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12月31日 ワタクシとヒゲの年越し(4.0k)

は【戦略家】だったのだ」


 年越しを控えた冬の夜。【魔王城】の食堂で皆でそばを食べていたら、ロイがまたよく分からないことを言いだした。


「【戦略家】のロイは、やたら壁に飾った【絵】を気にしているけど、あの【絵】は一体何なの? 何かの機械に見えるけど、この世界にはあんなの無いわよ」

「ヤー、あれは、余の世界の【飛行機】を描いたものなのだが、アレを見ると【戦略家】として失敗した案件を思い出してなぁ……」


 私もロイも絵を描くのが好きだ。

 時間があるとつい描いてしまうので、【魔王城】はあちこちに絵が飾ってある。今はバラバラに飾っているけど、いずれはエントランスに全部集めてちょっとした美術館にしたいと思ってる。

 でも、今は食事中だ。


「食べるときは、食に集中して。【命】を頂いている自覚が足りないわ」

「ヤー……。すまんすまん」


 一緒に食卓を囲む皆が神妙に頷いている。

 【食】を粗末にした者は【生焼け】の刑。これが【魔王城】のルールだ。


 そのルールがマズかったのか、【魔王城】は最近人数が減ってしまった。

 今月初めにロクリッジ技師長がクビになったのを皮切りに、ロイが次々に人を追い出してしまい、今残っているのは、ジーンと、デニムと、マリーさんと、その夫のルイスさん。


 カミヤリィは【魔王城】メンバーとして残したけど、【外交官】として首都に常駐していて、必要な時は【魔車】でここに来る。


「なんか、ちょっと寂しくなっちゃったわね。ロイ。もう人は増やさないの?」

「いろいろ理由があってな。普通の人間はこの地に長居しない方が良いのだ」


「あらあら、では、残った私達は【普通の人間】では無いとでも?」

「ウップス。言い方が悪かった。この際だから説明しておこう。食べ終わった後にな」


 マリーさんが黒いオーラを出してきたので、ロイが慌てる。

 マリーさんは職歴豊富で人生経験豊富なおばあちゃん。非常識や不道徳に対しては厳しい。私もロイもマリーさんには逆らえない。

 なんとなく長老を思い出してしまう。


…………


 【年越しそば】を食べ終えて、食器を片づけて皆で台所を掃除した後で食堂に集まる。

 メンバーは、マリーさん、ロイ、ルイス、ジーン、デニムそして私。今の【魔王城】メンバー全員集合だ。


「この世界における【たましい】の話だ」


 ロイが言うには【たましい】は、様々な形でこの世界を循環してるとのこと。そして、その循環の起点があの【井戸】だとか。


は【たましいに干渉する力】が使える。しかし、世界全体を見えるわけではないから、あくまで仮説だがな」

「【たましい】がいろんな形を取れるのは私も何となく分かるわ」


 私は【おもてなし】でソロスさんとその仲間達の【たましい】を頂いた。

 彼等の記憶や人格は消滅したけど、【たましい】の持っていた力は私の中で生きている。おかげで色々なことができるようになった。


「月初めの出張でヴァルハラ川流域を見てきたが、ひどい状態だった。戦災で多くの人が未練を残して亡くなったせいか、大量の【おん】が漂っておる。危険な状態だ」

「ロイ総統。その【おん】は、今後どうなるのでしょう」


 デニムが質問する。そこは私も気になるところだ。


「おそらくだが、この【魔王城】裏にある【井戸】が、【おん】の浄化の役割も担っておる。ゆっくりではあるが、あそこは常に【たましい】の出入りがあるのだ」

「じゃぁ、死んだ人間の【たましい】はあの場所に還るの?」


 あの【井戸】は原住民や魔法の力の発生源であると長老から聞いていたけど、【たましい】にとっても特別な意味があったんだ。


「必ず還るとは限らんらしい。だが、【おん】のように穢れた【たましい】はあの中で浄化されているように見える。ちなみに、この世界では死後の世界という概念はあるのか?」


「えーとですね。ユグドラシル王国では【黄泉よみの国】、エスタンシア帝国では【冥途めいど】と呼んでますね。どちらも【たましい】を浄化する場所であると言い伝えがあります」


 各地の言い伝えに詳しいマリーさんが答えた。


「そうか。やはりそのような言い伝えはあったか。余の世界では【天国】とか【地獄】とか呼ばれていたがな」


 【聖域】という呼び名はあったけど、そういう役割があるなら【地獄】のほうがしっくり来るかな。


「だったら、あの井戸の中は【地獄】ってことにしちゃいましょう」

「確かに【地獄】と呼ぶと自然な感じがするな。内輪での呼び方になるが、あの【井戸】の中は【地獄】で、【たましい】が還って浄化される場所ということにしておこう」


「いいですねぇ。だったら【地獄】の入口があるここが【世界の中心】なんですね」

「たしかに、二国の中間にある【第三帝国】ですから、名実ともに【世界の中心】になりますね」


 デニムとジーンもこの呼び方が気に入ったようだ。


「話が長くなったが、【魔王城】から人を追い出したのは、この【おん】が理由だ。これは人に憑りついて狂気を与える危険性もある。ロクリッジのようにな」


「あらあら、ロクリッジさんは【おん】に憑かれていたんですか」

「確かに、なんか挙動がおかしかったな」

「なんか、雰囲気が【闇堕ち】していたのはそのせいか」


 マリーさんもデニムもジーンも同意してるけど、私はちょっと疑問点がある。


「ロクリッジが【おん】に憑かれていたとして、皆は大丈夫なの?」


は大丈夫だ。若造と違って【おん】になど負けん」

「大丈夫ですよ。私も人生経験長いですし」

「我々は【軍人】だから問題ないです」


 ロイもマリーさんもデニムも自信満々だ。

 だったら、コレ聞くのやめとこうと思ってたけど、この際聞いておこう。


「ロイ達は【おもてなし】が終わった後であの部屋で酒盛りしてたけど、アレって外洋人の中では常識的な行動なの?」


 特別な来客の【おもてなし】の後、私が浴室でマリーさんに洗ってもらっている間、ぐちゃぐちゃにしてしまった部屋の中でロイとデニムとカミヤリィが毎回【酒盛り】をしていた。

