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留守番したら異世界でした。  作者: 上城樹
第二章 リガルの砦と私
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38.究極の若作り。

 まさかの『石文字の君、瞬間移動制限有うっかり伝え忘れ事件』略して『いっくん、うっかり事件』が判明してから一晩明けた翌日。


 私、今、数年ぶりにスカート穿いてます。


 元の世界の服装はこの世界では悪目立ちするからと、朝一でアルベルトが届けてくれた足首まで隠れる長いロングワンピ―スに着替えさせられた。

 笑顔で「その、服装のままですと、他国の者に自分は迷い人ですどうぞ誘拐してくださいと宣伝しているようなものですが?」と言われたので、すぐに着替えたよ。

 自衛はできるところからコツコツとが大事。


 その場でくるりとターンすると、ふわりと裾が広がる。

 続けてもう一度ターン。


「なんか、すーすーする」


 普段ズボンだったから、違和感半端ない。

 これ、絶対階段上る時に裾踏んで転ぶ。気を付けよう。


 朝食はアルベルトがお盆で持ってきてくれたので、部屋で食べた。

 メニューはシンプルにパンとサラダに野菜スープ。朝食はあまり食べるほうではないので、次回から量を減らしてもらえるようお願いしておいた。


 味? もちろん、微妙でしたよ。

 ここまで、微妙な味だと逆に関心するね。

 外にいる間はおいしいご飯は諦めたよ。家に帰って自分で作れば、そこそこおいしいご飯作れるし。それまでは、持ってきたお菓子を少しずつ食べて我慢します。


 本日は、私の生活用品を買いに町へ出かける。お金はすべて団長持ち。


 それは申し訳ないと恐縮する私にアルベルトは「安心してください金貨はもう受け取ってます。迷い人の生活費は本来国から支給されるものですが、団長は新しくできた娘のような存在に自費で何か買ってあげたくて仕方がないようなので、気にしないでバンバン使いましょう」そう言って、じゃらじゃらと金貨の入った重たそうな袋を掲げて見せた。


 ありがたく必要最低限だけ使わせてもらおう。

 無駄遣いはよくない。





 さて、アルベルトに手を繋がれて町にある商店街のらしきところに来たのだが、10分とたたず熱気と人ごみに酔った。


「うぇ~」


 緊急事態だったので近くのお店に担ぎ込まれお手洗いをかりて吐いた。

 汚くてすいません。


 元来人ごみが苦手な私は、家と職場以外だとゲームショップと書店ぐらいにしか出かけなかったのだ。 まさか休日の複合商業施設よろしく賑わっている場所に連れてこられるとは。


 胃の中が空っぽになるまで吐いて、ようやく落ち着いた。

 念入りに口をゆすぎ手を洗い、さらに顔を洗う。


 顔を洗うと化粧がどろどろにならないかって?

 心配ご無用。もともとお化粧は仕事の時しかしなかった私はこの世界にきて完全にお化粧をしなくなりました。

 毎日すっぴんです。心なしか化粧しなくなってから肌がつやつやもちもちになったよ。


 お手洗いの外で待っていたアルベルトが体力を消耗しよろよろし歩く私にすばやく駆け寄り、体を支えた。


「サキっ、大丈夫ですか?」

「あ、ありがとうございます。吐いたら、らくになりましたので大丈夫です」


 少々声がしゃがれているのはご容赦願いたい。胃液で喉焼けたもので。


 この店の住人はアルベルトの知り合いで(私も間接的に知ってる人だった)ありがたいことに体調がよくなるまで奥の住居スペースでゆっくり休んでいくようすすめてくださったのだ。


「さぁ、あちらで休みましょう」


 アルベルトは私の腰にしっかり手を回し歩きやすいように支え、リビングにあるソファーまでスマートにエスコートしてくれた。

 までは、よかったのだが、


「あぁ、よかった。顔色がもどりましたね」


 両頬に手を添え上を向かせて顔色確認するのやめてくれるかな。


 心配してくれるのは、ありがたいですが、近い。距離が近い。鼻の毛穴見える距離だからこれ。

 口ゆすいだり顔洗ったりしたけど、吐いたばかりだから異性に触られたくない、至近距離で見られたくないという乙女心を察して。


「あら、アルベルト様。軽々しく女性に顔を近づけるのはどうかとおもうわよ。男性とは女性に対し常に紳士であるべきですわ。私の旦那様のように」

「おや、これは失礼。彼女が心配だったもので」


 コップをのせたお盆を持った金髪美女がアルベルトを嗜めると、彼は素早く頬に添えていた手を離しおどけたように肩をすくめ近くの丸椅子に腰を落ち着けた。

 その姿に彼女は「あらまぁ」と微笑ましいものを見たかのように目を細めて笑った。


「サキさん。レモン水どうぞ口がさっぱりすると思うわ」

「ありがとうございます。リーリエさん」


 差し出されたコップを受け取り、レモン水をいただく。

 ちょっと酸味が強かったが、口内の不快感は無くなった。


「こんな、綺麗で気遣いのできる奥さんがいるなんてゴンザレスさんは幸せ者ですね」


 金髪美女の名はリーリエ。

 そう、あの筋肉ムキムキスキンヘッドゴンザレスの奥様です。

 まさに美女と野獣ならぬ美女と筋肉である。 


「あら、ありがとう。でもアタックしたのは私からよ。旦那様ったら私との年齢差を気にして全然相手にしてくれないから、押して押して押し倒してようやくお嫁さんにしてもらえたの」


 あの時は大変だったわと、昔を懐かしみ。うふふ、と微笑むリーリエさん。ほわほわした雰囲気を醸し出し大変可愛らしいが言っていることは逞しい。

 あの筋肉を押し倒すとは――恋する乙女は異世界でも強い。


「へー。何歳違いなんですか」


 ゴンザレスが40歳前後でリーリエさんは25歳前後に見えるけど、ゴンザレスが老けて見えるだけで実は若いかもしれない。

 だいたい10歳差か15歳差かな。


「179歳よ」


 ちょっと、予想外の答えが返ってきた。

 いや、言葉を聞き間違えたのかもしれない。きっとリーリエさんは9歳差と言ったのだ。そうに違いない。


「……えーっと、9歳差ですか、まぁそのくらいならよくありますよね」

「違うわ、9歳ではなく179歳よ179歳。結婚を決めたのが、私が17歳で彼が196歳だったのだけど、私の両親が反対してね説得が大変だったわ。その後も色々あったのですけれど最終的に私と旦那様は結ばれたのです。本当に大恋愛でしたわ」


 頬を紅色に染め微笑む金髪美女リーリエさんが爆弾を投げつけてきた。


 聞き間違いじゃなかった。

 異世界ジョークじゃなくて、マジですか。

 179歳差だったら、ご両親も反対しますよ。

 ……というか、外見40歳で実年齢200歳近いって――ゴンザレス究極の若作り?

お読みくださりありがとうございます。

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