4月 4日 俺様 襲われた (3k)
【錬金術研究会】にてお湯噴射による鉄道車両の洗車法を編み出して、貨物駅の洗車要員になった俺はシーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
エヴァ嬢との約束があるので、今日は【錬金術研究会】と洗車の仕事はお休みをもらった。
バイクの整備ができてないのでエヴァ嬢の村まで走る。
俺はバイクに乗るより走ったほうが速い。だけど、そういう姿を外洋人の方々に見られるとやっぱりドン引きされるので、人が居るところはゆっくり走り、誰も見てないところで一気に走る。
昼過ぎぐらいに村の入口に到着。
芋畑の向こうにエヴァ嬢の住んでいる【神社】が見える。
そして、その西側を見るとそっち側にも家や畑がある。
前回来た時は他の村の人に挨拶してなかったから、今回はそっち側も行ってみよう。
そんなことを考えていたら、【神社】からエヴァ嬢が出てきた。
そしてこっちに一直線に走って来る。
待っていてくれたのか。そして出迎えか。
可愛いリアクションじゃないか。
と思ったのは一瞬。
ドドドドドドド
速い! あの獣脚で土煙を上げながら、芋畑を縦断して俺に向かって突進してくる!
ドドドドドドドドドド
「捕獲!」 ドガッ
正面から飛び込んできたエヴァ嬢をキャッチ。
外洋人なら吹っ飛んでるけど、俺なら受け止めることができる。
「そして、イタダキマス!」
エヴァ嬢が俺の胸元を掴んで、謎の宣言。
同時に、俺の脳内にいつぞやの騒音が満たされて、意識が遠くなる。
ザァァァァァァァァァァ
…………
気が付いたら、村の入口近くで仰向けで転がっていた。
前回と違ってスプラッターにはなってないけど、身体がやたらだるい。
横を見ると、俺の腕を枕にしてエヴァ嬢が転がっていた。
疲れているようだけど、なんかやたら顔がつやつやしているなぁ。
「……イイ天気だな……」
「あ、起きた? また立てなくなったから、神社まで運んで」
ナニをドウされたのかはもう聞かない。俺はスルーが上手いのだ。
だけど、そんな俺もスルーし難いことがある。
「エヴァ嬢。せめて【屋外】はやめようや」
「次から気を付ける」
…………
立てなくなったエヴァ嬢を背負って【神社】に入り、そこのベッドに寝かせる。
先月俺の血でスプラッターになった現場だけど、綺麗に掃除されていた。
「俺、村の人に挨拶したいんだけど」
「……西側の集会所に居るよー……」
村人について聞いたら、一言残してエヴァ嬢は寝てしまった。
ベッドの上で仰向けで眠るエヴァ嬢。
その割烹着の下から伸びる獣脚。
膝下しか見えないけど、膝とか太腿とかどうなってるのかすごく気になる。
寝ているうちに覗いてみたい気もする。
だけど、不道徳なことはやめよう。
さっきの突進。たぶん俺より速い。
獣人、おそるべし。
…………
お土産の【ヴァルハラせんべい】を持って、集会所に行く。
「ごめんくださーい」
「いらっしゃーい」
集会所の中では、獣脚の男5人がテーブルを囲んでイモを食べていた。
そして、全員食べる手を止めて俺に注目。
「お前がエヴァの話してた【高性能】か!」
どう話したんだエヴァ嬢!
「ヨライセンです! ヨライセンと申します!」
「じゃぁ【ヨー性能】だ!」
「ヨー性能! ヨー性能! がんばったんか! エヴァと【雨乞い】がんばったんかー!」
テンションの高い獣脚男達が俺にとんでもない渾名を付けようとしている!
