クロエ リュウコクに知己を見る
目次に、章を入れました。
100話を越えたので、少し、目次のレイアウトを変えないと・・・
中の人の、せいです。 宜しくお願いします。
クリークの脚って、ほんとに強い。 王都シンダイから、リュウコクの街まで、僅か四日で駆け抜けたのよ。 駅馬車とか、普通の馬さんとかだったら、どんなに都合よく運んでも、八日はかかるのよ。 でね、リュウコクの街ってさ、ものっそい辺鄙な所にあるんだよ。
途中でさ、野営を二回ほどしたのよ。 普通だったら、街から街へ繋ぐんだけどね、ちょっとでも早く行こうと思って……ね。
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王都シンダイを脱出できたのは、賭けに勝ったから。 ほんと、よく勝てたと思うよ。 天龍様にお願いして、私の分身で、【 審判の儀式 】を執り行ってもらったのよ。 ダメって言われたら、私自身が、お願いする所だったのよ。
その場合は、私の分身は、使えないから、あの場で磔刑に処されたのは、私自身だったのよ。 ほんと、ギリギリだった。 天龍様が、理の隙を突いてくれたから、何とかなったんだよ……
幸運だったよ。
マリーが、血を流さず、王位に就く為に、ギリギリの選択だったんだよ。
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何はともあれ、今は、ヴィヴィ妃殿下の元に向かわなくちゃ…… もし、私が刑死したなんて聞いたら、彼女何をするかわからないものね。 クリークは、四日間の全力疾走をものともせずに、リュウコクの王家迎賓館前に駆け込んだの。
正面玄関にいた、衛兵さん達、何事かと身構えていたわね。 でね、ちょっと、掠れちゃったけど、大声で、来意を伝えたのよ。
「近衛騎士親衛隊 第十三番隊の伝令兵である! 国王陛下に至急の奏上に推参つかまつった。 王都シンダイで、緊急事態が発生した! 罷り通る!!」
レオポルト王弟様に貰った割符を掲げつつ、ずんずん進んでいくのよ。 この割符が有る限り、誰も止められないのよ。 止められるのは、国王陛下だけ。 で、その国王陛下に御報告が有るってんで、道は開くのよ。
結構、切迫した感じが出たかな? 衛兵さん達、私のマント見て、固まってたよ。 親衛隊の薄緑色の布に深紅の縫い取りの、『 月に、二重の月桂樹の葉 』 の紋章だものね。 王族直下の、護衛騎士の装備だもんね。 そりゃ、そうなるよね。 そんで、もって、四日間、駆け続けたから、相当、汚れているし……
私の口上に、執務官が応えてくれたの。 でね、彼の先導で、門を抜け、扉を幾枚も抜け、そんで、謁見の間へ向かったのよ。 本当に大事件が起こったんだから、いいよね。 こんなに驚いている処を見ると、私が一番乗り出来たようね。 よかった。 まぁ、魔法通信で、なんか言ってきてる筈だけど、あれって、長い文章送れないから、緊急事態が発生したくらいしか、わからないしね。
足早に、廊下を抜け、謁見の間に入る事が出来たの。
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【 謁見の間 】に居たの、国王陛下、妃殿下、王太后様、グランリーブラ法務大官様。 そんでもって、居たよ、 アルバートル=ヌクイヌス副王陛下 と、 ヴィヴィ妃殿下 ……久しぶりだね。 なんか、にこやかに談笑してた。 典雅官が、何かの調印する文書を捧げ持って、待ってたよ。 でも、今は、そんな事言ってられない。 取り敢えず、奏上しよう。
「御前、騒がせます!」
「申してみよ。 王都シンダイにて、緊急事態とな」
