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11月20日 俺様 引っ越した(2.9k)

 【伝令使】の仕事が忙しくなりすぎたので、兼業をあきらめてソンライン店長の【昆虫食販売店】を退職した俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


 俺の代わりの店員確保というわけではないが、ソンライン店長は【結婚相談所】が紹介してくれた女性と【お見合い】をして結婚した。

 【火魔法】が得意な混血の女性で、なんと、バイク屋のおっちゃんの養子だった。


 店でささやかな結婚式をしたのが4日前。

 ラッシュ会長からも【御祝儀】が届いた。

 でも残念ながら、ロクリッジ技師長とは連絡がつかなかった。


 【昆虫食販売店】がそのまま店長夫婦の新居になるので、俺は退居して東ヴァルハラ市の東端にあるユグドラシル王国軍の駐屯地の宿舎に部屋を借りた。


 この駐屯地では、第一師団と第二師団の約1200名が生活していて、宿舎や大食堂や兵器庫や訓練施設がある。

 俺は【軍人】じゃなくて【伝令使】だから立ち入りできない場所が多いけど、宿舎と大食堂は入っていいそうなので生活に不自由はない。

 【伝令使】の仕事は最近は予定外で来ることが多いので、仕事が無いときは食堂で仕事待ちをしてる。そんな毎日を過ごしていたら、部隊の人達と仲良くなった。


 俺はそんな毎日を楽しく暮らしているけれど、少しづつ街の様子がおかしくなってきている。


 なんか、【エスタンシア討つべし】とか物騒な標語がかかれたポスターが街のあちこちに貼られたり、【闇麦】なんてものが少量だけど流通しだしたり。

 町に居座っていた変な人達の行動も過激になってきて、線路に石を置いたり穀物貨車に火炎瓶を投げたりするようになった。

 昨日も襲撃を防げずに、俺の洗った貨車が何両か廃車になってしまった。悲しい。

 何がしたいのか分からないけど、本当にやめてほしい。


 だから、街の人達を守るために【軍人】総出で手分けして街を巡回してる。


 今日もダグザ大佐に同伴して市内を巡回。

 東ヴァルハラ貨物駅の警護をしている軍の部隊から状況報告を受けたり、市内に居座る変な人達が市民に迷惑をかけないように見張ったり、物騒なポスターを剝がしたり。


 そして、午前の巡回が終わって昼食前の時間。


「ヨライセン。そのノートなんだ?」


 食堂でなんとなくロクリッジ技師長からもらったコーヒーまみれのあのノートを広げていたら、さっき一緒に巡回していたミッチェル軍曹が声をかけてきた。


「友人からもらった思い出の品ですよ」


 ミッチェル軍曹は、俺よりちょっと年上で小柄な外洋人の青年。ダグザ大佐の部下の一人で、結婚資金を貯めるために軍に入隊したそうだ。


「何が書いてあるんだ?」

「【錬金術研究会】の研究成果です。俺の初めての新発見が記録されているんですよ」

 

