最強の飼い猫》の強化に努めなければってね。
そんで、授業から帰ってみたら……
メイドズが、四つ立ってるトルソーの前でウットリしてた。 夢見心地ってやつね。 私も見たさ、そのブツ。 もうね、色々とおかしい……
先ず形。 確かに指定した形だったよ。 ……シルエットはね。 シンプルで、素敵なライン。 でもって、優雅。 デコルテは細かいレース仕様。 袖は細身の筒袖。 および、ノースリーブ。 肩、丸出しのやつ 後ろは大きなリボンが、腰のあたりについてたり、 透ける生地でスカートが二重になってたり……
頑張りすぎやろ!!
そんでもって色。 これでもかってくらい、淡い緑系。 んで、色帯が入る。 その色が、青。 もうね……どこぞの妖精が着るんかと。 私が着て、大丈夫なんかい!
「ギリーガ服飾店の方が、後程、此方にお越しになりまして、調整されます。 ご準備お願い致します」
思わず、唸りながら、エルに聞いてみた。
「……ねぇ、エル」
「なんで御座いましょうか?」
「これ、着るの?」
「その為にご用意しました。 お嬢様の、御意思と御決意の結晶かと」
「う、うん……なんか……気後れするよ」
「お嬢様」
「何?」
「お嬢様は、黒龍大公家の令嬢に御座います。 胸を張って下さい」
ちょ、……わかった。 やってみる。 頑張ってみるよ。 みんなの期待と、黒龍大公家の面目、護る為だもんね。 うん。 わかった。
これから、口には気を付けるよ…… はぁ……
着てみたら、物凄く軽くて、ピッタリだった。 髪はアップに纏めてもらって、薄化粧もして貰った。 仕立て屋のおっちゃん、ニンマリと笑ってた。 まぁ、すんごい腕だよ。 ちゃんと、お嬢様にみえるもん。
鏡の中の私……知らない人になってた。 クルって回ってみる。 ふんわりと広がるスカート。 いや、優雅なもんだ。 ちょっとだけ、難しいダンスのステップを踏んでみた。 動きを阻害しない。 こりゃ……すげぇ。 練習用の行動制限装備じゃこうは出来ない。 あの、淡いピンク色のドレスだって、此処までは出来ない。
ギリーガ服飾店……流石は、超高級店、& 当家御用達。
馬子にも衣裳って言葉が、頭に浮かんだ。 うん、田舎娘の地が出ない様に、必死に頑張るか…… 突然、部屋の扉が開いて、閣下が、マリオと、アンナさん連れて、入って来た。 入って来て、私を見て、三人とも、固まった。 動かないよ? 彫像みたいにね。 マリオと、アンナさん、 ほほ~~う、って顔で、仕立て屋のおっちゃんを見てた。
「凄いじゃないか! 綺麗だよ、クロエ。 ふむ……マリオの言った通りだ。 いや、礼を言う。 ギリーガ、有難う。 世話を掛けた」
「勿体無う御座います。 此度の仕立て、我が店の全ての職人が力を合わせ、全てを出し切りました。 お喜び頂き、誠に恐悦至極に御座います」
「うむ。 また、宜しく頼む」
「有難う御座いました。 無理なお願い聞いて頂きまして、想像していたモノより遥かに素敵です」
閣下と私は口々に礼を言った。 仕立て屋のおっちゃん、嬉しそう。 そうだよね。これに見合う、 ” 女性 ” にならないと、 おっちゃんに悪い。 なにより、職人さん達のこの素晴らしい仕事に敬意を払わねばいけない。 うん、私、頑張るよ!
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リヒター様が、ご卒業された。 学園の学生の身分から、内務寮の官吏へ、立場が変わる。 閣下の右腕となり、ゆくゆくは、閣下と同じく、内務寮のトップに立たれる。 まぁ……苦難の道だね。 龍王国の平和と安全を守る人になるんだよ。 凄いね。 ほんと。
リヒター様も、その御覚悟は十分にお持ちだろうと、思う。
私は、お屋敷でお留守番してました。 大公翁と、閣下は、卒業式に、ご参加されるんだけどね。私は、いわば、居候ですから、ハレの舞台へ列席はご遠慮申し上げております。 ほら、本家とか、傍系とかってあるでしょ? 私は、黒龍大公家の、傍系の傍系なのよ・・あんまり、外向きでは無いのよね。
でだ、本日のメインイベントがやって来るよ。 パカポコ、御馬の蹄の音、高らかにね。
そう、リヒター様の御婚約者、第四王女ソフィア様の御訪問が有るのだよ。 大公翁、閣下、リヒター様は、揃ってお帰りになり、御着替えの後、エントランスホールで、お迎えする準備してた。
私は……うん、その横に居た。 メイドズにお嬢様仕様に、重装備してもらって、オトナシク並んで待ってたのよ。 着ているのは、ほら、こないだ作ってもらった、綺麗なドレス。 うん、これ着れるだけで、満足してるよ。 わたし、戦えるよ!
買ってくれた、閣下の優しさ、作ってくれた職人さん達の、魂の芸術、 生かし切るよ、私。
パッカポッコ、パッカポッコ 豪華な馬車が到着。 うん、とっても豪華なコーチだった。 中から五人の人が出て来た。
真っ先に出て来たのが、イヴァン様。 そうか、そう言えば御同窓生だったね。 先触れの代わり? みたいな? その後ろに、豪華な金髪の青年が一人。 だれ? 横を見ると、リヒター様、閣下の二人が固まってた。 おーい、大丈夫か?
そこに、真打登場。
ハンダイ龍王国、第四王女、ソフィア殿下 の御成りだ!
豪華で長い金髪。 うねる髪は、光の波に見える。 お美しいとしか言いようの無いお顔。 アーモンド形の綺麗な目元に、キラキラ輝く、深い緑色の瞳。 愛らしく、ぽってりとした、唇。 スタイルの良い、お胸の大きな、お姉様です。 流行りのドレスは、このような、ゴージャスな方が着てこそ、映えます。
溜息出たよ。 うん、本物の御令嬢を見させてもらった。 神様、不公平だね。 世界の悪意を感じるよ…… お胸の格差社会って奴だね……知ってたよ。
バッチリ、相手の目を見て、カーテシーを決める。 うん。 礼法の先生に、お墨付き貰ったもん。 大丈夫な筈。 見知らぬ男の人は……髪の色と瞳の色が同じだから、きっとご兄弟だろうね……って事は! 王太子殿下!! マジ!? やべーよ。 顔に微笑みを刻み付けて、対応する。
閣下、 リヒター様に続き、 私の挨拶の番。 よし、覚悟を決めたぞ!
「ようこそ、黒龍大公家へ。 お待ち申し上げておりました。 クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント と、申します。 どうぞ、よしなに」
ご訪問、第一ラウンドが、開始した。 ちょっと、圧倒されてる……
ま、負けない様に……しよう。




