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 2月 4日 俺様 再会した(2.3k)

 ユグドラシル王国軍の【戦時伝令使】の仕事でひっきりなしに走り回っている俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。

 バイクよりも速く走れるシーオーク由来の怪力がすごく役立っている。


 開戦直後にエスタンシア帝国軍が川沿い都市を実効支配しておよそ2カ月。

 膠着していた戦況は8日前に大きく動いた。


 【降伏勧告】の黙殺を続けるユグドラシル王国にしびれを切らしたエスタンシア帝国が、占領地域の拡大を決断。

 部隊を南進させてヴァルハラ平野北部広範囲を実効支配地域に加えた。


 それにより、国土東側は【サロンフランクフルト】近辺。西側は首都とヴァルハラ川の中間にある都市、ラグーンシティ近辺まで【国境線】が南下した。

 でも、エスタンシア帝国軍は魔法適性のある人間との遭遇を避けたがるので、エヴァ嬢の村のある山間部は実効支配地域に加えていない。


 【戦時伝令使】である俺の仕事は、国境線上の【検問所】と首都の間で【手紙】を運ぶこと。


 本当なら今日はエヴァ嬢に会いに行く予定だったけど、緊迫した状況で仕事に休みが取れず、今日もエスタンシア帝国軍からの手紙を持って王城まで来た。


「あっ。お久しぶりです大佐……。えっ?」

「久しぶりだな、ヨライセン。無事で何よりだ」


 配達先であるユグドラシル王国軍の本部に来たら、久しぶりにダグザ大佐に再会。


「大佐……。一体、何があったんですか?」

「あぁ、開戦時にエスタンシア帝国軍と対峙した時にな。やっと病院から出られたよ」


 ダグザ大佐は、右脚と左腕と左目を失って、車いすに乗っていた。


「エスタンシア帝国軍と正面から戦ったんですか?」

「そうだ。そうするしかなかったとはいえ、俺の見通しが甘かったせいで、部隊を壊滅させてしまった」


 開戦の日、12月8日。

 東ヴァルハラ市より東側にて、大佐率いる国境防衛隊はヴァルハラ川を渡河してくるエスタンシア帝国軍を迎撃。


 上陸してくる敵部隊を川沿いの陣地から【鉄の盾】を構えて小銃で攻撃したら、【機関銃】の十字砲火で盾ごと粉砕。

 体勢を立て直すため残存兵力を塹壕まで後退させたところ、対岸からの【榴弾砲】一斉射で塹壕を頭上から一掃。


 僅か1時間の戦闘で、第一師団と第二師団は壊滅したとのこと。


「じゃぁ、他の皆は……? ミッチェル軍曹は?」

「……戦死した。東側の国境防衛部隊の生存者は俺だけだ」

「そんな……」


「緒戦で主力部隊は壊滅したが、主要都市は無血開城になったからな。都市防衛用に残した部隊が帰ってきている。今、ラグーンシティに集結しているところだ」

「大佐。1回惨敗したのに、まだ戦うんですか?」


 正直、もうやめてほしい。俺には戦う理由が分からない。


「いろいろ議論はあるようだが、現時点で国の方針は【徹底抗戦】だ。俺達【軍人】はそれに従う義務がある」

「でも、戦力や装備面で不利なんですよね。どうやって戦うんですか?」


「市街戦に持ち込んで、奴らの大火力兵器を封じる」

「大佐! そんなことしたら町が滅茶苦茶になりますよ。住んでいる人はどうするんですか?」

「敵に見つからないように疎開させる。敵を都市内に誘い込めば、【榴弾砲】は使えん。見通しの悪い市街地では【機関銃】の効果も限定的だ。そして何より、こちらには地の利がある」


「話の通じる相手と、何でそこまでして戦わないといけないんでしょうか」

「それを【軍人】に聞くな」


 大佐も好きでやっているわけじゃないことは分かった。

 この状況下で戦いを止めるためには、政治的決断が必要。それは【軍人】にはできない。


 釈然としない思いはあるけど、今の俺に出来るのは、手紙を運ぶことだけ。


…………


 大佐に【手紙】を渡して受領証を受け取った後、本部にある控室で仕事を待つ。

 王宮メイドさんに出してもらったコーヒーを頂きながら、テーブルに置いてある新聞を読む。


 【破廉恥行為で投獄中のカミヤリィ議員、獄中で再度不敬発言】


 こんな時に何やってるんだ。あの議員さん。


 ここに来るたびに新聞は読んでいる。

 先週ぐらいまでは、エスタンシア帝国軍の残虐行為に関するデタラメが一面を飾っていたけれど、最近は投獄中のカミヤリィ議員を批判する記事が前面に出ている。


 俺としては少し安心要素だけど、戦時下なのにこんな記事ばかり書いていて本当に大丈夫かなぁとは思う。


 さらに他の記事を読む。


 【魔力発電の工事は順調 3月中旬には試運転見通し】


 【錬金術研究会】で研究していた技術が実用化されるんだ。

 こんな短期間で発電所を動かすなんて、ラッシュ会長すごいなぁ。

 

 ラッシュ会長は、脱石油でエスタンシア帝国と対等の国家関係を実現するために【魔力発電】を開発するって言ってたけど、今の状況だとそこはどうなるんだろう。


 紙面を読み進めていくと、また興味深い記事。


 【東側新都市ヨセフタウン完成、初代市長はソンライン氏】


 整備中だった町が完成したんだ。そして、ソンライン店長が市長になったんだ。

 都市名がなんか独特だけど、また奥さんの発案かな。


 高付加価値産業育成のため、エスタンシア帝国との技術交換で冶金技術を取得とか書いてあるから、昆虫以外にも商売をするつもりなのかな。これも奥さんの発案かな。


 俺は将来あの街に住みたいから、次行くときにはお祝いをたくさん持っていこう。

 しばらく休めなさそうだけど。


 ラッシュ会長とソンライン店長の記事があったので、つい、ロクリッジ技師長もどこかに載ってないかなと紙面を探してしまう。

 探したら【投稿コーナー】に本当にあった。


 【魔力応用兵器の開発に目途、出資者求む。ロクリッジ】


 技師長。この状況でそれをするのはマズイと思うぞ。

●オマケ解説●

 【機関銃】で武装した師団相手に、軽武装で突撃したら薙ぎ払われるのは当然。火力差の考慮を怠った戦術ミスの代償は、緒戦で主力部隊を失う大敗。

 そんな状況下でも【降伏】を決断できないのは、【虐殺】の懸念があるからか。


 【文民統制】の原則があるので【軍人】は戦争を止めることができません。

 大敗確定の戦でも、政治がそれを望むなら戦わなくてはいけません。


 そして、物騒な新技術の足音。

 どうなることやら。

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― 新着の感想 ―
ダグザ大佐、確かに選択することができないのは本当につらいところですね。 通常軍隊では負傷兵は戦地に送らずが基本だと思うのですが、ユグドラシルはそれすらも守れないほどになってるとは、ヤバすぎますね。 し…
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