3月 8日 俺様 就職した (1.6k)
【職業安定所】で、住み込みで働く魔術師の仕事を見つけて、面接に行って即日採用された俺は、何かと幸運なシーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
俺の新しい住処兼仕事場は、東ヴァルハラ市の川沿いの集合住宅の一室にある【錬金術研究会】。
メンバーは、ラッシュ会長、ソンライン副会長、ロクリッジ技師長の3人と俺。
アットホームで居心地のいい仕事場だ。
昨日、ロクリッジ技師長から【錬金術研究会】について説明を受けた。
【錬金術】というのは、本来は魔法を応用して【金】を作り出すものだとか。
出来たらすごいと思ったけど、これは危険だから禁止されているそうだ。
過去に【土魔法】の応用で試した人達が居たけど、危険な鉱物を生成する大失敗をしてしまい、多数の犠牲者を出してその周辺を住めない土地にしてしまったとか。
だから【錬金術研究会】が作ろうとしているのは、【金】じゃなくて、【火魔法】を応用した熱源とのこと。
ユグドラシル王国で使う燃料はエスタンシア帝国からの輸入に頼っていて、その供給が止まると生活が出来なくなってしまうそうな。
だからエスタンシア帝国には何をされても逆らえないという縛りがあるそうで、その状況を打破するためにこの研究が重要なんだとか。
多くの人の役に立てる仕事なら、俺もすごくやる気が出る。
というわけで、朝食後にロクリッジ技師長と実験室で初仕事だ。
「ヨライセンの得意な魔法は何かなー」
「水魔法が得意だ。何でかよくわからないけど、練習したらこれだけはすぐに使えるようになった」
「火魔法は使えないかなぁ?」
「今のところ使えない」
「熱源の研究だから火魔法使えたらいいかなと思ったけど、うーん。でもこの建屋木造だからここで火魔法使うと危ないし、大家さんにバレたら追い出されるし。水魔法のほうがいいかぁー」
俺の上司であるロクリッジ技師長は、俺と同じ年ぐらいの小柄な青年。
だけどすごく物知りだ。
それになんかこう喋り方が独特で面白い。
「会長と副会長は、火魔法を道具で再現して、それで発電所を稼働させるとか夢を語ってたけど、ヨライセンできると思う?」
俺に聞かれてもとは思いつつ、あの日エヴァ嬢の見せてくれた桁違いの魔法を思い出す。
「できるとは思う」
発電所は遠目でしか見たことは無いけど、一瞬で溶岩の池を作るぐらいの熱があれば、十分動くような気もする。
「そうかー。魔法を使えるヨライセンができるというなら、原理的にはできるんだね。なんかやる気出てきたよー」
「もしかして、できると思ってなかったのか?」
「できるかどうかわからない夢のほうが萌えるんだよ。そういうチャレンジがイノベーションを起こして社会を進歩させていくんだよ」
「そうか、よくわからないけど、それは楽しそうだな」
「楽しいよ。こういうのが楽しいんだよ」
ロクリッジ技師長は本当に楽しそうだ。
やる気を出したのか、実験室の作業台にいろんな種類の鉱物を並べだした。
そこでちょっと気になることがあったので、作業中のロクリッジ技師長に声をかける。
「朝から会長と副会長の姿が見えないけど、出かけたのかな」
「【資金繰り】のために、街に出かけたよ。お金が無くってねー」
「えっ? お金ないのか」
「まぁー、非常識なことをしてるし、まだなんにも成果がないからねー。ロマンを共有している人達からの寄付金で何とか続けているけど、それだけだと苦しいよねー」
「給料とか大丈夫なのか? 俺、バイクの整備代をおっちゃんに払いたいんだけど」
給料入るまで整備ができないから、俺のバイクはおっちゃんに預けてある。預かり代はサービスしてくれると言ってたけど、やっぱり早く引き取りたいし、乗りたい。
「給料も未払い続いているからねー。何か成果を出せば、【ユグドラシル電力公社】に売り込んでスポンサーになってもらえるとは思うけど」
なんてこった。
給料がもらえるようにがんばらないと。
●オマケ解説●
魔法を使って【金】を作る。
夢のある話ではあるけど、重元素の生成は失敗すると大変な事になりそうな。
そして、既に資金繰りに行き詰っている集団に就職してしまった若者の運命は如何に。