「はっ! 去る、焔乾の月 十五日 王城ドラゴンズリーチ、赤龍が広場において、王太子ミハエル殿下の宣下の元、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント黒龍大公令嬢が、 「 磔刑 」に、処せられました! クロエ御令嬢は、磔架に磔けられた後も、罪を御認めにならず、龍王国が守護龍、天龍様に 【 審判の儀式 】 を願い出されました。 天龍様、クロエ御令嬢の願いを、叶えられ、王城ドラゴンズリーチ上空に御降臨されました。 天龍様は、その顎に、クロエ御令嬢を飲み込まれた後、天空に舞い上がり、光翼を発せられ、クロエ=カタリナ=セシル=シュバルツハント黒龍大公令嬢の無実を、証せられました!」
「な……なに?」
狼狽える、国王陛下。 ほら、ヴィヴィ様、とっても剣呑な目をされて居るよ…… クロエを冤罪で告発して、磔刑に処したって聞いてね…… でも、まだ、報告があるの……
「天龍様、【 審判の儀式 】 の後、集まった人々に、宣下されました! 以下、天龍様の御言葉の通りの音だけが、「我が記憶」に、残っております! 奏上いたします! ⦅ 我が愛し子が言、真なり。 この者、高潔にして、穢れない。 審判は下った。 虚言を弄し、我が愛し子に罪を着せし者達。 龍印を持つ者達。 貴様らの名を、家名を、我が黒き石板より、削り取る。 古の契約により、貴様らが有する王権を剥奪する。 龍王国の民よ、案ずるで無い。 次代の王権を有する者は、すでに定まれり ⦆」
天龍様の御言葉は、古代キリル語だったし……原文そのままの方が、良いと思って、口にしたよ。 あぁ、そうか、古代キリル語判るのって、この場には、王太后様と、ヴィヴィ様、多分だけど、アルバートル副王陛下しか居ないんじゃないかな……。
ナタリア王妃様目をパチクリしてるね…… フョードル国王陛下、大体の意味は分かったのかな? 顔色がお悪いわよ。 それにしても…… この人達……
まだ、古代キリル語、勉強してなかったのか……はぁ……まぁね、もう、いいよね。
そんな中で、一人だけだったよ、顔色が無くなったのは。 アナスタシア王太后様、曲がりなりにも、理解できるもんね、古代キリル語。 さぁ、どうすんだ? この状況。 上ずった声で、アナスタシア王太后様が私に聞いて来た。
「で、伝令……それは、誠ですか!」
「はい、意味は解りませんが、確かにそう仰いました。 なぜか、この言葉は、頭に刻み込まれ、消えませぬ」
なんだ? って、顔でフョードル国王陛下が私と、王太后様を交互に見ていた。 若干の沈黙が有ってから、口を開かれたのは、アルバートル副王陛下。
「フョードル国王、纏まりかけていた貿易条約、停止いたす」
「な、なに!」
「フョードル国王……いや、国権を失った貴方には、国王と呼びかける訳にはいきませんな」
氷点下以下の温度の声が、耳を打っている。 はははは、なんか、おかしいね。 だって、フョードル国王陛下、まだ、状況が分からないらしい。 グランリーブラ法務大官様が、何とも言えない顔をされて居たよ。 そうか、グランリーブラ様も、古代キリル語、判るんだ。 フョードル国王陛下が、微妙な顔をされて居る、グランリーブラ様の方を向いたのよ。
法務大官様、力なく頭を振られているの。 横にね。
「どういう事だ! グランリーブラ!!」
「フョードル国王陛下……天龍様の御意思で……陛下の王権は剥奪されました。 国王の任にあらずと…… ヌクイヌス副王陛下の言……間違いでは御座いません。 この条約は、国権保持者が交わす契約となります。 陛下の王権が天龍様によって剥奪された現在……条約は不成立にございます」
