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10月20日 ワタクシとヒゲのおもてなし(8.3k)

は【読書家】だったのだ」


 残暑も抜けてきた曇りの日の夕方。完成した魔王城の地下二階の図書室で、新しく届いた本を整理しながら、ロイがよくわからないことを言いだした。


「文字が読めない【読書家】ってどうなのよ。あと、さっき本棚に入れた本、上下逆さまよ」

「アチャー……」


 ユグドラシル王国とエスタンシア帝国の【建国式典】以来、この【魔王城】にはお客様が来るようになった。


 【新時代事業】に反対する人が【焚書ふんしょ】から蔵書を守るため持ち込んで来たり、【第三帝国】の趣旨に賛同した元軍人や環境活動家が【国民】に志願してきたり、エスタンシア帝国のクーデターで政権を追われた元重鎮が亡命を求めてきたり。


 そして、ロイはお客様が来るたびに一人一人と面談して、若い人は丁寧に説得して帰ってもらったり、意志の固い人や高齢者の方は【魔王城】の職員に採用したり、ロイが選んだ特別なお客様は【おもてなし】をしたり。自称【人材活用上手】の仕事をがんばってる。


「人が増えたんだから、字が読める人に頼んだらいいのに」

「これはが好きでしていることだ。字は読めなくても、大切扱われた本を見るのは好きなのだよ。職員達のおかげでゆっくりする時間もできたしな」

 

