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10月 8日 俺様 バイクを降りた(3.0k)

 【失言】についてはなし崩し的にエヴァ嬢に許してもらったけれど、その代償としてバイクを焼かれて【肉】にされた俺は、シーオーク族と外洋人の混血青年ヨライセン。


 【肉】にされた翌日に目を覚ました時には予想通りスプラッターにされていたけど、身体の調子は良くなった。

 明らかにお腹が大きくなったエヴァ嬢に見送られ、バイクだったものを担いで東ヴァルハラ市に帰った。


 それから何往復か仕事して、今日はちょっと時間ができたのでバイク屋に来た。


「おっちゃん。このバイク直るかな」

「無理だ」


 そうじゃないかと思ったけど、やっぱり無理か。


「まぁ、ヨー坊のやることだから聞かないけど、タイヤや樹脂部品は全部炭で、フレームまで融けて歪んでるから完全全損。廃車だ」

「そうか。結構気に入ってたんだけど、残念だな」


 女を怒らせるというダメ行動の結果だから仕方ないか。


「同型の新車なら在庫あるけど、買うか?」

「いや、俺バイク降りようと思う」

「どうしたんだヨー坊。必要だとは思わんが、バイク好きだろう」


 おっちゃんの店にはいろんなバイクが陳列してある。綺麗に磨かれた大きいバイクは以前から気になっていたし、今ならお金もたくさんある。

 だけど、俺はもうバイクは卒業するんだ。


「俺、子供ができるんだ」

「そういえば、春先に【既成事実】がどうとか言ってたな。よかったじゃないか」


「だから、生まれてくる子供のためにバイクを降りようと思うんだ」


 子供ができたら趣味のバイクを卒業して、リターンライダーになれるまで我慢するのが紳士だって、バイクの本に書いてあった。

 バイクの事故でもしものことがあったら子供が悲しむからと。

 だから俺もそうしようと思う。


「……そうか……。バイクより速く走れて崖から落ちても怪我しないヨー坊がそうする意味は甚だ疑問だが、その心意気はいいぞ」

「ありがとうおっちゃん。俺、しばらく走って仕事するよ」

「ああ、気を付けろよ。怪我しないのと、怪我させないようにな」



「そうだ。【軍人】じゃないおっちゃんに聞きたいことがあったんだ。」

「なんだ? 【軍人】に聞けないようなことか?」


「国内で小麦粉が品薄なのに、なんで国はエスタンシア帝国に小麦を送り続けてるんだ」

「あー、アレかぁ……」


 おっちゃん曰く、国王はご乱心らしい。


 小麦の輸送中止と国内市場への放出を議会が決議したけど、それを【専決処分】で覆してエスタンシア帝国への輸送を継続したり、【昆虫食】の研究と普及に国家予算を大量に投入したり、エスタンシア帝国から【豊作1号】を必要以上に大量購入し続けたり。

