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 8月 4日 俺様 やりとげた(2.3k)

 【食材流通組合】とユグドラシル王国軍の【伝令使】を兼務して、行動範囲が広がった毎日を楽しんでいる俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


 今や商売道具になったバイクに乗って、今日は仕事を休んでエヴァ嬢の村に来た。


 バイクを村の入口に停めて、村に入る。


 畑の向こうの神社に向かって全力疾走しようとしたら、神社前の芋畑にエヴァ嬢が居た。

 俺に背を向けてしゃがんで何かをしている。


 なるべく穏便な形で、村に被害が出ない形で屋内に誘うべく、気配を悟られないように駆け寄り、常識的に挨拶。


「こんにちわー」

「あ、いらっしゃい」


 返事をしつつも、いつもと違って反応が薄い。

 まぁ、俺としては助かるけど。


 素手で芋を掘って、掘った芋をその場で食べているエヴァ嬢。

 食べ終わったら、立ち上がってフラフラと神社の方に向かうので、俺もそれに続く。


「私、デキたみたいなの」

「そうか! それは良かった!」


 やり遂げたんだ。俺。

 実際何にもしてないけど。

 強いて言うなら、殺されかけたぐらいか。

 でももうこれで安心だ。


「なんか、やたらお腹が空いちゃって……」 ジュルリ


 虚ろな視線で俺の腕を見て、なにか不穏な音を立てるエヴァ嬢。

 背筋に悪寒が走る。


「エヴァ嬢! お土産、お土産あるぞ! 大好きな【揚げ芋虫】だ」


 とっさにお土産に持ってきた【揚げ芋虫】の3パック中1パックを開封して、テーブルの上に置く。


「わぁ! ありがとう。なんかこう、肉っぽい物食べたかったの!」


 早速がっつくエヴァ嬢。

 目が血走ってる。そんなにお腹空いてたのか。

 

 食べ終わった時に俺がここに居ると危険な気がする。

 集会所に行こう。

 そして、【注意点】を聞こう。


「俺、ちょっと集会所に行ってくるよ」

「いってらっしゃーい」


 【揚げ芋虫】に夢中なエヴァ嬢を置いて、俺はそそくさと集会所に向かった。


…………


「おーっ! 来たかヨー坊!」

「やったな! ヨー坊!」

「ヨー坊がんばった!」


 いつも通りハイテンションに歓迎してくれる獣脚男達。彼等もエヴァ嬢から聞いているのか。

 とりあえず、いつものようにお土産をテーブルに広げつつ、聞きたいことを聞いておく。


「エヴァ嬢の様子がいつもと違うんですが、なにか特別な【注意点】とか無いでしょうか」


「うーん。元に戻っただけだしなぁ」

「俺達から見ると、ヨー坊来てからのほうが変だった」

「むしろ、安全になったかな」


 そうなんだ。俺が来る前はあんな感じだったんだ。


「エヴァに優しくしてやれよ」

「でかいんだから、エヴァを大事にしてやるんだぞ」

「ヨー坊! がんばれ!」


 そうだな。俺がんばるよ。


 そう決意を新たにしつつ、集会所の中を観察する。

 物は増えてるし、壁にタペストリーが沢山飾ってある。

 首都のご当地品もあるから、結構彼等も行動範囲広いんだな。

 今は何人ぐらいが村の外に居るんだろう。


…………


 彼等がお土産をたいらげた後で、デタラメ本の【紙の砲弾】の最新刊で盛り上がった。


「【豊作1号は農場を耕作不適地に変える失敗作】だってよ!」


 ギャハハハハハハハ


 またしても笑い転げる獣脚男達。

 これデタラメじゃなかったら笑い事じゃないぞ。

 今や小麦粉は値上がり通り越して品薄で入手難だからな。


「あっ! 寄稿者の名前載ってる! ダニラだ」

「ダニラ! あのダニラか!」

「そういえばあの村のラッシュは元気かな!」


 獣脚男が【紙の砲弾】の記事を見て騒ぎ出した。

 見出しだけ見てたわけじゃないんだ。中身も見てたんだ。


「知り合いですか?」


「知り合い。この村に近い外洋人の農村の村長」

「8年前にごちそうたくさんもらった」


 ごちそうって、彼等と一緒に行動した外洋人が居たのか。

 だとしたら会いたい。そして、何かと危なっかしい彼等と共存するための知恵を借りたい。


「でも、【殺虫剤】を使われてごちそう無くなった。だからもう行かない」

「この前近くを通った時、麦畑が全部荒野になってた」


 話が読めないけど、一体何があったんだ。


「過去に一体何があったんでしょうか」


「8年前に村の近くの林や畑に虫が沢山出た」

「皆でごちそう食べてたら、ダニラの村に着いた」

「麦畑に居る虫全部食べていいって言うから、皆で食べに行った」

「食べつくしたら感謝された」


 畑の害虫食べつくしたのか? どんだけ食べたんだ。


「そこのラッシュって男が【火魔法】に興味持ったからいろいろ教えた」


 それはもしかしてラッシュ会長じゃないのか?


「でも、次の年はほとんどの区画で【殺虫剤】撒かれて、ごちそうなくなった。悲しかった」

「あれのせいで近くの林からもごちそう無くなった。もうあの辺行かない」


 【紙の砲弾】はデタラメ本だと思っていたけど、彼等の話を聞くと何かこう引っかかる。

 帰り道だし、その農村に寄り道してみるか。

 ダニラって人の話も聞きたい。


…………


 いろいろ考えながらも、集会所で夕方まで楽しく騒いだ。


 エヴァ嬢に帰りの挨拶したいけど、手ぶらで神社に行くとなんか危険な気がしたので、村の北側にあるヴァルハラ川の清流で【イワナ】を2匹獲って持って行った。

 

 いつぞやの【ブリ】のように大喜びでがっついたので、エヴァ嬢がそれを食べている間に俺は村を後にした。


 シーオークの村に居た頃は毎日のように海で魚を獲ってたから、魚を獲るのは得意だ。


 次は9月4日。

 お土産を多めに用意しよう。

 ついでに、タモ網買ってこようかな。

●オマケ解説●

 女性は妊娠すると、行動パターンや食べ物の好みが変わったりします。

 豹変する伴侶に戸惑うこともありますが、新たな命を宿した尊い存在。思いやりを持って優しく接しましょう。


 ご懐妊を見て、男としてやり遂げた感を感じたりもしますが、ここはゴールではありません。むしろ、遠く険しい道のりのスタートであります。

 本当に、遠く、険しい道のりの……(意味深)

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― 新着の感想 ―
おお!エヴァ嬢、ご懐妊!!ヨライセン君、意外と気がついてないのかな?(笑) ということはもう少しするとイライラ期に入るような。。。恐ろしいシーンが出てきそうですね。 しかし、ヨライセン君、ちゃんと獲物…
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