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 9月 7日 会長の驚愕(1.6k)

 【ユグドラシル電力公社】で魔力発電所実用化のために計画の指揮をしている俺はラッシュ元会長。


 計画は今のところ順調だ。


 昨日【フロギストン吸蔵合金】の製造工場が稼働を開始した。製造工程を見学したが、吊り上げられる単結晶が金色に光る様はなかなか綺麗だった。


 第一汽力発電所の4号ボイラー改造も順調だ。

 多数のチャンネル管に分かれた水管構造は、当初は構造が複雑で部品点数が多いところが問題視されたが、製造を開始してみるとチャンネル管単位で分割して製造できるメリットの方が大きかった。


 国中から技術者と職人と加工機械を集めて、発電所近くに仮設工場を設営。必要になる部品の加工と組み立てを複数ライン並行で進めている。


 全国各地から技術者と職人を集めたことは大きな効果を生み出した。彼等は工場内で知恵を出し合い、毎日のように改善が進んで生産効率が上がる。

 だから、炉心の設計変更と製造改善に関しては彼等に任せた。


 この調子で行けば予備日程を確保しつつ予定通りの再稼働を目指せる。



 そんな中で、たまたま本屋で手に取った【紙の砲弾】に気になる記事があった。

 トンデモ本に書いてあることなんて普段なら気にしないが、この本にしては珍しく記事に寄稿者の名前が掲載されていた。


 ダニラ村長だ。


 記事の見出しは【豊作1号は農場を耕作不適地に変える失敗作】。

 それを見て気になったので、今日はすごく久しぶりに休みを取って帰郷した。


 久しぶりに帰った故郷の村は、なぜか廃村になっていた。

 荒野となっている麦畑跡地を歩く。


 親父が大切にしていた麦畑。

 俺達が村を追い出された後はダニラ村長が管理していたはずだが、今は荒野。


 土は適度に湿っている。

 だけど、雑草一つ生えていない。当然虫も居ない。


 生命の息吹が感じられない、死の大地。


「一体、何が起きたんだ?」


 デタラメ本にあるダニラ村長寄稿の記事には、その原因が書いてある。

 【豊作1号】は優れた殺虫剤であるが、連用するとその畑で植物が生育しなくなる。そして、一度そうなってしまった畑は元に戻すことはできない。


 ひどいデタラメだと思った。

 しかし、目の前の光景を見ると、それがデタラメとも思えない。


 【豊作1号】は殺虫剤だ。本来連用すべきものじゃない。害虫が大量発生しない限りは使わない方がいいものだ。

 だけど国は【豊作1号】の毎年の使用を推奨していた。

 使用する農家には補助金を出してまで。


 確かに耕作の手間は省けるし、小さい虫も発生しなくなる分、収量が若干増える効果はある。

 でも、使用する薬剤の価格を考えると割に合うほどの効果じゃない。そんな薬剤を補助金を出してまで推奨したのは何故だ。


 そして、記事には国がこの事実を隠蔽しているとも書いてある。

 確かにここまでひどい状態になったなら、何処かの農家が気付いて騒ぎそうなものだが、あのデタラメ本以外ではそういう話を見たことが無い。


 親父は【豊作1号】の使用を拒否した。

 まさか、この状況を危惧していたのか?


 そして、ダニラ村長は前回会った時に【最後の仕事】があると言っていた。

 それは、あの寄稿のことか? 


 今、ダニラ村長は何処に居る?



 小麦粉が高騰を通り越して入手難になっていることも気になる。

 代わりに普及してきた【昆虫食】のおかげで飢えずに済んでいるが、国はこの状況下でもエスタンシア帝国に小麦を送り続けている。


 この件に関しては、議会の反発を無視して国王が【専決処分】を多用している。

 俺が知る限りでは、国王はこんなことをする暴君じゃなかった。


 あまりの暴挙に支持率も低下しており、首都では市民団体や政治組織が国王を糾弾するデモ行進が頻繁に行っているとか。


 【利権組織】の連中が政権交代を目指して第一王子を煽っているなどというキナ臭い噂も耳にする。


 今の俺の仕事には直接関係無いことだ。

 だが、今この国がどうなっているのか、これからどうなってしまうのか。


 俺は、不安だ。

●オマケ解説●

 仕事って言うのは任せる方が難しい。

 任せて結果を出せるようになるまでは、多くの失敗を経験する。


 そして、自分に関係ないと思っている事も、実は自分の行動が原因の一旦だったということもまぁ、あることです。


 ダニラ村長は何処に行ったんでしょうねぇ……。

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― 新着の感想 ―
豊作1号、何か腐敗の匂いがしますね。 ユグドラシルとエスタンシアの関係がワイズマン博士やダニラ村長のような勇敢な人の行動から明らかになっていき、それに怒りを覚えた市民が立ち上がり、国を変えていくのかも…
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