フョードル国王陛下、玉座からフラッと立ち上がって…… 虚空を見詰められた後、ドサッって、倒れられたよ。 あぁ~あ 言わんこっちゃない。 アナスタシア王太后様も、胸を押さえられて、椅子からずり落ちてる。 きょとんとしているの、ナタリア妃殿下だけだったよ。 直ぐに専属の医務団がやって来て、国王陛下、妃殿下、王太后様を、【 謁見の間 】から、連れ出された。
「伝令。 ちと、話を。 詳しくの」
グランリーブラ様が、その場を退出され、残る侍従たちも、その後に続いたあと、【 謁見の間 】に残られていた、ヴィヴィ妃殿下が、私にそう声を掛けられたの。
「クロエが、処刑された……誠か?」
「誠に御座います。 ヴィヴィ妃殿下」
「……誰が、命じた?」
「ミハエル殿下に御座います」
「あの、うつけか……」
目が、めっちゃ怖いよ。 怒りが周囲の空間まで歪ませてるんじゃないかって程ね。 ゆらゆらと、闘気が立ち上っているのよ……
ダメだよ…… ヴィヴィ様。
横で、私をジッと見ていた、アルバートル副王陛下。 口元に ” ニヤッ ” って、笑みを浮かべられたのよ。 あぁ、これ、なんか、わかっちゃったって顔だ。 まだ、アリって、呼んでた頃、この笑顔見た事有る……
「伝令……王族の前で、兜を被る事は、礼法に適っているのか?」
笑いを堪えた様な、声で、アルバートル副王陛下は、そう仰ったの。 うん、非礼だよね。 ここは、きちんと、ご挨拶しとこうね、私! 左足を折って、右ひざを抱えるように座る、両手を広げて、指先を床に付ける。 腰から上を曲げて、顎を持ち上げて顔を見る。 そんでね、兜を脱いだのよ。
肩まで、短く切り揃えられた、私の髪がハラリと落ちて、素顔がさらけ出されたのよ。 ニカって、アルバートル副王陛下が、笑われたわ。 誰もが魅了されるような、朗らかな笑みなのよ。 うん、変わってないね。
「お前の事だ、そう易々と、策に嵌る訳はない。 な、クロエ」
「御久しゅう御座います。 アルバートル副王陛下。 ご機嫌麗しゅう」
「うむ、久しいな。 少し残念なのが、クロエの危機に立ち会えなかったという事か。 居れば、赤い雨が降ったであろうに」
「もったいのう御座います。 しかし、天龍様も赤い雨は御所望では御座いませぬ故」
「うむ……そうだな。 また逢えた事、嬉しく思うぞ」
ヴィヴィ様、先程から固まってる。 私とアルバートル副王陛下の顔を交互に見詰めていた。 段々、顔が赤くなってきて…… いかん、お怒りだ! なんか、言われる前に、謝っとこう!!
「ヴィヴィ妃殿下! 御久しゅうございます!! このような形で、お逢いするとは、思っておりませんでした。 誠に申し訳ございません!!!」
ゆっくりと、視線が、アルバートル副王陛下に向かうのよ。 そんで、なんか、低い声で問いかけてたの。
「我が君……いつから……ご存知でした?」
「うん? あぁ、伝令として入って来て、フョードル陛下の前に立った時かな」
「な、何故に、お分かりでしたか?」
「クロエの紺碧の瞳。 忘れる筈は無かろう。 あの頃から何も変わっていない。 『 一命をもってして、誇り高き南アフィカン王国の民である、アリ様の名誉は護らねばなりません。 これは、龍王国の民の矜持です 』 そう言った、 ” あの時 ” の瞳。 忘れるものか」
がっくりと項垂れる、ヴィヴィ妃殿下。 ブツブツと口の中で何かいってるよ。 良く聞こえないよね。 でもね、なんか、ちょこっと怖いよ。 ガバッと顔を上げると、一瞬で距離を詰めて来た。
あはっ! いつかの再来だ! 今度は、余裕を持って対峙できたけどね!
ザシュ!
カツン!!
ヴィヴィ様のククリは、私が抜き放った護剣に止められているのよ。 巻き付いた風の精霊様の刃も、今の私には届かないの。 鍛えたもん!
「何故に!何故に! そなたは、我が君の心を捕らえて離さぬ! 悔しい、悔しいぞえ!!」
ちょ、ちょっと、アリ! 何とかしてよ!! なんで、笑ってるんだ!!! あんたの奥さんだろ!!