 【魔王城】は職員が増えて住みやすくなった。ロイの仕事も楽になった。

 特に、高齢の歴史研究家の奥さん、マリーさんが職員になってくれたのは助かった。脚の無い私がここで生活するのに、女手は欲しいと思ってはいたのだ。


 マリーさんは職歴豊富で元気な混血者のおばあちゃんで、【魔王城】のメイドとして活躍しながら、時間があるときには私にいろいろな事を教えてくれる。


「ロイは本当に本が好きなのね。でもここに【焚書ふんしょ】対象の本を集めて一体どうするの?」

「ヤー。これはが読みたいだけで、どうこうするつもりは無い。政策とはいえ、本好きにとっては【焚書ふんしょ】は耐えがたいものだからな。がここで預かってもいいだろう」


 図書室内で手の届く範囲で本棚の本の向きを直していたら、デニムが来た。


「総統閣下。来客です」

「人数は? あと、名前は分かるか?」

「4人です。代表者はソロスを名乗っています。随伴の部下らしき3人は脱水症状が出ていたので、医務室に運びました」


「そうか、ついにソロスが来たか。よし、着替えてから行く。1階西の応接室に通せ」

「了解です」


 デニムは図書室から出て行った。

 よく分からないけど、ロイが待っていた来客らしい。二人とも何か楽しそうだ。


 ロイは普段作業服を着ているけど、来客対応時の服装はこだわる。お気に入りのカーキ色の制服を着て、ヒゲと髪型を整えてから行くのだろう。

 私もカッコイイ姿になったロイを見るのは好きだ。


「イブ。東側の【来賓室】で【おもてなし】の準備を頼む」

「わかった」


 ロイが選んだ特別なお客様に【おもてなし】をするのは私の仕事だ。

 車いすに乗って、【来賓室】に向かう。

 私は車いすがあれば【魔王城】の中をわりと自由に動けるのだ。


…………


 地下2階の東側にある、応接室よりも若干広い【来賓室】。

 石造りの壁と鉄のドアに囲まれた窓のない部屋に、ベッドとテーブルが置かれている。


 私は丈の短いネグリジェに着替えて、クッションで作った義足を装着し、ベッドに座って毛布で下半身を隠した状態でロイ達が来るのを待つ。


 これは【イイ女】が【おもてなし】をする時の格好らしい。

 いつものメイド服よりも薄手なので、汚しても洗うのが楽でいい。


 まだかな。


 世界を見通す力を使う。

 来客とロイが1階の応接室で楽しそうに話しているのが分かる。


 一緒に来た3人は、医務室でマリーさんが看病している。

 過労で消耗しているけど、命に別状はなさそうだ。よかった。


 【おもてなし】はロイの用事が済んでから。

 もうすぐだ。


…………


 ガチャ ギィィィィィ


「待たせたなイブ」

「いらっしゃい」


 暫く待っていたら、ロイが金髪で大柄なオジサンを一人連れてきた。


「では、ソロス殿。【イイ女】の【おもてなし】をゆっくり楽しんでください」

「これはこれは。【魔王】様の気遣いに感謝します。旅の疲れが取れそうですな。ゆっくりさせていただきますよ」


 金髪のオジサンは、迷うことなく私の隣に座った。

 それを見届けて、ロイはほくそ笑みながら扉を閉めた。


「初めまして、イブです。また来てくれて嬉しいです」

「いや、初めて来たよ」


「そうでしたね。でも初めて会ったっていう気がしないの」

「そうかそうか。もしかしてイブちゃんは新聞とか読む娘なのかな」


 オジサンを【おもてなし】する時の話し方はマリーさんに教わった。最初は難しかったけど、何度もしているうちに、オジサンの反応が読めるようになった。

 テンポよく会話がつながると私も楽しい。


「読んでますよ。ソロスさん有名です。ゴスチャイルド財団の理事長さんですよね。一度会いたいと思ってました」

「そうか。そこまで知ってるのか。イブちゃんは賢いなぁ」


 新聞を読んでいるのは嘘だ。

 世界を見通す力を使うと、どういう原理なのか良く分からないけど、その人についてある程度の事が分かってしまう。

 上手く使うと、オジサンが喜ぶような会話ができる。すごく便利だ。


「今日は会えて嬉しいです。出会いを祝して乾杯しましょ。テーブル上にワインがありますよ」

「いいな。私が注ごう」

「ありがとうございます。嬉しいです」


 ソロスさんが、テーブルからグラスとワインを持ってきてくれた。

 脚が無い私にとっては、本当にすごく助かる。


「カンパーイ」 カシャーン


 ソロスさんが、グラスを空ける。私も続く。

 そんなに強い酒じゃないから、外洋人でもこのぐらいでは潰れない。

 むしろ、話が弾む程度にほろ酔いになってくれる。


「はぁー。久々にうまい酒だ。最高だよ」


 ほろ酔いのオジサンはオモシロイ。

 やっぱり私の胸元をこっそり見ている。


 【おもてなし】を繰り返したおかげで、以前より【大きく】なった。

 身長とかはもう伸びないだろうし、そもそも脚もないけど、ここが【大きく】なったのは素直に嬉しい。


「ソロスさんは【魔王】様と何の話をしたんですか?」

「あぁ、この新世界で興す事業について熱く語り合ったよ。【魔王】様は素晴らしい御方だ。【資本論】をよく理解してくれている」


 ロイは対外的には【魔王】を名乗っているけど、普段【魔王城】のメンバーには【魔王】と呼ばせない。

 ソロスさんにはそう名乗ったということは、そういうことなんだろう。

 【おもてなし】をがんばろう。


「新しく事業を興すんですか。ちょっと気になったんですけど、ゴスチャイルド財団って何なんでしょうか。新聞にもあんまり詳しく書いてなかったから気になっちゃって……」

「はっはっはっ。博識なイブちゃんでも知らなかったか。本来は秘密なんだけど、特別に教えてあげよう」


 ゴスチャイルド財団。

 外洋人がこの地に入植した時からある組織で、エスタンシア帝国首都カランリアに本拠地がある。

 入植後の生活が安定するまでは、国内各地の情報伝達や物流網構築に活躍した組織だったけど、いつからか、一族で世界の富を独占することが目的にすり替わった。


 軍事力による原住民の根絶を発案し、国が二つに分かれる要因を作った。

 原住民根絶前までは、兵器の製造により多額の収益を得ており、それがなくなった後は【豊作1号】の製造と流通でユグドラシル王国からも多額の収益を得ていた。


 表向きには、一つの組織が一連の動きを牛耳っている事は秘密とされているけど、私は世界を見通す力でそれを知った。


 知っていることをソロスさんから聞いているのは、聞きたいからだ。

 本来他人に喋ってはいけないことを、私に話してくれるのが嬉しい。これも【イイ女】だからできること。【大きく】なった成果だ。


「代々商売上手だったんですね。お金儲けの秘訣はあるんですか?」

「はっはっはっ。あるよあるよ。すごく儲かる秘訣があるんだよ」


「聞きたいです。教えてください」

「イブちゃんには特別に教えてあげよう。お金を儲けるには、民衆の【不安】を煽るんだ。これが覿面てきめんに効くんだよ」


「【不安】を煽る?」


「そうだよ。【不安】や【恐怖】って、いくらでも作り出せる。そして、それから逃れるためになら、民衆は幾らでもお金を出すんだ」

「うーん。わかるような、わからないような……」


 話を聞きながらも、気付かれないように【火魔法】の応用で部屋の温度を上げていく。


「ごめんごめん。具体例を挙げると、【原住民】だ。彼等は強い。彼等に襲われたら、【外洋人】は勝てない。そういうのを材料にして【不安】を煽るんだ」

「でも、原住民は外洋人に危害を加えたりしませんよね」


「そこは嘘でもいいんだ。新聞社を買収して嘘を流してもいいし、自分で放火して街を焼いて、それを【原住民】共のせいにしてもいい。実際に【魔法】なんてものがあるんだから、そうすれば、皆不安に思って、【原住民】を根絶したいと思うようになる」

