11月13日 王子と民意の事情(2.4k)
ユグドラシル王国首都の王城区画城壁の外側にある広場にて、大人数が集まり集会を行っている。
主催は、【ユグドラシル愛国党】。
議会で1議席しか無い弱小野党であったが、この1カ月で支持者が激増して各地で集会を行うようになっていた。
『ワイズマン博士の命懸けの告発により、我々が正しかったことが証明された!』
ワァァァァァ
ヤメロー
デタラメダー
カエレー
ヤジを受けながらも壇上から拡声器で大衆に呼びかけるのは、リーダーのカミヤリィ議員。
30代後半の中背中肉で、とにかく熱い男。
『我々は、かねてから【豊作1号】の危険性を訴えていた! 国内で多くの農園をこの目で確認してきた! そして、国に訴えて続けてきた!』
ソウダー
ダマレー
ムダダー
『【豊作1号】を使った農園だけ、不作になっている! これは明確な事実である! しかし、国も、農協も、【因果関係が立証できない】と全否定し、農家の【民意】を切り捨て続けた!』
ソノトオリダー
ユルスナー
デタラメダー
『農家を守るべき国も、農協も、頭ごなしに否定するばかりで調査もしない! 否定するだけの根拠を集めようともしない! 客観的事実であるにもかかわらず、それを公表すらしない! 何故か!』
ヤメロー
ケサレルゾー
『都合が悪い人が居るんです! 公表されると都合が悪い人が! だから、都合の悪いことを暴露しようとする我々は日常的に妨害されてきた!』
アタリマエダー
キエロー
『支援者の中にも嫌がらせを受けた人沢山居ます! 自宅を焼き討ちされた人、子供を誘拐された人、親や兄弟まで職場を追われた人、通勤途中に暴行を受けて瀕死の重傷を負った人』
ザマミロー
トウゼンダー
『耐えられず志半ばで去ったメンバーも沢山居ます。当然、この私のところにも、毎日のようにカミソリや刃物が入った手紙が届きます。自宅に火炎瓶を投げ込まれるのも日常です!』
クタバレー
ガンバレー
アリガトー
『だけど、ついに! 真実が明るみに出ました! 我々の粘り強い活動が結実して、昨日の議会の答弁で農業省の薬剤部が公式に【豊作1号】の薬害を認めました!』
ウォォォォォォォォォ
『今まで泣き寝入りしていた多くの農家が補償を受け取る日も近いです! だから、黙ってちゃダメなんです! 行動を起こさないとダメなんです!』
ワァァァァァァァァ
『国民の一人一人が、ナメたことしたら黙っちゃいないぞと、そういう意思表示ができるんだぞと、それを示さないと、ユグドラシル王国はダメな国になってしまいます!』
ワアァァァァァァァァァァ
『国は他にも国民をナメたマネをしていた! エスタンシア帝国での【標準小麦粉】の製造はフェイクだったことを、我らの同士が突き止めた!』
ナンダー
ダマッテロー
ドウナッテイルンダー
『昨年と今年の穀物倉庫火災は、奴らの陰謀だった! エスタンシア帝国は木粉を【標準小麦粉】に偽装してユグドラシル王国に送り、それを倉庫火災に偽装して【証拠隠滅】を図っていた!』
ワァァァァァァ
ユルセーン
『小麦粉の品薄は穀物倉庫火災のせいじゃない! 全部奴らが仕組んだ陰謀だ! 国の上層部はわざと国民に虫を食わせた! エスタンシア帝国に麦を売るために、国民に虫を食わせた! この屈辱を許していいのか!』
ウォォォォォォォ
ユルサーン
『ワイズマン博士の告白によると、【豊作1号】の利権で、国の上層部が多額の【裏金】を受け取っていたという! 農家を苦しめ、国民に虫を食わせながらも私腹を肥やしていた奴が居る! 国民はこれを許すのか!』
ワァァァァァァァ
ユルサーン
『国民の皆さん! 声を上げましょう! 私腹を肥やすため、エスタンシア製薬から多額の賄賂を受け取るため、そして小麦を高く売るために国民を裏切った【売国奴】を今こそ断罪しましょう!』
ウォォォォォォォォ
ダンザイ ダンザイ ダンザイ
『その首謀者である、老いぼれ国王を断罪し、【民意】をくみ取れる若い力であるクリーク王子を王にすべき!』
クリーク! クリーク! クリーク!
『そして! この食糧危機の原因を創り出したエスタンシア製薬に、謝罪と賠償を!』
バイショウ! バイショウ! バイショウ!
『もし! エスタンシア帝国政府がそれを拒否するなら! 国民の怒りを束ねた力を刃に変えて! エスタンシア討つべーし!』
ウォォォォォォォォォォォォォォォォ
熱狂する大衆から離れたところで演説を聞く青年二人。
「言ってることは間違ってないと思うけど、なーんか危なっかしいなぁー」
「でも、演説として最後まで聞けたの初めてだよ。いつも途中で変な連中に襲われて大乱闘になるからなぁ」
「そういえば、そうだなー。今日はいつもの連中来ないな」
「どうしたんだろうな」
「それになんか、エスタンシア帝国に怒りの矛先向いてるけど、どうするんだろうなアレ」
「まぁ、【告発本】見る限りでは元はと言えばエスタンシア帝国が原因だから、分からなくもないけどなぁ」
「でも、実際どうするんだろう。素直に謝罪や賠償するとも思えんけど」
「どうするんだろうなぁ。なんか、外洋人ってああいうの好きだよなぁ」
「そうだなぁ。関係あるかどうかしらないけど、俺達混血ってああいうのちょっと苦手だな」
「まぁ、【昆虫食】も最初は引いたけど、慣れれば美味いしなぁ」
「あっ、集会終わったから解散するみたいだ」
「じゃぁ、仕事始めるか。ゴミの後始末」
「【風魔法】で広場中心に集めて、【火魔法】で燃やす。そして日当がもらえる」
「なんにせよ、仕事があるのはいいことだなー」
●オマケ解説●
演説集会で大衆を広場に集めたらゴミが散らばる。乱闘になったらもっと散らかる。
だから、後片付け係を予め手配しておく。
【ユグドラシル愛国党】はそんな小さな気配りができる政党です。1議席だけど。
ヴァルハラ川流域の大都市に比べて、遥か南方内陸部のユグドラシル王国首都は混血者の割合が多い。そのため、魔法が使える人材がわりと豊富。
【風魔法】【水魔法】【火魔法】は特に掃除に役立つので、街全体が綺麗です。
でも【生活排水】の処理は魔法ではどうにもならないので、下水道の技術はしっかり活用されている。
テクノロジーとファンタジーが共存するとてもいい街です。
そんな街から発信される物騒な【民意】。どうなることやら。
そして、いつもの妨害が入らなかった理由とは。




