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 4月30日 ワタクシとヒゲの出会い(2.0k)

「おい! 生きてるか?」


 井戸の中に吊るされたままふて寝をしていたら、頭上から声をかけられた。

 年配のオジサンの声だ。


 見上げてみると、井戸の上に人影。

 逆光が強くて表情まで見えない。

 もう朝のようだ。


 そうだ。世界を焼き払うんだった。


「助かった。待ってろ、今引き上げる」


 身体が引き上げられる感触。

 誰だか知らないけど、私を【井戸】から出してくれるのか。

 助かったとか言ってるけど、よくわからない。


…………



「ふぅー。引き上げてみたら酷い怪我人だったとは。何があったか分からんが、危ない所だったな」


 私を引き上げてくれたこのオジサン。

 おでこの広い七三分けに、鼻の下に濃いめのチョビヒゲ。

 やや長身で太目の体格。ワイシャツに、ステテコパンツ。

 

 引き上げた私がボロボロだったのを見て、応急処置をしてくれた。

 服に大穴が開いていたから、毛布を巻いてくれた。

 ヒゲだけど、紳士なオジサンだ。


 石の床状態になっている芋畑跡地に座って向かい合う。

 膝より上から脚が無くなっているので、座る姿勢が安定しない。

 あのアホは本当にひどいことをしてくれた。


「すまんが、ココが何処なのか教えてもらえんか。の居た世界とは何か違う気がするのでな」


 ヒゲのオジサンが世界が違うとか、意味が分からない事を言い出した。


貴方あなた一体誰よ」

か。はな……」


 なんか、首をかしげて考えてる。

 自分の名前を忘れたのかな。


は【プロイセン】だ!」

「ダメ。却下」

「何故だ! 人の名前を却下するとか意味が分からんぞ!」

「私、長い名前嫌い。思い出したくない名前に近い。別のでお願い」


「思い出したくない名前? 子供かと思っていたけど、男か、男が居たのか?」

「でーす・とろーい!」


「アオォォォォォォォォチ!」


…………


 村の真ん中付近に出来た溶岩の池を眺めながら、ヒゲオジサンと話し合い。


「ワタクシ、酷いことされた直後で機嫌がすごーく悪いです。くれぐれも言動には気を付けてください」

「ヤー……。の発言に配慮が足りなかったことを認める。申し訳ない」


「では、貴方あなたの名前は略して【ロイ】でお願い」

「【ロイ】か。まぁ、いい名前だ。ここでは【ロイ】で通すことにしよう」


 【プロイセン】を略して【ロイ】だ。

 我ながらイイ感じ。


「私はエヴァよ」


「ヤー……、その名前は、ちょっと勘弁してー……、ほしいのだがー」

「何? 人の名前にケチ付けるの? それってどういうつもり?」


「そこを、そこを曲げて何とかなるまいか……」


 ロイが正座姿勢で必死で頭を下げてくる。

 そこまで嫌がらなくても。


 でもまぁ、殺されかけたんだから、いっそ死んだつもりで名乗る名前を変えてもいいかな。

 ちょっとした気分転換だ。


「じゃぁ、読み方変えて【イブ】でいいわ」

「ありがたき配慮に感謝する」


 少し気が晴れたし、さっさと役割を果たそう。


「お互い、自己紹介も済んだし。そろそろ世界を焼き払うわ」


「アオォォォチ! は、ここに来たばかりだぞ。死んだと思ってここで目覚めて、またすぐに死ぬのは嫌だ!」

「いいじゃない。ここで世界が燃え尽きる様を一緒に見届けましょう。きっと綺麗よ」


「待て、待ってくれ、何でいきなり世界を焼き払おうとするんだ!」

「だって、もうこの世界滅茶苦茶だもの。どいつもこいつも勝手な事ばかり言って、私たち原住民を滅ぼすだけでは飽き足らず、未だに殺し合いを続けてる」


「戦争か! ここ来た時の村の惨状見てそうではないかと思っていたが、やはり戦争なのか!」

「そうよ。もうどうしようもないから、全部まとめて焼き払ってやるわ」


「何とかなる! はそういうの得意!」

「得意って、ロイは今まで何をしてたの? そして、何処から来たの?」


は、こことは違う世界から来た。そこでは国家指導者だった。【王】みたいなものだ。【戦争】も経験済みだ。経験豊富だ」

「異世界の【王】がなんでここに来たのよ」


「戦争に負けて、やけっぱちで司令部地下室で自害して、気付いたらここに居た……」

「何が経験豊富よ。失敗してるじゃないのよ。全然ダメじゃない! 焼いてやるわ。もう全部盛大に焼いてやるわ!」


「待て、待て、待ってくれ! 失敗してるから! 失敗経験あるから! 今度はうまくやる。今度こそうまくやる!」

「今度こそとか言う人間に任せてもうまくいく気がしないし。焼いた方が手っ取り早いし」


「ダメならその時焼けばいい! いつでも焼けるんだろう! ワンチャンス! にワンチャンス欲しい! 暇つぶしと思って!」


 確かに、今焼かなくても、焼くならいつでもできる。

 暇つぶし。それもいいかもしれない。


 脚もなくなって、ぼうも居なくなって、何にもなくなった。

 別に【終末魔女】の役割にこだわりもないし。

 しばらくロイで遊ぼう。


 飽きたら全部焼こう。そうしよう。

●オマケ解説●

 このファンタスティック世界に降臨したあの御方の口調は、【紺碧の艦隊】仕様だと思いねぇ。


 口調は偉そうだけど、転生していきなり玩具にされる元・総統閣下。

 だけど、彼のおかげで今日は世界は救われた。

 

 【ロイ】は、身長175cm、体重約100kgのちょいデブオジサン。56歳。

 降臨した時は制服着てたけど、野良仕事で汚したくないから脱いだ。


 【エヴァ】改め、【イブ】は、身長150cmの小柄な獣脚娘だったのが、大腿部で獣脚を切断されてさらに小さくなってしまった脚無娘。

 獣脚を失ったので、風貌だけでは獣人だとは分からない。

 

 世界を越えていびつな出会いを果たしたこの二人。

 何かと焼き払いたがる物騒娘から、総統閣下は世界を守ることができるのか?

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― 新着の感想 ―
プロイセンさん、エヴァ嬢との出会いが吉と出るか、凶と出るか。 まあ吉ではないか。と思ったりもします。(笑) プロイセンさんと名前が似ているヨライセン君。今どうなっているのか、すごく気になるところです。…
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