「みんなを【不安】にして、そこでどうやって儲けるの?」


 ほろ酔いで楽しそうに武勇伝を語るソロスさんが上着を脱いだ。

 コレを受け取ってハンガーに掛けることができれば、私はさらに【イイ女】なんだろうけど、脚の無い私にはできない。

 だから、さりげなくその上着を受け取って、綺麗にたたんで、私の下半身を隠している毛布の上に置く。


「【獣人】や【鬼人】を駆逐できる軍隊を作るために、皆からお金を集めるんだ。戦って勝てば、【不安】から逃げられるぞと煽って。国が分割しちゃったりといろいろあったけど、私のご先祖様がそれを成功させて我が財団を作り上げたんだ」

「そうだったんですね。でも、原住民を滅ぼしちゃったら、そこでお金儲けが終わっちゃうんじゃないでしょうか」


「そうなんだ。確かにそこは誤算だったんだよ。【原住民】は強いんだけど、繁殖力が低いのか、殺してしまったら増えなくてね。それに、兵器技術の進歩も早くて、結局勝っちゃった」


 原住民が増えなかった理由は長老から聞いてる。

 外洋人が入植した後、私みたいな純血の原住民は殆ど生まれていない。この村で最後に生まれたのは私だ。


「まぁ、軍需産業のおかげで技術は進歩して、それによって商材も増えて生活は便利になったし、そういう意味では原住民に感謝かなとは思ったよ」

「でも、エスタンシア帝国は不況になっちゃいましたよね」


「そうなんだよね。それでどうしようかと思っていたら、北部農園で害虫が大発生して、その後殺虫剤の【豊作1号】ができたんだ。だから今度は害虫で【不安】を煽ったよ。殺虫剤を使わないと害虫に作物全部やられて飢饉になるぞって。いやぁ。アレは本当に儲かった」

「すごいですね。なんでも儲け話にしちゃうんですね」


 少し汗をかいてきたソロスさんが、ネクタイを緩めてシャツの第一ボタンを外す。

 ごつい腕と逞しい胸板を見上げる。ちょっとマッチョで強そうなオジサンだ。私の好きなタイプだ。

 楽しみだ。


「ビジネスチャンスを掴むには、視野を広く持つことは大事だよ。あとは先見性も大事だ。今回は技術者達の怠慢で飢饉が起きてしまったけど、それを解決する作物の開発も進めてはいたんだ」

「技術者の怠慢で飢饉? なにか問題が起きてたんですか?」


 ロイから教わった【おもてなし】の作法。

 相手が私の服を脱がそうとしたら【歯並び】を披露する。

 だけど、私の【歯並び】を見たら、大体の外洋人はドン引きして逃げてしまう。

 そして、背中を向けて逃げられると、私は自分を抑えられなくなって部屋を汚してしまう。


「そうだよ。【豊作1号】を作った連中がね。あれを連用したら農地がダメになるとか言い出して。そうならない薬剤に改良しろと命令したのに、無理だって言って奴等は逃げたんだ」

「逃げちゃったんですか」


 だからロイに確認した。

 ロイは、【魔法】で部屋を壊したりしない限りは、自重せずに好きなようにしていいと言ってくれた。原型がなくなってもかまわないと。


「そうなんだよ。技術者が言う【無理】ってのは、言い訳なんだよ。私が何とかしろって言ったんだから、何とかするのが技術者の仕事なのに、連用を止めろの一点張りで、結局逃げちゃった。そのせいで後が大変だったよ」

「うーん。害虫がいないなら、連用をやめても良かったんじゃぁ」

「イブちゃん。それしたら儲けがなくなっちゃうよ。会社って言うのは、売り上げが下がることは許されないからね。そういう選択肢は無いんだよ」


 それで本当にいいのかなと思ったから、カミヤリィにもデニムにもジーンにも、ロクリッジにも、マリーさんにも確認した。

 皆、ロイの言うことは正しいと言ってくれた。

 これがもし長老にバレても、皆でちゃんと説明するって約束してくれた。


「ユグドラシル王国では、働く人に多く【給料】を払うことで、戦争とか無しで皆豊かに暮らしてましたけど、エスタンシア帝国も同じようにできなかったんですか?」

「はっはっはっ。【給料】なんてのは、会社にとってはコストだからね。低く抑えるのが大事なんだよ」


 最初の【おもてなし】の前にロクリッジが教えてくれた。

 この部屋は東側の崖に排水ができる位置を利用して、【丸洗い】ができるように工夫していると。だから、壁や天井までいろいろ飛び散ってしまっても、半日もかからず元通りにできると。


