1月 4日 俺様 寝過ごされた(1.9k)
ユグドラシル王国軍の【戦時伝令使】の仕事で、東ヴァルハラ市と首都を何往復もしている俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
開戦と同時にヴァルハラ川周辺都市とヴァルハラ平野の一部を実効支配したエスタンシア帝国軍は、占領区域内に【有線電信網】を整備した。
エスタンシア帝国の首都とも直通で情報伝達ができるようになったので、ユグドラシル王国からの【手紙】を【検問所】に届けたら、すぐに次の指示を受け取れるようになった。
そういうわけで、【検問所】と首都の間を【手紙】を持って何往復もした。
首都で給料もらえるから俺はいいんだけど、いっそその【有線電信網】をユグドラシル王国の首都まで繋げたほうが話が早いんじゃないかな。
仕事であちらこちら動くついでに、ソンライン店長の居る【サロンフランクフルト】にも寄ってみた。夫婦揃って元気そうだった。
そこの南側の高台にある町では、ヴァルハラ川流域の大都市から疎開してきた混血者達が中心になって街の拡張工事を行っていた。
魔法適性のある人が多いので、【土魔法】や【水魔法】を応用して短期間で次々と工事を進めているとか。
首都では、王城外壁沿いの広場で変な人達が演説していた。
実効支配された都市内では、エスタンシア帝国軍による略奪や虐殺が横行しており、医療器材を強奪するために病院で多数の新生児が殺されたとか。
デタラメだよ。
そんなことされてないよ。
エスタンシア帝国軍の皆さん、結構紳士だよ。
市内は厳戒態勢で行動の自由は確かに制限あるけど、民間人でも【検問所】を通れば【国境線】の出入りは自由だし。
東ヴァルハラ市と【サロンフランクフルト】の間では【お買い物バス】も運行されてるし。
それに市内の大病院は、エスタンシア帝国から新型の空調設備や滅菌機や消毒剤とかが輸入されて、むしろ快適になってるよ。
だけど俺は、許可されていないことを喋っちゃいけない。伝えちゃいけない。
そういう仕事だし、エスタンシア帝国軍の軍人さんにも念押しされてる。
でも、でたらめな演説に向かって【根拠がないぞ】とかヤジを飛ばした勇気あるオッサンが集団で暴行を受けたのは助けた。暴力はよくない。
そんなこんなで仕事をしつつも、西側の【検問所】に手紙を届けた後、1日休みを頂いてエヴァ嬢の村に来た。
今回は1日しか休みが取れなかったので、肉はご馳走できない。だから前持ちリュックサックに【昆虫食】を満載して神社に突撃。
なんだろう。スプラッターに慣れてしまった自分がちょっと怖い。
ガラガラガラガラ
「こんにちは。お邪魔します。ご機嫌如何でしょうか」
「…………」
エヴァ嬢はベッドの上で分厚い布団に包まって寝ていた。
掛け布団の上からでもお腹が大きいのが分かるし、なんか気持ちよさそうに寝ている。
話ができないのは残念だけど、下手に起こすとひどい目に遭いそうなので、お土産を置いて退散することにした。
可愛い寝顔を少し堪能した後で、テーブル上に【昆虫食】パックを山積み。
これで1カ月もつかな?
…………
集会所に来たら、獣脚男達8人が床に敷いた布団に包まって寝ていた。
こっちも、テーブルに【昆虫食】を並べて退散かなと思ったら、俺に気付いたのか起きてきた。
「ヨー坊、来てくれたか」
「久しぶりだな、ヨー坊」
獣脚男達はテーブル前に並んで順番にお土産の【昆虫食】を食べながら、事情を話してくれた。
西ヴァルハラ市に遊びに行こうとしたら、【検問所】で通せんぼされたので、南西部の都市まで遠征したと。
そこは繊維産業が盛んな地域で、すごくいいタオルや布団が売っていたので沢山買ってきたと。
そして、エヴァ嬢に布団を届けたら、大喜びで毎日寝ていると。
「布団はすごく気持ちいい」
「俺達も寝る時間増えた」
「でも、ずっと寝てるわけじゃないぞ」
「昨日は満月だったから、夜遅くまで集会してた。だから眠い」
「エヴァも眠いはずだから、今日は寝させておきたい」
そうなのか。そういえば満月の夜は集会するって言ってたな。
「そうか。じゃぁ俺も今日はあんまり時間ないし、もう帰るよ」
「お土産ありがとう。ヨー坊」
「また来てくれよ。ヨー坊」
お土産を食べ終えた獣脚男達は布団に戻って行った。
なんかこう、フリーダムな方達だな。
エヴァ嬢と一緒の時間を過ごせなかったのは残念だけど、スプラッターを回避できたことに少し安心した。
まぁ、時間はたくさんあるさ。
俺は仕事をがんばって、お金を貯めて、【戦争】を終わらせて、エヴァ嬢を迎えるための家を買おう。
新居は【サロンフランクフルト】近くのあの街がいいかな。
●オマケ解説●
熊の習性。【冬眠】。
秋に食い溜めして冬は冬眠する。
別に寒いのが嫌いというわけではなく、食べ物が少ない冬場にはエネルギーを節約して生き延びたいというそういう事情。
太った状態で【冬眠】して、春には痩せているとか。
人間の場合、体格が変わるぐらいの体重増減を何度もやったら寿命が縮むというけど、熊の場合はどうなんだろうね。
そして、若いうちは時間がまだあると思うけど、そういう油断は後悔につながるものですよ。