「ヴィヴィ様! 捕らえたのでは御座いません! あの時は、陛下の名誉を御護りしたまで。 龍王国の民の矜持を示したまでです。 それを、覚えていて下さったのです! 龍王国の民もまた、南アフィカン王国の方々と同じ、誇り高き者であると。 それゆえ、覚えていて下さったまで! 決して、決して、ヴィヴィ様を、蔑ろにされて居る訳では、御座いません!!」
ギリギリと鳴く、ククリと護剣。 でもね、その悔しさの訳、何となく分かったの。 だって、ヴィヴィ様の目から、大粒の涙が零れ落ちそうになってるんだもん。 ” なんで、自分は判んなかったのか、あれほどの誓約を立てたのに。 私の大事なアルバートル副王陛下は、一目でわかったのに……なぜ、自分は! ” ってね。
ふと、ククリの力が緩んだ。 ヴィヴィ様の両手がだらりと下がるの。 浮かんでいた大粒の涙が、零れ落ちた。
カラン
ククリが床に落ちたのよ。 そんでね……めっちゃ抱きつかれた! うはぁ! いい匂い!!
「クロエ! よくぞ、わらわを、謀った! よくぞ、無事で居てくれた! 逢いたかった!! 話したい事も沢山あったのじゃ!! クロエ!!!」
困った子供を見る様な目で、アルバートル副王陛下は私達を見ていたよ。 そんでね、ヴィヴィ様の肩に、お手を掛けられたの。
「ヴィヴィよ、我が妻。 我が心は、お前と共にある。 クロエは我が名誉を護ってくれた者だ。 誰も味方の居ない、敵地にて、敵だと思っていた、龍王国の民が、我が誇りを、矜持を持って護ってくれたのだ。 忘れられるようなものでは無いのだ。 判って呉れぬか?」
コクコク頷くヴィヴィ様。 そうだよ、アルバートル副王陛下の奥様は、あなた一人。 そんで、貴女を一心に愛して居られるんだよ。 判ってあげてよ! 南アフィカン王国の漢の人って、誓いを立てられて奥様に一筋になるんだよ。 知ってるでしょ?
私に抱きついて、泣きながら、コクコク頷くヴィヴィ様。
う~ん……どうしようか。 泣いてる女の人は……苦手なんだよ。 それに、まだ、行くところあるんだけど…… 困ってる私を見て、アルバートル副王陛下が、助け船出してくれたよ。
「ヴィヴィ、クロエは行かねばならぬ。 まだ、やるべきことが、残って居るようだ。 どうだ、クロエ。 全てが終わったら、一度、南アフィカンの我が王宮に来ぬか? 歓待するぞ。 ヴィヴィも待っている。 次代の国王は決まって居るのだろう? お前では無い誰かが。 自由な身になった、その時に、来ては貰えぬか、……どうだ?」
う~ん、そうだね。 一度は、行ってみたい所だしね。 砂漠に落ちる月が綺麗だって、ヴィヴィ様が言ってたしね。 うん、判った。 その内、お邪魔するよ。
「望外のお誘い。 いつの日か必ず、お伺いいたします」
「その時には、お前の良き人も一緒にな。 一人で来たら、ヴィヴィがまた妬く」
「……御冗談!」
案外、本気かもしれんね。 笑いながら、まだ、エグエグ泣いてる、ヴィヴィ様を連れて、【 謁見の間 】を退出されていったよ。 ふう…… 兜を被り直して、私も、行く。
次に向かうは、遠い北の果て。
あの人達も、私が 「 処刑 」 されたって聞いたら……
挙兵しかねんしな!
ココから、どのぐらい、かかるかな……
クリークにも、お休みあげないと……
そっか……
あっちに、いい牧草地あるんだった!
クリークには、そこで、英気を養ってもらおう。
それまでの間。
もうちょっと
頑張ってね。
ブックマーク、感想、評価、誠に有難うございます!!
楽しんでもらえてますか? そうだったら、嬉しいなぁ
クロエは罠を喰い破れました。 まだまだ、色んな所に行って、後始末しなくてなりません。
そんな、頑張り屋さんのクロエ。 秘めた思いも、徐々に浮かび上がる今日この頃。
また、明晩、お逢いしましょう!!