「そうなんですか。ちなみに適切な【給料】ってどうやって決めるんですか?」

「その仕事に必要なだけ【労働者】が集まる金額が適切な【給料】だよ。その金額で働くっていうことは、納得して働いてるってことだからね。だから、【給料】を余計に払ってもいいことなんて何一つないんだよ」


 ロイからも大事な事を教わった。

 【獲物】の【たましい】を自分の中に取り込む方法があると。

 生への執着で【たましい】が最高潮に燃え上がった瞬間に狩ることで、その【たましい】の力を自分の物に出来るという。

 これは【おもてなし】の作法の一つだとか。


「じゃぁ、働く人が沢山【給料】を貰うにはどうすればいいんでしょうか」

「イブちゃんいい質問だ。【付加価値】を生み出すことだよ。【給料】は【価値】の対価という側面もあるんだ。【ペイ・フォー・バリュー】っていう考え方だよ」


 やってみると【たましい】の取り込みは難しくて、何度も失敗した。

 死の危険を感じさせて、追いつめて【たましい】を燃え上がらせる。これは簡単。だけど、狩るのが早過ぎると【たましい】を取り逃がしてしまうし、逆に追いつめすぎると【たましい】が壊れて【廃人】になってしまう。


「【付加価値】を生み出せない人は、たくさん【給料】はもらえないんですね」

「そうなんだよ。頭を使って価値を産み出せる【強者】だけが豊かになれる。言われたことしかできないような連中は生涯貧民。それが当然なんだ。世界は【弱肉強食】なんだよ」


 何度も試すうち、体得していた【弱肉強食】の心得の応用で、狩るタイミングを習得できた。

 そして、【強い男】の【たましい】を取り込むと【大きく】なれるということも分かった。

 【獲物】の数は限られているとロイから聞いてる。

 だからもう逃がさない。


「ソロスさんステキです。私、【弱肉強食】って言葉が大好きなんです」

「そうか。イブちゃんは【肉食女子】かな。私と居ればイブちゃんも【強者】になれるよ」


 ソロスさんはこの世界の経済を牛耳った【強い男】だ。

 しかも、【弱肉強食】をよく理解している。


 やってきたことは、正直どうかなと思うところもあるけど、自分の力で多くの外洋人の上に立ち、大きな仕事をやり遂げた男だ。

 そして、これからもまた大仕事をやり遂げようという気概に溢れている。

 

 この【強い男】の【血肉】と【たましい】。きっと私を【大きく】してくれる。

 早く欲しい。


「戦争で世界が滅茶苦茶になっちゃったけど、ソロスさんはこれからどうするんですか?」

「あぁ。【魔王】様と話をして、二国間の交易事業の権益をゴスチャイルド財団に頂けることになった。ユグドラシル王国を含めた戦争からの復興特需を取り込んで、世界中でまた大儲けができるよ」


 隣に座るソロスさんを改めて見る。

 カッターシャツの上からでも分かる。逞しい胸板、太い腕。そして大きい身体。

 ほろ酔いで楽しそうに笑うソロスさんの顔を見上げる。

 また勝ちに行くという気概が溢れた、百戦錬磨の【強い男】の顔だ。


 まだかな?


「そういえば、イブちゃんは黒目黒髪なんだね。エスタンシア帝国では珍しいけど、ユグドラシル王国ではそういう人多いのかな?」

「南方にたくさん居ますよ。私は孤児だから出自が不明だけど、たぶんそっちの方かなと思います。でも、混血者じゃないですよ」


 孤児は嘘だけど、混血者じゃないのは嘘ではない。

 エスタンシア帝国は混血者に対して差別があるから、今それを疑われたくない。

 そこから気を逸らすために、隣に座るソロスさんの逞しい二の腕にそっと触れる。

 やっぱり硬い。美味しそう。


 まだかな?

