7月 2日 俺様 迎えに行った(2.2k)
首都救援作戦の最終段階で、【王】を名乗って城に押し入り、【姫】に出会って実質【王】になった俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
俺が城に押し入って【暴君】を倒したあの日。
街で救援活動と炊き出しをしつつ、小さな祝賀会が行われた。
その傍らで、俺達は王城区画内で密かに王子の【国葬】を行った。
参列者は、王宮メイド達の一部と、カミヤリィ議員。
カミヤリィ議員は王子の亡骸に縋りついて号泣していた。
葬儀後、塔の屋上にて、キツネことノイン姫の火魔法で火葬した。
その数日後、救援活動が落ち着いてきたところで、エヴァ嬢への【貢物】の最終便を準備した。
【貢物】とはちょっと違う気がするけど、人員も欲しいとのことだったので、カミヤリィ議員に人選をお願いして合計4人で現地に駐在してもらうことにした。
………………
…………
……
そして、今日俺はついにエヴァ嬢を迎えに行く。
朝一で出発するため、ちょっと無理を言ってソンライン市長にいろんなものを準備をしてもらった。
仕立ててもらった白いタキシードに着替えて、王城の通用口から出ると、【姫】が待っていた。
真紅のロングスカートのドレスに、赤いとんがり帽子。
朝早いのにいつもの姿だ。
「貴方、本当に行くの?」
「ああ、【王】になったんだから、城に【王妃】を迎えてもいいだろう」
【姫】は【王妃】ではないらしいから、これは【不倫】には該当しない。はず。
そもそも【姫】っていうのがいまいち謎なんだが。
「それに異論は無いけど、随分急ぐのね」
「今のエヴァ嬢は両脚が無いからな。早めに安全な場所に移したいんだ」
なんか【姫】がぎょっとした。
「両脚が無い? それは一体どういうこと?」
「あまり大きな声じゃ言えないけどな。キツネと同じでエヴァ嬢は純血の獣人なんだ。根絶作戦から守るため、やむなく獣脚を斬ったんだ」
【姫】がため息をつきながら遠い目で空を眺めた。
何か言いたげだけど、何だろう。
「…………いいわ。行ってらっしゃい。無事を祈ってるわ」
「ありがとう。連れ帰ったら改めて紹介するよ」
【姫】に送り出されて、俺は王城区画を出た。
ちなみに、今、王城区画に出入りできるのは俺だけだ。
複数ある城壁の門は閉じた状態で操作不能になり、城壁外周の堀にある橋は全部落ちていて渡れない。
そう。城壁と堀を飛び越えるしかないので、実質俺しか出入りできない。
カミヤリィ議員が出るときは、俺が背負って跳んだ。
【姫】と王宮メイド達が閉じ込められている形になるが、食料の備蓄は多少あるのと、彼女達の安全を考えると、今は閉じこもっていた方が安全と言うことで、出入口の復旧工事は後回しにしてる。
…………
「様になってるじゃないかヨライセン。いや【ヨー王】」
「ありがとうございます。ソンライン市長」
王城区画前の中央通りで、ソンライン市長と合流。
街の自動車整備工場に残っていた王族用の乗用車【王用車】の準備をお願いしていた。
綺麗に磨かれた白い車。
こういうのを【セダン】というらしい。
後部座席に【大剣】を置いて、運転席に乗り込む。
エヴァ嬢を乗せるための助手席のシートベルトを確認。
ちゃんと整備されている。
そして、その助手席には、街の女性達が用意してくれた【薔薇の花束】がある。
復興作業中で忙しい中、俺のために集めてくれたとか。
そんな気遣いがすごくうれしい。
「ヨー王。運転は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。軍の駐屯地でトラックの運転は練習した」
整備工場の職人さんが、窓越しに確認してくる。
「先日も説明しましたが、燃料は計算上、往復でギリギリです。寄り道はしないでください」
「分かってる」
「トラックとは機関の規格が違うので、申し訳ありませんが燃料も潤滑油も消耗品もこれが最後です。最初で最後のドライブ。どうかお楽しみください」
「ありがとう」
キュルキュルキュル ブロロロロローン
機関快調。バイクを運転していた頃を思い出し、気分が高揚する。
中央通りの両脇には、市民の皆さんが集まって、手を振ってくれている。
「ヨー王万歳! ヨー王万歳!」
皆の声援を受けながら、中央通りを縦断し、首都を出る。
目指すは、エヴァ嬢の村。
この【王用車】の速度なら、日没前には到着できるはずだ。
俺は【王】だ。
マイホームとして【城】を手に入れた。
そこにエヴァ嬢を【王妃】として迎える。
坊がどうなってるか気がかりだけど、エヴァ嬢が生きてるなら大丈夫だ。
いろんなことがあった。
辛いことも多かった。
たくさん傷つけて、たくさん殺した。
でも、戦いを終わらせることができた
エヴァ嬢と【家族】になる。
俺は、夢を叶えるんだ。
…………
村の近くまで来た。
以前来た時エヴァ嬢の声が聞こえたあたりまで来たので、ちょっと呼びかけてみる。
「エヴァ嬢! 迎えに来たぞ! 戦いを終わらせて、俺【王】になったんだ! 大きな城に住める。そこなら安全だ。俺と一緒に来て【王妃】になってくれ!」
『もう来ないでって言ったよ』
グシャッ
●オマケ解説●
数多の苦難を乗り越えて、男は戦いを終わらせた。
全ては女を守るため、女と生きるため。
しかし、そのために取ってしまった手段は、女に受け入れられるものではなかった。
こういうのを専門用語で【男と女のすれ違い】という。