 最近では、民間の組織に便宜を図る見返りに金銭を集めているという【裏金疑惑】も出ているとか。


「国王は以前はこんな暴君じゃなかったんだがなぁ。歳のせいか私腹を肥やしたくなったのか、【民意】を反故にしだして困ったもんだ」

「駅にたむろしてる変な人達も似たようなこと言ってたけど、国王が原因なのか?」


「まぁ、国王の乱心が発端と言えばそうかな。だから、これ以上困ったことになる前に、第一王子に政権交代させようっていう動きが出ているらしい」

「話し合いで解決できないのかなぁ」

「それで解決できるんなら、問題になってないんだろう」


 エヴァ嬢の【話し合い】なら一発で解決しそうだけど、あれはちょっと違うように思う。


 やっぱりおっちゃんはいろいろ物知りだ。

 せっかくだから別の事も聞いてみよう。


「【紙の砲弾】の記事で意味が分からないものがあるんだ」

「あのデタラメ本か。ヨー坊あんなの読んでるのか。どんな記事だ?」


 【千年喪女ミレニアムバージンは新月の雪山でけものを待つ】


「おっちゃん。分かるか?」

「これは記事じゃなくて【小説】だろ。意味とか求めずに楽しんで読めばいいんじゃないか」

「そうか」


 なんかこう引っかかってたけど、よくわかった。

 やっぱり分からないことは聞いてみるのが大事だな。


…………


「市内在住の混血者に体調不良者が出ているそうだが、貴様は大丈夫か?」


 【昆虫食販売店】に帰ったら、いつものテーブル席でくつろぐダグザ大佐から声をかけられた。

 確かに俺も、体調不良というほどではないけど、特定の場所に近づくと眩暈めまいがすることはある。


「まぁ、工業団地の方に行くと眩暈めまいがすることはありますが、大したことは無いです」

「そうか。まぁ、調子悪くなったらあんまり無理するなよ」


 大佐は顔は恐いけど面倒見のいいオッサンだ。

 そういえば、俺が混血って話したっけかな。

 まぁ、言わなくても分かるか。こんなビッグマッチョ滅多に居ないし。


 それよりも今は大佐の方が【体調不良】に見える。

 テーブル上に本を並べて、それを恨めしそうに見ながらうなだれている。


 【検証・豊作1号 ~不作との相関関係~】

 【豊作1号 その不都合な真実】

 【豊作1号の正体 ~エスタンシア帝国の陰謀~】

 【薬害・豊作1号】

 【豊作1号 失敗の本質】

 【豊作1号 その薬害と対処法】

 【世紀の大失敗 豊作1号】

 【豊作1号の本当のことがわかる本】

 【救世主・ワイズマン博士の独白 豊作1号に隠された陰謀】


 大佐の悩みの種になっている本。

 これらは、【亡命者ぼうめいしゃ】のワイズマン博士を、そうとは知らずに【出版社】に運んでしまった俺のダメ行動の結果だ。


「大佐。申し訳ありません……」

「……済んだ話だ。もういい……」


 部屋に居る軍人の方々も苦笑い。

 余計な仕事を増やしていたらごめんなさい。

 

 ちょっと気になったので、カウンターに居るソンライン店長に聞いてみる。

 

「ああいう本、【発禁】にできないんでしょうか」

「【出版の自由】っていうのもあるから難しいんじゃないかな」


 ちなみに【昆虫食販売店】では、書籍の販売も始めた。

 主な取り扱い書籍は


 【昆虫食レシピ1巻 入門編】

 【昆虫食レシピ2巻 苦手克服用調理編】


 の2冊。


 著者はソンライン店長。

 小麦粉の品薄とは対照的に、【昆虫食】は流通量が激増して価格も下がっている。

 取り扱いをする店も増えているけど、やっぱり苦手な人は苦手。


 そんな状況下で発売された昆虫食のレシピ本。特に2巻の売れ行きが好調で、品薄で増刷を繰り返しているとか。

 著者の直営店である【昆虫食販売店】には優先的に出荷されているそうで、この店に本を買いに来るお客様も増えた。


「レシピを公開するのはちょっと躊躇したけど、出版して良かったよ」

「レシピの本を売るのはいいんですけど、なんで【紙の砲弾】まで扱ってるんですか?」


 店内の書籍コーナーの隅にデタラメ本の【紙の砲弾】と、大佐の悩みの種になっている【例の本】が合わせて陳列されている。

 当然、売れてない。


「あんまり大きい声では言えないけど、大佐に頼まれたんだ」

「意味が分かりませんが……」

「私の推測だが、ああしておけば一般市民に全部まとめて【デタラメ本】として認識してもらえるんじゃないかと。まぁ、隠そうとすると怪しまれるのと逆の発想だな」

「なるほど……」


 大佐のささやかな抵抗のようだ。

●オマケ解説●

 結婚して子供ができたらバイクを降りる。

 まぁ、人にもよるけどこのパターンは割と多い。危ない趣味からの卒業といえばある種美学にも見えるけど、実際の理由は子供ができると大型バイクの維持費が苦しくなるから。

 タイヤ交換で7万円とか、奥さんマジギレ待ったなし。


 国王のご乱心。

 乱心と思えるほどにいろいろやらかす政治家多いけど、だいたいそういうのにも理由は背景はあるものだ。

 叩くばかりではなく、周囲含めてよく見てみよう。

 叩かれない政治家っていうのは仕事してないだけだから。


 昆虫食の普及。

 種類にもよるけど、農作物に比べて生産サイクルが短いのが特徴。

 麦や米なら増産決めても実際増えるのは来シーズンだけど、昆虫食は飼料さえ確保できれば数十日で一気に増産できる。

 高い栄養価とあわせて考えると食品として優れている。けど、食べたいかと言えば、ちょっとねぇ……。


 不都合な真実の暴露と隠蔽。

 暴露本を【発禁】なんてしたら、疑惑を認めているようなものだから、デタラメ本コーナーに堂々と陳列して販売させる。

 暴露本にデタラメを混ぜた本をわざと出版して混ぜてやるとより効果的。

 まぁ、そこまでしてもバレるものはバレる。

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― 新着の感想 ―
工業団地に行くと目眩。。。フロギストン不足が原因なんでしょうか。 これはこれでまたやばそうな匂いがしますね。 議会の決定をガン無視で自分の突貫は、どこかの大統領のようにも見えます。 ここも昨今の米騒動…
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