6月 4日 ワタクシとヒゲのドライブ(2.2k)
「余は【自動車好き】だったのだ」
【貢物】として横取りしたトラックを見て、ロイがまたよく分からないことを言いだした。
今日の【貢物】はトラック2台で来た。
ロイが村の入口の道路を拡幅していたので、村の跡地の中までトラックで乗り入れてきた。
横取りしたロイの指示通りに荷下ろしをして、トラック1台も置いて配達係の4人は帰って行った。
「余はこのトラックを確認したい。イブはちょっとここで待っていてくれるか」
「いいけど、あんまり村の中を汚さないでね」
ロイはなんか楽しそうだ。
私を背負子からトラックの荷台の上に移した後で、トラックの周りをぐるぐる回って車体の前や下にある蓋を開けている。
両脚の無い私は小屋の外に出るときは背負子でロイに背負われる。
ロイのくれた【前足ブーツ】は便利だったけど、それで走る姿をロイに見せたらなぜか絶叫されて普段の使用を禁止された。
ロイ曰く、靴を履いたとしても女性の手で地べたを歩かせるのはゲルマン紳士の道理に反するので、外を歩きたいときは背中に乗ってほしいとのことだった。
そういうわけで、ロイが即席で作った背負子に乗ってあちこち運ばれるのが日常になった。
乗り心地は悪くないし、これで林に運んでもらったらいろんなご馳走を自分で【狩る】ことができるのも楽しい。
狩ったご馳走をロイと一緒に食べることができたら楽しいのかもしれないけど、私にはそれはできない。
だから、毎回の食事で一緒に食べる物はロイが狩ったものだ。
ガチャガチャガチャ
ロイがトラックの前の蓋を開けて中を弄っている。
私はトラックの荷台に座らされて、いや、むしろ置かれて待っている。
「アハッ やはり、余の世界のエンジンに似ておる。初期的な2サイクルガソリンエンジンか!」
何を言っているか分からないけど楽しそうだ。
ロイの世界にあったものがこっちにもあって懐かしいのかな。
カチャカチャ キュッ パカッ プシュッ
今度は私が座っている荷台の方に回り込んで来て、下で何かの容器を開けたような音。
「フラー 燃料はやはりガソリンか。しかもオイルを混ぜておる」
油の臭いがしてきた。なんかイイ臭いで頭がクラクラする。
ロイは今度は、荷下ろしされた荷物から大きな缶を2個と小さめの缶を1個持ってきて、荷台の私の目の前に置いた。
「これだけか。ガソリンもオイルも少ないな。遠出はできんか……」
缶からも油の臭いがする。
なんか気持ち悪くなってきた……。
「ロイ、臭いんだけど……」
「すまんな。だが、これはすぐに慣れる」
そう言ってロイは今度は運転席に入った。
ガチャガチャ ゴトン
キュルキュルキュルキュル ブロロロロロロロン
トラックが音を立てて揺れ出した。
荷台に座っていると振動が強く感じる。
小さい缶が倒れそうになったので手で押さえる。
手に変な油がついてしまった。気持ち悪い。
「ロイ、揺れるんだけど」
「エー、大丈夫だ。トラックだからな、じきに慣れる」
ドッドッドッドッドッドッ
荷台の下から煙が上がってきた。風がこっち向いてるから煙が私の方に来る。
煙たいし、油が混じっていて本当に臭い。気持ち悪い。
だけど、脚が無い私は荷台から降りることができない。
「ロイ、煙たいんだけど」
「ヤー、すまん。ちょっとキャブレターの調整が甘いようだ。後で何とかする」
ドッドッドッ バッバッバッ ブロロロロロローン
今度は下の方からすごい騒音。
断続的な爆発音と金属が激しくこすれる音。すごく不快な音だ。
臭い煙もたくさん出てきた。
離れたい。だけど、私は動けない。
「ロイ! うるさいんだけど!」
聞こえてないかな。もう全部焼き払っちゃおうかな。
グラッ キッ ゴン バスン
「痛っ!」
トラックの車体が急に動いたと思ったら止まった。
反動で転がって荷台の床に頭をぶつけてしまった。
脚さえあればこのぐらいで倒れることは無いのに。
両脚をバッサリ斬ってくれたあのアホを思い出して怒りがこみあげる。
もう嫌だ。ここから降りたい。離れたい。
「ロイ! 痛いんだけど!」
「ウップス すまん。エンストしてしまった。トラックの癖に低速トルクが細い。これはちょっと練習が必要だ」
…………
夕食の準備のためロイに背負われて小屋に戻ってきた。
今日は散々な目に遭った。
服に油と煙の臭いが残っていて臭い。後で着替えよう。
身体に着いた臭いはどうしようか。
村の男達は川で水浴びをして汚れを落としたりしていたけど、私は泳げないから川に入るのは恐い。
それ以前に、脚が無いこの身体で川に入ったら確実に溺れる。
仕方ないから、着替えるときにタオルで身体を拭くか。これはロイが寝た後にしよう。
座敷席に座って、村の跡地の方を見る。
私を臭くした元凶であるトラックが見える。
「ロイ。あのトラックで、次は何をするの?」
「ヤー、あれはとりあえず終わりだな。ガソリンもオイルも少ないから、使いどころはよく考えないといかん」
終わったんならもういらないよね。
もうあれに近づきたくないから、夕食前に片づけておこう。
「でーす・とろーい!」
「アォォォォォォォォチ!」
●オマケ解説●
オマケ茶番劇 新婚夫婦、昼過ぎにダイニングにて。
妻:「食卓で何してるの?」
夫:「プラモデル組み立ててる」 ワクワク
ランナーパチンパチン
妻:「破片が飛んできて散らかるんだけど」
夫:「あとで片づけるよ」
接着剤カチャカチャ
妻:「接着剤臭いんだけど」
夫:「大丈夫。すぐ終わる。すぐ終わる」
塗装プシュー
妻:「塗料飛び散って汚いんだけど」
夫:「ごめんごめん。後で掃除するよ」
夫:「やった! できた!」
妻:「出来たなら【終わり】ね。夕食準備するから片付けるわよ」
→ ゴミ箱 ガシャーン
夫:「ウワァァァァァァァン!」
妻からの苦言は一言一言が【最後通告】。決して軽く流してはいけません。
全てに対して真摯に対応する姿勢を怠ると、とても残念なことになります。




