6月20日 ワタクシとヒゲの配属面談(2.1k)
「余は【人材活用上手】だったのだ」
【貢物】と一緒に到着した人員を小屋の前の広場に横一列に整列させて、ロイがまた変な事を言い出した。
私は私専用の大きめの椅子に座って、到着した4人の男を見る。
ユグドラシル王国軍の制服を着た二人、スーツを着た一人、作業服を着た一人。
軍の制服の二人の嗅いは覚えがある。
「君達は、これから余の部下として活躍してもらう。まずは、自己紹介をしてもらおうか」
「ロイ。その前に私から挨拶があるわ」
ザシュ ズバ ベキ グシャ
ドカーン ベシーン
シュゴォォォォォォ
「うわぁぁぁぁぁ! ジーン!」
「アォォォチ! イブよ、いきなり何をするのだ!」
軍服姿の1人をズタボロの丸焼けにしてやった。
ロイは広いオデコに冷や汗を浮かべてる。
残り3人は丸焼けを見て真っ青だ。
「軍服姿のそこの貴方。彼がこうなった理由を説明してみなさい」
「わ、私達は何も……」
「貴方達がここにあった村に初めて来た時、私、あの井戸の中に居たの。現場を見てはいないけど、臭いは覚えてるわ」
「!!」
「自己紹介と、前ここに来た時、何をしたか教えて頂戴」
「自分は、ユグドラシル王国軍のデニム軍曹であります……。えー、以前この地に来た時にー、【獣人】の根絶作戦として、村を始末する任務をですね……」
真っ青になって震えながら白状した。
それを見てロイも冷や汗をダラダラ流してる。
「大事な集会の準備をしていた村を吹っ飛ばして、救助隊のフリして村に入って、無抵抗な村人を惨殺してたわね」
「ハイ……」
「しかも、そこの黒焦げは、上官の命令に逆らって、亡骸に何度も銃撃してたわね。これは、上官が責任を問われる事案よね?」
「……私の指導不行き届きです。申し訳ありません」
シュゴォォォォォォ 「ギャァァァァァァァァァ!」
ドサッ
丸焼け2体目完成。
次行ってみよう。
残り二人は会ったこと無いから、どんな人か楽しみだ。
「次、スーツ姿の貴方。自己紹介と、志望動機を教えて頂戴」
「あー。私は、カミヤリィと申します。首都で議員をしておりましたが、政治家という立場の限界を悟りまして。新しい時代を作る仕事の一環として、この地の復興に携わる仕事に志願しました」
「ヤー……。良い動機だ。議員をしていたというなら、この国の内情にも詳しいだろう。その経験を活かして、余と共に、この地から世界を立て直そうではないか」
「えーと、ロイ様でしたっけ、この可愛らしいお嬢さんは、娘さんですか?」
ドカーン ヒュルルルルル ドボーン
「……ため池に落ちたか……。イブよ。何故吹っ飛ばしたのだ。彼もこの地で何か狼藉をしていたのか?」
「私を子供扱いするからよ」
「余は、成人の娘が居てもおかしくない歳だぞ。娘と聞かれても子供扱いとは限らんのじゃないか?」
「何を言われたかは、受け取り側が決める事よ」
「イブは厳しいな……」
最後の一人。作業服姿の男。
なんか、ガチガチに緊張してるけど、どうかな?
「最後の貴方。自己紹介と特技と志望動機を教えて頂戴」
「僕はロクリッジです! 魔法は使えませんが、魔法応用技術の開発が特技です! 魔力応用兵器開発の罪で投獄されていましたが、先程のカミヤリィ議員に連れ出されてココに来ました!」
「魔力応用技術か、それは興味深いな。余の研究の手伝いをお願いしたい」
「ハイ! 僕で良ければ喜んで!」
「魔法は使えないと言っていたが、魔法が使える研究の助手のようなものは居たのか?」
「居ました。一時期一緒に研究していたヨライセンと」
ドカーン ヒュルルルルル バサバサバサバサ バキバキ
「……林の方に落ちたか……。イブよ。今度は何が気に入らなかったのだ」
「聞いたら世界が終わるわ」
「そうか……」
「なんか、だれもいなくなっちゃったわね」
「人材の扱いが少し荒いのではないか? 部下は大事にするものだぞ」
「人材育成は最初が肝心なの。逆らったらいけないってことを一番最初に教えるのが大事だって、昔ダニラって人に教わったわ」
「またダニラか。若い娘にことごどく間違ったことを教えおって……」
「じゃぁ【人材活用上手】のロイは、どうやって部下を束ねてたの?」
「ヤー……、見せしめのために人前で叱責したり、時には粛清とか、してたな」
「間違ってないじゃないの。ロイは人に何かを言う前に、自分の行動を思い返した方がいいと思うわ。ロイ自身は間違ったことは何もしてないんだから」
「そ、そうか……。イブがそう言うなら、そうなんだろう。これから気を付けるとしよう」
「この丸焼け二人を治療するから手伝って頂戴」
「治療って、これで生きとるのか! 治せるのか!」
「当然でしょ。死なせてしまったら人材育成にならないもの。身体は動かなくても意識が残る程度に手加減してるわ。ちゃんと話は聞いていたはずよ」
「イブは、優しいな」
●オマケ解説●
熊の習性。
敵とみなした相手は臭いで覚えている。
命を救ってくれた恩人を覚えているなんて逸話もあるけど、それはつまり、恨みのある相手を記憶しておく能力も持っているということで……。
【貢物】と一緒に送り込まれた人員。
デニム曹長、ジーン二等兵、カミヤリィ議員、ロクリッジ技師長。
到着初日に手厳しい教育を受けてしまった。
元・総統閣下も部下には厳しい自覚はあったけど、いろいろ超越した物を目の当たりにしてスルーを覚悟した模様。