 このノート。エヴァ嬢に溶岩で丸焼けにされた時には、洗車パイプと一緒に店の俺の部屋に置いてあったから焼失せずに済んだ。


 店長の結婚式にロクリッジ技師長にも来て欲しかったから、首都の住所に手紙は送ったけれど連絡がつかなかった。

 今何処で何をしているかなと思うとなんとなくこのノートを見たくなったのだ。


「ヨライセンは研究をしてたのか」

「手伝いですけどね」

「ダグザ大佐は技術研究とか好きだから、そのノート見せたら喜ぶんじゃないかな」


 意外だ。大柄で怖い顔をしているから、勉強とかよりもスポーツや格闘技とかそっち側が強いイメージあるけど、技術とか好きなんだ。


「人は見かけによらない物ですね」

「ヨライセンがそれを言うのか」


 それもそうか。俺はこっち来てからダグザ大佐によく似てると言われる。

 まぁ、俺がでかいのはシーオークの血を引いているからだけど。

 そして、俺はあんなに恐い顔はしてない。


「ダグザ大佐はああ見えて頭いいんだぞ。ユグドラシル王国大学の理工学部を首席で卒業したインテリなんだ」

「えっ。そこはユグドラシル王国の最高学府ですよね。じゃぁ、本職は研究者や技術者なんですか?」


「それだけじゃない。いくつかの格闘技では全国大会に優勝してる。アスリートとしてもトップクラスの超人なんだ」

「そうなんだ」


 外洋人にしては筋力や体力があると思ってたけど、外洋人の中では最強クラスの人だったんだ。


「【軍人】をしつつも、国王陛下直属の技術顧問みたいなこともしていて、なんかこの前は【魔力発電】に関連する技術資料を解読してたみたいだ」


 ミッチェル軍曹。それ喋っていいことなのかな。


「【軍人】だからもう民間での活躍はできないけど、文武両道の頂点を極めた怪物として伝説になってるバケモノなんだ」


 ミッチェル軍曹。後ろ。


「でもなぜかずっと独身で、モテたという話は聞かない。すごい優秀でも顔が恐いからモテないのかなと部隊の中で噂が絶えない」


 軍曹。後ろ。後ろ。


「顔が恐いのと、何やっても怪物級だから一部では【生物兵器】なんて渾名が付いたりして」


 その渾名ひどい。そして、後ろ。後ろ。後ろ。


「まぁ、【軍人】だから確かに【兵器】ではあ」 ゴチーン ドサッ


 ミッチェル軍曹の後ろで話を聞いていたダグザ大佐が、容赦ないゲンコツ。

 軍曹は床に沈んだ。


「ヨライセン。これが、外洋人を殴るときの力加減だ。覚えとけ」


 ありがとう大佐。よくわかったよ。

 外洋人相手ならこのぐらいにしておかないと危ないんだな。

 

「大佐。【魔力発電】の技術資料読んだんですか?」

「ヨライセン。それは【軍事機密】だ。口外するな。そして仕事だ。ついて来い」


 せっかくだから技術の話をしたかったけど、機密だったら仕方ない。ノートを前持ちリュックサックに仕舞って、大佐の後に続く。

 床に転がるミッチェル軍曹は放置らしい。

 いいのかなぁ。


…………


 駐屯地の兵器庫の奥、厳重に施錠された部屋に案内されて、大佐から【黒いかばん】を受け取った。


「重要な商売道具だ。当面はこれを持ち歩いて仕事しろ」

「これの中身は何なんです?」

「待て、今は開けるな」


 鞄を開けようとしたら大佐に止められた。


「鞄の蓋に封印があるだろう。その鞄は有事の際に開けるものだ。条件を満たしていないときには絶対に開けるなよ」

「わかりました」


「それの取り扱いルールは厳しい。条件外で開けたり盗まれたりと、それに関連する規則違反は【死刑】が適用される」

「【死刑】ですか! そんな物を俺が持ってていいんですか?」

 

 正直、できれば持ちたくない。


「【伝令使】の仕事の一環だ。貴様が適任だ。俺が返却を命じるまで肌身離さず持っておけ」


 仕事なら仕方ないか。それほどかさばる物でもないし、いつも持ってる前持ちリュックサックに入れておこう。


「貴様がそれを持っていることも【軍事機密】だ。口外するなよ」

「わかりました」


「その代わり、それを持っている間は特別手当が出るぞ」

「ありがとうございます」


「では、メシにするか」

「はい」


 大佐と俺は食堂に向かう。

 今日もメニューは【昆虫食】がメイン。

 小麦粉はもはや貴重品。だけど皆もう気にしてない。


 ミッチェル軍曹は食堂の隅で【始末書】を書いていた。

 【軍人】に無駄口は禁物。

 大佐と会話を楽しみたいとは思うけど、俺も言動には気を付けよう。

●オマケ解説●

 小さいけど確実に表れた変化。蓄積された歪が解放される予兆。

 

 それはそれとして、暴言や失言を吐くときは周りや後ろに気を付けよう。

 そもそも、言動には気を付けよう。

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