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 5月27日 俺様 鬼になった(2.2k)

 エヴァ嬢の村から帰って以来ヨセフタウンの用心棒として働く俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


 エヴァ嬢の村近くで【招待状】を受け取ってから、俺は人間同士の争いを止める方法を考えた。

 そして俺にできる方法として、力づくで止める方法に思い至った。


 ソンライン市長に相談したら名案であると絶賛され、今はヨセフタウンの用心棒として力づくで争いを止める活動を日々実践している。


 用心棒の仕事で忙しい俺に代わって、【貢物みつぎもの】の準備と配達はヨセフタウンの調達部が引き受けてくれた。

 食料品を中心とした第一便を梱包する際にソンライン市長の奥さんが【女性が喜ぶ物】の同梱を提案してくれたので、品物の選定を任せてお願いした。

 追加で贈った品目は確認してないけど、まぁ、大丈夫だろう。


 エヴァ嬢の存在はなるべく隠したいので、情報活動を担っていた【偵察班】から配達係を選抜して届けてもらったのが6日前。


 その日に、北側の東ヴァルハラ市跡地周辺を震源とした大地震が発生。

 震源地周辺で地面があちこち隆起して高温の蒸気が噴出。

 広い平野が突如として灼熱の丘陵地帯に変わった。


 ヨセフタウンの【測量部】の見解では、これは先日の大爆発による余震の一つで、大爆発でできた地殻の亀裂から湧き上がってきたマグマが地下水脈と衝突して地下で水蒸気爆発が起きたのではないかとのこと。

 

 周辺に潜伏していたエスタンシア帝国出身の武装集団がこの災害に巻き込まれて、半数ぐらいが大火傷をした状態でヨセフタウンに逃げ込んできた。


 地震で被害が出ていたヨセフタウンの住人と喧嘩になりかけたけど、用心棒として力ずくで止めた。

 双方の武器を全部【大剣】で粉砕して、それでも戦おうとする奴は洗車パイプによる高圧放水で吹っ飛ばした。


 これで和解が成立した。


………………

…………

……



 今日の【用心棒】の市内巡回を終えた後、ヨセフタウンの情報部にてソンライン市長と今後の事について相談。


「ヨライセンのおかげでヨセフタウン周辺の状況は落ち着いた。だから、今度は首都の救援に向かいたい」

「今、首都はどうなってるんですか?」


「【偵察班】によると、暴徒と化した住民が王城区画を包囲していて、政府は全く機能してないとのことだ」

「そんな! じゃぁ、住んでいた人の生活はどうなってるんです?」


「難民状態だ。暴徒の襲撃を避けるために頑丈な建屋や地下室に集まって何とか生きているが、水や食料の状況は厳しい。状況はひっ迫していて、病死者や餓死者も出ているという。早急な救援が必要だ」


 俺が脱出した後から何も変わっていないのか。

 王国政府は何をしていたんだ。


「政府が機能していない以上、我々が何とかするしかない。そのための作戦を考えた」


 ソンライン市長が机の上に地図を広げた。

 ユグドラシル王国の広域地図だけどいろいろ書き込まれている。


「ヨセフタウンにて【キッチンカー師団】を編成し、首都へ向かう街道跡沿いに西に進む」

「なんですかその【キッチンカー師団】って。なんか美味しそうな響きですが」


 ソンライン市長曰く、【キッチンカー師団】とは、食料と調理器具を大量に搭載したトラックで編成した都市救援用部隊とのこと。

 必要なトラックはアレク中尉の部隊から借りるとか。


 ちなみに、トラックの運用はこれが最後になるそうだ。

 ヴァルハラ川沿いの工業地帯と製油所が消滅してしまったので、トラックの運用に必要な部品や消耗品の供給が無くなった。

 今は【共食い整備】で稼働台数を確保している状況とか。


 そして、燃料もアレク中尉の部隊の油槽車に残ったものがすべてで、途中で確保できなかった場合、【キッチンカー師団】は首都までの片道になってしまう。

 それでも、アレク中尉は協力を申し出てくれたという。


「武器とか積む余裕がないから、暴徒に襲われると抵抗できないのが問題だったが、ヨライセンが居れば問題ない」

「襲って来る奴を力づくで止めればいいんですね」


「そうだ。勝てないと分かれば抵抗はしないだろうし、水と食料があれば戦う理由もないからな。エスタンシア帝国側から来た暴徒も居るかもしれんが、全部まとめて救援だ」

「それはいいですね。それで、街道沿いの都市を順次救援しつつ、首都を目指すわけですね」


「そうだ。都市の復興や治安維持等いろいろ課題はあるが、まずは、無用な争いを止めることだ」

「そうですね」


「【大剣】持って戦うお前さんの姿は【鬼】そのものだ。誰もが戦意を失う。国を救うこの作戦。きっとうまくいくぞ」


 【鬼】呼ばわりされるのは好きじゃなかったけど、国を救う【鬼】なら悪くない。

 シーオーク由来のこの怪力と、博物館でもらった【大剣】。有効に活用させてもらおう。


「私も久々に【料理人】の仕事ができる」

「ソンライン市長も行くんですか?」


「当然だ。腹を空かせた人達が沢山居るなら、そこが料理人の仕事場だ」


 ヨセフタウン発、首都救援作戦。

 通称【鬼作戦】。


 ヨセフタウン住民、ユグドラシル王国軍残党、エスタンシア帝国軍残党、エスタンシア帝国から襲撃に来た暴徒、その中から志願者を募って無政府状態のユグドラシル王国首都の救援に向かう。

 先頭に立つのは、【鬼】係の俺。


 6月1日出発を目標に準備を開始。


 準備を進める中で、俺は、エヴァ嬢への【貢物みつぎもの】の確保をがんばる。

 貴重なトラック、融通してもらえるかなぁ……。

●オマケ解説●

 世界を滅亡の危機に晒した危険な贈り物は街の女性の気遣いだった。


 普通なら間違ってないのかもしれないけど、想い人に贈る物はちゃんと自分で確認しようよ。確認したら、さすがにダメな事は分かったはずだ。


 でも、後から理由を聞かれたら「ごめん。忙しかったから」とか、普通に言いそうなこの青年。

 それ一番ダメなやつだから。

 だれか、この若者を教育してあげてー。世界を守るために。

 

 そして、無政府状態になった国を救うためちょっとダメな青年は【鬼】として立ち上がる。

 身長195cmのビッグマッチョが刀身2mを越える【大剣】を振り回し、戦意を持つ相手を容赦なく吹っ飛ばしていく。

 そして、後ろに続くハイテンションな料理人がデリシャスを提供。


 うまくいくといいね。

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― 新着の感想 ―
貢ぎ物、私はヨライセン君がエヴァ嬢を外洋人に似た姿に変装させて救いだそうとしているものとばかり思っていました。 ソンラインさんの奥さんの計らいだったんですね。 そこに対して、ヨライセン君の最後に余計な…
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