 ぐちゃぐちゃにしてしまったのは私だけど、その現場で飲食するのは私も引いた。


「………………」


 男達の目が泳いでいる。

 これは【話し合い】が必要かな。


「ソロスさん達に何か怨みでもあったの? 初対面だったはずよね」


「ヤー……。は、行儀の悪い商売をする資本家は好かんのでな……」

「そうねぇ。貧富の格差を拡大させて、庶民を苦しめた人ですし……」

「……【戦争】で金儲けするような輩は、【軍人】として許せないというのもあり……」

「…………金持ちでイケメンというのも許しがたい存在であったかなとか……」


「だからって、あの状態見て喜ぶ? 私の知る限り外洋人にそんな習性無いわよ。ああいうの【狂気】って言わない?」


 ロクリッジ技師長が危ないことを平気でするのは元からだ。

 どちらかというと、ぐちゃぐちゃになった部屋で祝賀会をしていたロイ達の方が狂気に飲まれていたように思う。


「……………………」 


「ロクリッジの雰囲気が【闇堕ち】しだしたのは、【おもてなし】を始めてからだったから、むしろロイ達が自前の狂気で呼び寄せた【おん】が原因だったんじゃないの?」


「……ヤー……。今思えば、あの部屋で酒盛りは正気でできる物では無かったかもしれん……」

「……うーん。私達も【おん】に憑かれていたのかもしれませんね……」

「…………そう、かもしれん。【軍人】として、悲惨な遺体は見慣れていたけど、それを見て飲食とかちょっとあり得ないかなと……」


 好きにしてしまっていいと言われて、本当に派手に【喰い散らかし】をしてしまった私も【おん】の影響を受けてたかもしれないけど、そこは棚上げ。


 棚上げついでに、この状況下で私の我儘を押し通すことを考えてしまう。

 【強い男】の【たましい】を沢山取り込んだことで、以前はできなかったこういう器用な芸当ができるようになった。


「ミナサン、なんかこう、私怨を晴らすためにワタクシを利用しませんでしたか?」


「………………」


 ロイ達が青くなった。冷や汗も出している。

 心当たりがあるのか。

 別にいいけど、長老にバレた時の説明だけはきっちりお願いしたい。

 

 下準備はできた。そろそろ本題に入ろう。

 【話し合い】だ。


「【さけ】が食べたいわ。3番の罠に大物がかかったの」


 私は世界を見通す力で、ヴァルハラ川に仕掛けた【さけ】用の罠を常に監視している。さっき大物が入ったから、早く食べたい。

 

「イブ。せめて夜明けまで待てないか? いくらでも、夜中に川に入るのは危険だ」

「明るくしておくわ」


 【火魔法】の応用で【魔王城】の上空に火球を創り出し、ヴァルハラ川を照らす。外洋人の視力でも自由に動けるぐらいの明るさにはなった。


「デニム、ジーン! 行くぞ!」

「アイサー!」


「分かってると思うけど、生きたまま持ってくるのよ」

「アイアイサー!」


 ズドドドドドドド


 ロイとデニムとジーンが、大型のタライを持って【魔王城】裏口からヴァルハラ川に向かって走り出した。

 

 男達が獲って来る【さけ】は最高のご馳走だ。

 生きたまま齧りついて、【命】を噛み砕くことで【たましい】まで味わえる。

 これこそが【最上級の捕食者】の嗜みだ。



 ここは世界の中心【魔王城】。

 私はここから世界を見通すことができる。

 最終魔力を使えば、今すぐ世界を焼き払うこともできる。

 強い男の魂の力も使えば、【第三帝国】として世界征服もできる。


 だけど、私はそんなことはどうでもいい。

 私は食べたい。美味しい食べ物を貰って、楽しく食べたいだけなのだ。

●オマケ解説●

 元・総統閣下の描いた絵は【Me262シュトゥルムフォーゲル】。

 世界初のジェット戦闘機と言われたこの機体。だけど、なぜか元・総統閣下はコイツを【爆撃機】にしようとした。

 そのせいで、性能と運用がミスマッチ。生産台数限られる中、兵器としては活躍できなかった。

 ちょっと反省していたのかも。


 戦後世界に残る【手段のためには目的を選ばないどうしようもない人間】への、【魔王城】での【おもてなし】。

 今思えば、ちょっとやりすぎだったかな。自分達も【おん】の影響を受けてたのかも。

 やらせた手前、口には出せないけど反省する【魔王城】一同。

 人の事をどうこう言う前に、自分の言動を見直すのは大事だね。

 

 強い男の魂を取り込み、腹黒思考に覚醒した女。もはや世界最強の存在。

 ただ、その望みは獣そのもの。それがいいのか悪いのか。

 世界を守るため、今日も男達はヴァルハラ川で【さけ】を獲る。

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― 新着の感想 ―
第三帝国の年越しはそばなんですね。 チョビヒゲのロイさんがそばをすすっている様子を思い浮かべて、少し笑ってしまいました。 しかし、ロイさん、デニムさん、カミヤリィさん、”おもてなし”後の部屋で酒盛りと…
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