9月 4日 俺様 焼かれた(2.5k)
ソンライン組合長の【食材流通組合】とユグドラシル王国軍の【伝令使】の兼業で、軍の人達とも仲良くなり毎日が充実している俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
丁度いいタイミングで西ヴァルハラ市への配達があったので、そこの駐屯地にバイクを停めてエヴァ嬢の村まで走ってきた。
「こんにちわー」
「いらっしゃい……」
村の入口から入って、芋畑で芋を掘りながら食べているエヴァ嬢に声をかける。
なんか、元気がないし顔色も悪い。
どうしたんだろう。
「ねぇ、またお願いがあるの」
「どうした? 【流産】したのか?」「でーす・とろーい!」
…………
なんか、仰向けに寝かされてる感覚で目が覚めた。
見覚えのある天井が見える。
「ヨー坊! 気付いたか!」
「よかった! 助かったかヨー坊!」
「生きてた! ヨー坊生きてた!」
獣脚男達が俺を囲んで喜んでる。
何があったんだろう。
起き上がって気付いた。
俺、全裸だ。
獣脚男が集会所の隅から作業服を持ってきたので、とりあえずそれを着た。
部屋の中にハンガーラックが10個近くあって、そこにいろんな服が何十着も吊ってある。
今度は服集めにハマったのか。
「ヨー坊! 本当に死ぬところだったんだぞ!」
「大変だった! 危なかった! 間一髪だった!」
「俺達、【回復魔法】がんばった! あんなにひどい状態から治したの初めて!」
「うーん? なんでだっけ?」
俺、さっきまで何してたっけ?
「エヴァに何したんだよ!」
「えーと、村に来たら、エヴァ嬢が芋食べてたな」
「それから?」
「なんか、お願いがあるとか言ったな」
「それで?」
思い出した。またアレが必要になったのかなと思ったんだ。
「【流産】したのかって聞いて……」
「おバカァァァァー!」 バシーン
「ヨーのあほぉぉぉぉぉ!!」 スパコーン
「たわけぇぇぇぇぇ!」 ベチーン
獣脚男達にシバかれる俺。
「それがダメだったんでしょうか」
「当たり前だろうがぁぁぁぁぁぁ!」 バコーン
「なんでソレを言っていいって思えるんだ、おバカー!」 ドバキッ
「常識的に考えろー! それ一番ダメなやつだろうがぁぁ!」 ドゲシ
怒られながらさらにシバかれる俺。
「ヨー坊、表に出ろ」
なんか、さらにシバかれるんだろうか。
そんなことを考えながら、獣脚男達に続いて集会所から出て目の前の光景に絶句。
芋畑が、溶岩のプールになっていた。
「ヨー坊のせいで、芋畑が燃えちゃったじゃないか……」 シクシク
いや、これ、燃えたって次元じゃないぞ。
溶岩プールの中では黄色く輝く溶岩が沸騰していて、対岸からは激しく蒸気が上がってる。
「東側の崖に溶岩が流れ出すと、山林火災になって村が危ない」
「だから、村総出で対岸側を水魔法で冷やして固めてる」
「えーと、まさか俺は、あの中に?」
「ヨー坊、溶岩の上で炭になりかけてた」
「俺達、水魔法と風魔法で引き上げた」
「みんなで頑張って【回復魔法】で治療した」
そんなことになってたのか。
助かった。
本当に助かった……。
「あ、ありがとうございます」
よく見ると、神社の前から村の入口ぐらいまでが溶岩のプールになってる。
芋畑は全く残ってない。
「えー、ちなみに、エヴァ嬢は今何処に? 無事なんでしょうか」
「エヴァは神社に居る。最近機嫌が悪くて恐かったけど、さっきはもっと恐かった」
「俺達、恐くて誰も行けない」
「ヨー坊、行けるか?」
俺も行くのは恐い。だけど、ここは俺が行くしかない。
「行って謝ってくる」
「ヨー坊! たのむ!」
「ヨー坊! がんばれ!」
神社入口側は溶岩のプールになっているので、裏側に回って入口を探す。
建屋の裏側からちょっと離れたところに、井戸みたいなものがあるのを発見。なんだかよく分からないけど気になる。
だけど、それは今はいい。
建屋を囲む柵が途切れているところがあったのでそこから入ろうとしたら、フロギストンの流れを感じたのでとっさに後ろに飛びのく。
シュゴォォォォォォォ
「どぎゃぁぁぁぁぁ!」
飛びのくと同時に、俺の背丈を超えるほどの炎の壁が出現。
【火魔法】ではあるんだろうけど、焚火とは段違いの熱量。簡単に鉄を溶かしそうなぐらい。
なんかこう、【激しい怒り】が込められているように感じる。
…………
あきらめて集会所で待つ獣脚男達の所に帰った。
「ヨー坊、今日はもう帰れ」
「帰れ。帰れ。下手すると村が無くなる」
「反省しろ。そして、来月また来い」
「はい。ごめんなさい」
持ってきたお土産も、前持ちリュックサックと共に溶岩のプールの中だ。エヴァ嬢とも会えそうにないし大人しく帰ることにした。
溶岩のプールの東端で冷却作業を行っている獣脚男達からの白い目線を浴びながら、俺は村を後にした。
この作業服はくれるらしい。
…………
西ヴァルハラ市に向かう途中、ヴァルハラ川の川辺でずぶ濡れの爺さんが倒れているのを見つけた。
なんか【出版社】に行きたいと言っていたので、西ヴァルハラ市にある【ユグドラシル出版】の支社まで背負って運んだ。
爺さんはワイズマン博士というそうで、エスタンシア帝国から来たとか。
広いヴァルハラ川を泳いで渡るなんて元気な爺さんだ。
仕事の愚痴みたいなことを熱心に語っていたけど、俺は別の事を聞きたかったので妊婦さんの扱いについて聞いてみた。
やっぱりお子さんが居るそうで、家族愛について語ってくれた。
奥さんはカタリンさんというそうで、お子さんと一緒にエスタンシア帝国に残してきたから心配らしい。
俺の今日の【失言】についても聞いてみたら、絶対にダメなやつだとこっぴどく怒られた。
俺は、深く反省した。
●オマケ解説●
トンデモな人達に常識的な説教を受けると不条理を感じたりもする。
でも、トンデモな人達から説教されるほどの事をしたのは自分なわけだから、真摯に反省するのが大事。
そんな失敗を繰り返しながら、男は紳士になっていくのです。
だけど、失敗には許される失敗と、許されない失敗がある。
妊婦さん相手の失言はどちらに該当するやら。
そして、川辺で拾った無断入国の外国人。
そういう人、何て呼ぶか知ってるかな?