「ヨー性能はでかいけど、歳幾つだ! オッサンか!」
「17です。でかいけど、オッサンじゃないです!」
「若い! 若いの! じゃぁヨー坊だ!」
「もうそれでいいです。それでお願いします」
バイク屋のおっちゃんにもそう呼ばれてるから、変な渾名付けられるよりそっちの方がいい。
「ヨー坊! 昨日エヴァが一日中そわそわしてたぞ!」
「ヨー坊を待ってたんじゃないか? 木に登ったり 畑の周りを走り回ったりしてたぞ」
「珍しく夜中まで動き回ってた! ヨー坊を探してたかな」
そういえば前回来た時に来月来ると言ったけど、ここに来た日を基準にすれば昨日が一カ月だったな。
だったらちょっと悪いことしたかな。
「女の子待たせちゃいかんぞヨー坊」
「でかいんだから、紳士になれよヨー坊」
「でかい心でエヴァを頼むぞヨー坊」
俺の事をでかいと騒ぐ彼等もそこそこ大柄だ。普通に大柄な外洋人ぐらい。エヴァ嬢と彼等は何か違うんだろうか。
「皆さんもそこそこ大柄ですが、エヴァ嬢がやたら小さいのは例外的なんですか?」
シュババッ
5人の獣脚男が一斉に俺から離れて集会所の壁に張り付いた。
「…………」
全員が強張った表情で何かを警戒している。
何があったんだろう。
「……ヨー坊。それエヴァの前で絶対言うなよ」
「エヴァは普段大人しいけど、そこだけは沸点低いからな」
もしかして、エヴァ嬢は村の中で小柄なことを気にしてたのか?
「先月のエヴァ嬢の【穴掘り】はそれが原因だったのか?」
ドドドドドドド
「ヨー坊か! ヨー坊が原因だったかあの大惨事!」 ベシーン
「林が池になっちゃったじゃないか!」 バシーン
「ドングリ残ってたのに!」 ポカポカ
「ごめんなさい! 原因は俺の不適切発言でした! 俺が悪かったです!」
ベシーン バシーン バシバシ ポカポカ スパーン
ハイテンションな獣脚男達にシバかれる俺。
それほど痛くはないけれど、言動には気を付けようと誓った。
…………
一通りシバかれた後、ハイテンションな獣脚男達と一緒にお土産の【ヴァルハラせんべい】を食べた。
ずいぶん気に入ったようで、街に買いに行くと意気込んでいた。
ついでにこの村についていろいろ聞いてみた。
エヴァ嬢はこの村の中でも特別な役割があるらしく、村から離れられないとか。そして、あの神社の奥は【聖域】で、この世界にとってすごく重要なものがあるとか。
せっかくだから物騒なあの魔法についても聞いてみた。
ここの村人は火魔法が得意で、あの物騒な穴掘りみたいなこともやろうと思えばできるらしい。
ラッシュ会長に聞いた話を思い出したから、発電所に行ったら大儲けできるんじゃないかと伝えたら興味がわいたようだ。
…………
ハイテンション5獣人と楽しく騒いでいたら夕方になってしまった。明日は仕事があるので帰らなくてはいけない。
集会所にエヴァ嬢は来なかったので、帰りの挨拶も兼ねてエヴァ嬢の分の【ヴァルハラせんべい】を持って神社に行ったら、エヴァ嬢は起きていた。
ベッドに転がりながら座った目線で俺を見て一言。
「私は小さくない」
聞こえてたのか。俺が悪かったよ。
「だから大きくて強い子を産みたい」
接続詞の使い方が間違ってませんか?
「来月も来てくれるかな」
「いいともー……」
「日付を決めたい」
「じゃぁ、来月の5月4日でどうだ?」
「それでお願い」
忘れないように気を付けよう。
【錬金術研究会】に帰ったら、あらかじめ休暇を申請しておこう。
次の予定を決めて、俺は村を後にした。
●オマケ解説●
熊は足が速い。時速40km/hとか、60km/hとか諸説あるけど、とにかく速い。
ごつい爪のある獣脚がそれを可能にしているのだろう。
遠目で見るには可愛いけれど、遭遇することを考えると恐ろしい獣である。
村のハイテンション5人組は、身長180cmぐらいの獣脚男。
まぁ、獣人です。お芋さん大好き。せんべい大好き。面白いこと大好きな愉快な獣人達です。
そして、やっぱり女はめんどくさい。小柄でも大柄でもコンプレックスになってしまう。褒めているつもりでも体格についての指摘は【セクハラ】に該当する。
褒めるなら別の所を褒めよう。女性に対して身体以外に褒めるところが思いつかないなら、他人に何か言う前に自分の人生観を見直そう。