 

「ごめんごめん。面白くない話だったね。黒目黒髪を見て、【最終兵器】として売り飛ばした【獣人女】を思い出しちゃってね」

「黒目黒髪の【獣人】が居たんですか?」


 もうすぐ始める【おもてなし】に想いを馳せる。

 脚がある頃は、外洋人との追いかけっこは勝負にならなかったけど、前足で走る今の私ならほぼ互角の追いかけっこが楽しめる。

 体の大きいソロスさん相手だと序盤は私がちょっと不利だけど、狭い部屋の中なら逃がす心配は無い。

 逃げる背中を追いかけるのは興奮する。捕まえても自重しなくていいなんて、運動不足の解消としては最高だ。


 まだかな?


「あぁ、何処出身かわからないけど、エスタンシア帝国内に迷い込んだのが5頭居てね。黒目黒髪で脚だけ獣という風貌だった。商材にならないかなと思って捕まえて飼ってたんだけど、戦争のどさくさで高く売れたよ」

「わぁー。本当に何でも商売にしちゃうんですね」


 黒目黒髪で獣脚。この村の女かな。多分。

 出稼ぎに行ってたはずだけど、エスタンシア帝国に迷い込んだのかな? 間違えて国境超える事なんて無いと思うんだけど。まぁいいや。

 ソロスさんの太い腕を撫でる。これはもう私のモノだ。


 まだかな。


「戦争でも沢山商売したなぁ。要塞で暴徒に囲まれた時はさすがに身の危険を感じたけど、金で影武者を雇って、それを囮にして脱出成功。その後の放浪で仲間達とはぐれてしまったけど、私だけでもここにたどり着けて本当に良かった」

「ソロスさん大変でしたね。疲れたでしょう。どうします。今日はもう眠りますか? それとも……」


 ソロスさんの仲間達への【おもてなし】を思い出しながら、今回のイメージトレーニング。

 まず、走るのに支障がない程度に何か所か齧り取って、【本能】に命の危険を教える。

 そして、部屋の中で一日中追い回して死の淵に追いつめて、生存を渇望する心で【たましい】が激しく燃え上がった瞬間に【命】を噛み砕く。

 これで【血肉】も【たましい】も美味しくイタダキだ。


 まだかな。 まだかな。


「イブちゃんみたいな【イイ女】を紹介されて、眠るなんてあり得ないさ」

「!!」 バッ


 ソロスさんの手が私の下半身を隠している毛布に伸びたので、とっさに捕まえて胸の方に持っていく。

 毛布の下の義足はクッションだ。めくられたり触れられたりしたら両脚が無いことがバレてしまう。


「イブちゃん。積極的だねぇ。もっと【大きく】してあげようか」

「フフフ……。お願いします。忘れられない一夜にしましょう」

 

 ソロスさんの手が私の背中に回る。

 そして、ネグリジェのファスナーを下ろした。


 待ってました。


 さぁ、【弱肉強食】の時間だ。


 イタダキマス

●オマケ解説●

 戦争が終わったとしても、【手段のためには目的を選ばないどうしようもない人達】は残ってしまうものです。

 でも、両国政府は復興と再建に忙しくてそんな人たちの対応まで手が回らない。


 だから、【魔王】様は次の戦争の火種となり得る厄介な人達の【後始末】を細々と行います。

 元・総統閣下は前の世界でそういう人達に散々悩まされたから、その経験が活きてますね。


 そして、彼女の【大きく】なった部分の【下心電極エロクトロード】による定量評価。

【貧】側キツネ基準で0.00

【巨】側タヌキ基準で14.00

とすると、その【大きさ】は元1.23→今3.75 ぐらい。


 【強い男】の【たましい】を喰らうことで【大きく】なるそうな。

 キャラカテゴリが変わるほどの変化ではないけど、本人は喜んでいるからいいや。

 

 戦後の混乱を潜り抜けて、命からがら【魔王城】に到着したエスタンシア帝国の大富豪。

 そこで、扉が開かない石造りの部屋の中で、前足で突進してくる脚無し女に追い回されて生きたまま喰われるという、とんでもない【おもてなし】を受ける。


 もちろん【魔王】含めて、【魔王城】メンバーもグル。

 行儀の悪い商売で蓄財を続けた大富豪の壮絶な末路。


 【英雄色を好む】とは言うけれど、誘いに乗ったらアブナイ女というのはどこの世界にも少なからず居るものです。


 こういうのを専門用語で【キャバ嬢風話術対応前足突撃型魂魄捕食系イタダキ女子】という。

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― 新着の感想 ―
庶民の生活に蔓延る悪を切る!! 遠山の金さん的な勧善懲悪活動ですね。 こうやって世界を浄化していく存在がこの世界にもいて欲しいものだなと思ったりします。 今の世界だと誰がターゲットになるのかというのも…
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